ゼロの大陸
皆を乗せた黒鳥が、砂漠地帯に入ってきた。
「ゆき、降りるぞ。」
「は、はい、大和降りて!」
小さな湖のそばに黒鳥は降り立つ。
「クエー!クエー!」
「黒鳥はここまでだ、ここからの砂漠地帯に行くと、戻れなくなるのでな。4人乗せてここまで来ただけでも、とんでもない鳥だよ。」
「そうなんですね、大和もそろそろ限界だったみたい…ごめんね気付けなかった。喉も乾いてたのね、うう…。」
ゆきは落ち込んだ。
「軍基地の場所も、なーんも教えてない状態で、黒鳥を呼ばせたんだ、そこは気にするな。」
「ゆき!落ち込まないでね、スマイルスマイル!」
春香がニコッと微笑む。
「うん、ありがとう。」
「ジェイス元帥、ムーンブルク軍の基地は、ゼロの大陸最北端ですよね?」
「そう!当ったりー♪」
ジェイスが、煙草に火をつけた。
「えええ!?ゼロの大陸!?世界の最果てですよね!?」
ゆきはかなり驚いていた。
「ゼロってヤバいの?」キリッ
春香が聞いてくる。
「ヤバいとゆーか、全て謎です。我々市民には、世界の最果ての場所としか、情報はありませんから。」
コーリーが答えた。
「コーリー君は、よく知ってるねえ。やるなお主!」
春香が偉そうに言うと、コーリーは苦笑いした。
春香がいると、いつもこんな空気になる。
「父さんに教えて貰いました。ムーンブルク軍は、ゼロの大陸 最北端、餓者の岩山の前に基地があるって。」
「感心、感心♪ここからノンストップで基地まで行くぞ。」
「地図にも地形の形しか載ってない場所に行くのね…。」ドキドキ
ゆきは胸に手を当てた。
黒鳥は湖の水をいっぱい飲んで、満足そうだ。
「ゆき、黒鳥に帰るように言ってやってくれ、ありがとなっ!てな。」
「はいっ!大和、お家にお帰り、気をつけて帰ってね。ありがとう!」
「大和ちゃん!ありがとう!」
「クエー!」
バサバサッ!
黒鳥は上空を2回旋回し、帰っていった。
春香が、ジェイスに駆け寄る。
「あの…ジェイス様、歩いて行くんでしょ?私が、もし足をグキってやっちゃって倒れたら、お姫様抱っこして下さい…お願いします。」ポッ
春香は何となく、おしとやかに言った。
「春香…。」
ジェイスもコーリーも、ちょっとコケた。ゆきは恥ずかしそうにしていた。
「春香、さっきの黒鳥で飛んでいったとして、軍基地に着くのは、そーだな…3日はかかると思うぞ。」
「えええ!?」
コーリーとゆきは同時に声をあげた。
「じゃあ、私は何日間もお姫様抱っこされてしまうの!?」
「無理ですよ!春香さん、歩いて行ける距離じゃないですー。」
コーリーは遂にツッコんでしまった。
「安心しろ、2時間もかからんで着く。」
「えっ!どうやって?」
3人、不思議そうに顔を見合わせた。
「まあ、まてよ!もう一服させてくれ。」
ジェイスは、湖のそばの岩に腰掛けた。
「あ…!コーリー君、今更だけど私、柊ゆき、宜しくね。」
「私は、春香!」
「コーリーです、ゆきさん、春香さん、こちらこそ宜しくお願いします。」ぺこり
「ふはは!これから軍に入隊するって雰囲気じゃあねーな!(笑)さて!じゃあ、呼ぶか。」
「ジェイス様、何か召喚するの?」
「ああ、ドラゴンを呼ぶ、召喚じゃーねーけどな。」
「ドラゴン!?」
3人は唖然とした。
「ドラゴンだよ、んー、誰にしよかな。」
ジェイスは、ちょっと考えてから叫んだ。
「ガイル!!来てくれ!」
「ゆき…ドラゴンて、存在するの?」ヒソヒソ
「分からないよ…ドラゴンなんて見たことないし…」ヒソヒソ
グワアアーーーーーーーー!!!
「きゃー!!」
聞いたこともない鳴き声が突然辺りに響く。
「ドラゴンだ…。」
コーリーが呆然と空を見上げた。
10メートル??いや、もっと大きいのかもしれない。ドラゴンは、4人の前に降り立った。
ドスーン!
3人は固まってしまった。
「ジェイス!呼んだか?貴様あ!」
「喋ってるう!!!」
春香の目が輝いた!
「ガイル!悪いが基地まで、全員を乗せて連れてってくれ。」
「何だと!貴様あ!この子供達もか!?」
「ああ、そうだ、暗くなる前には着きたい。」
「貴様ああ!!!」
グワアアーーーーーーーー!!!!
「きゃー!!」
「食べられちゃうよー!!」
「いいぞ!乗れ!」
ガイルはサラッと言った。3人はコケた。
「さあ!皆ガイルの背中に登れ!背びれがあるからそこを持ったら絶対離すなよ。」
「ジェイス!貴様あ!ちゃんと説明したようだな!」
「ガイルさん、失礼します!」
ゆきはドキドキしながら、背中に登った。もはや小さな山だ。
「こんな生き物がいるなんて…しかも喋ってるし、父さん…世の中は不思議で満ちています…」
「ガイルさん!カッコよすぎ!」
春香だけが、ノリノリだった。
「全員振り落とされるなよ!」
グワアアーーーーーーーー!!!!
ガイルは鳴き声をあげて上空に飛び立つ!
「うわっ!うわあああ!!」
「きゃー!!」
3人はガイルの想像以上の速さに、背びれを持つ手に力が入る。
周りの景色を見るどころではない。
息をするのも大変だった。
ゆきはそんな中、背中にゴロ寝するジェイスの姿を見た。
(この人は、普通じゃない…)
ゆきは思った。
◇◇◇◇
どれくらい経ったのだろう、段々と慣れてきて、背びれを片手だけで持てるようになった。春香もコーリーも、片手は離せるようになっていた。
「ふはは、やっと慣れたかー!どうだ速いだろ。こいつはダークドラゴンのガイルだ。速さだけなら、ドラゴン仲間では、一二を争うんだぜ!」
グワアーーーーーーーー!!!
「ジェイス!貴様あ!俺が一番に決まっているだろお!!!」
「そーかー?シルビアのが速いだろ。いや、絶対シルビアのが速い。」
「貴様あ!シルビアなんかより、俺の方が全然速いんだよ!」
2人?の言い合いを聞いて、3人に笑顔が戻っていた。
「見てろ!貴様あ!本気をみせてやるよ!」
グワアアーーーーーーーー!!!
3人は両手で背びれを掴み直す!
さっきよりも更に加速していくのが分かった。
「おー!速えー!やるなあ。」
「貴様あ!ガイル様が一番速いと分かったかあ!!」
「ああ、おかげでもうすぐ着くよ。」
遠くに巨大な岩山が見えた。