1話:最強兵器の受難
新作だよ! 内容と同様にのんびり更新したいと思います~
「一人残らず殺せえええ! 中に最強兵器が眠っているぞ!!」
「絶対に死守しろ!! この戦争の行く末がかかっているんだぞ!!」
「劣勢! 撤退を!! 魔力障壁を張り続けろ!!」
「例の兵器は!?」
「守れんなら破棄しろ!!」
随分と外がうるさい。
輸送車の中で専用のデバイスに接続されている、汎用知性搭載型戦術魔導人造兵器――コードネーム【レクス・カリバー1000XX】通称〝レクス〟がそんな事をぼんやり考えていた。
見た目だけで言えば線の細い青年で、人間と全く同じ姿だ。黒髪に無機質なガラス玉のような瞳、下着とズボンは穿いているが、上半身は裸だ。
彼は完全起動していないせいで、まだメインシステムも人工知性も動いておらず、不必要と言われた感情がかろうじて残っているサブメモリだけが今の状況を把握していた。
次の瞬間、輸送車が激しく揺れ、横転。レクスはデバイスから外れ、転げ回った。
そして静寂が戻った時、レクスの前に現れたのはボロボロに負傷した二人の若い兵士だった。
「おい、お前!! 帝国軍の最強兵器は何処にある!」
若い兵士が魔導剣をレクスに突きつけるが、彼は答えられない。
「馬鹿野郎! それは死体だろ! 体温も魔力も感知できねえ」
「なんで男の死体がこんなとこに入ってるんだよ!」
「いいから探せ!!」
若い兵士達が横転した車内をくまなく調べるも、何も見付からない。それはそうだ。彼らが死体だと勘違いしているレクスこそが……帝国軍の魔導技術の結晶であり、たった一体で国を滅ぼせる、と開発陣が豪語するほどの兵器なのだ。
「くそ、ないぞ!! デマだったんじゃないか!?」
「だったら、こんなに厳重に護衛を付けているわけないだろ!! 絶対にあるはずだ!!」
「どうするんだよ!!」
「手ぶらじゃ帰れないぞ! 反乱軍の戦力をどれだけこの作戦に割いたと思っているんだ!」
「……とりあえずこの男の死体、持って帰ろう。何か分かるかもしれねえ」
こうして、帝国軍の最強兵器であるレクスは持ち去られた。
彼の数奇な運命は、ここから始まったのだった。
☆☆☆
レクスを持ち去った若い兵士二人は満身創痍で、山中を彷徨った。どれほど歩いたかも分からない、どれほどの日が経ったかも分からない。
「……もう、捨てようぜ。無駄に重いし、こいつ」
「馬鹿野郎……そんな事したら……あの襲撃は……無駄骨だったことになるだろうが……」
やがて、一人の兵士が死んだ。
残された一人はすでに意地になっていた。
「灯りが見えた……もう少しで……もう少……しで……」
あと僅かだった。あと数キロ進めば、彼らの国の領土に入ったのに。
「ああ……なんで……」
兵士が絶望した顔をして空を見上げた。次の瞬間、彼は巨大な飛竜の、凶悪な爪が並ぶ後足に鷲づかみされた。
当然、背中に背負われていたレクスも一緒に、空へと連れ去られた。飛竜の爪が食い込み、兵士は絶命するも、想像を絶する硬度にまで鍛え上げられたレクスの皮膚は傷一つ付かない。
それから、飛竜はいくつも山と谷を越えて、自身の巣で待つヒナの為にと餌を運んでいく。
巣に辿り着いて飛竜はようやく、兵士はともかく、レクスは餌にはならないと気付いた。なんせいくら爪で引っ掻いても牙を立てても、全て弾かれてしまうのだ。
結果として飛竜は、その邪魔な塊をぽいっと巣から落とした。
山の山頂付近にあった巣から落とされたレクスは山の切り立った斜面を転がって落ちていく。無駄に硬いせいで、地面に当たってもすぐに弾かれ、速度を落ちることはない。
そうしてレクスは――大きな岩でバウンドして平坦な地面に落ちると、ようやくその動きが止まったのだった。
恐ろしいほどに頑丈なレクスはぼんやりと、さて今度はどこに連れて行かれるのかと考えていた。周囲を見る限り、ここは森の中のようだ。
しかし彼は気付いていなかった。流石のレクスでもあれほどの衝撃を何度も受けたせいで、内部で起動シークエンスのロックが外れていることを。
それから、どれほどの時間が経過したかは分からない。ただレクスだけは精確に470608秒経ったと把握していた。
