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ぼくんち ほんとの うさぎ小屋

作者: 木村美登里

   ぼくんち ほんとの うさぎ小屋


1 うさぎさんといっしょ


 「あれえ。」

その日公園の草むらで、両後ろ足をがっちり地面に根を張った長い草で縛られて身動きできなくなっているうさぎを最初に見つけたのは僕。母さんは見えないふりをして通り過ぎたかったみたいだけど、僕と妹が立ち止まってしまったもんだから仕方なく足を止めた。僕たちにはうさぎの置かれている状況がさっぱり理解できなくて、どうしてやったらいいものかわからなかった。しばらく3人で突っ立ってうさぎを見ていたけど、ちっとも飼い主は現れないし誰もそのうさぎを助けてやらない。母さんが、犬を散歩させている人や、近くでクラリネットの練習をしている大学生らしき女の人に尋ねてみたけど、どこのうさぎなのか心当たりのある人はいなかった。どうしようかと考えて、僕はとりあえずうさぎの足を縛っている草をほどいてやった。ぴょんぴょん跳ねてどこかへ行くかなと思ったのに、うさぎの後ろ足は両方ともだらんとして動かない。母さんはますます見なかったことにしたいという顔をしたけど結局放っておけなくて、おっかなびっくりうさぎを抱き上げて車に乗せた。僕も母さんもその場をなんとかしなくてはということに精一杯で、うちの誰もうさぎの飼い方を知らないのに、連れて帰ってそのあとどうなるんだろう なんてことは全く考えられなかった。

 獣医さんにレントゲンを撮ってもらったら背骨が折れていることがわかった。うさぎは強い力も鋭い牙も、武器になるようなものは何も持っていないので、敵に出くわしたらひたすら逃げるしかない。速く走るために骨も軽くしているので、スカスカでちょっとした衝撃で折れてしまうことも珍しくないんだそうだ。どうかした拍子に背骨が折れたから捨てられてしまったのか、縛られた草を振りほどこうともがくうちに折れてしまったのか。背骨が折れているから後ろ足はずっと動かないし、おなかの中から腐ってきて長く生きられないかもしれないと先生は言った。

 警察に届けてひとまずうさぎはうちで預かることになった。

「母さん、ラビットフード買わなきゃ。」

「うん。」

「かごもいるよね。」

「かご? 雪遊びのそりあるでしょ。あれに乗せときゃいいわ。」

「水も飲ませなくっちゃ。」

「ハムスターの給水器使えない?」

「・・・」

母さんのケチ。

 うさぎは僕たちを見るとズルズル後ずさりするし、そっと撫でてやろうとしても体を硬くしてすっかり怯えてしまっている。ラビットフードも人参も小松菜もなんにも食べようとしなかった。ねえ食べなきゃ死んじゃうよ。 ・・・もしかしたら生きていたくないと思っているのかもしれない。動けないように草で縛って放置されるなんてひどい仕打ちを受けたうえに、まるで知らないとこに連れて来られたんだから。うさぎの心は悲しみや恐怖でいっぱいになっているに違いない。

 次の日もうさぎは何も食べなかった。水をちょっと飲むだけ。あくる日もやっぱり何も食べない。

「ひええええ」

うさぎを見ていた母さんが変てこな叫び声をあげながら、2メートルくらい後ろにぶっ飛んでタンスにベチッと張り付いた。夜道で河童にこんにゃくでも投げつけられたような顔をしている。何? とそりをのぞきこむと、もぞもぞ動く白い小さなものがいくつも見える。

「わっ、うじ虫だ。」

そういえばうさぎを見つけた時ハエがたかってたっけ。卵を産みつけられたんだ。母さんは引きつった顔のまま、うさぎをダンボール箱に突っ込むと獣医さんのところへすっ飛んで行った。

「やあ、餌は食べますかな?」

と尋ねる獣医さんの声が母さんにはまるで聞こえていないみたい。

「うじ、うじが、先生、うじ・・・」

と口をパクパクさせている。母さんにとってはうさぎが何も食べないことより、うじがわいたことの方が問題なんだな。

「ああ、こりゃあ1匹ずつ取ってやるしかないねえ。」

という言葉を聞いて気絶しそうになっている母さんを見て、獣医さんはいたわるように言った。

「どうしても世話できないんだったら、注射一本で苦しませずに天国に送ってやることもできるんだがね。」

 帰りの車の中で母さんはずっと黙って考えてた。このままだったらうさぎにとって苦しい時間が長く延びるだけかもしれない。死なせてやったほうがうさぎは喜ぶかもしれない。だけど母さんは『安楽死させてやって』と獣医さんに頼むことはできなかった。

