4話:帝国軍の三馬鹿トリオ
間話です
帝国軍、第13魔導研究所――【エクス・マキナ】
「……まずいよまずいよまずいですよおおおおお所長!!」
「ううう……私の愛しいレクス・カリバー1000XXちゃん……」
一人の白衣の男性が所長室へと飛び込んだ。
中では男と同じ白衣を来た銀髪の女性がデスクに突っ伏していた。長い髪が床についているが本人は一切気にしていない。それを呆れた目で見ている秘書らしき、背の低い女性が溜息をついた。
「いい加減仕事してくださいアルヴィン所長」
「あああああああ!! 反乱軍を根絶やしにするううう!!! 【バハムートウェポン】を起動させろ!! 国ごとクレーターにしてやる!!」
「いやいや……あれはまだ試作段階で……そもそもアルヴィン所長以外操縦できないですよ……」
「うるさいぞレイナ!! じゃあ私が乗るうう!! 反乱軍なんて全員ぶち殺してやらああ!!」
「許可が出ませんってば……で、何ですか、リッズ研究主任」
秘書レイナが冷たい眼差しを部屋に飛び込んで来た男――リッズへと向けた。
「まずいですよ!! レクスのオプション兵器である【フェンリル500ZZ】が――」
「今度は何ですか……」
溜息をつくレイナ。問題だらけのこの研究所では日常茶飯事だが、流石にちょっと危機管理がなさ過ぎる。
「そ、それが……格納庫で勝手に起動しまして……」
「はああああ!? 勝手に動くわけないでしょ!?」
デスクに突っ伏していたこの研究所の所長――アルヴィンがガバリと顔を上げると鬼の形相でリッズを睨む。美人のはずだが、その表情で台無しだ。
「ですが! 勝手に!! 記録を調べても、誰も触れていませんし当然アクセスもしていません!」
「フェンリルと言えば、確か今は野外活動用の偽装装甲を施していましたね」
「そうよ~ダイヤウルフの超硬々度のナノ炭素製毛皮を丹念に加工して作った最高のモフモフよ。あれに触れたら最後、虜にならざるを得ない魔力を秘めているわ……あ、この魔力は比喩表現で実際に魔力があるわけじゃな――」
「で、起動してどうなりましたか?」
アルヴィンの解説を遮ってレイナが話を促す。
「はい……魔導砲を使って格納庫の扉を融解させ……逃亡しました」
「へえ……あの扉って確かアダマンチウム重層合金で厚みは1m近くあったはず。フェンリルに搭載した小型魔導砲でも融解できるのか。ちょっと現場を検証しないといけないわね……やはりエーテル吸収阻害フィールドを展開して……」
アルヴィンがブツブツと何かを言い出すので、リッズが声を上げた。
「まずいですって!! ただでさえ、レクスを奪われたのに、フェンリルまで紛失したとなると、大問題ですよ!! しかも今回はうちの失態ですよ!?」
「……アルヴィン所長。なぜフェンリルは起動したのでしょうか?」
「んー。考えられるとすれば……私の愛しいレクス・カリバー1000XXちゃんが起動してそれと連動して……かしら」
「ってことはレクスも起動しているってことじゃないですか!! どうするんですか! もし帝国軍へと牙を向けてきたら」
リッズの言葉に、アルヴィンがキョトンとして首を傾げた。
「何を言っているの? 親に逆らう子は――ぶっ壊すに決まっているでしょ」
「……フェンリルを追跡しましょう。そこにレクスとそれを起動させた組織がいるはずです」
レイナの言葉にアルヴィンが頷いた。リッズが慌てて外へと出て行った。
「ああ……私の愛しいレクス・カリバー1000XXちゃん……どこで何をやっているのかしら……ちゃんといっぱい、殺戮をしているのかしら? ああ……データを取りたい……」
アルヴィンは恋患いしている乙女のような表情を浮かべ、いつまでも研究室の窓から見える月を見つめた。
モフモフ兵器、出陣。
所長、研究主任、そして秘書のレイナは他の部署の人間からは三馬鹿トリオなんて呼ばれています。レイナは、他の二人はともかく自分がその括りに入っている事に不平を漏らしているとか。ただこの研究所は問題も多いですがそれ以上の功績を残しているので、上からは評価されています。
次話でまたレクス君視点に戻ります。