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家臣団の内部調査と家族との邂逅

文禄3年9月25日


目を覚ますと見知らぬ天井だった。そんな言葉を発するなんて誉は思わなかった。もう一度瞬きをして、天井を見るとやはり、見知らぬ場所だった。上半身起こすと、すぐに障子の外に控えていたらしい人が


「起きになりましたか」

「…彦太郎?」

「はい。彦太郎です」


そんな猫撫でな声で応えてくれた。そうだ、この彦太郎という者が自身の身の回りを世話してくれるのだった。現代では、自分一人で世話をしていたのでどうも落ち着かなかった。彦太郎によって身体を水によって清めてくれたが寒い。冷たい。なんでも琵琶湖から流れた清い水らしいが、寒かった。現代感覚で言えば5時くらいに起きてしまったが、彦太郎によるとそれが普通らしい。日の当たりで勝手に5時だと勘違いしていたが、まだ3時らしい。

そして、彦太郎から今日の一日の流れが書かれた書状を渡された。


「何か問いたい点があれば、私に言いつけてください。もし、無ければ私が呼ぶまで私室でごゆるりと」

「…彦太郎」

「はい」

「読めないよ」

「…はっ、字が汚いでございましたか。」

「違う違う。この文字自体読めないのよ。というか、この時代の字読めるわけないよ」

「はて、現代ではどうなのですか」

「全く違うとは言わないけど、現代では違うね」

「奇異なことですね…では、言葉では伝えることはできるようなので、言葉でこれを読み上げます」


彦太郎の協力もあり、今日の流れを知った。要約すると、忠頼とその親族の謁見、国人と家臣の謁見、領内の見回り、政務らしい。


「親族か…言われてみれば、僕はただ…左馬助さんの子供になってからは他の人には会ってないな。確か、椿姫がいるんだっけ」

「若殿。失礼ながら、椿姫の妹が3人います」

「3人もか…。そういえば、末っ子を男にして当主にしようとしてたのだっけ」


コイツ、さらっと若殿と言ったな、と心の中で突っ込んでしまった。彦太郎が持参した朝食を毒味役である夜鷹がそれぞれ一口食べたあとに、食べた。女子に食べられたからと言って気にする訳では無いが、夜鷹は誉が異変物を食べないように真横に正座してこちらを見つめていた。食べづらい。


「夜鷹も食べよ…毒は無いのだろう?」

「いえ…恐れ多いことです」

「…ならぱ、命令だ。夜鷹も外でウズウズしてる彦太郎も三人で食べよう」


障子の外で、気にしていた彦太郎がやたら体を少し動かしてたのを見逃さなかった。まあ、そのおかげで三人で食べることが出来たが、食事が質素だ。これでは、子供が成長しないのでは?と思ったがこれも課題点だ。誉の前に彦太郎に座り、その間に割って座ったのが夜鷹であった。


「そういえば、昨日、私室に押しかけてきたのって誰が提案したの?」

「確か、康介さまでした」

「あの槍…」


ボソリと呟いた夜鷹の言葉はそれだった。槍って。


「康介なら、やりかねなさそうだなぁ…」


誉が放った一言に二人は反論しなかった。なるほど、この館に来て一日も経ってないが、この辺の関係図はわかってきたな。


「そういえば、彦太郎を除いたあの六人ってなにか特記する話ある?」

「特記…?」

「そう。昨日、自己紹介してもらったわけだけどさぁ。やっぱりみんな人見知りなのか心を開いて貰えなかったんだと思うんだよな」

「なるほど。若様はそれを開いてもらうように、七人衆の話を聞こうと」

「うん…そう」


そうすると、彦太郎は箸を置いて、六人の話をしてくれた。


「まずは六人衆の一人、赤島康介様は、赤井直正公の三女 咲姫様と赤島雪平とのご子息であり、妹が一人。実を言うと、康介様がこの大和家で知られるようになったのは若様が来てからなのです」

