伝説のムーンブルク軍基地に行ってみようっ!
「ガリーナを呼べ!」
イライラしながら葉巻を吸う男。
「お父様、おはようございます。どうかされまし…」
バァン!「ひっ!」
ガリーナの父はテーブルを叩いた。
「な、なんですの?」
ガリーナは父を睨みつける。
父が、スっと右手を挙げると、執事が一礼し、部屋から出る。
父は鋭い目で娘を睨み返す。
「今朝、庭に8人の生首が投げ込まれていた。」
「えっ!?」
「ガリーナ、言ってる意味は分かるな?お前はとんでもないことをしたのだ。」
「お父様、言ってる意味が全く…」
バァン!
泣きそうになるガリーナ。
「桐生家に手を出す、これが何を意味するか教えておこう。今回我々が無事なのが奇跡なのだ!」
「……。」
ガリーナは黙って父を見る。
「桐生家には、鬼族がいる。過去何年も凄腕の暗殺者が殺されている。そして暗殺を依頼した人間も、その家族も消されるのだ!」
「わ、私は…、そんなつもりじゃ…。」
泣きながらガリーナは答える。
「鬼族の気まぐれかは分からぬが、今、自分が生首になって転がっていない事を、感謝するんだな…、下がりなさい。」
◇◇◇◇
ゆきは母の美味しいキノコスープを味わっていた。
「お母さん!ほんとに美味しいよー!」
「うふふ、ゆき、キノコスープ大好きだもんね。」
ゆきは、出発間際まで家族との時間を味わっていた。
外を見ていた父が大声で呼んだ!
「ゆき!来たぞ!あの人だろ?」
空色の青い上下に空色のマント、腰には剣を差し、昨日のラフな格好とは別人のようなジェイスが歩いてくる。
「うん!ジェイスさんだ!」
「そうか…。」
父はぐっと拳を握り、母は少し悲しい顔をした。
「どうも初めまして、私はムーンブルク軍元帥、ジェイス フックスターと申します。娘さんをお迎えに参りました。」
一礼をするジェイス。
父も母も、深々と頭を下げる。
「ジェイスさんって、一番偉い人だったの!?」
「ふふっ…言ってなかったかー。」
ニヤリと笑う。
「ムーンブルク契約期間は3年です。それでは行こうか、ゆき。」
「む、娘を!娘を宜しくお願いします!!」
泣きそうになる父に、ゆきは、もう一度抱きついた。
「行ってきます!心配しないで。2人とも大好きよ!」
ジェイスは、それを見ないように、後ろを向いて歩き出していた、ジェイスはとても優しい表情だった。
ゆきはジェイスの後を走って追いかける。
「行ってきます!!」
2人に手を振った。
父も母も手を振り、ジェイスとゆきが見えなくなると、母は泣き崩れ、父が優しく抱きしめた。
◇◇◇◇
「いい両親だなぁ!何だろな、愛ってやつかな!溢れてたぜ!」
ジェイスは、気さくに話しかけてきた。
「あの、ムーンブルク軍て、めちゃくちゃ強いんですよね?そこの元帥さんなんですよね?」
「ふふ、俺はめちゃくちゃ強いぜー、そしてゆき、お前も強くなるんだ。」
「わ、私が強くなる??」
「そうだ、ムーンブルク軍に入隊するって事はそーゆー事だ!ふはは!」
「私が強くなる…の?」
「さて!春香を迎えに行こう!時間が押してきたな!ゆき、召喚魔法くらいは使えるんだろ?何か呼べ。」
「えっ!?」
「鳥だろ?お前は鳥使いだ。」
「わ、分かりました。」
ゆきは深呼吸をして呪文を詠唱し始める。
「パルニャーニャ、パルニャーニャ、トンデコイコイ、大和!!」
ゆきは空に両手を挙げる。
ガクッとゆきの膝が沈む。
「1日2回ってとこかな?呼べるのは?」
見透かした様にジェイスが言う。
「さ、3回呼んだこともあります!」
「ほーう。」
ゆきは盛ってしまった。
1分も経たずに、空に大きな黒い鳥が舞い降りてくる。
「クエー、クエー。」
「やたらでっかい鳥だな!これ元々の大きさだろ!」
「はい!黒鳥の大和です、乗ってください。」
「黒鳥とは珍しい、本物を見るのは初めてだ。」
ジェイスとゆきは大和に乗った。
黒鳥は翼を大きく羽ばたかせると、空に飛び立った。
「大和!春香の家までお願いね!」
◇◇◇◇
桐生家では何人かの親族も集まっていた。
ヴィネットが空を見上げる。
「ゆき様も御一緒の様です。」
皆、空を見上げるが何も見えない。
「ゆきはもうジェイス様と一緒なのねっ!」
春香は頬を膨らませた。
そして暫くして、黒鳥が桐生家に舞い降りてくる。バサバサッ!
