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第1回ワイン対決

お読みくださりましてありがとうございます。

ワイン対決だよ…

広い心でお読みください。


※の付いている単語は、あとがきに説明文を載せています。


 ジェームスは、すぐさま後ろを振り返り、声の主を見る。


 そこには、先程までウィリアムの横を陣取っていた美しい令嬢が、腰に手を当て仁王立ちしていた。


 わぁ~凄い迫力だ!!と思いながら、ジェームスは咄嗟に紳士の笑顔を作る。

 無言で笑顔を浮かべ、気付く者はいないだろうが若干口角を引き攣らせていた。


 次の瞬間、ジェームスの返事が遅くてイライラしたのか、令嬢が胸元から扇子を出して勢いよく広げると大きく仰ぎ始めた。


 あっ、これはヤバいと、すぐさまジェームスは話を進める。


「はい!受付ですね。まずは、名前、家名、対決内容を教えてくださ~い。」


 ジェームスが冷静を装い、明るく聞く。


 こいつはきっと癇癪持ちに違いないと勝手に心の中で決めつけた。

 刺激してはならないと、ジェームスがいつものヘラヘラした顔をして取り繕っていると。


 令嬢は鋭い目つきでジェームスを見ながら扇子をパチンと閉じた。


「フンッ、ルージョン侯爵家子女ユリアナよ。私は、ワイン対決を挑むわ。」

「へっ?ワインですか?」

「ええ、我が家の領地ではワインを作っているし、私は無類のワイン通なの。だから、飲み比べをして、何処で作られたワインなのかを当てるという対決をしたいのよ。」



「なるほど!それは実に面白そうですね!それならば、今すぐにでも出来そうだ。どうだろう?本来ならば受付をして選考し素性を調べてから対決となるのだが、この舞踏会へ招待されているルージョン侯爵家の令嬢ならば、調べ上げる必要はないだろう。そこで、デモンストレーションも兼ねて、ルージョン嬢と今ここで戦って見せると言うのはどうだろうか!調度試しに私とでもやって見せようかと思っていたのでね。そうしよう。ね、そうしようよ、ウィリアム?」

 ヘンリー殿下が不敵な笑みで提案してくる。


 え、ええ!?いきなり!?

 今から?いきなりかよ!


 突然、勝負を振られて内心戸惑いながらも、ウィリアムはカッコつけて返答する。


「ああ、何も問題ない。受けてたとう。」

 シャララーン♪


「では決まり!今から準備させるよー。」

 殿下がそう言うと、殿下の斜め後ろに殿下付きの侍従長がスッと現れて近寄り、殿下から耳打ちを受けた。

 そして脅威の速さで消えていった。



 しばらくすると、※デキャンタに入れられた四つのワインがワゴンに乗せられ運ばれてきた。

 何か面白いことが始まるようだと、彼の宣言を全く聞いていなかった貴族たちも目を向け始め、囲む野次馬がさらに増える。


「それでは、これから、ウィリアム・クロスターと、ユリアナ・ルージョンによる、ワイン対決を行う。ここにある四つのワイン、これを試飲し、どこで作られた何というワインであるかを多く当てられた方が勝ちとする。答えはこの紙に書き、ウィリアムはワインの右側にルージョン嬢は左側に伏せて置くように。それでは始め。」

 ヘンリー殿下が始まりの合図をした。


「グラスを、早くお寄こし!」

 そう強くボーイに言い放ち、奪い取るようにグラスを握ると、ルージョン嬢はゴクゴクと試飲をし始めた。


 おおー、イケる口だねーと言いたくなる飲みっぷりである。

 周囲も美味そうに飲むと零している。


 ヤベーすっごい緊張するわ~。

 うわあ、手が震える。

 鼻、クンクン、利くかな?


