第16回対決part2~ここを乗り越えろ~
ここまで読んでくださった心の広い方々、ありがとうございます。
ウィリアムが素早く、ジェームスの隣にいるフォールズ嬢へ駆け寄る。
そして、耳打ちする。
頼む!のって来てくれ!!頼む!
すると、フォールズ嬢が話を聞き、笑みを浮かべた。
その直後、フォールズ嬢が
「分かりました。引き受けましょう。」
ウィリアムに向かって言ったのだ。
よっし、これで道は開けた!!
シャララーン。
サンキュー、フォールズ嬢~恩に着る。
フォールズ嬢の答えを聞き、ウィリアムが素早く動く。
ヘンリー殿下の横へ行くと皆に聞こえる様に話し始めた。
「この勝負、皆はどうであった?私がラックランド嬢の嫌いな所を言えなくなっていたのには、皆もすでに気が付いていたはず…………すまぬ、つい意地になり男らしくなく往生際が悪かった。私の負けだ。負けを認める!もし、その判定が通らず、ラックランド嬢の降伏を認めるのであるならば、私はこの対決内容を難在りとみなし、この対決が無効となるように訴えよう。」
シャララーン。
目に涙を溜めた民衆に訴える演技でウィリアムがそう言いだした。
そして、ヘンリー殿下へとアイコンタクトを送った後、話を続ける。
「それに、もともとラックランド嬢はこの対決に、自分の意志で参加したわけではないのだ。友人の推薦であった。私は、私と婚約を望む者がこの対決で勝負し、勝敗を競うと宣言したはずだ。だからこの勝負、最初から不成立なのだ。よって、今の対決を無効とし、ラックランド嬢以外の私と婚約を望む令嬢との再戦を要求する!!」
シャララーン。
まずは、メグの負けを取り消しっと、どうだ!?
俺の無効だと訴える鬼気迫る演技、いけただろう?
上手くいってくれ~頼む。
マーガレットとの対決結果を変更する方法とは、ウィリアムがマーガレットの対決を無効とし、別の者と対決を再戦を要求するということだった。
会場中が、どよめいた。
先程の対決に勝ちえたならば、この60日間と言う長い期間、16戦もして、全て勝ち抜けたにも関わらず、今の対決のやり直しを要求しだすウィリアム。
その行動に、会場中が驚き困惑した。
横に居るマーガレットさえも……。
「あの、私は負けでいいですよ?」
マーガレットが慌てて負けを認める。
ちょ、ダメだよーそんなこと言い出したら。
メグを嫁に出来ないじゃないか~。
俺が今、ちょちょいと解決するから、ちょっと黙っててー。
マーガレットが負けるのを認めたくないウィリアムは、すぐにその言葉を否定した。
「ダメだ。俺は、俺の意志で選び心に決めた者と笑って婚約したいんだ。幸せにしたいから、絶対に傷つくような事はさせない。守る!!ヘンリー殿下、さあ、すぐに、今すぐに再戦をお願いします。」
ヘンリー殿下が困り顔でウィリアムを見た後、マーガレットに目をやり意見を確認する。
「ラックランド嬢、この対決を無効にしてよろしいか?」
その問いに答える前に、マーガレットがウィリアムに目を向ける。
ハイと言え~ハイと言え~。
無効にしてもらわないとさ、メグをお嫁さんに出来なくなっちゃうんだよ!?
死んでも嫌だから、嫌だからねー!
ね、頼むよー!!
ウィリアムは、強く頷いてくれと訴えるような目でマーガレットをジーーーと見つめてくる。
その表情に強い想いを感じ、仕方ないとマーガレットは、
「はい、無効でいいです。」
と、返事をした。
なんか、凄い威圧感に、そう答えるしかなかった感じだった。
その答えと同時に、ウィリアムはフォールズ嬢の方へ体を向け合図を送る。
フォールズ嬢は合図に気が付き、行動を開始した。
前の方へと移動する。
ヘンリー殿下の方へ体を向きなし、さらに観客に目を向けたウィリアムは皆に向かってこう言った。
「それでは、私と対決を行いたい者は、今すぐに名乗り出なさい。」
ぐるりと一周見回す。
今だ、フォールズ嬢!?
頼むぞ、頼む!
ウィリアムが願う。
「はい!!私、ニコル・フォールズが対決を申し込みま~す。」
間髪入れずにフォールズ嬢が手を挙げて大きな声で発言した。
よしキターーーーーーー!!!!
一番驚いたのがジェームスである。
自分の婚約者が手を挙げて、他の男に婚約の掛かった対決を申し込んでいるのである。
「ちょちょちょちょっと、ニコル!?な、何を言っちゃってるの?君は僕の婚約者でしょう?」
もの凄くジェームスが動揺している。
ギャラリーも大きくざわついている。
殿下は、はは~ん、そう来たかと感心した顔をしていた。
「私はジェームスの婚約者だけれど、まだ既婚者ではないから、この対決への参加資格があるわ。クロスター様ト婚約シターイ。だから対決を申し込むの。ねっ、いいのでしょう?クロスター様。」
ウィリアムに同意を求めるフォールズ嬢。
素晴らしい演技ですね、フォールズ嬢。
いけますよ!
