俺、相当嫌われていた
お読みくださりありがとうございます。
今話は過去の話です。
このマーガレットへの想いは、恋。
そうさ、これが本当の恋!!
シャララーン。
俺がこの想いに気が付いたのは、宣言をする一年ほど前のことだ。
ヘンリー殿下が学生時に俺が恋をしたことがないとからかった言葉を覚えているだろうか、あれは、間違いだ。
いや、正確には俺自身が恋であるという事に気がついていなかったが、正解である。
俺は、ずっとマーガレットに恋をしていたらしい。
だが、俺には全く自覚がなかった。
いわゆる拗らせヤローであったのだそうだ。
何だよ、拗らせヤローって!?
恋を自覚した時に、すでにこの事に勘づいていたジェームスにより、俺はこっぴどく叱られた。
あの時は、ジェームス、スッゴい怒ってた……。
あれは3年前。
俺が家族から集中攻撃されてから程なくした頃である。
ヘンリー殿下達に相談していても埒が明かないという事に気が付き、どうしようかと行き詰まり混迷していた。
まじで奴ら、相談しても何も役にたたんのよ~。
終いには殿下が決まって惚気始めるし、ウザくて。
どうするかな~と考えて、イイ手を思い付いたんだ!
マーガレッドの兄であるジェームスと話をしてみようとね。
何か有力情報を聞き出せるはずだと、思い立ったのだよ!
「もう、何なんですか?こんな所へ連れてきて。」
ここは王族や公爵家が使用できる学院の一室である。
学院に通っていた時、王族の殿下が自由に使える一室で、四大公爵家である俺達も殿下に誘われ使っていた、たまり場と化した部屋であった。
そこへ、伯爵子息であるジェームスが俺達の命より強制的に連れてこられたのだ。
「いいじゃないか、すぐに君と僕は義兄弟となるのだから、ね!」
その言葉に先程までワーワー嘆いていたジェームスが顔を歪ませ絶句した。
ん?どうした?
「ウィリアム。それ、本気で言っているのか?」
顔を強張らせてジェームスが問う。
「なぜだ?なぜ皆、俺とメグの婚約に批判的な反応をするのか?」
自分に自信のあるウィリアムは未だに婚約を断られる理由が理解できない。
だから、皆のこの婚約を否定する態度が気にくわない。
ウィリアムの言葉を聞きジェームスが奥歯を噛み、何か少し考えた後、意を決し発した。
「ウィリアムは、覚えていないのか?お前は一度、俺やお前の姉弟の前で、メグを酷く傷つけているのを……その当時、妹は酷く傷つき、かなり落ち込んだぞ。今では立ち直り、貴族の対応として、お前を避けるまではしていないが、お前には深入りはしたくないと言って距離をおいている。だから、どうか妹との縁は無かったものと考えてくれないか?兄として、心からお願いする。頼む、クロスター公爵子息殿。」
そのジェームスの話を聞き、部屋に居た者は驚いていた。
「おい、ウィリアム、お前、ラックランド伯爵令嬢にいったい何をしたんだ?」
思わずフレデリックが聞く。
皆が俺の答えに注目し、話すのを待つ。
俺は沈黙する。
だって、だってさ、俺、その事を微塵も覚えていないんだよね…。
え?待って、本当に覚えていないんだよ。
何したんだろう?本当に、何をしたんだ?
不安が押し寄せた。
「す、すまん、全く覚えていないんだ。俺は、メグに何をしたんだ?」
焦って、俺はそう答えた。
皆は驚愕した顔で沈黙した。
それは何故かって……。
その発言に怒りを覚えたのか、いつも穏便でにこやか笑顔のジェームスがみるみると鬼の形相に変わっていったからだ。
そして、顔を赤らめ、目をひん剥き、怒鳴ったのだ。
「お前は、妹の存在を馬鹿にして人格を全否定したんだよ!!あれほどまでに心を傷付けたのに、やった本人は覚えていないだと!?妹を馬鹿にするにも程がある。俺はお前と話したくない、失礼する!」
そう言って勢いよく立ち上がると速足でジェームスは部屋を出ていってしまった。
ジェームスが怒って出て行ったドアを、皆がしばらく見つめていた。
その後、いつも冷静なフレデリックが一番に発言した。
「お前さ、相当嫌われているよ。ラックランド嬢だけでなく、その家族にも……好かれなきゃいけないって、婚約者にするって事だったのか?あの様子だと、無理じゃないかな?」
「私も、そう思う。」
フレデリックの後にヘンリー殿下も続く。
俺はこの時、ここのところの自身に対する家族やこいつらの冒涜や酷い扱いが思い出され、さらに今の発言が重なり、体の内側から沸々と湧いて出てくる激しい怒りを感じていた。
なぜ、この俺が家族に説教されなければならない。
なぜ、この俺が皆にバカにされなければいけない。
なぜ、序列の低いジェームスにまで、あそこまで言われなければならない。
なぜ、この俺が、この完璧な俺様が、よってたかって叱られなければならないんだ。
おかしいじゃないか!?
ムカムカが治まらない。
俺がいったい何をしたと言うのか!!
俺には全く身に覚えが無いのだぞ?
何でこうなってるんだ……。
それもこれも、マーガレット、メグが、この完璧な俺を好きにならないのが原因ではないのか?