「だってそれは私じゃなくて神様が決めることでしょ。」

急に言われて僕はどう答えていいかわからなかった。 ・・・わからなかったけど、やっぱり僕も命が誕生したり失われたりすることに人間は関われないような気がする。今がうさぎの寿命が尽きる時なら、どんなに世話をしてやってもうさぎは死ぬだろうし、反対にまだその時期じゃないんだったらほったらかしといてもうさぎは生き延びるんじゃないかな。

 うちに帰って母さんはきっぱりとうさぎに言った。

「安心おし。うじは1匹残らず退治してやるからね。」

それから母さんは数時間おきに必死な形相でうじ虫と格闘することとなった。うじさんごめんよと一応謝りながら。

 その日の夜中、なぜか目が覚めてしまった僕はそっとうさぎのほうをうかがった。僕に背を向けてうさぎはじっと動かずにいた。前にいたうちのこと思い出してるのかな。どこか体が痛いの我慢してるのかな。不自由な足を悲しんでるのかな。 ・・・ごめん、僕何もしてあげられない。朝になったらうさぎは冷たくなっているような気がした。

 朝、僕はうさぎに目をやる前に母さんを見た。よかった、いつもと変わらないや。うさぎはまだ生きてる。でも学校から帰った時にはどうなっているだろう。

 僕の頭の中はかわいそうなうさぎに占領されていて、先生の声が入り込む隙は全く無かった。何の授業を受けたんだっけ。急いでうちに帰るとうさぎはまだ生きていた。ホッとした気持ちと、だんだん弱っていくうさぎをこれからも見なくちゃならないのかっていう辛い思いと、なんか複雑。

「うさちゃん。」

ラビットフードをひとつ指の上に乗せてゆっくりうさぎの口元に持っていった。うさぎがうちへ来てから幾度となく繰り返した動作である。どうせまた食べないよね。半ば諦めていたのに、うさぎはこの時フンフンとしばらく匂いを嗅いでからラビットフードを口に入れた! 食べた! 僕の手から食べてくれた‼

「母さん、うさちゃん食べたよ!」

僕の声でドスドス走って来た母さんの前で、ポツリポツリとうさぎはラビットフードを食べ続けた。

「ああよかった。」

うさちゃん死んだら生ゴミと一緒に燃えるゴミの日に出せばいいのかしらんと思ったんだけど、向かいの奥さんが、動物も引き受けてもらえるから火葬場へ持ってったらって言うの。なんてうさぎが死んだらどうすればいいか、あっちこっちに聞きまくってた母さんだけど、うさぎが食べるのを見て本当に嬉しそうな顔をしている。僕だって3回連続バック転でもしたいくらいの気持ちだったんだけど、バック転が出来ないから代わりに3回まわってワンと言っておいた。うーん、もう最高っ! やったぜ!

 その日からうさぎは少しずつラビットフードを食べるようになった。うじ虫のほうは、母さんが敢然と立ち向かう覚悟を決めてから徐々に少なくなって、やがてすっかりいなくなった。朝起きたらうちじゅううじだらけなんていう悪夢にうなされていた母さんは心底安心したようだった。

 どうやら生きられるみたいだからちゃんとした名前をつけてやろう。僕と妹は、ミッフィーちゃんかピーターか、はたまたバーニー君かベンジャミンかといろいろ考えたんだけど、母さんは連れて来た時からずっと『うさちゃん』と呼び続けて譲らない。

「うさちゃんって、ねえもっと考えて名前つけてやろうよ。」

「うさぎだからうさちゃん。こんなにわかりやすくていい名前ないでしょ。」

と言い張ってる。そういえば以前うちにいたハムスターの名前はハムちゃんだったんだけど、これだってもらってきた時から母さんが勝手にハムちゃんって呼んでたからそうなったんだ。このぶんだと、うちでもし猫を飼うことになったら名前はねこちゃん、豚だったらぶうちゃん、象ならぞうさんになるだろうな、きっと。泣く子と母さんには勝てないので、渋々僕と妹もうさちゃんと呼ぶことにしたけど、父さんだけは、そりの下に敷いてある新聞紙をうさぎが食べているのを見て、

「こいつ紙食っとる。あんぽんたんだなあ。」

と言い、それ以来ポンタ君と呼ぶようになった。『うさちゃん』も安易な名付け方だけど、あんぽんたんのポンタ君っていうのもなんだかなあ。

 小さくてあんまり立派じゃない家のことをうさぎ小屋って言うらしい。母さんはため息まじりに、

「あーあ、うさちゃんが来たからうちは正真正銘のうさぎ小屋になっちゃったわ。」

って言うんだけど、僕はちゃんと掃除してきちんと整頓したら、このうちちっともうさぎ小屋じゃないと思う。母さんは問題をすり替えて責任逃れするのが得意だ。

 改めてうちの中を見回してみると、やっぱり散らかってるなあ。床にあれやこれや散乱しているうえにうさぎのそりが増えたから、ちょっとあっちへ行こうとしても簡単には行けないぞ。足をおろせそうな場所を素早く見定めてひょいひょい跳びながら、体にぶつかりそうになるでっぱりをひらりとかわすという高度なテクニックを使って、僕たちは毎日うちの中で障害物競走の練習に励んでいる。あっごめん、そり蹴っ飛ばした。

