ふっふっふ……奴は四天王の中でも最弱……だが、それでも諦めずに努力する姿勢だけは認めてやらんこともない
腕を組み、高笑いする四天王最強の魔族、アンナ。魔王に次ぐ恐るべき腕前の持ち主で、同族達からの信頼も厚い。実は四天王最弱のキャトルのことが大好きである。
「そうだな……『四天王の面汚し』などと、いつも我々に口汚く罵られているのにも拘らず、めげずにひたむきに頑張っている奴の姿を見ていると、何だかこの辺りがぽわぽわと温かくなったり、ぎゅっと締め付けられ苦しくなったりする……」
胸に手を当て切なく悩ましげな表情を見せる、二位の実力を持つドゥマ。明るく単純な性格で感情が表に出やすい。そして、四天王最弱のキャトルのことが大好きである。
「奴を4人がかりで倒した卑怯で恥知らずな勇者パーティーは、既に跡形もなく燃やし尽くしてやりましたが……キャトル、大丈夫でしょうか……落ち込んでいないと良いのですが……」
不安気な口調で眉間にしわを寄せる三番手の実力者、トロワ。頭脳明晰で魔界随一の智将として名を馳せている。勿論、四天王最弱のキャトルのことが大好きである。
「まあ、別に奴がどうなろうと知ったことではないが、新たな四天王候補者をわざわざ選定する手間を掛けるのも面倒だからな。後でちょっとした差し入れでも携えて、冷やかしがてら様子を見に行くとするか」
「おい、ずるいぞアンナ! 一人だけ抜け駆けするなんて! 私も絶対に同行するからな!」
「なるほど、精神的に弱っている隙に付け込むとは、二人共よく考えましたね……ですが、果たしてキャトルはどう感じるでしょうか? 勇者達に負けてボロボロになった状態で、格上の四天王であるあなた方から見舞い励まされたとしても、より惨めな気持ちに陥るだけかもしれませんよ?」
参謀らしく伊達眼鏡を華麗にクイっと直しつつ、キャトルの心情を冷静に分析するトロワ。
「確かに……トロワの言うことにも一理あるな……ところで、お前の手に持っているその小箱はなんだ?」
「あれだけこっぴどくやられてしまっては、取りあえずしばらく自分で料理することも食事することもままならないでしょうからね。当分私が栄養たっぷりの美味しい手料理を届けて、キャトルに食べさせてあげる約束をしています」
「き、貴様! このチャンスに乗じて、キャトルの胃袋と心を掴む気だな! すでに密約を交わしていたなんて許せぬ! そもそも以前からあいつとの距離が近すぎると思っていたんだ!」
「そうだそうだ! 4人の関係がギクシャクしないようにお互い気を使っていたのに、お前だけ私達に隠れてこそこそあいつのトレーニングを手伝っていたことも知ってるんだからな!」
アンナとドゥマは顔を真っ赤にしてトロワを指差し地団駄を踏む。
「しょうがないでしょう。私は四天王において下から二番目です。そうなれば自然と四天王最弱であるキャトルと協力して、切磋琢磨していくことになるのは必定です。たとえその過程で偶然愛を育んでしまったとしても、それは不可抗力で致し方ないこと……」
薄っすらと赤く染まった頬に両手を添えるトロワ。
「愛を育むだと!? ……くそう……どうして私は四天王最強なんかになってしまったんだ……」
「ああ、四天王の上から二番目なんて……中途半端で価値のない称号に何の意味があると言うんだ!……待てよ……トロワ! お前わざと手加減してその順位をキープしているんじゃないか!? 100年前は、私より断然強かったじゃないか!」
「さあて、一体ドゥマ様が何を仰っているのか全く分かりませんね」
トロワは何食わぬ顔でそっぽを向いてとぼける。
「はあ!? 許さんぞトロワ! 正々堂々四天王の順位を再度決め直すべきだ! 手加減なんて断固認めん! 私も最近腕がすごく鈍っている気がするし、運が良ければ三番手に返り咲くことができるかもしれん!!」
「いいや、三番手の座はアンナにも渡さない! 私だってキャトルと愛を……」
「ドゥマ様、今、私の名前を呼びました?」
「「「キャ、キャトル!!!」」」
満身創痍の有り様で杖を突きながら現れたキャトルの声に驚く三人。
「……アンナ様、ドゥマ様、トロワ様。この度は、本当に申し訳ありませんでした。また力不足で勇者達に負けてしまい……今頃奴等、魔王城に向かっているのではないかと心配で堪らず……居ても立っても居られなくて……」
深々と頭を下げるキャトルの姿に、三人共不覚にも目を潤ませてしまう。
「……まったく……どこまでもしょうがないやつだ。四天王の名に泥を塗りおって。勇者達は……その……事故で全滅したらしい。だからお前は、つまらんことを気にせず存分に休んで、体調を万全に整えてから、鍛錬するのだ……もしお前が望むのなら、四天王最強の私が、直々に、二人っきりで稽古をつけてやらんこともないぞ!」
「アンナ様……」
「いやいや、それはどうかと思うな。最強と最弱では力の差が開きすぎてまともに息の合った訓練ができないよ。かといって、今までトロワとトレーニングしても全然強くなれなかったみたいだし? ここは四天王の二位である私の出番じゃないかと思うんだよね!」
「ドゥマ様……」
「お二人共何を仰っているのですか。キャトルは順調に成長しています。今回は勇者共が卑怯にも4人同時に攻撃してきたからこそ僅差で負けてしまっただけです。私だけはキャトルの常日頃の頑張りをきちんと評価していますからね。それに、いつも言っているでしょう? 私にだけは『様』なんて堅苦しい敬称はつけずに、トロワと呼び捨てで良いと」
「……トロワ……」
「「なにい!? ……呼び捨て……だと……!?」」
悔しさと羨ましさのあまり、膝から崩れ落ちるアンナとドゥマ。トロワは勝ち誇った顔で腕組みをしているが、キャトルに初めて呼び捨てにされ、うなじまで真っ赤に染め、照れているのは一目瞭然だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~魔王城にて~
「おのれトロワめ……キャトルに名前を呼び捨てさせるなど……なんとけしからん……」
「まあまあ、あなた、落ち着いてください。もう少しの辛抱ですよ。四天王脱退と養子縁組の手続きさえ済めば、キャトルに私達をパパ、ママと呼んでもらえるのですから……ああ、考えただけで鼓動が激しくなってしまいます……」
「そうだな……キャトル……思う存分パパが甘やかしてやるからな! 覚悟しておけ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~ある村の教会にて~
「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!」
「うるさいわね! 神父のくせに生意気よ!」
復活した勇者は、蘇生を行った神父に悪態をつき、教会を出ていく。
(まさか四天王のトロワがあそこまで強いとは……キャトルのあっけなさに油断していたわ。でも、4対1という不利な状況にも諦めず、最後まで果敢に立ち向かう姿……すっかり奴の虜にされてしまった……今度は仲間なんか連れず、私一人で行くから待ってなさい! 必ずあなたを私のものにしてみせるんだから!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
余談だが、キャトルは四天王最強と呼ばれるアンナをも遥かに凌駕し、魔王にも匹敵する実力を秘めているにも拘らず、周囲があまりにも過保護なせいで真の力を発揮できずにいることは、誰一人知る由もないのだった。




