第2回乗馬対決
お読みくださりましてありがとうございます。
今話は、前回の過去話から現在に戻ります。
「………ウィ…ム……リ…ム……ウィリアム!!!」
ハッと意識をぶり返す。
「ちょっとウィリアム、聞いてるのか?対決のルールを説明しているんだから、ちゃんと聞けよ!」
ジェームスが大声で俺を怒鳴りつける。
どうやら俺は、自らを省みるために意識を過去へと飛ばしていたようだ。
と、飛ばし過ぎた!!
ずっと一緒に居たい。
そう想う相手と一緒に居られるようにする為の勝負なんだ。
負けられない、そうだろう?
俺!!
シャララーン。
そう、今から新たな対決が行われようとしているのだ。
前回の対決からすでに3日が経ち、今日は乗馬対決だ。
ここは、王家の管理下にある王都近郊の自然公園である。
王家から信頼を得ている貴族は自由に出入りの許可証が与えられていて、小さな湖もあり使用する貴族には、身近な気晴らしの場となっている。
「ということで、ここからスタートして、湖の周りの馬車道を左回りに駆け抜けてここへ先に帰ってきた方が勝ちとする。よろしいか?」
ジェームスがルールを最後まで説明し終えた。
なんてことないイージーな勝負だ。
こんなの目隠しをしていても勝てるさ。
「では、よーい、始め!」
ヘンリー殿下がスタートの合図をすると同時に二頭の馬が走り出した。
ここは昔からく遊びに来ていたから、コースの状況も何処で緩急をつけるのかも知り尽くしている。
ほらね、すでにこんなに差が開いた。
風も穏やかで温かさも感じる。
実に爽やかだ。
景色を見る余裕さえもある。
ここは、俺が幼き頃に父がよくマーガレットと会わせるために遊びに連れてきてくれていた場所だ。
あそこにも、あそこにもマーガレットとの良い思い出がある。
乗馬もマーガレットとの思い出が……。
ああ、乗馬はここではなかったなぁ。
確か、あれは、14歳の秋、我が家の領地でのことだった。
王都よりほど近い我が公爵領にラックランド兄妹を招待したんだ。
そして、自領の高原へ皆で馬に乗り、出かけることとなった。
最初は、少し前に一人で馬に乗れるようになった妹たちを気遣い、優雅に馬に乗り景色を楽しみながらゆっくりと進んでいくと話していたのだが、帰路で俺の悪い癖が出て、途中から全員強制参加での競争へと変わった。
まだ経験不足の妹たちは死に物狂いでついてきて、酷い思いをしたのだと、マナーハウスに帰ってから妹にきつく叱られたのであったな。
すごい剣幕で怒られて、泣かれて暫く無視されたっけ……まあ、いつもの事なのだが……。
あれから、マーガレットとも一度も一緒に馬を走らせていないな。
それを思い出していたせいか、少しばかり速度が緩む。
しかし、対決相手との差は大きかったため、そのままゴールまで先頭を走り通せた。
俺の勝っちー!!!
馬を降り、対決相手の伯爵令嬢と握手をしながら言葉を交わす。
「あわよくばと思い勝負を挑みましたが、やはりクロスター様には勝てませんでしたね。クロスター様の技術には到底かないませんでした。フフッ、手加減がありませんでしたね。あなたは余程、自身の心で決めた女性と結婚したいようですね。もしや、もうすでに、そのお相手はいらっしゃるのでは?」
「ええ……叶うのならば。」
伯爵令嬢の言葉に、少しはにかみ俺は答える。
あらまあまあと、ウィリアムの表情を見た伯爵令嬢は嬉しそうに笑い、続きを話す。
「そんなに熱烈に思う方がおられるならば、このようなことをせずとも、ご本人へ直接ご好意をお伝えすればよろしいのに。」
「そうですね…勇気が出るのなら…私のこの想いが届くように、何度でも。」
「健闘を祈ります。」
手を外し、伯爵令嬢は颯爽と帰って行った。
「さあ、二回目の対決はこれにて終了だよ。さて、帰ろうか?」
ヘンリー殿下がウィリアムに声を掛けてくる。
「少しメグと2人だけで話がしたい……。」
「分かった。向こうで皆と時間をつぶしておくよ。」
「ありがとう。」
俺は妹と話をしているマーガレットのもとへと近づいた。
ああ、来てくれている。
可愛いな。
マーガレットは気が付いたようで顔をこちらに向け、話し掛けてくる。
「勝ちましたね、おめでとう。約束通り、ウィリアムの応援をしましたよ。」
「ウィル兄、もう終わったなら、私はメグと先に帰りたい――」
妹の言葉を遮り、俺はマーガレットに話し掛ける。
「メグ、応援来てくれてありがとう。少しだけいいかな?2人だけで話がしたいんだ。」
無視されたキャサリンは不満顔で口を尖らせていたが、その後ろに居たダニエルが空気を読み、キャサリンの背中を押して移動していった。
ウィリアムの後ろをマーガレットが無言でついて行く。
マーガレットが口を開く。
「どちらまで?」
「向こうの花畑まで。」
直ぐにウィリアムが答え、さらに沈黙した。
実はこの時、ウィリアムはマーガレットと二人きりで居られることが嬉しくて気持ちが高ぶっていた。
同時に、これまでしてきた拗らせた態度の反省で少し気まずいという負の感情が入り交じり、酷く緊張し話ができないでいた。
それなので2人は無言で歩く。
しばらくすると、前を歩くウィリアムの足が止まった。
マーガレットが顔を上げると、ウィリアムが右側に顔を向け、目を細めて見つめている。
その視線の先へマーガレットも視線を向ける。
そこにはシロツメクサが一面に広がっている野原があった。
「ここは……」
マーガレットが懐かしいと言った具合に思わず声に出す。
「ああ、覚えていてくれたか。そう、ここは、昔、俺が大きな犬に襲われて犬を苦手になった場所だ。」
ウィリアムはマーガレットが覚えていてくれたことが内心かなり嬉しくて、声を震わせ少し強い口調で言葉を発してしまう。
その時である。
ガサっと、後ろ手で音がした。
振り返ると、そこには一人の背の小さい令嬢がいた。
おそらく先程の対戦した伯爵令嬢の応援に来ていた者のうちのひとりであろう。
その令嬢は木の枝に服の裾が引っかかってしまったようで、枝から服を急いで外そうと焦っていた。
誰だコイツ?