 令嬢の横で、ウィリアムはデキャンタを持ち上げ観察し、グラスのワインを匂いや目で調べ、味を念入りに吟味する。


 あ、美味い!味分かった。良かった。

 それにしてもこれ美味いな。

 流石殿下のコレクション、ご馳走様でーす。

 良かった、これは簡単だ。


 2人共、最後のワインに時間を要したが、試飲を終えると周りに見えぬように紙に記入していき、指定された場所に伏せて置いた。


「さあ、それでは、立会人の僕達も試しに当てながら正解発表といこうか~?」

 殿下がフレデリックとジェームスに声を掛け、一番左側にあるデキャンタのワインをグラスに注ぎ渡す。


「あっこれ、私でも分かる。」

 そのフレデリックの言葉にジェームスも同意し上下に強く頷く。


 その様子に殿下が楽しそうに声を掛ける。

「じゃあ、せーので言ってみよう。せーの」


「「シャトー・マルコ!!」」


 国産の最も有名な高級ワインだ。


「正解!」

 殿下が拍手する。


 それではと、ワインの横に置かれた2人の紙を殿下が捲る。

 ウィリアムもルージョン嬢も、2人共正解であった。


 そんな感じの進行で、二つ目のワインも行った。

 二つ目のワインは他国の有名なものであったが、対戦者2人は共に正解した。


 フー当たった。良かったー。

 だいぶ落ちていてきたしイケそうだ。


 三つ目は、ルージョン侯爵領で作られている国産のサーライズという希少なワインであった。

 酒をあまり飲まないジェームスは分からなかったのだが、ウィリアムとルージョン嬢は軽々と正解した。


 ん?殿下、何でこれをチョイス?

 彼女へのボーナス問題か?

 不公平だぞ!!


 なんて内心考えていたのだが、問題は四つ目にあった。


 口に入れた瞬間、味も匂いも複雑すぎて、困惑した。


 う……コレは……。

 ウィリアムは眉間に皺を寄せ、止まった。


  同じく試飲している立会人の2人は考えている。

 甘味が強いような、味が薄いような、深みがあるような…。

 今まで飲んだことは無い?と思う…しかし、先程飲んだ三つ目のサーライズに似ている、いや似せているようだ。


 ジェームスに至っては先程のワインとの違いがよく分からないと言いだす始末。

 有名な名酒シャトー・マルコ以外は、違いが分からない程、ワインを飲み慣れていないので仕方がないだろうが……正直これはかなり難しい。


 フレデリックもこれは似ているのだが、それとはおそらく違う別物のはずだ。

 違和感のある味わいで後味が悪い、先程の物と比べるとかなり劣る物。

 アレとは違うし、あそこの物はもっと渋いはず。

 うーん、これは~と……最後まで分からない立会人たち。


「もう考えても分からないよ。」

 フレデリックとジェームスは匙を投げた。


「では、少しばかり難題のようなので、正解発表をする前に、先に対戦者2人の解答を見てみようと思う。」

 そう殿下が言いだし、2人の用紙を裏返した。


 はああぁ、殿下、やってくれちゃったよねー。

 内心ウィリアムはムカついていた。


 フレデリック達がそっと覗き込むと、そこには、信じられない解答が書いてあった。


「ルージョン嬢の解答は、隣国のチェスター地方で作られたマ・シェリと書かれている。ウィリアムは、ルージョン地方産サーライズと書いてあるね。」


 確かに近いものはあるが、マ・シェリはもう少しサッパリした後味で香りが強い。

 全然別物だ。

 これとは違うと分かっているだろうに、そう書くしかなかったか……。


「えっ、でもさっきのワインがサーライズだったんだよね?これ、同じものなの!?味が違うじゃないか!全く似ていないとは言えないけれど、こっちはかなり味わいの劣る、粗悪品だよ。」


 フレデリックがウィリアムの答えを聞き、そう言うと、ウィリアムを不安そうに見つめる。

 その横で、ルージョン嬢が下唇を噛み、固く拳を握っていた。


 お~ヤバッ、メッチャ怒ってるじゃん。

 令嬢の表情を目の当たりにしたウィリアムが冷汗を掻く。


 場の雰囲気を吹き飛ばしたのが、殿下の一声だった。


「ウィリアム、大正解!!よくわかったね~。」


 大袈裟に大きな拍手をしながら、ウィリアムのもとへ近寄る殿下。


 その光景に悔しそうに親指の爪を噛み、殿下を見つめるルージョン嬢。


 この2人の横で、冷静を装いウィリアムは語りだす。

「良かった。当たりましたか。先日、※テンペストをさしている時に殿下が呟いていた言葉をふと思い出しましてね。 “混ぜるのはよくない” と、あの時はゲームの駒の話であると思っていましたが、あれは コレ の事だったのですね。私も コレ の事は少々気になっていたのですよ。」

