1:攫われまして。
「やっ。離してやだっ。アディ。アディーッ」
突然男たちが現れて、私を連れて行こうと腕を掴んだ。
それをアディがやめさせようとしたけど、そのアディをあいつらは……。
何度も何度も殴られ蹴られアディは倒れてから動かない。
起きてアディ。死んじゃヤダ。
「さっさと眠らせろ!」
「やっている! だがことごとく抵抗されるのだっ」
眠らせる?
もしかして魔法でも使ってるとか?
でも眠くない。抵抗ってなんのこと?
「離して――離せっていってんだろクソ野郎!」
「クソ!? おいおい、かわいい顔に似合わないぜそりゃあ」
「うっさい! 今すぐ離せクソじじぃっ」
「じ!? おい、俺はまだ二八だ――いってぇ!!」
捕まった時には、隙があれば噛みつけ。
アディからはそう教わった。
私の腕を掴んでいる男が無防備だったから、その腕に思いっきり噛んでやった。
そしたら案の定、男がパっと腕を離す。
アディ!
駆けだした私の前に、別の男が両手を広げて立ちはだかる。
「どいてっ」
「大人しくするんだ。悪いようにはしない。それでも暴れるってんなら、あの小僧にはもう少し痛い目を見て貰わなきゃいけなくなる。いいのか、それで?」
分かってるもん。こいつらの狙いが私だって。
しかも乱暴には扱わないし、怪我をさせる気もないらしい。
無傷で連れ去るのが目的なら――
「アディに……アディにこれ以上酷いことしたら、舌を噛み切ってやるっ」
それは困るでしょ?
ほら、早くそこをどい――ぁ。
首の後ろに傷みが走って、目の前が一瞬真っ白になる。
視界が霞むとき、倒れていたアディが動くのが見えた。
「助け、る……絶対助けて、守るから、な、セシリア……ずっと、ずっ……」
よかった……生きて、る……。
待ってるよ。私、待ってるか、ら。
目を覚ましたのはベッドの中。
なにこのベッド。めちゃくちゃシーツが気持ちいいし、いい香りがする。
そ、それにこのベッド、カーテン付いてるよ!?
「ここ、どこ……アディ……アディ!?」
最後に見たのは、ボロボロになったアディルの姿。
だ、大丈夫。アディは強いもん。だから……大丈夫、きっと生きてるもん。
早くここから出ていって、アディの所に戻らないと。
それにしても、なんで私を攫ったんだろう。
奴隷狩りなら、こんな立派な部屋に連れてこられる訳ないし。普通は檻に入れられるよね。
窓から出られないかな……ぐっ、鍵の位置が高くて届かない。
「ふっ、甘い。椅子に乗れば届くもんね」
椅子、あった。これもなんか高級そう。
椅子を引きずって窓の傍へ。その上に立って鍵に手を伸ばした時――ガチャリと音がして、扉が開いた。
「うげっ」
「な、何をしておるっ。危ないではないか!」
スラリとした中年のおじさんが入って来て、慌てて駆けてくる。
も、もしかしてこのおじさんに売られたの、私!?
鍵っ、鍵ぃっ!
あと少しという所で、体がふわりと浮かんだ。
「あっ。クソ、離せじじぃ!」
「ク、クソ!? なんて口の利き方――いや、貧民街で育ったのだから、致し方ないか」
「うっさい! いいから今すぐ離してよっ」
「お、お前たち、娘を抑えていろ」
「はっ」
あ、こいつら私を攫った奴らだ!
でもあの時と服装が違う。二人揃って同じ服なんかきて、それにマントまで。
町の大通りで見たことがある騎士に、ちょっと印象が似てる。
でもこいつらは――
「人攫い! 悪党! 禿!」
「禿げてないっ! まだふさふさだからっ」
「私も禿げてはいない」
禿げてないの分かってるもん。
でもこういう時は自然と出てくるもんでしょ、禿って。
「攫ったのではない。セシリア、よく聞きなさい」
「な、なんで私の名前知ってんのっ」
おじさん、私の名前知ってる!?
なんで、気持ち悪い。
「知っているとも。わたしはお前の父親なのだからね」
「……え?」
なに、言ってんの……こいつ。
久々の女主人公です。
一応ジャンルはファンタジーにしましたが、先の展開的に異世界恋愛にするか
ちょっと悩みどころです。
とりあえず一部完まで書き上げております(30話)。




