俺、自覚する(後半)
いつもお読みくださりありがとうございます。
前半の続き、過去話の途中からです。
ドンッ!!
俺は拳をローテーブルに強く叩きつけた。
う、痛い…….
それよりも……それよりも、あれは!?
「浮気だ!!」
俺の言葉に、ブーとヘンリー殿下が思わず噴出した。
「う、浮気って。ウィリアムは彼女にとって、何者でもないだろう?」
一通り話を聞いたフレデリックがマーガレットをかばい発言する。
「何者でも……ない……ああ、そうだが、そうなのだが……いや、いいや、そうではないだろう。俺はもうすぐ婚約者になるんだぞ!!それなのに、あの男はなんだ!?あんなに、あんなに可愛いマーガレットの笑顔を……俺には向けられないのに、なんで、あんな奴なんかに。なんでだよ!!」
俺は、かなりムカついていた。
ムッカムカしていた。
「あれれ?もしかしてなんだけどさ~ウィリアムって、ラックランド嬢のこと、実は本気で、好きなんじゃないの~??」
ヘンリー殿下が顎に手を当てさすりながら意地悪そうに言う。
「へっ???」
俺は、殿下の思いもよらない言葉に素っ頓狂な声を上げ驚く。
「だってね、もうここ最近の君の行動とかさー。さっきの態度と言い、もうそうでないと説明が付かないんだよね~。そう思わない?」
殿下がフレデリックに同意を緩く促す。
すると、何かに気が付いたフレデリックが、
「ああ!?ああ、そうか!そういう事か!!」
と、手をポンと叩き、声を上げた。
「何?何か分かったのか!?」
ヘンリー殿下がワクワク顔でフレデリックに聞く。
「ほら、これまでウィリアムの付き合った女、みんな彼女と見た目やイメージから、かけ離れていると思わない?どこか似たような要素のある娘とは、絶対に付き合わない。ねえ、そう言う娘とは親しくならないように無意識に除外してない?前に、夜会で突然ずっと見ていましたーとか言って威勢よく告白してきた小さいのに巨乳の可愛らしい栗毛の娘にいたじゃない?かなり可愛いかったのに、お前は速攻断っていたから、あのレベルで断るなんてどうしてだろうって思っていたんだよね。あとでお前に理由を聞いたらタイプじゃないからってサラッと言ったんだ。あれってさ、実は逆で、タイプだったから断ったんじゃないのか?ずばり、本命のラックランド嬢に似ているが、お前は本人じゃないからお断りだって!!」
フレデリックが得意げに持論を述べる。
その持論を分析し、殿下がまとめる。
「そうか、つまりこういう事か……恋愛枠では本命しか受け付けないけど、タイプ以外の美女は感情が揺らがないから遊びで付き合うと。それを無意識に判断して実行していた……うわぁ、お前、相当キツイな。引くわ~。」
ヘンリー殿下の高貴な御方の口から、言ってはならないような言葉が飛び出す。
「ハッ、もしかしてさ、あれも?あれもだったりする?ウィリアムって、女遊び激しくなる前、ラックランド嬢に意味なく、色々な対戦を挑んでたんだよ。ジェームスがよくボヤいていたし、僕もポーカーの練習にかなり付き合わされたからよく覚えてるんだけど、あれって、好きな娘には負けられない、イイところ見せたいとか、そういう拗らせからなんじゃないの??そうだったらお前、可愛すぎるぞ。クハッ。」
「あっ、でもそれ~ウィリアムならありうるぅぅ~。」
殿下とフレデリックがおかしそうにケラケラ笑いながら話している。
なんだなんだ?こいつら何を言っている?
俺が、誰を好きだって?
へ?前から、拗らせ?
2人にそう言われて、俺は無意識に赤面していた。
何故か、俺のひた隠しにしていた部分を丸裸で見せびらかしたような、妙な気分になったのだ。
その反応を見たフレデリックが声を上げた。
「え、まじで!?本当にそうなの!?」
2人が引いている。
「いやいやいや、これはその…暑いから、暑いからだ。」
必死で手で顔を仰ぐ。
お前が恥ずかしい仮説を勝手に立てて、今、そう暴露したんじゃないかと言ってやりたいが我慢した。
俺も赤面なんて、どうしてそう反応をしたのかと不思議に思い、一先ず気持ちを落ち着かせる。
その間、俺は思考をフル回転させた。
本当にそうなのか?
俺がマーガレットを好いている?
昔から?
もしそうならば、かなりの恥であるぞ。
初恋拗らせて、初恋相手を虐めてた……!?