 蹴られて地震が起きたり、上から鉛筆やポテトチップが降って来たりするような落ち着かない環境にもかかわらず、うさぎは随分くつろいだ様子を見せてくれるようになった。前足でくるくる顔をなでまわしている仕草なんか本当に可愛くて見飽きることがない。だけどうちで一番人気があるのはやっぱり居眠りしてる時のポーズだな。うさぎはどうやら夜行性らしいんだけど、昼間ぐうすか眠りこけてる姿なんか見たことがない。目を閉じることだって滅多にない。腹這いになって、目が普段の半分くらいの大きさになった時がどうも寝ているらしいんだけど、もう少し深い眠りになると、首が胴体にすっかりめり込んで、耳が背中にぴったりくっついて、鼻がだんだん天井を向いていって、口がふにょふにょ動き出してフグがガムを噛んでるみたいな顔になってくる。これが間が抜けててほんとにヘンな顔なんだな。母さんなんか、

「ぶっさいくー。」

とうさぎを起こさないように小声で言って声を出さずに大笑いしてる。ほんの数秒間この不細工な顔をしたあと、うさぎはぱちっと目を開けて僕たちに気づくと、しまった、かっこ悪いとこ見られちゃったって照れ隠しをするみたいに大慌てで餌入れに顔を突っ込んで、ボリボリラビットフードを食べ始めたりする。それを見て僕たちはまた笑うんだけど。どてーんとひっくり返ってぐうぐう眠ればいいんだよ。ここではなんにも心配しなくていいんだから。

 

 僕んちの隣にはおばあちゃんが住んでいる。うさぎをうちへ連れて来たことは話したけど、おばあちゃんは動物が大の苦手なので、それからどうなったかは全然知らせていないし勿論見せてもいない。そのおばあちゃんがうちへ来た時に、

「そういえばリスさんはどうしやあした?」

と聞くので、

「ああうさぎね。元気になったよ。」

とそりの前におばあちゃんの手を引いて連れて行ってあげた。丁度うさぎは餌入れを口でくわえて思いっきりぶん投げたり、敷いてあるペットシーツをビリビリ噛み裂いたりしているところだったもんだから、おばあちゃんは目を丸くして驚いていた。うさぎがうちへ来た時に母さんが 今日死ぬ、すぐ死ぬ とおばあちゃんに言ってたから、息も絶え絶えでぐったりしている姿を想像してたみたい。おばあちゃんは動物と名のつくものは全てお断りという人なのに、

「あれあれ、あんたまあ、よかったねえ。」

と涙を浮かべて喜んでくれた。 うん、本当によかった。


 母さんは暑さに弱い。夏の間じゅう、なんだか虚ろな目をしてヘロヘロになってのびてる。あれは特別に暑い日の昼下がりだったなあ。母さんがうさぎにボソボソ話しかけているのを僕は聞いてしまった。

「毎日暑いねえ。うさちゃんは毛皮着てんだから私たちの何倍も暑いんだろうねえ、かわいそうに。その毛、全部短く刈っちゃったらきっとすごく涼しくなるよお。待っといで、今はさみ持ってくるからね。」

おわっ、ちょっ、ちょっと待ってよ。僕は大急ぎで冷蔵庫にとんで行き、アイスキャンディーを1本ひっつかんで母さんの元へ取って返した。

「母さん、暑いでしょ。まあアイスでも食べなよ、向こうの椅子に座ってさ。」

「ん? ああ、そうね。どうもありがと。」

僕は何気ないふりをして母さんの手に握られているはさみをアイスキャンディーと取り替えて、そりから離れた椅子に座らせた。母さんは、

「夏はやっぱりコレよねえ。」

なんて言いながら満足そうにアイスキャンディーを舐めている。近頃めっきり老人力がついて激しくなった母さんの物忘れは、折からの暑さでさらに拍車がかかりどうやら極限に達したようだった。これからしようとしていたことは母さんの頭の中にかかった霧の彼方、はるか遠くに飛んでいってしまったみたい。やれやれ、母さんが暑さに弱くて甘いものが好きな人でよかった。

   忘れろ~  忘れてしまえ~

 うさぎがうちへやって来た時、下半身が麻痺しているせいで汚れやすく、洗うのが大変だからと母さんはおしりの辺りの毛をジョキジョキ切ってしまった。しっぽなんかガタガタのマッチ棒みたいになってたんだから。普通はしないよねっていうとんでもないことを母さんは平気でやってのける人なので、黙っていたら本当に全身トラ刈りにしかねない。だけど頼むからやめてよね。毛が無くなったら、うさぎだか鹿だかチワワだかカンガルーだかわからない謎の生物になっちゃうよ。