「ゆきー!」
春香が手を振った。
ジェイスは、黒鳥からヒラリと飛び降り、春香の父親の前で一礼する。
「桐生家御当主、桐生 全蔵殿、初めてお目にかかります。ムーンブルク軍元帥、ジェイス フックスターです。娘さんをお預かりにきました。」
「え!?元帥さん!?ほんとに!!」
春香が口を挟む。
ジェイスは苦笑いをした。
「春香を宜しく頼む!」
父、母は深々と頭を下げた。
「契約期間は3年です。それでは、行こうか春香。ん?」
ジェイスは庭の端にいるヴィネットを見た。
「これはこれは!久しいな!ヴィネット!」
ヴィネットはムスッとそっぽを向いた。
「ふはは、まあ、良いさ!行くぞ!」
3人は黒鳥に乗った。
「春香!ちゃんと身体をいたわってね!それから生水は飲んだりしないでね!それから…」
「お母様!ありがとう!私頑張る!お父様もみんなも、まったねー!」
黒鳥は大きく羽ばたいて、空に舞い上がる。
◇◇◇◇
コーリー ミギダス 10歳
成績は中の中、3歳の時に母親と妹を事故で亡くし、父親と2人で暮らしている。
父、ベノン ミギダスは音響楽団「カッツォ」を率いる団長。コーリーは、父を尊敬していた。
今回のスカウトを聞いて、楽団一同皆で祝ってくれた。
「コーリー、お前は優しい子だ、数多くの生徒から選ばれたのは天命だ、国を、そして人類を救うために頑張りなさい。母さんもヘンリーも天国からお前を見ているよ。お前は私の誇りだ。」
ベノンはコーリーを強く抱きしめた。
「父さんっ!」
「うふふ、コーリーの可愛い指揮も見納めねー、残念だわー。」
オネエヴァイオリニストの、健二郎が呟いた。
「健ネエさん、もっともっと勉強しなきゃ駄目だよ。」
「ほんっと!生意気だわっ!もうっ!」
楽団メンバーから笑い声が響く。
ベノンはコーリーに古びた指揮棒を渡した。
「私が若い頃から使っていた物だ、お前に譲ろう。」
「ありがとう!父さん!父さんの宝物なのに!」
コーリーは泣きながら、指揮棒を抱きしめた。
バサバサッ!
コーリーの真上に黒鳥が降りてくる。
「うわっ!鳥だ!」
コーリーはびっくりして転んでしまう。
黒鳥が降り立つと、ジェイスがいつの間にか、ベノンの目の前に来ていた。
「コーリー ミギダスの父、ベノン団長ですね?私は、ムーンブルク軍元帥、ジェイス フックスターと申します、息子さんを迎えに参りました。」
ジェイスは一礼した。
「全国で公演しているので、ムーンブルクの名はよく存じております。」
ベノンも一礼した。
「契約期間は3年です、それではコーリー!行くぞ!」
「は、はいっ!」
ベノンはコーリーを抱きしめ、優しく言った。
「頑張りなさい。」
「はいっ!行ってきます!」
バサバサッ!
黒鳥が大空に飛び立った。
楽団皆で手を振っている。
コーリーは皆が見えなくなるまで手を振った。
ジェイス、ゆき、春香、コーリー。
4人を乗せた黒鳥は、ムーンブルク軍基地へ向かう。