俺、吠える(後半)
お読みくださりまして、毎度ありがとうございます。
俺、吠える(前半)からの続きです。
皆の視線がマーガレットへ集中した。
指名されて戸惑うマーガレット。
「へ!?わ、私?私は対決しないわよ。もうウィリアムとは勝負をしないって決めているから!!」
そう両手を胸元で大きくクロスさせ、しかめ面のマーガレットが答える。
そんな表情の君もいい!!実にいいよ~。
なんだよ、そのクロスは~可愛すぎて反則だよ~。
まじかわ~。
俺が幸せを噛みしめている間に何やら小声でマーガレットとキャサリンが話し合っている。
「それは分かってるけれどね。うん……あのさ、メグのあの件、この対決を受けてくれれば、私もおじ様に交渉するのを手伝うわ。いや、おじ様に頼むよりも、我が家が何とかしてみせる。どう?やってくれない?」
少しの間マーガレットは葛藤していた。
願ってもいない嬉しい申し入れであり、こちらへ軍配が上がったようだ。
公爵家に全て背負わせることは出来ないと、条件付きでならとマーガレットは対決を受け入れた。
「はい、交渉成立。」
そうキャサリンが言い放った。
その直後、
「そんなことは許可できない!!」
と、近くで話を立ち聞きしていたジェームスが、腹の底から絞り出すような低い声で否定した。
ウィリアムも、妹の案の内容が全く把握できない事や、マーガレットと対決をすることは、マーガレットを昔のように苦しめてしまうだろうと考えていたので、賛成ではなかった。
俺も、もうマーガレットとの対決はしないのだと、否定しようと思ったのだが、そこへ、フレデリックがウィリアムにそっと近づきこう耳打ちしてきたのだ。
「これはお前にとって好都合じゃないか?」
そう囁いた。
フレデリックが言うには、ウィリアムが負けても勝っても、マーガレットはウィリアムと婚約することになるというのである。
確かにその通りである。
キャサリン、やるじゃないかー!!
流石、俺の妹!
よし、ご褒美にあいつの好きな蒸かし芋用の芋を沢山買ってやろう。
シャララーン。
俺は脳中で、妹を天高く持ち上げクルクル回した。
よしよし、マーガレットも拒まないみたいだ。
それならば対決しちゃっていいんじゃないかな?
うん、いいんだよね!?
良いと思います!
よし、これで嫁の座は安泰だー。
未来の新婚生活へと思考を切り替えて行けるぞ~。
うほほほほーい!!!
「何々、メグちゃん、対決するの?私も見に行こうかしら?」
「ええ、決まりました。応援に来てください。やるからには私負けません。頑張ります。」
と、マーガレットとジェームスの婚約者がのほほんと話す。
ほんわかメグも、モチのロンロンで可愛いな~。
フォールズ嬢と話す時は、あんなに穏やかなのか。
仲が良いのだなぁ。
ほんわかと話す2人の横で、未だにジェームスとキャサリンが互いに譲らない激しいにらみ合いが繰り広げている。
のほほんマーガレットを満喫したウィリアムは、対決後へと期待に心を弾ませながら、目線をずらし、端から見たら和やかなのに発する言葉は冷たいやり取りが続いてる妹とジェームスによる睨み合いをゆっくり眺めた。
この光景を見続けていて、何となく違和感を感じ、不安が過る。
なぜ、こんなにもジェームスが渋るのか?
ただ単に俺との婚約を阻止したい為だけなのなら、ここまでしないのではないのか?
なぜなら、その程度ならジェームスがやる気を出せば結果がどうなっても、どうにでも出来るはずだ。
それならば、なぜそこまで渋るのだ?と疑問を持ち始める。
それに先程の妹とマーガレットとのやり取りの内容も気になっていた。
あれは何を約束したんだ?
もしかして、俺の知らない、ジェームスにも動かせないマーガレットの秘め事があるのか?
さらにもう一つ、この対決は対戦相手が勝った時点で、俺の婚約者になるというのはマーガレットも分かっているはずである。
マーガレットは俺に最初から負ける気でいないようだ。
負ける気がないのならば、実は俺と一緒で昔から俺の事が好きだったとか!?
ムムッ!!それも気になるぞ。
俺は気になって仕方ないぞ!!
シャララーン。
どうにかして止めないとと言い合いをする2人の横で、どう声を掛けようかと困っているマーガレットにそっと近づき、俺は勇気を出して聞いた。
「メグ、俺に隠し事をしていないか?しているならば話してくれ!!」
シャララーン。
その言葉に、いがみ合っていた2人が止まり、こちらを見る。
マーガレットは目をキョロキョロさせ、誰かに救いを求めた。
それに答えたキャサリンがこう言った。
「メグ、ウィル兄はきっと意地でも調べ上げるわよ。遅かれ早かれ、どうせ知られてしまうから、この際言ってしまいなさい。」
少し考えた後、マーガレットはウィリアムに向き合い、何処から話せばと言いながら語り始めた。
「前にも言ったけれど、私は世界の神話に興味があるの。所謂、神様の使いルトによる世界創世記よ。それに関する書物が、15年前に隣国で発掘され、その書物の研究成果により、3年前に東の始祖の祭壇、遺跡が見付かったのは知っているわよね。」
「ああ、知っている。」
ウィリアムが深々と答える。
何だ?いきなり、何の話だ?