邪魔だな。
ウィリアムが、早く居なくなってほしそうに見ている……。
そんなこととは気づいもせずに、
「大丈夫ですか?」
マーガレットが心配し近寄り声を掛ける。
「あ、あ、あの、道に迷ってしまって、服が引っかかってしまって…………あの、あの、すみません。お、お邪魔しました。」
服が枝から外れたようで、急いでその令嬢はその場から離れて行った。
フー行ったかー。
よし、これで二人っきりだ!!
「メグ、こっちへ。」
ウィリアムに声を掛けられて、マーガレットは野原の方へと戻る。
「俺が10歳、メグが7歳、初めて君に会ったあの日、俺はここで興奮した大型犬に押しつぶされて息が出来なくなっていた。そこに君が現れて、難なく救出してくれたのだったね。“犬は怖くないよ。あなたを好きなだけ。あなたが怯えると犬も困ってしまうよ”って、一語一句覚えている。ここはメグとの大切な思い出の場所だ。」
シャララーン。
一面に咲くシロツメクサから一本抜き取ると、マーガレットの左手をそっと掴む。
左手の薬指にさっき掴んだシロツメクサを巻き付け、硬く結ぶ。
シロツメクサの指輪のようだ。
それを見て、フフッとマーガレットが小さく笑う。
「まるで昔みたい。出会った頃よくここで王冠を作って、結婚式ごっこを一緒にしたわね。あの頃は楽しかったわ。」
マーガレットが俺の前で自然に笑っていた。
もう何年も俺には見せていない屈託のない笑顔だ。
見ることが出来たなんて……凄く嬉しい!!!
俺は、もしかしたら、この調子ならば嫌がられずに自然にデートへ誘えるかもしれないという、大きな気持ちに、この時なってしまっていた。
「メグ、今度、一緒に遠乗りに行かないかい?色鮮やかな花が沢山咲いた場所があるんだ。乗馬対決をしている時に、うちの領地でのことを思い出して、君と2人で馬に乗ってまた出かけてみたいと思ったんだ。楽しそうだろう?どうだろう……か。」
そう早口で捲し立て言いながら、彼女の方へ目をやると、マーガレットは先程の笑顔から眉間に皺を寄せた険しい顔つきへと変わっていた。
最後の方は、失敗すると、後悔の念が湧きたち、言葉が途切れた。
受け入れられるかもと抱いた期待は、塵のように消え去った。
そしてマーガレットは作った笑顔をはりつけ、淡々と返答をした。
「行きませんわ。私はもう、あなたと共に馬は走らせません。あなたと対決をしないと決めておりますから、別の人を当たってください。それと、婚約者候補との対決を心から楽しんでくださいませ。もうよろしいかしら、私、これから家に家庭教師が参りますので、帰らせていただきます。」
そうマーガレットが話し終えると、花畑まで来るのにダラダラと歩いて来た道を、素早い速さで戻って行ってしまった。
どうしてこうなった?
俺は何か気に障ることを言ったのか?
馬で対決がしたいだなんて一言も言っていないのに…。
マーガレットはかなり怒っていたようであった。
なぜ伝わらないのだろうか。
俺の気持ちを分かって貰えない。
俺はまた昔のようにメグと仲良くしたいのに。
胸が苦しいな…。
ひとり花畑へと残されたウィリアムは、悶々とマーガレットへの想いに悩むのであった。
だいぶ、初恋を拗らせておりますよ。
次回、第3回対決です。
男前音について
これは、男前のナルシ……美意識の高い者が、カッコつけたり、得意げな顔をすると周りに聞こえてくる空耳音である。




