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モヒカンの本質

 とてつもなく空気が悪くなっていた。

 陸香がデザートの誘いを断ったことで、三条院は殺気立っている。店から漏れてくる灯りで暗影ができているだけではない。表情に明らかに苛立ちがある。大将と喧嘩をしていたときは怒りながらも楽しそうだった。それに対して今は指示に従わない生徒を殴りつける暴力教師のような威圧感がある。


「ハニー。君は立場と言うものが分かっていない。別に俺は理不尽なことを要求しているわけでも辱めようとしているわけでもない。そこらへんはずっと一線をわきまえている。それなのに断ろうとするのはどういうことだ」


 陸香が僕の腕をつかむ力が強くなる。ちょっと痛く感じるほど。表情はそれほど変化していない。能面をかぶっているかのようだ。陸香のことを知らない人間が見れば、普通と変わらないと言えるだろう。

 だが、そんなはずはない。陸香が拒絶反応を示していることは明らかだ。その影響だろうか、腕を通る血管が圧迫されて僕は自分の血圧が上昇していることに気づいた。冷静さが失われ、頭に血が溜まり三条院に文句を言おうとしていた。


 しかし、僕より先に三条院が口を開く。


「まあいい。今日のところは帰ることにしよう。すぐに車が来るから二人とも送ってあげよう」

「済みませんが、僕は自転車がありますからここで失礼させていただきます」

「申し訳ございませんが、私もたまには歩かないといけませんからここで」


 予想外にもリクは三条院の誘いを断る。すると予想するまでもなく三条院の機嫌はさらに悪くなる。表情が歪んで目つきが鋭くなる。判りやすい。しかし、そんなことが判っても意味はない。事態は改善されていないのだから。


「彼を一人で帰らせるのが心苦しい。そう言うことだね、ハニー」


 声が明らかにぎこちない。感情を抑えているのだろうか。三条院は陸香に気を使っている。


「お気遣いありがとうございます。でも、スタミナラーメンは量が多すぎました。少しは運動をしないと体重が増えてしまいますから歩いて帰りませんと。実は私って太りやすい体質で一度贅肉がつくと落とすのが大変なのですよ」

「そこまで嫌われているのか僕は」

「いえ、そんなことではなく。本当に単に歩きたいだけで……」


 陸香が言うと、三条院は周囲に聞こえるほど大きく息を吐きだしてから、大きく息を吸い込む。すると、先程までの悪鬼が取り憑いたかのような表情が薄れていく。それでも、視線には冷淡な殺気が籠められている。


「やり方が甘すぎたか俺も会社も。これからはもっとビジネスライクにいくか」


 三条院は今までとは異なり落ちつきを取り戻したかのようだ。先程まで発していた威圧的な熱は消え去り、代わりに揺るぎの無い冷徹な目つきで僕たちを見ている。これまでのふざけた態度など全く無い。今までのがチンピラならば、今は無感情の殺人鬼だ。不気味さが感じられる。二重人格のような変わりように驚く。だが、ふと気づいてしまった。今まで僕たちに見せていた姿の方が演技で無感情なこちらが本質であるかもしれないことに。オシゲの催眠術で翻弄されることなどな相手であるかもしれないことに。


 僕が内心、焦りを感じていると、三条院は俺たちを鋭い眼光で睨みつけてから一言だけ言う。


「陸香君。おやすみ」


 三条院は体を反転させると、運転手が開いたドアから偉そうにリムジンに乗り込む。そして、リムジンは次の瞬間に挨拶など全く無く走り出す。


 僕はリムジンが見えなくなるまで動けなかった。国道方面に去っていったのを確認してから、うんざりしたとばかりに溜息をつく。次の瞬間、同じような溜息が聞こえたような気がして、陸香の顔を見た。すると、陸香も僕を見返してくる。


「帰ろ」


 僕は、明らかに作り笑顔になっているだろうな。という表情を作り陸香に言った。

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