俺、婚約する
最終話です。
これまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
ここはウィリアムの自宅、クロスター公爵邸である。
ウィリアムは先に到着し、父と話をしているであろう妹とマーガレットのいる応接間へと、急いで向かっていた。
途中で会った執事もメイドも気に止めず、恐ろしい速さで歩いている。
部屋の前まで来ると、扉を勢いよく押し開けた。
メグを止めなければ。
急いでメグの事を父におねがいしなければ。
はぁはぁはぁ、急がなければー!
ドアを開け放つと、そこには父、妹、弟、マーガレットが居た。
こ、このメンツとこの部屋、ゆ、夢で見たぞ!?
ヒェ~悪夢再来か!!!
一瞬動揺したが、マーガレットがキャサリンの隣に座り、座席の位置が違っていたため、これは現実だ!と安心する。
「これ、ウィル。突然入るものがあるか、ノックをしなさい。」
シャララーン。
父が注意する。
「あ、はい。ですが、緊急でしたので病む終えず……もう、決まったのですか?」
ウィリアムは皆の許へ近づきながら、話の状況を確認する。
「ええ、決まったわ。直ぐに留学へ出発よ。」
キャサリンが答えた。
「ちょ、すすすこし待ってくれ。少しだけ俺に時間をくれ。メグに留学するなとは言わない。言わないから少しだけでいい。俺との事を話す時間が欲しいんだ。俺はこの対決で全勝したのなら、父上にメグとの婚約を進めてもらうように頼むつもりでいたんだ。俺の気持ちは伝えてあるけれど、このままの状態でメグを留学させたくない……そうだ、なんなら俺もついて行く……うん、そうだな、ついて行くよ!!殿下に話を通してもらう。何としてでも一緒に行く。父上、よろしいでしょうか??」
シャララーン。
捲し立てるようなこのウィリアムの会話を、皆が聞いていたのだが、発言が終わっても声を掛ける者はいなかった。
一人は戸惑い。
一人は憐れみ。
一人は呆れ。
一人は声を殺して笑っていた。
一時の沈黙後、
「ウィル兄さん。直ぐに留学するのは僕の話だなんだけど。」
ダニエルがウィリアムへ申し訳なさそうに言った。
その前に座っていたキャサリンが、限界と言って声を出して笑いだした。
隣のマーガレットが、笑っては可哀そうだと、複雑な顔をしてキャサリンを宥めている。
そして父は深い溜息をついた。
あれ?何これ?俺、騙されたの?
あっ、ジェームスか!?
あいつが、メグはすぐに旅立つとかいうから……クソッ。
あいつ、騙しやがったなー!!
「聞いての通り、直ぐに留学へ行くのはダニーだ。ダニーが将来受け継ぐ領地から産出される鉱物と、よく似た鉱物が西大陸でも採れるらしくてな。そこで研究開発が行われているようだから、今のうちに勉強へ行かせることにしたんだよ。前から決まっていた事だ。」
父が詳しく説明してくれて、ウィリアムは冷静になる。
「何だそうか……あれ、ではなぜ、メグはここへ居るのですか?」
疑問を抱きウィリアムが父へ聞く。
「それは、縁談の話をする為に来てもらったのだよ。」
父がその問いに答える。
「縁談!?!?何ですかそれ??父上は俺の気持ちを理解してくれていると思っていたのですが、違ったのですか?俺の勝手な勘違いだったのですね。ダメですよ。メグは誰ともお見合いしませんよ。させませんよ!進めないでください。いいですか、分かりましたか。もう一度言います。その話、絶対に進めないでください!!」
シャララーン(憤慨バージョン)
ウィリアムは勢いよく席を立ち上がり、その勢いで父に詰め寄り、捲し立てた。
「で、では、お前との婚約を進めないのだな、よいのだな??」
と、タジタジになりながら父が言う。
それを聞いたウィリアムは一瞬固まり、すぐに大声を張り上げた。
「す、進めるに決まってるでしょ!!!」
部屋に静寂が過る。
「バカ兄様、いい加減に、落ち着いて話をしたらどうなの?席に着いてよ。」
と、冷静にキャサリンが言い放った。
それにしてもどういうことだ?
何が起こっている?
実は昔からのメグは俺に気があったとか?
いやいやいや、なかったはずでしょ?
デートの時に、待ってって可愛く言われたでしょ。
じゃあ、あの後すぐに好きになったとか?
そんなまさか……昨日今日の事だよ……ありなの!?
ん?でもさ、それなら、もう俺とマーガレットの縁談話が進んでいるというのは、どういうことなの?
いくらなんでも、進行が早すぎじゃない?
その疑問に答えをくれたのは、夢では恋敵、弟のダニエルだった。
「はぁ、ウィル兄さんは知らなかったから混乱しているだろうけど、メグとウィル兄さんの婚約話はちょっと前からすでに進展していたんだよ。あのウィル兄さんが宣言した日、あの舞踏会の時にメグも婚約に承諾し、メグの両親と全て話が付いて本決まりになったんだ。でも、ウィル兄さんがあの宣言をしてしまったお陰で話が止まってしまって、一時は白紙か?までいって、でもウィル兄さんの決意を聞いて、両家は成り行きを見守ることになったんだよ。」
へ?何それ?
それって、本当なの?
ええ??皆、知ってたの?
目をキョロキョロさせて、周りの反応を見ると、ダニエルは嘘をついていない様だ。
背中に冷汗が流れる。
マジかよ……じゃあ、あの時、あの宣言をしなければ、今頃……メグと何事もなく婚約していたと言う事なのか?