遺跡!?それがどうしたって??
俺は……戸惑う。
「その隣国で行われている研究に、私も携わりたいの。その研究をしていのが、バクレー先生のお姉さん、アガサさんなの。ずっと、一緒にやろうって誘ってくださっているから、彼女が教鞭を振るっている学院へ留学したいの。家族に反対されているから、説得の手助けをケイティがしてくれるって、今、約束してくれたのよ。」
「隣国へ留学!?」
ウィリアムは考えなかった事態に、心底驚いていた。
留学ってなんだよ。
聞いてないよー離れちゃうじゃん!!
ウィリアムを置いて、兄妹で揉め始める。
「そうだ、隣国へメグを一人で行かせられないよ。危険すぎる。」
「兄さん、何度も言うけれど大丈夫よ。アガサさんもいらっしゃるから。」
ちょっと、兄妹で揉めているのなんて、どうだっていいからさ。
でも、そうか、マーガレットは留学したいのか。
まあそれは、俺と婚約してからってことなら、問題ない!!
シャララーン。
問題はもう一つ、俺との対決をどうするつもりなのかだとねー。
勝つって言ったのは口だけなのか?
俺と婚約したいとか?好きなのかとか?
俺と結婚するのかしないのか、どどどどっちなんだ!?
もう、知りたい事多すぎるよ~。
とりあえず、
「メグは、俺との対決に最初から負ける気なのか?」
俺は、恐る恐る尋ねた。
首をひねり考えたのち、マーガレットはこの問いに答える。
「対決をする以上、最初から負ける気では挑まないけれど、もし勝つようなことがあっても、ウィリアムは安心して。ウィリアムが心から望む相手が見付かったら、婚約は直ぐに解消するから。その時は、留学先の方にでも婚約破棄の書類を送ってちょうだい、手続するわ。」
ガーーーーーーーーン!!!!!!!
屈託のない笑顔で、マーガレットはそう言い切った。
悲しすぎる程にハッキリと…………俺に向かって言ったんだ。
俺は、頭上に大きな岩が落っこちてきた時くらいの衝撃を受けた。
そして、呼吸が停止した。
ああ、幼い頃からの走馬灯が見える。
マーガレットに強引に対決をさせ、負けて悔しくて荒れているあの頃の自分。
努力して勝って、喜んでいるおバカな自分。
悲しい……実に悲しい……涙が止まらない。
俺の想いは微塵も伝わっていないじゃん。
俺は誰かに体を大きく揺すぶられ、意識を取り戻す。
「おい、ウィリアム、大丈夫か?」
今世へ呼び戻してくれたのは、フレデリックだったようだ。
ありがとう、命の恩人よ。
シャララーン(感謝バージョン)
俺は大きく息を吸い呼吸を整える。
「正直、こんなに意識されていなかったなんて、思ってもみなかったよ……俺の事、これっぽっちも男として見ていない。今まで俺がしてきたアピールは無駄だったのか?」
ウィリアムが寂しそうに呟く。
その声にフレデリックが答える。
「スケコマシのお前なら、直ぐに口説き落としてエロに持ち込んでいるはずなのに、彼女限定のダメダメで態度にも出せず、むしろマイナス。進展が全くないから仕方ないさ。まあそれでも、最近は頑張って、それらしきアピールも少しずつ出来てきてはいたよ。あの子が予想を上回る鈍感なのか、もしくは色恋の意識をワザと受け入れないでいるのか、それはどちらか分からないけど、お前を男と意識したくないのは間違いないかもな。もっと逃げられないようにストレートに伝えるべきだ。」
「そうか……そうなのか……分かった。」
ウィリアムはそう呟いたのち、静かに立ち上がった。
そして、またもや俺は高らかに言い放つ。
「メグーーー!!絶対に、絶対に勝ってやる。次の水泳対決にも、お前にもだ!そして、俺の想いを分からせてやるからなーなーなーなー!!」
シャララーン。
マーガレットを指さして、大声で叫んでやった。
よし、どうだ!熱烈アピールだーーー!!