そもそも、俺の中ではメグは俺を好きなはずだった。
俺の昔からの認識はそうだったんだよ。
つまり、そう思えた何かが、メグには合ったはず。
うん、メグが俺を好きにならないはずがないんだ。
よし、イケるぞ!
メグを骨の髄までドロドロに、俺のもとへ落としてみせるぜ!
「そうだ、分かった。俺はあいつを落とす。メグを全力で落としてみせる!」
急に立ち上がり、ウィリアムはそう言い放った。
その発言に対して
「おい、今度は何を言い出したんだ?」
と、フレデリックは呆れ声を出す。
その横で、
「これはこれで、また面白いことになりそうだな~。」
と、殿下がワクワクしだす。
よし、そうと決まれば行動あるのみ!
まずはやらなければならない事は、マーガレットの情報収集だ。
ここは、馬車の中。
俺は今、カッコいいポーズで待機中である。
シャララーン。
何故だかマーガレットは、俺のいない日に家にやって来るという話を弟から聞いたので、まあ、たまたまだろうけど……。
今日の午後は出掛けると家族に偽って一度遠くへ出かけるフリをして家を出て、彼女が来たのを確認してから、見計らい突然帰ると言った行動をしてみることにした。
俺の知らないうちに、マーガレットが家に来ていて、家族と親しくしているというのに、俺とは仲良くしないなんて……。
そ、それは有りえない事、そうだろう??
なぁ、そうだよな?
うん、つまりはあいつが家に来た時に、俺が居なかったからいけなかったから悪かったいう事なのだ。
うんうん、居ればこの俺様、絶対にまた仲良くなれるはず。
まずは、偶然を装い、妹のお茶会へ参加だ。
そして、本人からそれとなく情報を聞き出す。
最初からこうすればよかったのだ。
ハハハッ、この計画は完璧だ。
俺は一度家を出た後、家の門が見える位置に馬車を止め、門を見張った。
来た!!
ラックランド伯爵家の馬車だ。
馬車からマーガレットが降り立ち、妹が出向くと楽しそうにおしゃべりしながら家の中へと入って行く。
よし、少し間を空けたら計画を実行だ。
そして、俺は張り切って帰宅し、屋敷に突入した。
そうだな、妹の事だから、あいつのお気に入りのあのテラスで紅茶でも飲みながら話をしているだろう。
速足でその場所へ向かうと、予想通り2人はお茶をしている。
的中!!
俺に気が付いたらしい妹が、椅子から猛烈な速さで立ち上がり、こっちへ小走りに寄ってくる。
テーブルまであと少しと言うところで、妹に両手を広げられ止められた。
俺が首を伸ばし、マーガレットを確認し、近づこうとするのだが、妹が体で進路をふさぎ行かせない。
静かな攻防が始まった。
「ウィル兄、どうしたの。今日は早いお帰りなのね。いったい何の用があって此方へ来たの?」
妹の顔が、見たことない顔ですごんでいる。
その間も鉄壁のディフェンス。
やるな~妹よ。そこをどけー!
「何って、用事を済ませて家に帰ってきたら、メグが来ていると言うから、挨拶しようと思って来たんだ。だって、俺のいない間にいつも来ているんだろう?他の家族は親しくしているのに、俺とは話もしないなんて、おかしいじゃないか?」
そう言った瞬間、マーガレットが椅子からスッと静かに立ち上がる。
ウィリアムとキャサリンはその様子をゆっくりと目で追い、眺めていた。
そして、マーガレットが俺達の前まで来ると、仮面のような笑みを浮かべた。
「ケイティ、急ぎの用を思い出したから、今日はこれで失礼するわ。呼んでくれたのに、本当にごめんなさい。それから、ウィリアム……貴方の居ない時に家に来ていたことを謝罪します。それでは、さようなら。」
えっ、えっ!?何?今、なんていった?
えっ?帰るの?
いや、待ってよ。まだひとつも話してないから。
マーガレットは話し終えると、振り替えることなくサッサと玄関ホールへ向かい、帰って行った。
前から思ってたけど、小走りめっちゃ速い……。
その様子を呆気にとられて見つめていると、
「バーカー兄ーーーーー!!!!」
屋敷中に妹の叫びが響き渡った。
それから、マーガレットと話をする機会を作ろうと、幾度か同じ行動を繰り返したのだが全て失敗に終わる。
そして、マーガレットはとうとう家に来なくなってしまった。
俺が現れる前にマーガレットが帰ってしまう。
おそらく妹がなにか策を講じているのであろう。
その繰り返しであった。
だから結局、いまだに挨拶しか出来ず、会話はゼロである。
つまり、仲良くなれるはずもなく、情報も得られないままであった。
俺……何やってるんだろう?
家にマーガレットが来なくなってからは、妹がマーガレットの家に行っているようだ。
妹だけでなく弟や姉、両親にまでマーガレットが家に来なくなり、会えない、話が出来ないとネチネチ愚痴を言われている。
少しばかり俺は肩身が狭い思いをした。
このことから得た事は、俺はマーガレットに相当嫌われているという事実のみであった…はぁ。
昔の俺は、いったい彼女に何を言ってしまったのか?
覚えていないのが、本当に悔やまれる……。
好きにならせると豪語していたのに、これでは向き合うこともできず、言葉を交わすことすらままならない。
どうしたら、彼女に向き合ってもらえるのか?
まずはそこからであったのだ。
ウィリアムには、忘れている記憶があります。
次回、ワンワン対決。