え……嘘だろう……俺は何て無駄な時間を……。
あっ、ジェームスの言っていた “更なる裏切り” って、そう言うことか。
婚約が決まったのに勝手に拒否したって。
あれは、そう言う意味だったってことか!?
なんてことだー!!!
動揺して言葉の出ないウィリアムを横目に、父が話を付け加える。
「ウィルが対決に全勝して、おそらくマーガレットとの婚約の話をしにくるだろうから、その前にマーガレットの気持ちを再度確認しておこうと思って、それで呼び出したのだ。彼女のご両親はマーガレットに全てを委ねると言ってくれているのでね。」
「そ、それで、どうなったんですか?」
恐る恐る、ウィリアムは聞いた。
父が強張った表情から柔らかく笑い話す。
「自分の事をこんなに想ってくれる人はもう現れないだろうから、婚約を承諾するって—――」
「キャァァァァァアーーーー。」
父親が話している途中で、マーガレットの大きな悲鳴が響き渡った。
さっきまでウィリアムが座っていた場所に彼の姿はなく、姿を探すと彼はマーガレットを天井へ掲げる様に高く持ち上げていた。
「本当か!やった、やった、ありがとうメグ。好き、好き、大好き。愛してる。一生大切にする。幸せにするから。」
ウィリアムは持ち上げた恰好から胸元へとマーガレットを引き寄せ抱きかかえて喜びを爆発させている。
感情が爆発し、やりたい放題だ。
応接室のドアが強くノックされ、何かあったのかと、公爵家の護衛がドアの外側から確認し声を掛ける。
父親が何もないとピシャリと断り、ドアの外は静かになった。
「ちょ、ちょ、ちょっと離して。ウィリアム。」
慌てふためきながら逃れようとしているマーガレットの横で、キャサリンも引き離そうと腕を掴み離すのを助太刀する。
その様子に、父親が大きくため息をつき、ウィリアムを宥める。
「ウィル、少し落ち着きなさい。まだな話の途中だ。聞きなさい。」
その言葉により、ウィリアムはようやく我に返り、マーガレットを床に下ろす。
そして、強引にマーガレットの席の隣へと腰を下ろした。
二人掛けソファーがパンパンに埋まり、キャサリンが狭いと文句を言っている。
「婚約は承諾してくれたが、条件があってね。お前も知っているようだけど、マーガレットは隣国へ留学を希望している。だから、二年間、留学を許可してもらいたいとのことだ。二年後には結婚をすると約束してくれた。もし、自分の留学中にウィリアムの気が変わり、婚約を解消したいという申し出があったならばしてくれてかま—――」
「無い、それは絶対にない!ありえない!!」
ウィリアムが父の言葉を遮り力強く言い切る。
そして、
「俺もついて行く!」
と宣言した。
やっと婚約出来たのに、一人で外国なんて行かせるかよ。
どんな悪い虫がつくか、心配で残ってなんていられるものか!?
ウィリアムの発言に反対する者がいた。
「ウィル兄は仕事があるじゃない。だから無理よ。代わりに私が行くわ!」
キャサリンが心臓に手を当て、力強く申し出る。
「いや、俺が行く。メグが留学するのは、殿下の婚約者がいる国だ。何とかなる、いや、何とかする!今から城へ行ってくる。父上、絶対に話を通してくるので、俺とメグ、2人で住む隣国での住居の検討を始めておいてください。」
即座にソファーから立ち上がり扉の前に来ると、ウィリアムが一度立ち止まり、振り返りマーガレットへこう言った。
絶対に俺が行く!
これは、兄妹といえども、絶対に譲らないぞ。
「メグ、俺は君の留学先まで一緒に行くからな。そして、2年間、完膚なきまでにメグを口説き落とそう。それでもダメならば生涯だ。生涯かけて、結婚してからも、何度でも何度でも、俺はお前を口説く。参ったって言うまで挑み続けるからな!!」
シャララーン(花背負いバージョン)
マーガレットは指をさしながら宣言された。
マーガレットは立ち上がると、真っ赤な顔をしてこう宣言し返した。
「なっ、それ、もう…………全力で掛かって来い!!」
そのマーガレットの姿に感激し、ウィリアムは大声で叫んだ。
「ああ、絶対に俺が勝つ!!」
シャララーン。
叫ぶと同時に、扉を力強く開け放ちウィリアムは去っていく。
護衛やメイド、執事が、扉の前で驚いていて、中には勢いよく開いた扉に驚き、ひっくり返っている者もいた。
その後方から、ウィリアムの従者がひょっこり顔を出し、彼を追いかけていくのが見える。
従者の追いかける先には、望みの婚約を取り付け、これからに期待が膨らます美丈夫の男が、満面の笑みで歩いている。
彼は、この国の四大公爵家のうちの一つ、クロスター公爵家の跡取りで、向かうところ敵なし、最強の勝ち組。
その宣言を行ったのは、程よく鍛えられた肉体、スラリと伸びた背に長い手足、お伽話に出てくる綺麗なブロンド髪が揺れる王子のような容姿に、頭脳明晰、武勇に優れているが……性格は悪く、諦めの悪い、婚約者を愛する拗らせ野郎で、とても面倒臭い男である。
この男の名は、ウィリアム・クロスター。
己に挑まれた戦いは全て勝利したが、今度は自身の伴侶へ数多の戦いを全力で挑み続けることになった男なのである。
だがしかし、彼の勝利への道のりは、そう長くはないらしい……。
本当にそうなるといいなぁ~!
シャララーン。
---END---
これにて完結。
……のはずでしたが、おまけを1つ書きました(次回)
宜しかったら読んでみてください。