 ある日父さんがなんだか興奮した様子で会社から帰って来るなり僕に言った。

「おい、昼休みにテレビで見たんだけど、アメリカにすげえ有名な車椅子の犬がおるんだと。お前このポンタ君にも車椅子作ってやれ!」

それから父さんは薄ら笑いを浮かべながらあらぬ方向に目をやって、うさぎの背をなで続けていた。きっと車椅子に乗ったうさぎの飼い主としてワイドショーのインタビューを受けている自分の姿を想像してるんだ。まったくこの人は何を考えてんだろ。僕は呆れてしまったけど、車椅子に乗ってうさぎが楽に動けるようになるんだったらいいなと思った。一日中そりの中じゃかわいそうだし。で早速クッキーの缶とハンガーと車輪を使って台車を作ってみた。うさぎを乗せるとガラガラとよく動き回った。だけどそれは喜々としてという感じではなくて、体にくっついている変なものを振り払おうと必死にもがいているようにしか見えない。なんだかかわいそうですぐに台車から降ろしてやった。父さんにうまくいかないと話すと、

「そんなことも出来んのか。もういい、俺がやるっ!」

とダンボールを持ってきて鼻息も荒く車椅子製作に取りかかった。手先の器用な父さんはほどなく箱型の乗り物を作り上げ、そして意気揚々とうさぎをその乗り物に乗せた。  ・・・はずだったんだけどうさぎの体は床の上にあった。体をうまく固定できなくてするりと抜けちゃうんだ。あっちこっち調整して何度もチャレンジしたけど、残念ながら満足のいくものはできなかった。父さんは憮然とした顔をして作業をやめ、タバコを吸う為に外へ出て行ってしまった。車椅子に乗せて自由に外で遊ばせてやりたいと考えていた母さんは、父さんが放り出していった車椅子をしょんぼりと見つめていたけど、すぐに、そうだ、私が車椅子になればいいんだわ。と言い出した。早い話、うさぎを抱っこして外へ連れ出そうということなんだな。でもうさぎは抱かれることを嫌がっておとなしくしていてくれない。それでも抱っこしようとすれば、暴れても落っことさないように、左手を胸とお腹に持っていき、ペットシーツ越しに右手でお尻を支えるという、かなりおかしな格好になる。これで外へ行くにはひどく勇気がいるぞ。僕はちょっとねえ。ところが母さんは、

「ほい、うさんぽ行くよ。ちったあ風にあたらんと。」

と言って、平気な顔でうさぎをあらよっと持ち上げて出て行っちゃう。うーん、さすが。着ているトレーナーが毛玉だらけでも、自転車がこぐたびにギーギーすごい音をたてても、描いた眉の高さが左右違っても、それが何か? って平然と言い放つ人だけのことはある。

 一方、ワイドショー出演の野望が打ち砕かれた父さんはというと、なかなか諦めきれないようで、テレビで障害にめげず懸命に生きている動物の話題が取り上げられると、

「おーい、ここにもけなげに生きるうさぎ、おるぞお。」

と画面に向かって盛んに手を振っている。もしも父さんがテレビ局に取材に来てくれるように連絡したりしたらどうしよう。目立ちたがり屋の父さんと、しっちゃかめっちゃかな母さんと、騒々しい妹と、とっちらかったうちの中が世間の目にさらされるなんて想像するだけでも恐ろしい。あ、駄目だ。なんかめまいしてきた。


 夏も終わりに近づいた頃、うさぎの背中の上のほうに、妙に長い毛の束がいくつも現れた。あれ、どうしたんだろ。伸びたのかな。何気なくその毛の束をつまむと、うわ、そのままごっそり抜けてしまった。その隣そのまた隣と次々に毛の束を引っ張ると、何の抵抗もなく全部するっと取れてしまう。むむむ、病気だろうか。さらに長い毛だけではなくて、その辺り一帯の毛が非常に抜けやすくなっているのがわかって僕は青ざめてしまった。やがて全身の毛がなくなってしまうのか? 頭の中のスクリーンを耳の長い謎の生物がニッと笑って走り去って行った。

 それから僕はなるべくうさぎに触らないように気をつけて過ごした。けれども毛は抜け続け、とうとう背中にぽっかりと小さな穴があいてしまった。周りの毛をかきわけて穴の底を恐る恐る覗いてみると ・・・黒い。はて、うさぎの皮膚って黒かったっけ? 数日後、ちょっと大きくなったハゲを触った時、それが皮膚ではなくてびっしり生えた短い毛であることを僕は知った。そうか、夏毛から冬毛に換わるんだ。そうとわかれば毛が抜けるのを恐れる必要はないぞ。ちょっと触っただけでハゲを中心にして毛は面白いようにうさぎの体から離れた。緩衝材のプチプチを潰す感覚に似てるかな。うさぎが嫌がる様子がなかったので、僕と母さんは毎日競って背中の毛を取り続けた。その毛は扇風機にあおられ、掃除機に巻き上げられ、たんぽぽの綿毛のように家じゅうをほわほわ漂った。普段からほこりっぽい我が家ではそれを気にする人間はひとりもおらず、これはうさぎにとってラッキーだったと言えるかもしれない。母さんは、