「…それまでは、どうしてたのだ」

「父の下で慣れぬ政務をしていたようですよ。まあ、あの槍阿呆には政務は合わなかったようで苦戦していました」


あぁ、目に浮かぶと微笑したが、隣の夜鷹は「それでも政務することには変わりありませんが…」と言われた。


「続きまして、次に上坂兄弟でございますね。兄の正純様は、生真面目と言いますか…金目に関しては厳しいですね。勘定奉行の皆に聞くと、不正を見逃さないように正純様自ら、勘定をつけているとか… 」

「そりゃあ厳しいな。では、正純さんは人間関係ではどうなのだ」


顎に手をさすり、一考しながら話を聞こうとした。昨日の様子を見ていると、軋轢を産む可能性があろう。しかし、自身より年上だった。その人にあれこれ注意するのは些か気が引けてしまう。


「…誠のことを申し上げますと……勘定奉行はまだしも弟の正人様とはしばしば対立しがちで…」

「弟?え、兄妹喧嘩してるわけ」

「はい」

「何してんの…」


理由を聞くと、財務担当の正純と司法担当である正人はかつて、勘定奉行で不正を起こした者がいたらしく正人側はそれを捕縛しようとしたが、正純が引き渡しを拒否したらしい。それに聞き、怒った正人は兄のもとへ訴えた。すると、兄の正純は


『彼は不正を起こしていません』


との一点張りらしい。無論、その人を捕縛する口実はあるらしい。そのため、正人は、正純は冷酷で、他の奉行に対する予算や大和家財政の運営、収税を厳しく見張ってるのに、身内の不正を隠すとはこれ如何に!と不満をぶつけてたらしい。


「そもそも、その…事件の張本人がやったって噂なんてどこから来たの?」

「…それが、勘定奉行直々から密告の直訴状らしいのですよ」

「内部告発ってやつか」

「それ以来、勘定奉行ではその者を擁護し、大和奉行はその者をとっ捕まえようと今日まで、目を光らせているのです」


夜鷹はもう食べ終わったのか、お点前と言いながら一歩引き下がって正座を正した。


「…それで、正人の方はどうなのだ」

「上坂正人様は大和奉行であり、大和家知行の悪事を見逃さないようにしていまして…その過激な取り締まりに、領内からは『鬼の弟』と呼ばれています」

「まぁ…いいか」

「えぇ、恐れられてると言ってもそれは勘定奉行との対立から広まった異名で、普段は見回りも兼ねて領民との交流を深めてますよ」


とは言っても、それが悪いことでは無いが、部下たちから嫌われてる者ってのは、いつか助けを求めても助けてくれないかもしれない。それを避けるために正人は交流を深めているのだろう。だが、昨日、初見で見た正人の眼差しの奥に隠されてる闇は計り知れなかった。


「野村直孝様は石田家御用達の鉄砲頭でしたが、若様が来ると同時に直孝様もこちらに」

「…なんで?」

「さぁ…治部様の考えてる事は… 」


と二人して頭を傾げた。すると、夜鷹は目を伏せながら「恐らく、誉様の知識を頼りにしているのでしょう」


「…鉄砲を?」

「治部様は、現存する火縄銃の改善点や課題を知っているが故にどうしようもなく、頭を悩ませていたが故に、誉様を頼りにしているのでしょう」

「…確かに」


彦太郎は顎に手を当てながら一考をしてきた。


「しかし、直孝様はそれを知っての上でここに来ているとは思っていませんかもしれませんね…」

「どういう事だ」

「直孝様は石田家で鉄砲頭という名誉高き役職を貰っていたにもかかわらず、家臣のさらに家臣という地位に左遷されたのだと思われているかもしれません」

「また…」


自分に付属する家臣たちはなぜ、みなトラブルメーカーなのかと、頭を抱えたくなる誉だったが今更そんなことを言っても時遅し。


「はい、次行こう。次」


いちいち、ここで止まっても仕方ない。その時に解決すればいいのだから…と先延ばしした感が否めないが、誉はヒラヒラと手を振った。


「次は、画家として近江に名を馳せている海北頼友様は太閤様から、直々に画家として歩むよう勧められた海北友松の息子でございます。

成人なされたあとは、画家として太閤様の弟である関白 秀次様の元で仕官されました。秀次様とは仲睦まじいと聞いておりましたが、昨年に太閤の怒りを買ったことにより、海北様はここに戻されたとか…」


