俺、やきもちを焼く
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3日後。
ん?声?
「……ウィ……ウィル…………ウィリアム!!」
なんだ、父上か。
びっっっっっくりした。
なんだ?どうしたんだ?
「はっ、はい。何でしょうか、父上。」
「早くそこへ座りなさい。」
父にそう呼ばれて目を向ける。
そこは応接間で、父、妹、弟、マーガレットが居た。
あれ、いつの間に……?
父が向かって正面の一人用ソファーに座り、その左横に設置された長ソファーに妹のキャサリンが、右横の長ソファーには、弟のダニエルが座っている。
そしてどうしてか、ダニエルの隣にマーガレットが座っていた。
ん?なんか違う??
いつもはキャサリンの隣に座るはずのマーガレットが何故、弟の横にいるのか?
これは、どういった状況かと勘繰りつつも、俺はキャサリンの隣へ腰を下ろした。
メイドがカップへ紅茶を注ぎ俺の前へ置き、壁際への待機場所へと戻ろうとした時に、父がこれから大事な話をするからと、メイドを部屋から追い出した。
メイドを追い出すだって?
知られてはマズイ内容なのか?重大か?
いったいなんだ?
大事な話とはいったい何であろうかと考えながら、俺は紅茶を一口含み、カップを静かに置いた。
それと同時に、衝撃的な話が父から語られた。
「ウィリアム、私はお前に失望したよ。マーガレットを口説き落とすと息巻いていたようであるが、関係はさらに悪化している。このままでは、ラックランド家との関係にヒビが入ってしまう。そこで、この家の跡取りを、次男のダニーに変更することにした。マーガレットもダニーの婚約者であるならば喜んで承諾するそうだ。そうだね、マーガレット?」
その言葉と共に、俺はマーガレットへ視線を向ける。
すると、マーガレットが目線を上げて、父を見て嬉しそうな声でこう言った。
「はい、ダニーが相手であれば、喜んで婚約いたします。」
ニコニコと笑顔で言い終えると、横に居るダニエルへ顔を向け、2人で恥じらいながら頬を染め微笑み合っている。
その二人を見て、キャサリンが立ち上がり、弾んだ声で祝福の言葉を送り、拍手を大きく鳴らす。
父も立ち上がると、妹の拍手と共に手を大きく鳴らした。
そして、俺の前に居る婚約を宣言した2人は顔を見合せ、マーガレットがダニエルの腕に手を回し寄り添い、嬉しそうに2人は俺達に向かって感謝を述べる。
2人は言い終えると、マーガレットがダニエルに微笑みかけ、ダニエルがマーガレットの頭を撫で、抱き寄せる。
ラブラブだと冷やかすキャサリン。
まるでスローモーションのように、その風景が俺の目に流れ込んでくる。
なんだ?これはなんだ?
俺は、いったい何を見せられている?
なんだ?何が起こった?嫌だ、こんなの嫌だ!
メグは俺のだ!俺と結婚するんだ。
お前とじゃない。
お前じゃないぞ、ダニエル!!
婚約なんてありえない、させない。
返せ、メグは俺のだ!
それ以上近づくな!離れろ!
「離れろーーーー!!」
大きな声で叫んだ瞬間、目の前に毎日見ている天井が現れた。
はぁーはぁーはぁーはぁー
あれ……俺の部屋だ…。
ベッドの上だった。
「ゆ、夢……よかった!」
ポツリと呟く。
ああああああああああああああ、夢で良かったーーー。
マジでよかった。本当に良かった。
夢で、よかったーーーーーーーーー!!
ちょっと目元にウルッとさえ、きていた。
夢でよかったー。
部屋に従者が静かに入ってきて、カーテンを開ける。
桶に水を持ってきて、顔を洗う用意をしようとしたのだが、俺の顔を見た瞬間、手を止めた。
「おはようございます、ウィリアム様……あの、汗をかなりかいているようですが、体調が悪いのでしょうか?お医者様をお呼びしましょうか?顔色も……」
「いや、大丈夫だ。悪夢を見ただけだ。恐ろしい悪夢だ…それより、水を浴びたい。用意してくれ。」
「あ、はい。分かりました。急いで用意いたします。」
素早く指示に従い、部屋の外へ居るメイドへ指示を出す。
シャワー室へと移動中、従者が尋ねる。
「ウィリアム様、あまり眠れませんでしたか?隈が。」
「ああ、これでも一時間くらいは寝たよ。それより、仕事は進みそうか?」
「はい、本日はウィリアム様が対決でいらっしゃいませんので、例の件を単独で情報収集を重点にしてまいります。それから、10年前に我が領地を荒らし周辺諸国と協力し解散させた組織ですが、報告では各国へ散らばった残党はあまり可笑しな動きはしていない様子です。先月、西大陸でボスが亡くなり世代交代をしたので何か動きがあるかと思われたのですが、今の所、報告はありません。」
「そうか、続けて監視を頼む。」
シャララーン。
うん、いつもの俺だ。
冷静に、大丈夫、大丈夫だぞ。
あれは夢、気にするな俺!!
