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第九話「帰路にて回想~我が家へ帰ろう~」

(もう三年になるのか……早いもんだなぁ)

 買えるだけの土産を買い揃えた魔神竜こと尽九字つくじは回想する。

(……就活をサボった俺は大学卒業後、地元の工場でバイトとして働くことになったんだ。

 価値観の合わねぇ連中ばっかの過酷な仕事場だったが、それでも自分の存在価値を見出したくて必死に働いてた。その仕事ぶりが評価されて仕事場の奴らともなんぼか打ち解けていけたし、大卒で若いって理由からか、本社の所長はバイトの俺を事実上の正社員候補として扱い始めていた。

 だが仕事場は環境が過酷で変なヤツが多かったせいでトラブルも絶えず、退職者が続出し万年人員不足……それでも必死にやっていて、漸く落ち着いたかって時、あの日がやってきたんだ……)


 忘れもしない秋のあの日、尽九字はあらゆるものを失った。

 事件とも事故とも言われた惨劇。その巻き添えを喰らった彼は、仕事を失い、命も失いかけ、然しすんでの所で助けられた。


(それが組合との出会いだった。聞けば、助けられた俺は死にかけの重体だったが一命を取り留めたという。

 完全回復には特別な治療が必要だと言われた。並大抵の治療でも回復はするが、重度の後遺症が残るかもしれない、前のように生活することはできないだろうと言われた。

 そうなりゃ待ってるのは地獄のような日々だろう。悟った俺は、藁にも縋る思いで組合に頼み込み、医者の言う特別な治療ってのを受けたんだ。

 それは特別な治療を通り越して事実上の改造だったが、健康になれるんなら何でもよかった)


 そうして彼は"治療"を受け、その結果闇のドラゴンが如きヒトならざる怪物となり、対価として組合で働くことになった。

 組合は日本他世界の数か国に活動拠点を持つ結社であり、時に公的機関と手を組んで様々な事件を解決して回っている。所謂裏の世界の存在であり、構成員たちは皆表向きには企業の社員など表の顔を持っているらしい。

 そんな組合で様々な訓練を受けた尽九字は多くのことを学び、警備や暗殺などの荒事を主に担う構成員"魔神竜"として目覚ましい成長を遂げた。


(当然だが、組合に入ってから俺の生活は大きく様変わりしたよなぁ。仕事が変わって、人間でもなくなって、月給が出るようになったし、あと家出て一人暮らし始めたり、それに……)


 過去を思い返しながら、尽九字は家路を急ぐ。




「ただいまー」

「あ、ツクジだー。おかえりなさーい」

 玄関口で尽九字を出迎える、一人の女。

 体格は小柄、女性としても背は低い部類だろう。然し身長以外の発育はとてもよい。俗にいうトランジスタグラマーなる体型と言えた。

 また、体格相応にか、顔立ちも愛らしく童顔乍ら紛れもなく美人であった。

 髪は山吹色のショートヘア、大きな瞳の色はピンクに近い紫色で、暖色中心に纏められた服装がよく似合っていた。

「おう、帰ったぞ。遅くなっちまったな……先に休んでてくれても良かったんだが」

「いいのいいの。主人の帰りを待つ嫁ってシチュエーション、何か古典ぽくてカッコいいし」

 尽九字の上着を預かりながら、若干妙なことを口走るこの女は名を倉井くらい 睦美むつみという。

 そして尽九字の姓もまた"倉井"……そう、驚くなかれ彼女は尽九字の妻である。

 夫と同じく組合の構成員である睦美は、主に事務や経理、時には現場検証からハッキングまで様々な裏方仕事を担当している。

 尚、外見や喋りからかなり若く見えるがこれでも年齢は夫より二歳若いだけである。

「古典っぽくてカッコいい、なぁ……相変わらず感性や価値観が独特だな。今更だけどよ」

「ツクジよりはまだ普通だと思うけどね」

「違いねえ。……ああ、そうだ。土産買って来たんだよ。今日はクリスマスだからな」

 そう言って尽九字は帰り際に買っていた揚げ鳥とケーキを差し出す。

「本当はもっと派手なもん買いたかったんだが生憎と店閉まってたり、開いてても品切れだったりでなぁ。

 ほい、メリークリスマス」

「わぁ、ありがとー! いやいや、こういうのでも全然問題ないよ! 寧ろあんまり高いの貰っちゃうと悪い気がしちゃうし丁度いいかなー。うんうん、メリークリスマス!」

「明日か明後日んでも改めてどっか買いに行こうな。奮発すっから」

「そんな、別にいいのに。でも君がそう言ってくれるならお言葉に甘えちゃおっかなー。その代わり私も何かプレゼント用意するね」

「おう、楽しみにしてるぜ。……ところで、飯はどうなってる? 一応、その鶏結構量あるから飯の代わりになると思うが」

「大丈夫、用意してあるよー。近所のスーパーで色々安かったから奮発しちゃったんだー」

「ほう、そりゃ楽しみだな。……お前だって仕事あるだろうに、有難うよ」

「いいんだよ。命がけで戦ってる君の為だもん。それに、私だって組合のお蔭でそんじゃそこらの奥さんよりはタフなスーパー奥さんだからね。そうそう簡単にはへこたれないよ!」

「まあそりゃ事実だが、だからって度を越して無理していい理由にはなんねーからな?」


 かくして夫妻は食卓につき、遅めのクリスマスパーティを楽しんだのだった。

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