8話:レクス君流ゴブリン駆除~極~
「わっはっは! やはり冒険者といえばロングソードだな!!」
ロアの上機嫌な声が森の中に響く。ロアは古ぼけた革鎧と錆びが取れていないロングソードを装備していた。しかしレクスは、酒場の制服のままだ。
「――足跡からしてターゲットは五体。ゴブリンの習性、奪っていった野菜の量から、巣には十から十五匹の個体がいると推測」
レクスはゴブリンの小さな足跡を見て、ブツブツと呟いていた。
「つーかレクス、武器なしでほんとに良いのか?」
「肯定。武器は全般使えるが、必要性は皆無」
「さよか。まあ俺が全部叩き斬ってやるよ!」
危なっかしい手付きでロングソードを振るロアを尻目に、レクスが進んでいく。
「――静かに」
「見付けたか?」
岩陰に隠れたレクスに、ロアが静かに近付く。ソッと向こうを覗くと……。
「ゴブリンだ……あ、あれ、やられているのはコボルトか」
そこでは、一匹のコボルトが五匹のゴブリンに滅多打ちにされていた。
「コボルトって確か群れで行動するはずだろ? なんで一匹しかいないんだろうか」
「……斥候の可能性大。そこをゴブリンに見付かったのだろう。アルトに後で報告しよう」
「まさか大物が来ているのか?」
「否定。判断材料が足りない。今は保留しておく」
そうして見ているうちに、息絶えたコボルトを引きずってゴブリン達が意気揚々と進んでいく。しばらく進んだ先の、山肌の斜面にぽっかりと空いた穴の中へと入っていく。
それはギリギリ成人男性でも通れそうなほどの穴だが、自然に出来た物のようで、ゴブリンはそこを巣として使っているようだった。
「あれが巣だな! うっし、俺の剣の錆びにしてやるぜ!!」
岩の後ろに隠れていたロアが飛び出そうとするが、その腕をレクスが掴んだ。
「否定。あの狭い空間で剣を使うのは非推奨。中が更に狭くなっている可能性が高い」
「……確かに。槍にすれば良かったか」
「肯定。これより行動を開始する。ロアはここで待機することを推奨――殲滅モードに移行」
「お、おい! 一人で行くのか!?」
ロアを置いて、レクスが飛び出した。同時にエーテルを吸収し魔力を火属性へと変換する。さらにそれを球状の物体に変化させ、手のひらの上に生成。
レクスはまるで流れるような動きでそれを穴へと投げ入れ、ロアのいる岩陰に戻ってくる。
次の瞬間に地の底から響く、くぐもったような爆音が鳴り――山肌が吹っ飛んだ。
森の木々に止まっていた鳥たちが一斉に空へと逃げていく。
レクスが投げたのは超小型の爆弾であり、普通の家屋であれば軽く吹き飛ばせるほどの威力を持つ。それを狭い洞窟内で炸裂させたのだ。当然ゴブリン達は生きていないだろう。
「……は?」
驚きを通り越して絶句するしかないロアに、空に舞いあがった土や石がパラパラと降りかかる。
「――索敵モードに移行」
レクスが見ると、先ほどまで巣穴があったであろう斜面は爆散して周囲全てがクレーターのようにえぐれていた。
「残存兵力なし。殲滅完了」
「完了……じゃねえよ!!」
飛び出してきたロアがレクスに食ってかかる。
「馬鹿野郎! 爆散させたら、何匹倒したか報告できないだろうが! 普通は原型残るように倒して、耳とか牙を証拠として持ち帰るんだよ! これじゃあもう土やら地面と一体化してて証拠を持って帰れねえよ!」
「……謝罪する。その制度はデータに無かった」
レクスがそう言って頭を下げた。
「あ……いや、すまん。俺も先に言っておくべきだった。何も知らねえもんな……悪い……言い過ぎた」
ロアが頭を掻いて、レクスにそう返した。少し自分が浮かれていた事を反省する。そう、俺がちゃんと教えていかないと……。
「次回からはMVXガス弾による殲滅を心がける」
「なんか分からんけど、頼むから吹っ飛ばすのは止めてくれよ……反対側だが、この山の中には俺みたいな採掘士が採掘しているんだから、不必要な発破は崩れに繋がるんだよ」
「了解、考慮する」
「うっし……まあ予定より早く終わったし帰るか。アルトにはまあ適当に言い訳しよう。ゴブリンを倒したのは確かだし。ついでに竜血草も採りながら帰えるか」
「肯定。依頼達成効率が34%向上する」
レクスはチラリと森の奥に目線をやったが、結局そのままロアの後に付いていった。
「……やはりコボルトが増えている」
「ん? なんか言ったか?」
「否定。独り言だ」
「ほら、見ろよ、これが竜血草だ。赤いのは竜の血を吸って育ったからなんだってよ。そんなそこら中に竜の血があるかよって話だけどな。こいつは中級ポーションの材料になるから、結構高く売れるんだ」
「理解。採取を開始する」
こうして、レクスとロアの初依頼は無事終わったのだった。
しかしアルトの危惧通り、このグランドラ山にはとある魔物が近付きつつあった。
「グルルル……」
リンツ村に――不穏な影が忍び寄る。
巣穴に入って一々駆除? そら、手榴弾ボカーンでコロイチっすわ!
とはいかないのでした。