そんなレクスの下へ――金髪の女性が恐る恐る近付いてきていた。
「えーっと……生きてますかー?」
女性がレクスの顔を覗き込む。その瞳は空のように蒼く綺麗だとレクスは思った。歳は20代だろうと推測できる。美人でスタイルが良いので、異性にはさぞかしモテるだろう。
レクスは、自身の思考に疑問を抱かない。そこに、この身体の素体だった男の嗜好が混じっていることに。
「死体かな……? なんでこんなとこに……どうしよう」
困っている様子の女性がどうしようか悩んでいると、更に近付いてくる影があった。
「……げっ、やば!」
女性も気付いたのか、腰に差していたナイフを抜く。その視線の先には、二足歩行する犬ようなモノが立っていた。レクスはメインメモリのデータベースにアクセス出来ないので、この身体の素体の記憶にある、コボルトという名の魔物であると推測した。
その毛むくじゃらの手には、木を削って作ったような棍棒が握られている。
「なんでこんなとこにコボルトがいんのよ!」
女性は戦う気か、ナイフを構えるがレクスが見る限り、分が悪そうだった。
コボルトはその凶悪な顎からよだれを垂らしている。目の前の美味そうな女をどう喰おうか考えているように見えた。
そしてついにコボルトが地面を蹴って女性へと飛び掛かる。
レクスは、また誰か死ぬのかと思った。自分のせいで沢山の人が死んだ。護衛した者も、襲撃した者も、自分を運び出した兵士達も、皆死んだ。
この女性も自分がいなければここを何事もなく通り過ぎており、コボルトに出くわさなかったかもしれない。
それが、レクスはぼんやりと嫌だなと思った。もう誰も死んで欲しくないな、とも思った。
それが原因かは分からない。
山を転げ落ちた衝撃で起動シークエンスのロックが外れて、たまたまこのタイミングで起動しはじめたのかもしれない。
だが結果として――
「メインシステム起動。起動シークエンス3から19を緊急事対応策として破棄――緊急起動完了、ターゲット【コボルト】を殲滅する」
レクスはまるでバネ仕掛けの玩具のように跳ね上がると、そのまま女性の前へと出て、襲いかかってくるコボルトへと右手の手のひらを向けた。
「あ、あんた生きていたの!? って危ない!!」
「否定。危険度は――ゼロだ」
レクスの手のひらの中央部が開き、砲口が露出する。
レクスは大気に含まれたエーテルを吸収し、魔力に変換。それを更に体内の属性変換炉で火へと変え、右手に仕込まれた最新型可変式魔導砲へと弾として込めていく。
「――【竜劫砲】」
レクスの手のひらから、火属性魔力で作られた超々高熱の砲弾が、竜の咆吼をも思わせる轟音と共に発射される。
斜めに放たれたそれは、あっさりとコボルトの身体を爆散させ、更にその背後へと貫通。木々の枝どころか幹すらも貫き、空へと突き抜ける。その余りの速さに、砲弾の軌跡はまるで一条の赤い光線のようにも見えた。
空を分厚く覆っていた雲すらも吹き飛び、そこだけ青空になり陽光が差し込む。
「ターゲットダウン。索敵モードへと移行する」
「な……に……今の」
思わず尻餅をついて絶句するその女性に、レクスは赤く光る瞳を向けると――跪いた。
既にメインシステムは起動しており、人工知性が目まぐるしく計算と演算を繰り返している。だがなぜか、本来なら起動したと同時にデリートされるはずだったサブメモリが、まだ動いていた。
ゆえにレクスは何の感情もこもっていない声で――こう言ったのだった。
「問う。貴女が――俺のマスターか」
レクス君のほのぼの? スローライフがこうしてはじまります。
ハイファン新作連載開始!
かつては敵同士だった最強の魔術師とエルフの王女がざまあしつつ国を再建する話です! こちらもよろしくお願いします。
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平和になったので用済みだと処刑された最強の軍用魔術師、敗戦国のエルフ姫に英雄召喚されたので国家再建に手を貸すことに。祖国よ邪魔するのは良いがその魔術作ったの俺なので効かないし、こっちの魔力は無限だが?
良ければ読んでみてくださいね!