「よかったねえ、これがチリひとつ落ちてないピカピカのお屋敷だったら、うさちゃんすぐ外につまみだされちゃうよお。」

と嬉しそうにうさぎに話しかけている。掃除が行き届かないことをそんなに得意げに言わなくってもさあ・・・

 ハゲはその形がオーストラリア大陸を連想させることから『オーストラリアンハゲ』と名付けられた。そしてオーストラリアは次第に南北に伸び、ほぼ背中一面にひろがる頃にはアフリカ大陸に姿を変えていた。僕と母さんは面白がっていたけど妹は、

「こんなの やだ。可愛くないっ!」

とわめいてうるさかったなあ。でもそれも少しの間だけのこと。アフリカ大陸に萌え出た草は瞬く間に生い茂り、やがて立派な草原となって大地を覆いつくした。それとともに妹の機嫌もすっかり直った。

 こういう生理的なハゲはいいんだけど、うさぎにはもうひとつ困ったハゲがあった。後ろ足が麻痺しているせいでお尻を引きずって動くので、お尻の毛が擦り切れてなくなってしまう。いつしかうさぎのお尻には大きなハゲが出来ていた。うさぎが寝そべるとハゲがあらわになり、母さんはそのハゲをなでながら、

「みっつ三日月ハゲがある~ よっつ横にもハゲがある~ いつついつものハゲがある~ むっつ向こうにハゲがある~ ななつ斜めにハゲがある~ やっつやっぱりハゲがある~ ここのつここにもハゲがある~ とおでとうとうつるっぱげえ。」

と、呪文とも歌ともつかない妙な文句を呟いていた。落語家がテレビで言っているのを聞いて覚えたらしいんだけど、いつも『みっつ』から始まるところをみると、どうやらひとつとふたつは忘れてしまったらしい。

「ひとつねえ。ひ・・・ ひー・・・ 昼あんどん! ・・・ってお父さんのことだわよね。うーんと、ひー、ひー・・・ 肥満体! ・・・は私か。えーと、ひでしょ。ひ、ひ、火の用心! ・・・んーこれじゃますます遠ざかっちゃうわ。ひとつとふたつはどんなハゲだったかしらねえ、うさちゃん。」

ひもじくて不機嫌 とでも答えそうだね。

「母さん、うさちゃんにごはんあげたら? 餌入れ空っぽだよ。」

「へ? あ、ごめん。気がつかなかった。」

 僕たちが恐れたのは、うさぎのお尻がこすれて皮膚が破れてしまうことだった。そこからばい菌がはいりでもしたら大変だ。試しにお尻に絆創膏を貼ってみた。でもおしっこをすると濡れて非衛生的になるし、はがす時に毛がくっついて抜けるので、かえってハゲを大きくしてしまって失敗だった。何かいいテはないものか。母さんを見ると口をへの字、眉を逆さ八の字にして新聞を睨みつけている。その視線の先にあるのは某かつらメーカーの大きな広告。最近テレビコマーシャルでも盛んに流れてる、泳いでもシャンプーしても大丈夫。クイクイ引っ張ってもびくともしないっていうあれ。そうだ、ハゲにはかつらだよ。これは名案。早速電話してうさぎのお尻にくっつけてもらえるかどうか聞いてみよう。母さんはダイヤルしかけたんだけど、うさぎの毛根は傷ついていないことにはたと気付いて手を止めた。かつらをつければお尻はこすられなくなるから毛が生えてくるはず。でも折角生えてもかつらにぶつかって伸びることができないぞ。さあ困った。結局何の対策も講じられないまま、僕たちはうさぎの皮膚がこすられることで鍛えられ、丈夫になるようにとひたすら祈って時を過ごしてきた。母さんは自分の顔と取りかえてやりたいと言っている。そうだね、母さんの顔の皮だったら絶対に破れることはない。


 動物が人間にとって労働力になったり、心を癒してくれたり、盲導犬に代表されるように生活を支えてくれたりする例をよく耳にするけど、反対に僕は動物に対して何をしてあげているだろう。動物虐待の報道は後を絶たないし、飼えなくなったペットを保健所に連れていく人が大勢いるらしい。僕は今何もできなくてすごく恥ずかしいんだけど、いたずらに生き物の命を脅かしたり奪ったりは決してするまいと思っている。