これなら絶対にやり通せますよ!
その言葉に、俺は満面の笑みで返した。
「ああ、私は言った……どんな者でも相手にするから、全力で掛かって来い!とね。殿下の追加したルールにも彼女は十分資格を満たして居るよ。何せここにいる立会人の婚約者なのだから、調べる必要もないだろう。全く問題のない素晴らしい令嬢だ。」
シャララーン。
ウィリアムとフォールズ嬢がニコニコと作り笑顔で微笑み合っている。
ハハハッと爽やかに声を出し笑った後、分かったとヘンリー殿下が了承した。
よくやってくれた~フォールズ嬢。
君は俺の救世主だ!
ウィリアムが心の中で歓喜の舞いを踊りまくる。
「皆もよいか?賛同する者は拍手を。」
殿下が言うと、会場にいるほとんどの観客が拍手する。
もはや観客は面白いものが見られれば良いといった雰囲気である。
相手は誰でもいいのだろう。
何だかもう対決はグダグダである。
だがこれで、マーガレットの件は安全に肩が付いた。
よしよーし、うまくいったぞー。
なんとか最悪なシナリオは回避した。
俺、やれば出来る貴族!YDK。
やったと、ウィリアムが掌を握り片腕を脇に引き喜びを密かに表した。
「それでは、フォールズ伯爵家ニコル嬢、早速だか対決内容を教えてくれ。」
ヘンリー殿下が尋ねる。
その横でジェームスは空を見上げた。
鳶が1羽飛んでいる。
「そうねぇ、走るわ!そこから、向こう側の端まで、早く走り抜いた方が勝ち。これならばシンプルで勝敗がつきやすいし、どうかしら?」
フォールズ嬢が楽しそうに提案する。
「おっ、いいね~見ごたえあるし、勝敗が分かりやすいよ。」
フレデリックが状況を咀嚼できたようで、漸く会話に入ってくる。
ついでに先程の対決内容を軽くディスった。
「ちょっと、分かりやすいとか褒めてないで、フレデリックも止めてよ~。」
ジェームスが必死で抵抗を試みて、仲間を増やすためにフレデリックにも助けを求める。
大方、ウィリアムの勝利は予測できても、もしもの事を考えると不安で居ても経ってもいられないのだろう。
ジェームスがこんなにも取り乱すのは珍しい。
それなので、幼馴染たちは少し面白がっていた。
「いいじゃん、楽しそうだから~。」
ウィリアムの勝利を微塵も疑わないフレデリックがそう言うので、ジェームスは四面楚歌だと援護を諦めた。
スタート地点に立つ2人の会話。
「フォールズ嬢は走るのが得意なのですか?」
「ええ、領地では兄のズボンを履いて、よく兄達に混ざり駆けまわっていたわ。今日は広がりづらいスカートだから走りにくいのだけれど、全力を出すわ。フフッ、女性としては、走るのはいい顔されないから、こう言う機会がないと皆の前で全力で競争し駆け抜けるなんてできないのよね。負けないわよ~。」
靴を豪快に脱ぎ棄て、準備をするフォールズ嬢。
「ハハハ、よろしいのですか?貴女が勝ったら、困るのは貴女自身なのに。それに私は最初に宣言しているのでね、全力上等ですよ。俺は絶対に負けません。勝つのは俺です。全力で掛かって来い!!」
シャララーン。
そんな会話が交わされたのち、遂に本当の最終決戦が始まったのである。
「それでは始めま~す。位置についてよーい、スタート!」
フレデリックの手を振り下ろす合図に、2人は一斉に走り出した。
グングンと距離を広げていくウィリアムに、何とか食らいつこうと裸足で必死に走るフォールズ嬢。
その頑張りも空しく、差は歴然と開き、ウィリアムが軽々と勝利したのであった。
「ウィリアムの勝っちー。」
そう言い放つヘンリー殿下の言葉により、ウィリアムの長い長い60日間の戦いは、幕を閉じたのである。
やった、やり遂げた。
これで俺の嫁、ゲットだぜぇー!!!
聞け!皆の衆!はい、俺に注目。
殿下の横に戻り、ウィリアムは勝利宣言を行う。
「私は、この60日間の戦い総てに勝利した!!よって、もう私の婚約へ口出す者はいなくなった。これからは、自分が心から愛せる女性との婚約を全力で進めることを皆に誓おう。そして、その相手はもう決めている。」
シャララーン。
そう高らかに両手を上げて、ウィリアムが宣言した。
観客は大きな拍手を送り、指笛やガンバレと応援する掛け声に溢れた。
中には悔しそうにする者も居たが、大方はウィリアムの頑張りをここまで応援してきた者達ばかりなので、これからも応援してやりたいと考えている。
先程の発言を聞き、相手が誰なのか検討し始める者も出始めていた。
漸く、長い長い茶番劇が、これにて終わったのだ。
よし、これで円満にマーガレット以外の令嬢との強制婚約を逃れたぞ。
あとはマーガレットを落とすのみ!
