5話:ギルドナイトのご指名です
レクスがキングを投げ飛ばしたせいで騒然とする酒場だったが、アルトが全員に酒を振る舞うとまたいつもの活気に戻る。
「疑問。村付き冒険者とはなんだ」
レクスの疑問に、アルトが散らかった入口を片付けながら答える。
「あのね、前も言ったけど、グランドラ山には定期的に強い魔物が飛竜と縄張り争いをする為にやってくるの。もちろん放っておけば、飛竜が追い払ってくれるんだけど……それまでの間は危険だから、先に冒険者に討伐してもらっているのよ。でもうちの村は街からも遠いでしょ? 被害が出てから冒険者を呼んでいたら遅すぎるから、いつでも対応できるように、ギルドから冒険者を村に派遣してもらっていてね。それが村付き冒険者」
「理解。村が専属契約した傭兵ということだな」
レクスも破壊された扉の破片を拾いながら、スキャンしていく。元々の扉のデザインはこの酒場に初めて来た時に記録済みだ。
「んー、違うけど、まあ大体はそんな感じね。家とかはこっちが用意して、生活費として報酬も払っているわ。で、魔物を討伐してもらったら別途報酬が出る仕組み」
「理解」
レクスが、外に転がっている男へと無機質な目を向けた。
「ふん、あいつはクソ野郎だよ。いつも偉そうにしやがって」
ロアが吐き捨てるようにそう言って、カウンター席に座り直すと、ビールを煽った。
「はあ……うちって辺境だし普段は魔物が出ないから、都会の人にとっては退屈なところなのよ。だから村付き冒険者になってくれる人が中々いないよね……キングさん街に帰っちゃうかも」
「あんな奴どうでもいいだろ。良い気味だぜ」
「ゲスでクソ野郎なのは同意だけど、それでも村を守る為に来てくれてるんだから邪険にしちゃダメよ」
「そうは言うけどよ……だってアルト、お前が一番迷惑してるじゃないか。いっつもあいつここで暴れるし、アルトに変なことしようとするし!」
「客商売はそんなもんよ。それで村が安全になるなら良いじゃない」
そんな二人の会話を聞きながらレクスが、体内に内蔵している【自動生成機関】を起動させる。大気中のエーテルを吸収し、扉を修繕する為の部品を手のひらの上に生成していく。
本来は別規格の火器を使用する際に、それに適合した銃弾や砲弾を生成する為にあるのだが、設計図や元のデザインをインプットすれば、大きさに限りはあるものの大体何でも作成可能で、しかも材料は大気中のエーテルのみだ。
「マスター。扉を修繕する許可を」
「へ? いや、そりゃあ直して欲しいけども」
「了解。次はあの程度で壊れない強度にする」
そう言ってレクスは自身で作り出した部品や、元々あった木の板を使って、扉を修繕補強していく。
そのあまりの手際の良さに、ロアとアルトは呆然としていた。
「あいつマジで何者だよ」
「わかんない。けど……ま、いっか。強いし、便利だし」
「お前……ほんとそういうとこ脳天気だよな」
「褒めてるの、それ?」
「褒めてねえよ」
あっという間にレクスによって直ったその扉は、鉄らしき素材で壊れた部分がつぎはぎになっていた。扉としての機能は十分に果たしているが、見た目については誰の目から見ても残念な出来だった。
「……なんか可愛くないわね」
「否定。耐久度は210%向上した。扉としての機能性は40%向上している。発電機がないので自動化は不可だったが」
「うーん……うん、頑丈そうなのは良いんだけど……ま、いっか。扉が頑丈なのに越したことはないしね」
アルトは気にしないことにした。それに良く見れば鉄と木のモザイク模様に見えないこともない。
「肯定。論理錠も取り付け可能なのでセキュリティも万全だ」
「ありがとうねレクス。でも、今度からなるべく荒事は外でやってね」
「了解。善処する」
レクスがそう言って、手を洗浄すると再びグラスを磨き始めた。
「またギルド本部に連絡して村付き冒険者を派遣してもらわないとなあ……」
「今度はまともな奴送ってこいって言っとけ」
「うちはそんな立場じゃないのよ……」
なんて会話していると――
「アアアア!! てめえぶっ殺す!!」
表でキングが立ち上がり、顔を真っ赤にして吼えた。既に大剣を抜いており、臨戦態勢なのが分かる。
「――強襲モードに移行」
レクスがそう言って、カウンターから飛び出そうとした瞬間。ふらりと帽子を深く被った男が立ち上がると、剣を持って店の中に突撃してくるキングの前へと立ち塞がった。
「……冒険者詐称及び、一般市民への暴行、そして侮辱発言。更に脅迫とはね」
「てめえどけええ!! お前から殺すぞ」
キングが剣をその男へと向けた。アルトがそれを見て思わず声を上げる。
「危ない!!」
「否定。危険度はゼロ……あの男は強い」
その男は剣をさらりと躱すとそのままカウンター気味に拳をキングの腹へと叩き込んだ。
「がはっ」
そしてそのままキングが床へと落ちた。白目を剥いて、口から血が滴っている。
「……やれやれ」
その勢いで、男が被っていた帽子が落ちる。真っ赤な赤髪に碧眼、そして顔には大きな傷が入っていた。
男は懐から掛けていたペンダントを取り出し、アルトへと見えるように掲げる。それには、竜の紋章が刻まれていた。
「貴方は……まさか」
「ギルドナイトのランスロットだ。キングの身柄を拘束、移送する。迷惑を掛けたな」
そう言って、赤髪の男――ランスロットが巨体のキングの身体を引きずって、外へと出て行こうとする。
「ま、待ってください! キングさんのうちの村付き冒険者です! せめて代わりの冒険者が来るまで待ってください!」
アルトがそう言って、ランスロットへと駆け寄る。
キングがどうしようもないクズなのは分かっている。だがアルトは、森で遭遇したコボルトの事が気掛かりだった。あれが仮にどこかの魔物の斥候なら、倒してしまった時点で、魔物は動くかもしれない。
そんな時に冒険者が一人もいないのはまずい。例え、クズでも戦ってくれる人は必要なのだ。
だが、そんなアルトの主張をランスロットはあっさりと却下した。
「こいつは冒険者ですらないクズだ。それに、十分強い奴がいるじゃないか。彼が――村付き冒険者になればいい」
ランスロットはそう言って、レクスを愉快そうに見つめたのだった。
キングさん、どんまい。ちなみに冒険者の詐称はかなり重い罪になるそうです。
ギルドナイトについては次話にて! レクス君、冒険者になるの巻