俺、妹に頼みごとをする
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「嫌よ!!お断り!」
仁王立ちで腕を組む妹に、ダンスパートナーの誘いは即座に断られた。
妹よ……はあ、二つ返事とはいかないのは分かっていたけれど、ちょっと断るの早すぎない?
まだ、次の対決がダンスだということと、パートナーのパまでしか言ってないよ?
「頼む。メグに頼めない以上、お前しかいないんだ。頼むよ。」
俺はひたすら頼み込む。
「なんでよ、ウィル兄には、バカ女達が沢山いるじゃない!頼めばホイホイ喜んで引き受けるでしょ?その中のダンスの上手い女にでもお願いすればいいじゃない。」
キャサリンが気持ちの悪いものを見る目で俺を見て話す。
「あ、いや、俺はもうそういう事はしない、したくないんだ……気がついたから……これまで女性に対して不誠実であったって。それは俺が自分の気持ちにきちんと向き合ってこなかったから、しでかしていた事で。でももうそれは自覚したから。ケイティ、俺、本気でメグのことが好きなんだ。だから、この全ての対決に勝利して、父上に頼むつもりなんだ。メグと結婚させてほしいって。」
「なっ!?」
驚きすぎて、言葉を失うキャサリン。
声を取り戻したかと思ったらパニック寸前だった。
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待て!待って、え、待って。え?え?落ち着いて、落ち着け私。フー、フー、フー。ちょっと整理させて。まず、これまでウィル兄がメグにしてきた対戦と言う名のあの数々の嫌がらせの目的は?それから、皆の前でメグを貶す酷い言葉を言った理由。あれでメグはかなり傷ついて……」
思い出したのか言葉を続けず、眉間に皺を寄せて恐ろしい顔をしている。
「あの酷い言葉は、俺にとっても記憶を封印するほどショックな出来事だったみたいで、実は先日まで忘れていたんだ。どうやらメグに泣かれ、さらに嫌いと言われたことで、俺はパニックになって、つい口にしてしまった悪い言葉だったんだ。凄く反省している。それと、昔からの対決も、メグに負けるのが男として劣るみたいで嫌だったから、挑んでいたらしい。全てに勝る俺が、メグを幸せに出来ると信じていた様だ。俺……全てが無自覚だったんだ。」
そう、これが真実。
俺、拗らせ過ぎてる。
恥ずかしいぃぃぃ、見ないで。
「それって、拗らせすぎじゃない!?っていうか、馬鹿。」
妹がコイツ、頭がおかしすぎると表情にもろに出し、口角をビクビクさせて俺を見てくる。
「ああ、俺も、昔を思い返すと、もう逃げ出したいくらい恥ずかしくなるよ。頑張れ、頑張れ、俺の羞恥心、耐えろって言い聞かせて今も話しているんだ。これが周りにバレてから、耐えろ、泣くなの応援合戦だよ。」
沈黙が流れる。
「女遊びの理由は?」
「無自覚だけど、メグに泣かれて嫌われての自暴自棄だと思う……」
もはや、キャサリンは無表情だった。
そして、聞こえないくらい小さな声で、クズと罵った。
「それで今回の対決は、メグと結婚したいから父さんに頼むためだったってぇ?」
「あ、ああ、結婚したいのはメグだけだから、全てに勝ったら父上が願いを叶えると約束してくれた。他の人との取次は一切しないでくれも頼んだ。あとは勝って、メグとの話を進めてほしいと頼――」
「あーあーあーあー、も~うヤダ。聞きたくない。え?こいつ何言ってるの??まじで?はあ~、はぁあああ?はあ?はあしか言葉が出なくなるわ。」
妹が話しを途中で遮り、呆れ果てた表情で俺を見つめて愚痴る。
かなりの時間が経った後、
「分かったわ。仕方ないから、パートナーは引き受けるわ。兄妹だし。でも、メグへの協力は一切しないから。」
妹は屑を見るような目で見ていたが、何とかパートナーの了承を得るのに成功した。
「引き受けてくれてありがとう。もし、ダンス対決の間に、俺ではメグには相応しくないと思うようならば、ダンスを放棄してもらっても構わない。メグの親友のお前にも認めてもらえるように、俺は頑張るつもりだ。」
