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宴の後で


 ビルから出ると詩乃がいた。徹も母さんもいる。


「何やっているの?」


 思わず声をかけた。だって、みんながこんな場所にいるのはあまりにも不自然じゃないか。


「応援に来たに決まっているじゃない。それ以外の何が」

「いろいろと突っ込みたいけど、どうやって来たの?」

「よく分からないけど、オシゲに頼まれたって言われたおばさんの車に乗せてもらっただけだぜ」


 徹の指差した先には白い(ミニバン)が止まっている。もしかして、あの車は犬おばさんの車じゃないか。オシゲはどうやったのか。本当に色々な意味で感心するやら驚くやらって……。


「凄い。母さんを乗せて無事だったとは」

「いやね、これ見てよ」


 詩乃が交通安全のお守りを僕の目の前に差し出す。一個や二個じゃない。十個以上ありそうだ。ご利益ってのは数の問題じゃないだろ。数の。と言いかけたところで、ほとんどのお守りが変色していることに気づく。


「これ駄目じゃないか?」


 僕が手に取ると詩乃は、はあ。と溜息をついた。


「車の中には木の札もあるけど、もう売り物にならないかなあ」

「売り物って?」

「社務所にあった交通安全のお札関連をとりあえず箱ごと詰め込んでみたんだけど、ここに来るまでに変色したり腐ったりと酷い状態になっちゃって。トシのお母さんの力ってホントに凄いよね」

「いや、今更そんなこと感心されても。知っていたことだし」

「結構、大きな額になっちゃうかもしれないけど、落ち込まないでお仕事がんばってね」

「はあ? 何で? マジで何しに来たの。しかも、その負債を全部僕に吹っかけちゃうわけ。それってちょっとおかしくない?」

「でも、トシのお母さんが任せといてって言ったから……」

「いやいや、それって意味違うし。任せとけって、自分で責任取れる人が言う台詞だし」

「俊史、すぐ怒るのはカルシウムが足りないからよ。一緒に煮干を食べてカルシウムゲッツしましょ」

「もう、勘弁してよ」


 その場に崩れそうになった僕の肩を憐れんだ様子の徹が叩く。


「そんな落ち込むなよ。カンパしてやるから」


 おおっ、さすがは持つべきものは友達だ。尤も、原因を作ったのもこの人たちであるが。それでもあまりの嬉しさに目に水が沸いてくる。


「カンパはちょっと無理かもしれないけど、うちの仕事は優先的に回してあげるから」

「サンキュー詩乃」


 徹と詩乃のやり取りを見ていて、嬉しいような理不尽なような不思議な感じがした。それでいて、二人の申し出に友情が感じられて元気が出てくる。でも、こんなの慣れっこの話だし落ち込むほどのことでもないか。と両手を組んで天に突き出すように体を伸ばして深呼吸をすると徐々に心が落ち着いてくる。


「それじゃあ帰ろうか」


 僕がみんなに言うと、目の前にいた三人は不思議そうな表情を浮かべた。


「で、どうなったのよ」


 そうだ忘れていた。まだ何も説明していなかった。何処から話し始めればいいか考えを纏めようとすると、詩乃にストップとばかりに広げた手を突き出された。何事かと思いきや背後で人の声がする。


「あれ? どうして?」


 言葉が僕を通り抜けてから、陸香とオシゲは僕の横に並ぶように立つ。


「だって、ほら、バイクじゃ三人乗れないじゃない? さすがに歩いて帰って来いって言うのもトシに悪いからリクのこと迎えに来ちゃった」

「みんな、ありがと! でも今日は姉さんとバイクで帰りたい気分なんだ。悪いけどトシを車で乗せてってあげてくれない?」

「いいんじゃない? 家族水入らずで」

「はあ?」

「私と徹は東京見物してから帰るから。リクも一緒の方が楽しそうだったんだけど」


 陸香はごめんね。と言いながらオシゲに一歩近いた。今日の二人を邪魔するのは良くない。けど……。


「ところでこの車って七人乗りだよな」

「そうだと思うぜ」

「なら、ちょうど全員乗れるよな」


 僕は詩乃と徹の手を掴んで引っ張る。


「待ってよ。だってお守りとかもう全滅しているから。乗らない方が絶対にいいと思うから」

「大丈夫。今まで母さんの力で死人が出たことは一度も無い。これだけは絶対に間違いないから安心していい」


 僕は二人を無理やり後部座席に押し込んでから振り返った。

 リクもオシゲもサンキューなのか頑張れよなのか判らないが、親指を立てて微笑んでいる。勿論、僕も同じように頑張るよ、と親指を突き返す。


 雨上がりの大気は湧き水のように澄んでいて遠くの空が何処までも見渡せそう。大きく息を吸ってコントラストがくっきりとしたビルの影を踏みつけると、漏れてきた陽光が通り過ぎる車の窓ガラスに反射して僕の手を一瞬だけ輝かせる。早く乗りなよ。と急かす声に僕はゆっくりと車に乗り込んだ。

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