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ゆきと春香  作者: のこころ
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収穫祭




秋晴れ





そして収穫祭がやってきた。




ノワン国魔導教育学校「アップル リッツ」は世界に7つある学校のひとつ。


教員数90人、生徒総数は約8000人、国民は、6歳から18歳までの12年間、ここで魔導を学ぶ。


ゆきと春香は5つある校舎のひとつで学校生活を送っている。




「春香ーそろそろ大聖堂行くよー!」




「うん!髪おかしくない?」


「大丈夫!可愛いよっ!(笑)」




「ほんとに!?あーもうドキドキするー!」


「ふふ、春香本気モードだね。」





「あら?何を期待しているのやら、ふふ。」


1人の女生徒が、クスクス笑いながら呟いた。




「ガリーナには、関係ないもんね!行こ!ゆき」


「う、うん!」


ふたりは、全校生徒が集まる大聖堂に向かった。





大聖堂はアップルリッツの中心にあり、大聖堂をぐるっと取り囲む様に5つの校舎がある。収穫祭は全校生徒が集まる為、大聖堂で行う。




全校生徒が揃い、校長が壇上に立つ。




「生徒諸君!アップルリッツも200回目の収穫祭を無事迎える事が出来た!これも教員、生徒の日々の修練、努力の……」





◇◇◇◇





校長の長い挨拶から、国の大臣の更に長い話と続く。




そしていよいよ収穫祭のメイン。スカウトの時が来た。


今回招かれた軍の代表は10人。平均5、6人しか来ないのに今年は異例だ。そして各軍何人かはスカウトしていく。


ここでスカウトされた生徒は一気に卒業となる。




収穫祭は、一気に張り詰めた空気になった。




副校長が挨拶をする。


「それでは、今回来て頂いた軍の代表の皆様からお話を聞かせて頂きます。セブンピア国、極楽浄土(ごくらくじょうど)軍スカウト代表、アコード様。全軍の代表として、挨拶もお願い致します。」


「はい。」


体格のいい男が立ち上がる。




「ゆき…最後みたいだよ…ムーンブルク…」ヒソヒソ


「うん…ムーンブルクって私初めてかも…」ヒソヒソ


「20年ぶりなんだって…この学校に来たの…」ヒソヒソ




「そこ、静かにしなさい、退場させますよ。」


教師に注意され、ふたりはサッと前を向いた。





「100年前の5年戦争、7つの国全てが一体となり、餓者(がしゃ)の大軍にかろうじて勝利し、現在の平和を保っている。が!何万何千何百という尊い犠牲者が出た…。餓者は滅んでなどいない!いついかなる時に攻めてくるかも分からないのだ!我々人類は危機感を持ち、この世界を守らなくてはならない使命なのだ!」




スカウト代表のアコードは熱く語った。




「それでは、極楽浄土軍はアップルリッツ12年生、木戸しゅうをスカウトしたい。」




「12年生、木戸しゅう!前へ!」




「はいっ!」




歓声と拍手が沸き起こる。




「成績は全て見せて貰った、宜しく頼むぞ。」


木戸は、アコードに握手を求められ、しっかりと握手を返す。


「宜しくお願いします!」





誰もが軍に入隊できるわけでは無い。卒業しても、軍に入れるのはごくわずかである。軍に入れない者は、農家や漁師、家業を継いだりして就職をする。


軍に入隊すると国から莫大な資産と名誉を与えられ、家族は一気に裕福になる。それ程軍は国にとって重要な組織なのである。





次々とスカウトは進む。


「12年生、ルコッチ チャン!前へ!」


「12年生、式神加奈!前へ!」


「12年生、久保帯人!前へ!」




当然の事ながら、12年生という全ての学科をこなしてきた経験値の高い、そして成績優秀な生徒が選ばれる。




しかし今回選ばれると噂になっているのが、ゆき、春香と同じ9年生で学年成績トップを更新し続けている「ガリーナ エナメル」である。


9年生で選ばれる事は殆ど無い。




そして、スカウト最後のひとり、ムーンブルク軍代表が壇上に立った。


聖堂内はざわつき始める。




「ゆき!ほら!めっちゃイケメン!めっちゃイケメン!」


「本当…カッコイイね…」ゆきは、魅入ってしまっていた。




副校長が説明する。


「今回は、20年ぶりにムーンブルク軍にも来て頂きました。ムーンブルク軍は餓者軍との戦いにおいて最も活躍した伝説の軍です。今現在も餓者軍との最前線に構え、全国民を守ってくれいています。他の軍の皆様も異論は無いでしょう。」




各軍の代表は皆立ち上がり、壇上の男に敬礼をした。




「あー、そーゆーのいいから!座って座って!」




男は、軍の皆を座らせ、全校生徒を見つめた。




シーンとする聖堂内。




「俺が、ジェイス フックスターだ。今日はこの学校から、3人スカウトしたい。」




再びざわめき出す聖堂内。


ガリーナは、手で髪を整えている。




「すっご!3人だって!伝説の軍に3人だって!イケメン軍羨ましいよー。」


「春香…静かに…退場させられちゃうよ…」ヒソヒソ




ジェイスが咳払いをひとつすると、聖堂内はまた緊張の空気に包まれる。




「5年生のコーリー ミギダス、まず君だ。」




皆一斉ににどよめき出す。


他の軍の代表も驚いていた。




「静かに!あとふたり言う!」




再びシーンとする。




その時ゆきは、ジェイス フックスターと目が合った。


ジェイスはニヤリとした。




「あの娘だ、その隣の娘も。」


ジェイスは、ゆきの方を指さしている。かなり離れているので、ゆきは周りをキョロキョロ見回した。




「ゆき?私達を指さしてない?」


「ちっ違うよ!」


ゆきはあたふたした。




「あなた達なわけが無いでしょう!どきなさい!私を指さしているのよ!」ガリーナが前に行こうとする。




「あー君じゃない、えーと…ガリーナ エナメル。俺が選んだのは、9年生、(ひいらぎ)ゆき、桐生(きりゅう)春香(はるか)、君達だ。」




聖堂内はどよめいていた。




「そんな!何かの!何かの間違いよ!」


ガリーナは現実を受け止められない。




「5年生、コーリー ミギダス。9年生、柊ゆき、桐生春香、前へ!」




3人は、わけも分からず壇上に向かう。聖堂内のどよめきは収まらない。




過去の収穫祭で、9年生ふたり、ましてや5年生が選ばれた事など無いのである。




ジェイスは3人に手を差し出し、


小声で言った。




「俺はさ、成績がどうとかそんなの見てねえ。才能だけだ、お前ら3人俺に命預けろ。覚悟が無いなら帰れ。覚悟がある奴は俺の手を掴め。」




ゆきは動揺しながら春香を見た、春香は秒速でジェイスの手を掴んでいた。




「えええ!?」




5年生のコーリーも、震えながら手を掴んでいた。


「もうっ!私だけ嫌なんて言えるわけ無いでしょ!」


ゆきはジェイスの手を掴んだ。


ジェイスは、ニヤリとした。




「よし!明日からお前らムーンブルク軍の一員だ!覚悟しとけよ!ふはは。」




ゆきは、頭の中が真っ白になっていた。




聖堂内のどよめきは中々収まらなかった。

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