 もうちょっと考えると、ペットと呼ばれる動物と僕たちはどういうふうに関わっていくのがいいんだろう。ペットがどんな生涯をおくるかは大部分が飼い主によって決められてしまう。飼い主とペットの間で、支配とか主従ではなくてなるべく対等に近い関係が成り立つのがいいような気がするんだけど。お互いに認めあい信頼しあえる存在であること。動物を飼っている人がみんな愛情深くて、すべてのペットが自分は幸せだと感じてくれていたらいいのにと思う。動物の一生を自分が握ってしまうなんて体が震えるくらいとてつもなく責任の重いことで、よほどの覚悟がなければ動物と一緒に暮らすことなぞ出来はしないと僕は思っている。

 僕たちは何の心の準備も出来ていないままにうさぎをうちに連れて来てしまった訳なんだけど、うさぎがなるべく快適に過ごせるように、できるだけのことをしてやりたいと考えている。僕たちはうさぎに、食べ物の好き嫌いをなくせとか、名前を呼んだら振り向いてほしいとかの要求は一切しない。ぴょんぴょん跳ねとんでこそうさぎなのに体を動かすことすらままならず、ただでさえストレスでいっぱいだろうからこれ以上負担を増やしたらかわいそうだもん。気ままにゆったりと暮らしてくれたらそれでいいよ。

 なんて偉そうに言っているけど、実のところ僕はうさぎをうちへ連れて来たという最初の一歩が正しかったのかどうかわからないでいる。うさぎを公園で見つけた次の日は雨降りだった。あのまま誰にも拾われずにいたら冷たい雨にうたれて死んでしまっていたかもしれない。さっさと死んで新しい命と健康な体を与えられるのと、不自由な体で生きながらえるのとどっちがよかったんだろう。

「ねえ母さん。」

母さんに聞くと、

「お医者さんに助からないかもしれないって言われたのにこうやって生きているっていうことは、神様にこれでよかったんだよって言ってもらえてるってことなんじゃないの。」

というお気楽な答えが返ってきた。あららっとずっこけそうになったけど、でもそうだね。僕もそう思うようにしよう。無理にうさぎの命を引き延ばすつもりはないけど、生きている限りは大切にしてやろう。僕だけじゃなくてうちのみんなが同じ気持ちだと思うよ。父さんは、うさぎがうちへ来たのにはきっと何か意味があるんだろうからちゃんと面倒見てやれよ。と言ってくれている。餌代やら獣医さんへの支払いやらで何かとお金がかかるけど、全部許してくれている。会社から帰って来ると、

「やあポンタ君、元気かね?」

と変な名前で呼びながら、ぐりぐり頭をなでて可愛がっている。母さんは、うさぎの寿命が大体10年だと知った時には、

「ええー、勘弁してよぉ。旅行に行けやしない。」

なんてぼやいていたし、うさぎがそりから出てカーペットを汚したりすると物凄く怒る。最近、世話がたいへんだから元の飼い主を捜してうさぎを返すと言い出した。うさぎがうちへ来てからのあれこれを綴って発表するんだって。

「それを読んだ飼い主が、ああ公園に置き去りにして悪かったなって名乗り出てくるでしょ。」

って澄ました顔で言っている。でもさあ、文章を書くったって、まあ構想3年、書き上げるまでに10年ってとこだろうから途中でうさぎは死んでしまっているはずだ。それに母さんが書いた話が世に出る確率なんてゼロに等しい。だから母さんの妄想が実現する可能性はないと考えるのが普通だろう。でも、もしも母さんがフルスピードで話を完成させて、万が一というか億が一というか兆が一というか、みんなに読んでもらえて飼い主が現れたとしても、母さんが本当にうさぎを手放すつもりはないということを僕は知っている。なんだかんだ言いながら母さんはうさぎを大事にしていると思う。夏、うさぎに扇風機をゆずって暑い台所でふうふう言いながら食事の支度してたもん。妹は、

「あたしもおにいちゃんもおデブちゃんでえ、おかあちゃんはおおデブちゃん。そのおかあちゃんよりおとうちゃんはたいじゅうがおおくってえ、おばあちゃんはないぞうしぼうがいっぱいあるの。うさちゃんもたくさんたべてうーんとふとらなきゃうちのかぞくにはいれないよ。」

と言いながらせっせと乾燥パインを食べさせている。みんなうさちゃんがうちへ来てくれてよかったと思ってるから、神様のところに帰る時が来るまでここでのんびりしていって。あ、ほら、おばあちゃんだって気にしてまた様子見に来てくれたみたいだよ。