そこまで言うとその続きを言おうか言わまいか、悩んでいた。言うのか言わないのかハッキリしろよとイラッとしてしまったが、そもそもこの子は10代ぐらいなのでそこまで言うのは酷だと思った。が、夜鷹は、『主君に隠し事するのですか』と半分脅迫により、恐れた彦太郎はケロッと吐いた。


「噂によりますと、表では、関白様と海北様が手掛けた合作の寺の障壁画に猿が写し出されたのですが、織田政権に周りから太閤様を猿と異名で呼ばれたことを揶揄していた、との事ですが…。実は、太閤様がご子息である拾様を生まれになってから、次期当主だった秀次が邪魔だと思われたのか、失脚を狙おうとのことを…」


ふむ…歴史の本でそういう黒幕説に関する特集を読んだ。たしか、その時に他の人も犠牲になったような気がするが、忘れてしまった。その時になれば思い出すだろう。出来れば、犠牲になる前に思い出したいが。

しかし、晩年の秀吉は横暴な政治を執っていたと聞いたが…ここまでとは。


「それを危惧しているのか、頼友様がここに来てからは落ち着かない様子で、頼朝様が抱えてる海北派も関白様から気に入られてたので、今ではどちらも仕事に精一杯出せてないようで…」

「そうか…」


海北頼友に関しては、秀吉も関わっているとは…軽く手出しはしにくいが、手を差し伸べない訳には行かないだろう。この世界が乱世の戦国だろうが、太閤だろうが、こちらは関係ない。


「最後に樋口景盛ですが、この者は他の者と比べると普遍のない男でございましょう」


失礼じゃないのか?と言いたくなるが、確かにここまで問題を抱えている者に続き、これと言った特徴が無ければ、言いたくもなるだろう。


「政務もこなよくこなしますが、熱気を感じられないのが難点でございます」


いいじゃん。と思うが、部活にそんな後輩がいたら何か言ってしまうかもしれない。やる気は顔に出さずとも心に出して貰えたらいいけど。


簡素な素性を知らせて貰えたが、康介を覗いて、どの人も解決しなければ大和家に問題の種が植え付けられたままだ。そんなふうに思案していたら、障子の外に忠頼の使い走りが


「若殿。忠頼様がお呼びでございます」


その若殿呼び、定着してるのだなと思いながらも、従者の後ろにつくと、大広間に案内された。

奥にある上座に座ってる老齢の男…誉の義父である───大和 左馬助 忠頼だった。そして、その忠頼を真ん中に右側に三人女子、一人男の順番で座ってる様子が見えた。その女子は華麗な着物を着ており、男は髪を束ねて、平服を着ていた。

男女関係なく着ている服に、それぞれ花の模様が飾られていた。その四人の反対側に三人の女子がお手付きして座礼をしていた。こちらは着ている着物はお粗末であった。

親戚とのご挨拶らしいが…こちらを見ずにずっと座礼をしている子はまだしも、四人の姫は誉に対する見方が様々であった。


「若様、早い目覚めで」

「多分左馬助さんよりも遅いですよ」

「儂は歳がとったが故に早い目覚めなのですよ」


と翁の面に似てる顔でフォフォフォと笑っていたが、イマイチ笑えない。そんな冗談を受けつつも、下座である忠頼の前に座礼をした。その間に右に姫、左によく分からない女子たち。ちなみに、夜鷹と彦太郎は誉の斜め後ろに座っていた。


「ささっ、大和一門衆になったからには、儂の娘たちを紹介しましょう」

「父上」

「なんじゃ」


誉から見て、右側に手を差し伸べ紹介しようとした左馬助は娘を紹介しようとしたのだが、その娘たちで一番歳上であろう姫に制止された。そして、その姫は誉に向き合った。


「誉様は今日から、大和家の次期当主となり、私達の家族となります。それなのに自分から名を挙げないのは無礼だと思いませんか。まずは、第一息女である私から名乗りあげましょう。私の名は大和椿姫でございます。椿と呼んでくださいませ」