シャララーン♪
俺は本気であるという決意を込めて妹へ力強く伝えた。
「放棄したら、パートナー不在で不戦勝じゃない…それ程の覚悟って事ね。分かった。ダンスには全力で付き合ってあげる。ただし、こっちも手加減なく、ウィル兄を見極めるから。」
「ああ、頼んだ。」
お互いに思わず聞き手を前に差し出し、軽くパンと音を立て手が合わさり、強く握手した。
そして顔を見合せ、不敵な笑みを浮かべる。
シャララーン(兄妹バージョン)
それからの3日後まで怒涛のダンスレッスンが行われることになる。
「ウィル兄の本気を思い知ったわ。バカ兄とは呼べなくなった。バカ兄様と呼ぶわ。」
そう話し、紅茶を啜るのはキャサリンである。
現在、キャサリンが何をしているかと言うと、テーブルセットが置いてある公爵家のテラスにて、マーガレットと共にお茶をしている。
明日、ダンス対決という事で、キャサリンは練習の合間に公爵家へマーガレットを呼び、兄に頼まれたとあるミッションを行う予定なのだ。
本来ならば、兄の恋の手伝いになるので断るべきであるのだが、自分も親友に見に来てほしいのは同意見であるために、この件は引き受けてやることにしたのだった。
「メグ、明日のウィル兄のダンス対決なんだけど、見に来てくれない?兄ではなく、私を見に来て!私を!そして私を精一杯応援して。」
キャサリンは、これは恋の手伝いじゃない私の為であると強く心の中で念じながら、マーガレットを誘う。
「本当にケイティも参加するのね……対決なんて、虚しいだけなのに。」
下を向き、カップの中の紅茶をスプーンでクルクル回し、それを眺めながらマーガレットが呟く。
「こ、今回はそんなことないかもしれないわ。私、ウィル兄に鍛えられて、凄くダンスが上達したの!メグに見てもらいたい。そして、褒めてもらいたいわ。それにはダンスを比べる相手が必要だから、対決は丁度いいかもしれない。」
兄のやらかした所業を知っているので、何とも居心地の悪い誘いだと再確認しながら、キャサリンは、 マーガレットが前向きになり来てもらえるように説得する。
「上達を見てほしい……そうね、うん、見に行くわ。バッチリ応援もする。そういえば、今日のレッスンはしなくていいの?明日、対決なのでしょう?私とのんびりお茶をしていて大丈夫なの?」
「今は、やりすぎもよくないからと一時休憩中なの。メグが帰宅後、あともう少しだけやるわ。それに、メグが応援に来てくれるって分かった方が、ヤル気が出るから練習も凄く頑張れる。」
一時は断られるかと心配したが、マーガレットが来てくれることを快諾してくれたので、キャサリンは心から喜んだ。
遠くの庭の片隅から2人の様子を伺い、明日の誘いに成功したのかソワソワして落ち着きのない男、ウィリアムがそこにいた。
あ、サイン出た!
オッケーだと!!
ヤッタヤッタヤッター!!!
ばんざーい。
今にも出て行って、マーガレットに話し掛けたいが、帰られたらお終いだと妹に固く禁じられたのでグッとレンガの壁を掴み喜びを堪えている。
そんな彼は、マーガレットの帰宅後、お誘い成功と妹から報告を受けると、両手を大きく広げ、歓喜の言葉を大声で叫び駆けまわり、母親に叱られたのである。
その後、絶対に勝つ!と兄の気合が入りまくり、鬼レッスンが再開された。
妹よ、俺についてこい!!
まだまだ、これしきの事で勝てると思うな!努力と根性は勝利の言葉だぞ。
動けー!!!まだ動ける!
キャサリンも気合は入っていたが、兄のマーガレットへの熱意が強すぎて、鬼から悪魔へとレッスンが暴走し始めたので、とうとう我慢ならなくなりキレてしまった。
従者や弟などの仲裁により、何とか2人は仲直りをし、レッスンは再開された。
その場面があった所為か、2人の距離はグッと近づいたようだ。
明日は素晴らしいダンスだお披露目できそうだ。
次回、いよいよダンス対決です。