フフフフッ、無視できんだろう。
それなので、一気に会場中が静まり、注目された。
フレデリックが頭を押さえている。
またかと注目が恥ずかしくて、マーガレットは顔を両手で覆う。
指の隙間から見てみると、いつまでもこちらをウィリアムがしたり顔で見ている。
小さく息を吐き、マーガレットが答える。
「はい、分かりました。では対決、よろしくお願いします。」
と、仕方なく言ったのち、さらに深くため息をついた。
あれほどの熱烈アピールを!?
ちょ、何その反応!!
ウィリアムはその態度に神経を逆なでされ、顔を曇らせた。
帰ると言って、踵を返し帰って行く。
二、三歩進み、再び立ち止まると振り返りこう言った。
「メグ、水泳対決にも応援に来いよ。分かったな!」
シャララーン。
そういうと、怒りながら会場を去って行くのであった。
会場を去ってからウィリアムは気がつく……あっ、またちゃんと告れなかった……と。
会場では取り残された組で話していた。
「最悪よ、またこんな恥ずかしいことをして。メグ、本当にごめんね。あいつのせいでまた。本当に嫌になるわね。しかも一人だけ逃げたわ。あいつ、今から何処に行くのかしら?」
キャサリンが嘆く。
「まあ、そう、攻めなさんな、ウィリアムの妹よ。あれは今から、水泳の練習をしに殿下の所にでも行ったのだろう。だって絶対に負けられない!!そうだろう?あいつのストイックさは、君が一番身に染みているのではないのかい?」
フレデリックが、諭す。
「そうね、あれは異常だわ。」
死んだ目で返事をするキャサリン。
「でも何故殿下の所へ?」
キャサリンが疑問を投げかける。
「ああ、今の季節は川も池も水温が低すぎるから、練習で一刻浸かれればいいくらいなんだ。それ以上だと体を悪くする。見かねた殿下が助け船を出してくれて、王宮のバカでかい風呂を使えって提案してくれたんだ。ただ昨日は長く泳ぎすぎて、のぼせてしまったから、頻繁に休憩を挟むようにはしているみたいだけれどね。あいつ、絶対に負けたくないのだとさ。本気で、婚約者は自分で決めたいって思っているんだ。」
フレデリックが呆れ口調でチラチラとマーガレットを流し見つつウィリアムの話をする。
「そうですか。頑張っているようですね。」
気に抜けるようなマーガレットの返答に、フレデリックは頑張っている奴の為に、自分が協力してやろうと思い立つ。
手始めにマーガレットのウィリアムへの気持ちを探ってみる。
「それよりも、マーガレット嬢は、あいつの事をどう思っているの?最近、結構変わってきているだろう?ほらっ、何か感じたりしてない?」
フレデリックが、マーガレットにそれとなく聞く。
いきなり聞かれて戸惑いつつも、マーガレットは答えた。
「今まで、ずっと嫌われていると思い込んできたから……この前、これまでの態度や会話が、自分の勘違いであったと分かって、嫌われてはいなかったのだとホッとしたと言うか、やはり、幼馴染ですから、嫌われているというのは悲しかったので。最近ではよく話をするようになりましたし、二人で居ても雰囲気は険悪ではないので、関係はかなり修繕してきていると思います。」
その回答に、フレデリックは、彼らの距離はその程度しか縮まっていないのかと落胆し、自分がどうにかしてあげなければと考えた。
そして、良かれとお節介を焼くことにする。
「マーガレット嬢、出来たらもう少し、あいつの事を男として意識してやってくれないか?あんな馬鹿で不器用な奴だけれど、ある人に振り向いてもらえるように必死なんだよ。気になる幼馴染と婚約したいが為に、対決をして他の婚約者候補をすべて倒し、最後に父親に幼馴染との婚約を頼もうとしているという、そう言うずれてる奴なんだよあいつは……あっ、分かってくれた?そう、そういう事なんだよ。よかった、気づいてもらえて。」
マーガレットがフレデリックの言葉で、ウィリアムの気持ちを悟り、それは本当なのかと戸惑う表情をしたので、フレデリックは最後にそう付け足して念を押した。
そして、フレデリックは満足げに笑顔を見せ挨拶したのち、一目散にその場から逃げ去った。
彼女の後方で何かを察した過保護なマーガレットの怖い保護者達に、全てをバラしたと文句を言い、追われる前に……。
その場に残されたマーガレットはかなり混乱していた。
その様子に感づいた2人が駆け寄りマーガレットを見て察した。
そして、あいつ余計なことを言いやがってと鬼のような表情をして、いがみ合っていた2人が憤慨しだした。
今の憤慨する二人を見ていたら、フレデリックは逃げていて良かったと、九死に一生な気分になっただろう。
その後、あれほど、マーガレットの留学話で揉めていたジェームスとキャサリンが、この場から去っていった2人の男の悪口で大いに盛り上がったのは、言うまでもない。
次回、水泳対決です。
ブクマ、評価、読んで貰える事に大変感謝です。
あともう少し、頑張ります。




