6話:冒険者になろう!
「レクス君を村付き冒険者にですか!? ですが、彼は冒険者ですらありません!」
レクスは状況を理解できず棒立ちだったが、アルトがランスロットへと詰め寄った。
「ならば冒険者登録すればいい。本部には俺から言っておこう。それで文句はないだろ?」
「それは……そうですが」
「この巨体を投げ飛ばす力があるなら、平気だろうさ。冒険者のノウハウは……君が教えられるだろう? 何、心配しなくても、こいつを街の独房に放り込んだら、様子を見にまた戻ってくるさ」
「はあ……分かりました。では、彼を臨時の村付き冒険者として登録しておきます」
「任せたぜ、アルトと……えーっと君の名は?」
ランスロットへとレクスが無表情のままランスロットに答える。
「レクスだ」
「……レクスか。良い名だな。じゃあ、君にしばらくこの村を任せるよ。じゃあな」
そう言って、ランスロットがキングを引きずって去っていった。
「大変な事になったわ……村長になんて言おうかしら……」
「そのまま言うしかねえだろ。しかし、胡散臭いとは思っていたが、まさかキングのクソ野郎、冒険者ですらないとはな」
「んー、ギルドカードも持っていたし、雰囲気もあったからそうだと思ったんだけどなあ……失敗した」
アルトとロアがそんな事を話していると、レクスが口を開いた。
「状況不明。冒険者とは傭兵に近しい職種であると理解しているが、先ほどの大男と赤髪の男は結局何者なのだ?」
「えっとね。キングさん……キングでいいや。あいつは冒険者じゃなくて、なりすましだったの。おそらくギルドカードを偽造したか、奪ったか。時々いるのよ、そういう輩が。冒険者は一目置かれる存在だから、その威光を借りたいのでしょうけど……。で、当然冒険者ギルド側としては、そんな奴らを野放しには出来ない」
「理解。それを取り締まるのが、ギルドナイトか」
「その通り! ギルドナイトは言わばギルド自体が抱える専属冒険者みたいな物ね。冒険者法という厳格なルールがあるんだけど、それに反した冒険者がいないか調査したり、捕まえたり。時には秘密裏に処理したり……。冒険者が唯一恐れる存在かもしれないわね。あの竜の紋章が入ったペンダントがギルドナイトである何よりの証拠よ」
アルトの説明に、レクスが無言で頷いた。
「で、ギルドナイトは色々特権を持っていてね。だから、ランスロットさんは本来なら色々と条件を満たさないといけない村付き冒険者に……冒険者じゃないレクス君を指名したの……それが許される立場だから」
「疑問。冒険者とは資格のある傭兵という認識だが、その資格を俺は有していないが、問題は?」
アルトが酒場のカウンターの横にある窓口に移動すると、そこで笑顔を浮かべた。
「そこからは私の仕事! 私は冒険者ギルドから認められたギルドマスターだから、冒険者志望の人に適性があれば、冒険者の資格を与える事が出来るの。それと共に、この村内の依頼を受けて、それを冒険者に回す。依頼の報奨金などのやり取りを管理して、トラブルがないようにする。これがギルドマスターとしての仕事ね」
「素性も分からん、記憶もない奴を冒険者に、しかも村付きにしても大丈夫かよ……いや強いのは認めるけど」
ロアがしかめっ面でレクスを見つめた。
「ま、キングがいなくなった以上は、なってもらわないと困るのだけど……レクス君自身はどう思っているの?」
「肯定。マスターの命令であれば傭兵でも村付き冒険者でも何でも構わない」
「さっすがあ! じゃあ早速冒険者登録しちゃおうか!」
それを見ていたロアが意を決して立ち上がった。
「お、俺も冒険者になるぞ! アルト!」
「ロア……あんたは採掘士でしょ? 仕事はどうするのよ」
「やりながら冒険者もする! それにそいつ土地勘ないだろ!? ソロでやらせるより俺と組んだ方が良いに決まってる! そうだよなレクス!」
その言葉にレクスが頷いた。
「肯定。マップは作成しつつあるが、現地人の情報は価値がある。それも踏まえデータとしてインプットするのは最善と判断する」
「ほらな!」
「……まあ確かに毎回私が一緒に行くわけにもいかないし……分かったわ。でも本業の方を疎かにしちゃだめよ? クイラさんに私が怒られちゃう」
「任せろ!! さあ早く登録しようぜ!」
アルトは、レクスとロアへ登録書類を手渡した。
「字、書ける? 無理なら代筆するけど」
「共通語、帝国語、古竜語、エルヴィッシュ、ドワーフィッシュ、全て可能だ」
「俺も書けるぞ! 練習したからな!」
「レクスは凄いわね。ロアも偉いわ、ちゃんと練習してたんだ。あ、レクス君は記憶喪失で分からないところは空けといていいわ」
「了解――完了だ」
アルトが僅か三秒で書かれたレクスの書類を見れば、一切狂いのない精確な直線と曲線で描かれた名前以外に、何も書かれてなかった。
「はあ……まあ何かあればランスロットさんの責任にしよっと。ロアはもう書けそう?」
「ちょっと待ってくれ……俺は書く事が多いんだ……」
そして、結構な時間が掛かりつつもロアも書類を書き上げ、提出した。
「はい、じゃあこれを握って、魔力を込めてみて。それで適性を測るから。まずはロアからやってくれる? お手本を見せてあげて」
そう言って、アルトが真ん中に水晶玉がはめ込まれた器具をロアへと手渡した。
「これはな、レクス。そいつが持つ魔力量とその属性値を測る事が出来るんだ。俺は採掘士になる時に何度も使ったからな」
そう言って、ロアがその器具の両側について取ってを握ると、魔力を込め始めた。すると水晶が強い光を帯び、やがて赤い炎が水晶玉の中で揺らめきはじめた。
「ふー……どうよこの光量! 結構な魔力量だろ!? 毎日坑道で発破してるからその辺りの魔術師よりはよっぽど鍛錬してるぜ?」
「うん、凄いよロア。火属性に偏っているけど、魔力量は大したもんだわ。魔術師になれるかもよ」
「だろー」
「じゃあ、レクス君、今みたいな感じでやってみて」
「了解」
レクスが取ってを握る。
アルトはワクワクしながらその様子を見つめていた。
助けてもらった時のあの炎魔術。きっとレクスは凄い魔術師に違いない。そしてこの測定でその全容が分かる――そうアルトは確信していた。
だが結果として。
「……おい、魔力込めてるのか?」
「疑問。それが分からないのだが」
「はああ!? 誰だって魔力ぐらいは使った事があるだろ!? どうやって茶を沸かすんだよ」
「……熱エネルギー?」
「なんだよそれ」
そんなはずはない。あれほどの魔術を放ったのだ。魔力を使えないわけがない。
「仕方ないわね――ちょっと視るわよ」
アルトは魔力を目に込めると、レクスの身体を凝視した。それはギルドマスターにとって必須である【魔力視】と呼ばれる技術で、相手が内包する魔力量が見えるようになるのだ。とはいえ正確な量ではなく、大雑把な範囲でしか見えない為、あくまで参考程度にしかならないが。
だがアルトは驚いた。これまで何人もの冒険者に【魔力視】を使ってきたが……。
こんな人を視るのは初めてだった。
「嘘……魔力が……見えない?」
レクス君の秘密? については次話にて。