俺はカッコイイ!
シャララーン。
自信を持て。
俺が勝つんだ。
「それと、国内の派閥の動きはどうだ?」
「相変わらず、第一王子派と第二王子派でいざこざが絶えません。クロスター家は中立、もしくは第三王子派ですので面倒には関わらずに済んでいますが、ケント公爵家が足の指先を踏まれたようですね。問題は無いようですが。」
「あいつの家は長兄が第一王子と親しいからな。」
「そうですね。そういえば…フレデリック様と言えば—――」
従者による仕事の報告は続く。
水浴びが終わり着替えを済ませて食堂へ行くと、父はもう仕事へと出かけており、母は社交の準備の為に、すでに居なかった。
食堂に居たのは、妹と弟だけである。
夢の所為で、今、弟に会うのは非常に気まずい…ングッ。
仕方ないよな……。
早く食事を済ませ、会話せずに出掛けてしまおうと急いで着席し食べ始める。
その俺の不自然な様子が気になったのか、ダニエルが話し掛けてくる。
逆効果になった。
「ウィル兄さん、慌てているようだけれど、今日の対決は朝早いの?」
ダニエルが、いつもの変わらない優しい顔つきで、優しく声を掛けてくる。
今はその優しい声さえも聴きたくない……夢の話なのに、俺は心が狭いな。
「いや、いつもの時間だ。変わりない。殿下が、対決の日は仕事を休みにしてくれているからね。」
冷静に、いつも通りの振舞いを心がけるウィリアム。
「殿下も物好きと言うか、変人と言うか、奇抜な考えの持ち主だよね。今日の対決は何なの?」
「今日は流行知識を競うようだ。」
早く会話を終わらせたいと思いながら、どんどん朝食を平らげていく。
「流行知識か、面白そうだな。暇だし、僕も見に行こうかな?姉さんも行くの?」
話を振られたキャサリンが返事をする。
「私は行かないわ。今日は家でメグと刺繍をする約束をしているから。」
キャサリンがウィリアムを睨みつけてくる。
おそらく、この前の教師の話をマーガレットから聞いたのだろう。
「え?メグが家に来るの?それなら、僕も家に居ようかな。」
ダニエルがそう発言した途端、俺の中の心メーターがガッと高く跳ねあがった。
「ダメだ!ダニー、お前は俺と一緒に来い。メグとは会うな!!」
大声を出して、彼を止めていた。
「え、何で?ここの所、ウィル兄さんの所為でメグが家に来てくれなかったんだから、僕は久々に会って話がしたいのに。」
仲良く頬を染め語り合う、あの夢の2人の光景が脳裏に過る。
くー、腹立つな~。出てくんなこの野郎!!
あれは本人じゃないんだ。
あんな事ありえない……ありえ……。
「ダメだ、絶対にダメだ。メグは俺と婚約するんだから、お前じゃない。」
声に出ていた。
ダニエルは驚き目を丸くし、キャサリンは軽蔑した顔を向けていた。
あ、つい口に…あれは悪夢、悪夢なんだぞ。
現実にはならない、なりっこない。
落ち着け!
その2人の様子を見て、口を手で塞ぎ、自分が発した言葉を冷静に考える。
そして、弟にまでやきもちを焼いてしまったこの状況が一気に恥ずかしくなった。
誤魔化すように、
「いいから、ほら、ダニーは一緒に出掛けるぞ。早く用意をしろ。」
と言い残し、朝食を切り上げて、席を立ち食堂を後にした。
はあ、心臓に悪い……。
そして、ダニエルを連れて、逃げる様に対決会場へと向かった。
馬車内では窓の外を見つめ続け、一言も話さなかった。
夢で本当によかったね、ウィリアム。
弟ダニエルの愛称は、ダニー。キャサリンとは年子です。
次回は対決です。