「ほーい、リスさん どうしとりゃあす?」

「だからうさぎだってばあ。」


2 脱うさぎ小屋


 うちへ来てから3年が経ったある日、うさぎはひっそりと彼の岸へと旅立って行った。前夜まで普段と何の変わりもない様子だったのに。さよならもありがとうもごめんねも言わせないあまりにも唐突な別れに僕たちは言葉を失い、横たわるうさぎを呆然と見つめるばかりだった。僕たちが眠りこけている時にたったひとりで逝ってしまったんだ。どうして何も感じなかったんだろう。みんな自分を責めた。うさぎの最期をしっかり見届けてやるのが僕たちの務めだと思っていたのに。こぶしを握りしめても唇を噛んでも胸の痛みを紛らわすことはできなかった。母さんは時々うさぎに、死ぬ時はコロッと逝ってちょうだいよ。苦しまないでぽっくり頼むね。と話しかけていた。きっとその言いつけを守ったんだろう。僕たちは、うさぎと過ごしたかけがえのない日々を小さな箱に大切に詰め込んで、それぞれの心の一番深いところにそっとしまった。うさぎの亡骸は燃えるゴミにできるはずもなく、動物霊園を探して埋葬してもらった。主がいなくなった空っぽのそりを見るのは辛いので物置のずっと奥にしまってしまうことにした。そりのなくなった部屋はなんて広いんだろう。寂しくて悲しくてやりきれなかった。母さんはすぐに旅行会社から旅のパンフレットを山のように貰ってきて、

「さーて、どこへ行こうかなっ。3年間どこにも行けなかったもんね。」

とはしゃいだ声を出しながら1冊を手に取って見始めた。パンフレットを立てて僕たちから顔が見えないようにして。僕たちはみんな母さんに関心がないふりをした。パンフレットのページが全然めくられないことに気付かないふりをし続けた。・・・母さん、明日チョコレート買ってきてあげるね。


3 再びうさぎ小屋へ


 うさぎが天国へ行ってから1年。その日買い物から帰って来た母さんは明らかに変だった。家の前のどぶ板にけつまづいて派手な音をたて、玄関の戸を大きく開ける前に中へ入ろうとしておでこを戸に思いきりぶつけ、廊下を3歩歩いたところでサンダルを脱いでいないことにやっと気が付いて回れ右していた。僕と顔を合わせると言おうかやめようか迷ったような表情を浮かべたけど、僕が目で促すと、

「うさちゃんがいた。」

と赤くなったおでこをさすりさすりボソッと言った。

「うさちゃんがいたって、どういうこと?」

「駅前のペットショップ。」

ははあ、半年くらい前に駅前に出来たペットショップによく似たうさぎがいたってことか。僕は納得した。が、続けて発せられた母さんの言葉に、僕は食べていたハンバーガーを危うく取り落とすところだった。

「ウインドウの外から覗いてたらうさちゃんもこっちを見て後ろ足だけで立ち上がったんだけど、左後ろ足の外側の指が短かったのよね。」

 うさぎをうちへ連れて来てからしばらくすると、体が思うように動かないストレスからか、うさぎは自分の左後ろ足の指をかじってしまった。気が付いて止めた時には外側の2本の指は根元からなくなっていた。生まれ変わりだ。僕たちにわかりやすいように以前の体の特徴を残してまた生まれて来たんだ。

「どうしてお金払って連れて来なかったの!」

僕は思わず大声をあげてしまった。

「だってうち、お金持ちじゃないから。」

「はあ? 何言ってんだよ!」

バカッと続けたかったけどさすがにそれは飲み込んで僕は母さんを引きずるようにしてペットショップへ急いだ。僕たちが着くまでにどうか売れてしまいませんように。

 うさぎを初めて動物病院に連れて行った時、伸び放題になっている爪を指して、あまり動かない生活をしていたのかもしれないね。と獣医さんは言った。放し飼いのようにしていたら、爪は自然にすり減って切る必要がなくなるらしい。うさぎの背骨が折れてしまったのが僕たちが見つける直前だったのだとしたら、走り回れる健康な体だったのに狭い檻にでも閉じ込められて飼われていたのだろうか。僕たちは自由に動くことができない状態でずっと生きなくてはならなかったうさぎがかわいそうで仕方なかった。だからもしまたペット用のうさぎに生まれてきたら、その時は大金持ちの心優しい飼い主のもとで、すべてに恵まれた申し分のない環境のなか思いっきりうさぎらしい一生を送れるようにと願っていた。それくらいのこと望んだってバチはあたらないだろう。母さんが、うちがお金持ちじゃないからとうさぎを連れ帰るのをためらったのはそういう訳である。

 息せき切ってペットショップに飛び込んだ時、うさぎは入口のすぐ横のケージにいた。うさちゃんだ。見間違えるはずもない。茶色い毛に混じった黒い毛の生え具合といい、額から鼻にかけてのラインの短さ加減といい、耳のかたちといい、少しの違いもなかった。うさぎは僕たちをみとめると走って来て、待ちきれないというようにケージをガシガシ嚙み始めた。僕はすぐに店員さんにうさぎを出してくれるように頼んだ。以前は抱かれるのが好きではなかったけど、今は僕の腕の中にすっぽり納まっておとなしくしている。そんなうさぎの様子を店員さんはとても驚いた目で見ていた。これまでに何人もの人に気に入られたんだけど、いつも足をバタつかせるやら噛みつくやら大暴れして嫌がったんだって。そうか、それで売れ残ったから周りのうさぎより随分大きいんだ。ペットショップで売れ残った動物が殺処分されたり実験用にまわされたりすることもあるとかで、うちのうさぎをそうしないでくれたお店の人に僕は心から感謝した。