シャララーン(哀愁バージョン)


「ああ、お前には私の呟きが聞こえてしまっていたのか。そう、ゲームをしながら飲んでいた時のチェスター産のワインがあまりにも美味であったから、無意識にワインで懸念していた問題を声に出してしまっていたようだ。ここ数年、彼女の領地は雨が多くてね、日照不足で葡萄が不作だと聞いていたからワインがどうなるかと心配していたら、コレ が出回り始めたのでね。折角の機会だから、侯爵家の彼女にも飲み比べて貰おうと思ったのさ。どうだい?違いは一目瞭然だと思うのだが。」


殿下がワインの入ったグラスをルージョン嬢に傾け話をした。

このやり取りは、分かっている人には、まるで茶番劇である。


 その殿下の問いに、顔つきをガラリと変え、強い眼差しでルージョン嬢は答える。


「殿下、確かに我が領の葡萄は不作が続いております。しかしながら、混ぜ物はしておりません。ですので、味が劣るのは葡萄の不作の所為であり、不正は行っておりませんので悪しからず。」

 最後はやんわりと不敵な笑みを浮かべ言い切った。


 スッゲー度胸あるな、ルージョン嬢。

 この場で、あの殿下に物怖じせずに言い切ったぞ。

 ウィリアムはとても感心した。


「そうか、ワインを混ぜ合わせてはいけないとは法典では記されていないから、罰せられることはないのだがね。だがしかし、ブランドとしては、やはり見逃せない裏切り行為になっちゃうよねー。あと、この味で今までと同じ評価(扱い)と言うのはいかがなものかと感じてしまったのだよー。」


「おっしゃる通りでございます。この問題、我が領の威信をかけて速やかに対応してまいります。」


 真剣な強い眼差しで言い切るが、グッとスカートの横で拳を握り絞めるルージョン嬢。


「うん、よろしく。それと、この勝負は君の負けだよ。当てられなかったからねー。」

「はい、承知しております。それでは、私はこれで失礼いたします。」

 そう言い終えると、ルージョン嬢は急いでその場を後にした。


 最初はどうなるかと思ったけれど、勝てて良かった。

 まあ、一応、殿下にお礼言っておくか~。


「殿下、助かりました。」

 ウィリアムはこっそりと殿下にお礼を言った。


 ウィリアムはいきなりの初戦で、緊張のせいか冷静な判断が欠けているところがあったので、思ったよりも手強いルージョン嬢にこの問題は、正直助かったのである。


「いやいや、私も良い機会だったから、便乗したまでだよ。美味しいワインは極上のままいただきたいからね。混ぜたらダメだよ。それにこれはデモンストレーションだし、君がいきなり負けたら本末転倒でしょ。全く楽しめないから。」

 殿下がワインを回しつつ、ウインクする。


 あっ、こいつ、やっぱり完全に俺を利用しやがったんだな!?


 ウィリアムはその言葉に苦笑いし疑問を口にする。


「このワインは、あの令嬢の発言通り、本当に混ぜていないのでしょうか?私にはそこまでは分かりかねました。」


「おそらく…というか、コレは、混ぜられている……古いワインと混ぜ合わせている物だそうだ。それ以外にも味わいを近づけるのに砂糖や水などを混ぜることもあったとか、農園での作業は確認済みだ。ただ、この公の場では話せなかったのだろう。社交界での評判は大事だから、故意に混ぜものをして似せていたのと葡萄が不作で味が落ちているでは、評判の落ち方が変わるからね。流石、ヤリ手の侯爵家のご令嬢なだけあるよね。」


 そう、美味しい方のサーライズが注がれたワインを回しながら殿下が話していた。


 そこへ、足音が近づいてきた。



  残りあと15戦。闘え!頑張れ、ウィリアム!


※ デキャンタ:ワインを入れる入れ物

  テンペスト:この世界の架空のメジャーなボードゲーム名


 



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