と、心の中で俺は考える。
固く右手を握る。
そして、
「その相手の令嬢はここに居る!」
と、続けてウィリアムがハイテンションで発した。
そのウィリアムの声に会場が注目した。
ここにいるとはいったい誰なんだ?
婚約者になる人がついに明らかになるのか?
と、観客はワクワクして続きを待った。
自分の選んだ相手はマーガレットだと抱きかかえながら皆に知らしめてやろうと、ウィリアムが周りを見回し探したのだが、マーガレットの姿が見つからない。
あれ、何処に行ったんだ?
さっきまで隣に……。
「あれ??いない……どこへ行った?メ、うわああ~。」
マーガレットの名を言いかけた瞬間、ウィリアムを独壇場から引きずり下ろした者が居た。
「言わさねーよ!!」
ジェームスがウィリアムの背後から怒り心頭で声を震わせ話し掛けてきた。
「ウィリアムは急用だーーー!!これにて失礼するー。」
ジェームスが観客へ大声で言い放つ。
会場から、え~と、ブーイングが起こったが、ジェームスはお構いなしに、ウィリアムを力ずくで連れ出した。
「メグは?」
「メグならば、こんなことになるんじゃないかと、キャサリンと共に先に家に帰したよ。メグは兄の俺が全力でまもーーる!!」
ジェームスが強くウィリアムを引っ張りながら、野太い声で脅し、睨みつけてきた。
コワッ。
これはマジで怒ってるやつだ。ヤバいな。
本気で呪いでも掛けられそうな勢いだ。
「メグだけに限らず、俺の婚約者まで巻き込みやがって、俺はお前を断じて許さん。どんなことがあっても、お前を認めん。お前に何かされる前に、直ぐにメグを留学させてやる。今、ケイティと共におじさんに掛け合っているはずだ。ハハハハッ、お前にやすやすと妹はくれてやらんぞ。」
ジェームスが凄く悪い顔でウィリアムを威嚇してくる。
「アハッ、クロスター様。私達、ジェイミーを本気で怒らせちゃったわね。それから先程の約束は、絶対に守ってくださいね~。」
フォールズ嬢がこれはかなりマズいなと言う口ぶりで、ジェームスの横で小声で話す。
「ニコルも、今回の件、軽々しく動き過ぎだ。こっちは分かっているから許せるが、知らない奴らからしたら君は悪女にもなりえるんだぞ。理不尽な悪意を向けられるかもしれないのだぞ、良からぬ噂でも流されたらと…俺は不安になる。もちろん俺が全力で守り抜くけどな。」
怒った表情から一変、心配そうにフォールズ嬢を見つめジェームスは話す。
「それは大丈夫ではないかな。恐らく、この対決の話は皆の記憶から直ぐに消えるだろうし、最後の対戦者は観戦者にとって誰でもよかったのだと思うよ。興味があるのは、ウィリアムが勝つか負けるか、そして誰が婚約者になるのかだから。」
ひょっこりと横から現れて会話に入ってきたヘンリー殿下が言った。
「そうか、それならば……ん?何で、記憶から直ぐに消えるって断言できるんだ?」
ウィリアムが疑問を投げかける。
すると殿下が、すぐ返答した。
「ああ、この後に私の婚約者が発表がされるんだ。ようやく彼女の御父上が折れてくれてね。私の婚約者を皆にお披露目することが漸く許されたんだ。来年からが楽しみでならない。滅茶苦茶嬉しいよ~。」
あまりにも嬉しくて舞い上がっているのだろう。
ヘンリー殿下が極秘情報をペロッと漏らしてしまった。
「お、おめでとうっていうか、いいのか?こんな場所でそれを言っちゃって??」
フレデリックが顔を引き攣らせている。
周りを見渡すと、数人の貴族が聞いていて、驚愕の表情で固まっていた。
聞いてすぐに走っていってしまった者もいるようだ。
会場中に話が広まるのは時間の問題であるだろう。
「やべっ、まずいかも。直ぐ帰って対応せねば!!」
ヘンリー殿下が事の大きさに気づき、慌ててこの場を閉め、強引に皆を解散させ、急いで王城へと帰っていった。
あ~やっちまったなぁ。
殿下にしては珍しい失敗だ。
余程嬉しいんだろうな~。
観客達が、殿下の話題からひと段落して、ふとウィリアムの想い人の名前を聞き逃したと思い出した時には、もうすでに会場には誰も居なくなっており、ウィリアムもある場所へ向かっている最中であった。
馬車が停まり、馬車の扉が開くと同時にウィリアムは勢いよく飛び出す。
そして、目的地目掛けて最高速度で向かうのであった。
待っていろ、メグ。
今、俺が行くからな!!
シャララーン。
殿下のお零れ話
婚約者の父親は、どことなくウィリアムに似たところ(思い込みが強い所や自分に自信がある所など)があるそうで、彼を参考にヨイショしてみたら扱いが上手くいき、婚約発表に漕ぎつけられたとのことです。
ジェームスはフォールズ辺境伯令嬢にジェイミーと呼ばれています。可愛い。
次回は、最終話ですっ。