「母さん、お金!」

「あ、はいはい。」

僕だってうちがお金持ちじゃないのは少々気になるけど、うさぎが僕たちと一緒にいたがっているとしか思えないんだから連れて帰らないわけにはいかないじゃん。うさぎは僕の腕を鼻先でツンツン押してくる。それは胸が苦しくなるほど懐かしい感触だった。

 さあ、うちに着いたよ。

「母さん、そり!」

「あ、はいはい。」

そりを物置から引っ張り出し、積もったほこりをパタパタ払って部屋の真ん中に置いてやると、うさぎはぴょいと中に入り、そりのへりに顎を乗せて寝そべってみせた。そうそう、いつもそうやってでろーんと伸びてたよね。

「母さん、チンゲンサイ!」

「あ、はいはい。」

母さんが冷蔵庫からチンゲンサイの大きな葉と小さな葉を1枚ずつ持ってきて同時にうさぎの前に差し出すと、うさぎは迷うことなく大きな葉っぱに飛びついた。やっぱり。シャクシャク音をたてながらたいそうな勢いで食べ続ける様子を僕たちは固唾を飲んで見つめていた。

(止まれ、止まってくれ。)

うさぎは茎のところまで食べ進むとぴたっと食べるのをやめた。やった。もう疑う余地は無かった。うちのうさぎはチンゲンサイは大好きだけど、どうした訳か大きな葉の緑色の部分しか食べなかった。ね、こうだったでしょ。間違いないでしょ。そう言っているかのようにうさぎはつぶらな瞳で僕たちを見上げている。それからそりを跳び出すと、以前のように畳をむしり柱をかじり壁紙を剝ぎ取って食べてみせた。何もかも前と同じだった。僕たちはうさぎが何かをするたびに声をあげて笑った。笑って笑って笑って最後にはみんな泣いていた。こんなことってあるだろうか。僕たちは僕たちに割り当てられた一生分の幸運を使い果たし、奇跡体験をしてしまったような気がする。でもそれでいいと、この先もう何も願いが聞き届けられなくても文句は言うまいとみんな思った。

 こうしてまた僕たちのうちはめでたくうさぎ小屋に逆戻りした。前と違うのは、うさぎの後ろ足がちゃんと動くようになったので、自由気ままにうちじゅうをかじるようになってしまったこと。一応そりの周りをストーブガードで囲ってケージのようにしてはあるけど、折角跳ね回れる体になったんだから閉じ込めておくのはかわいそうで、ほとんど放し飼いにしている。左後ろ足の指が短いのは見たところ何の不都合もないようだった。母さんは普通のうさぎのように動けるのがすごく嬉しいらしくて、どこをどれだけかじっても、あらまあと言うだけでちっとも怒らなくなった。怒らないけどかじられた所を直しもしない。かじられてみすぼらしくなってしまったうちを、うさぎのかじり木を使ってせっせと補修するのは専ら僕の役目になっている。いいよ、これくらいのこと、どうってことないさ。

 今回うさぎと一緒に暮らせるのがどれくらいの期間になるのかわからないけど、僕たちはできる限りうさぎのしたいようにさせてやりたいと思っている。うんと遊んで可愛がって好きなものをたらふく食べさせて、もうやり残したことはないって言えるようにして、みんなで笑って天国へ送ってやりたいと思っている。だから汚したりかじったり、少しも遠慮しなくていいんだよ。

 ・・・だけどうちの中のひどい散らかりようは何とかならないもんかねえ。プラスチックの資源ごみを詰めた大きなポリ袋がいくつも床に転がっている。

「ねえ母さん、資源ごみの収集日って今日じゃないの?」

「え? 違うわよ。資源ごみを持って行ってもらうのは毎週水曜日だもん。 ・・・あらやだ、今日水曜日じゃないの。出しそこなっちゃったわ。」

「やっぱり。ちゃんと出しといてくれればその分うちの中がすっきりしたのに。 ・・・それにしてもプラスチックごみって1週間で随分たまるんだなあ。」

「あ、あのね、先週もうっかり出し忘れちゃったのよ。だからこれ2週間分ね。今までも2回連続で持って行ってもらいそこねたことはちょいちょいあるけど、さすがに3週続けてはないから、もし来週も忘れたらこりゃ新記録だわ。あっはっはー。」

「母さんっ、いい加減にしてよ、もう。ぼくんちはうさぎ小屋でそのうえごみ屋敷かよっ!」









 

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