その長女は現代で言う姫カットをしており、キリッとした目付きであり、涙袋がくっきりと出ていた。その椿は隣に目配りすると隣に座っていた姉妹は、顔だけ誉に向き合い


「父上の二番目の娘である、葵じゃ。よろしく頼む」


その葵は目をつぶりながら、ニコリと微笑みながら自己紹介した。肩まで髪が行き届いており、いわゆるボブをしていた。その表情は冷静な姉よりも自信満々な表情だった。それはまるで何かに勝ち取ったような。


「葵は生まれつき目が見えなくての。しかし、才知ある姫よ」


左馬助はたとえ娘が目が見えなくなろうが、それでも娘として可愛がってることが伺える。翁の面な表情には変わりないが…


「次に、三女で在られます菊。よろしゅうございます」


姫カット、ボブに来て最後の姫は長姉と同じ姫カットだが、違う点はから触覚生えていた。菊と呼ばれる姫は姉たちと違い、誉に対してさほど興味はないようだった。だが、姫としての上品さは備わっていた。


「最後には女子に戻すよう言ったが、本人にとっては幼少期から男子として生きるように教育したせいか、男の格好が落ち着くと言ってましてな…」

「父は大和家嫡男である大和忠頼の次男でございます、大和桜之助忠成でございます」


そう言ってあぐらのまま、頭を下げて座礼を示した。誉もそれに対して、座礼を返した。この子は────忠成はいわゆる美少年のようなただずまいで、ニコリと笑顔を返した。


「続きまして…この下女たちは今日から誉様に仕えまするので、好きなようにどうぞ」

「好きなようにって…」


この時代では下女、下人がいるのは知っていたが、人権を踏みにじるような行動を誉は出来なかった。いくら、戦国に来たとはいえ、自分の信条に反するからだ。


「左馬助さん…私は、そんな扱いをすることはできません」

「…いらないということですかな。では、買い換えますか」


左馬助がそう言うと、誉から一番近い下女の肩が震わせていた。売られてしまったら、また別の者に買われるか、買い手がないまま口減らしのために殺されることだってある…そう思うと、心が苦しくなる。だが、それが世の常であり、解決するには大きな問題だ。今の誉には実現するには問題が大きすぎる。

無理だ。自分には、この子達を救ってやれないんだ……。

いや、救ってやれる手があるかもしれない。自身を保護してくれたのは石田治部三成だ。三成を補佐してやりながら、自分の夢を叶ってやればいい。そして、自分は表舞台に出ずに、皆が皆暮らしてやりたい。


「左馬助さん」

「はい? なんですか」

「私は……自分の夢を叶えたいです。そのためには、まず左馬助さんの力が必要であり、私に補佐をしてほしいのです」

「夢とは……?」

「誰もが笑って暮らせる世に」

「……ぶっ…はっはっはっ!」


左馬助は一度硬直した後、吹き出して笑っていた。聞いていた姫も四者四用に笑いが出ていた。勝手に笑っていればいい。この時代の人は自分の夢が滑稽に思うだろう。そう思っていると、


「治部様と全く同じことを言いますなぁ。誉様」

「……え? それって、治部様もそんな世を作りたいので」

「そうですよ。しかし、ほかの大名……特に武断派の豊臣恩顧達からは笑われていますが、私はいいと思います。なんせ、そうしてくれた方が私としても安心して暮らせますからな……」

「……そうなの、か」

「ええ。ですがら、我ら大和家は誉様の支えになるよう全力を尽くしますぞ」


てっきり、自分の考えに賛同してくれるとは思っていなかった。あの石田三成でさえ、同じ考えとは……。


「──── 一先ず、ご挨拶は済ませたのでその者たちを貴方様に預かってもらいます」

「……は、はぁ。」

「しかし、誉様がいるのは何もない部屋であり、窮屈でございましょう。この忠成が使っていた広間を今日から、住んで使ったりしても構いません」


つまり、次期当主である忠成の為の部屋を誉が使っていいということだ。しかし、そうなると忠成はどこに寝泊まりするのか


「安心してください。忠成はこの姉妹達と寝泊まりするので」

「は、はぁ」


どうも、淡々と進みすぎて怪しさプンプンだが、受け入れるしかないだろう。翁の面はニコニコしながら、誉のサポートに徹していた。


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