振り向いてもらえないからって、全く別のタイプの女とだけ遊びまくるとか……ダサイ。
ちょっと待って、俺、痛すぎじゃん。
そんな俺、カッコ悪すぎる、いやいやいや、違うだろう?
誰か、違うと言ってくれ。
その時、思い出す。
自分が昔、マーガレットに酷いことを言って傷付けていることを……。
そうだ、俺だって貴族教育は受けている。
女性をましてや、好きな女をそんな目にあわせたりしないのは、当たり前の事だ。
好きな女を傷つけたりするはずないだろう。
うん、絶対にしない。
シャララーン。
ほら違う、違ったよ。な、そうだろう??
その事を思い出したので、分かりやすく赤面しておきながら、フレデリックの意見を強く否定してみせた。
「いやいやいや、おそらくメグを好きと言うのは違うよ。だって俺は、あいつに酷いこと言って傷付けているから。俺より劣ってるとか、弱い人間だとか、お前に興味ないとか……つまらない奴だとか…………かなりキツイ言葉を浴びせたんだよ…………」
「うわっ、そりゃあ、婚約拒否するよ。君もよく申し込んだね。僕なら君と一切口きかないよ。」
「ラックランド嬢は見た目のわりに、内面はかなり大人なんだな~偉いな~。」
殿下とフレデリックの言葉に、ウィリアムは苦虫を食い潰したような顔になり黙っている。
「ああ、分かっている。自分でも……思い出して、反省しているんだ。」
俺は自分の口に出した言葉で彼女を傷つけたことを再確認し、気落ちした。
「ん?思い出す?え、覚えてなかったの?あの秀才ウィリアムが!?うーん、それってどんな状況で出た言葉だったんだろう?ウィリアムは女にだらしないけど、根底は紳士だ。無暗に人を傷つけたりはしないと思うんだよね。特に女性ならばなおさら。この記憶力抜群のウィリアムが忘れたいほどの場面かぁ~相当な何かがあったんじゃないの???」
ヘンリー殿下が疑問を投げかける。
え、考えても見なかった。
記憶を消したいほどの何かがあったとか。
自分の記憶が無くなっていたことも気づいてなかったし。
「そうだな。もしかしたら、何かあるのかもしれない。よし、探ってみるか!テオ、この部屋にジェームスを連れてきてくれ。ウィリアム、君はそれの下に潜って、ジェームスからは見えないように隠れてくれ。」
フレデリックが指示を出す。
その間に従者が急いで部屋を後にする。
「何でだ?」
「彼、その方が喋るんじゃないかと思って。」
俺は分かったと返事をして、殿下が執務をいつでも行える用にと窓際に置いてある大きな執務机の下に潜り身を隠した。
数分後、外が騒がしくなり、ドアが開けられ、羽交い絞めにされたジェームスがフレデリックの従者テオによって部屋に押し込まれた。
「やあ、ジェームス、少し話を聞きたいんだ。こっちに来て座ってくれ。」
ヘンリー殿下がソファーへ着席を促す。
「ま、またですか!?ていうか、普通に呼んでくださいよ!!自分の足で歩いてきますから。」
しぶしぶ殿下に従うジェームス。
「すまんすまん、テオが手荒であったな。言い聞かせておくよ。」
ニコニコしてフレデリックが言った。
「それで、俺に聞きたい事とは何ですか?」
ソファーに腰を下ろし、テオが運んできた紅茶を啜りながら、ジェームスが聞く。
「実はね、ウィリアムの事なんだが、彼は君の妹さんの事が好きなようなんだ。」
それを聞いて、ブッと紅茶を吹き出しそうになり、慌てるジェームス。
一呼吸付き、ジェームスが考えを整えて話し始めた。
「あいつ……ようやく自覚したんですか?」
一瞬、部屋が静まり返る。
「「え?」」
ジェームスの言葉に、2人が驚き声を出した。
「!?」
実は、俺も机の下で驚いていた。
口を押えて、声は出さずに済んでいた。
「自覚って?ジェームスは知っていたの?」
フレデリックが聞く。
「ええ、2人の様子を近くで見ていれば嫌でも気づきますよ。あいつ、昔からメグの事が大大大好きなんです。でも当の本人が無自覚で、さらに性格が歪んでいるから、妹に対する態度が酷い、酷い。もう、かなり長い間、片思いを拗らせているんですよ。」
マジで?俺、ずっと片思いしてたの??
「それはいつから?」
フレデリックが追及する。
ジェームスが天井を見上げしばらく考えたのち答える。
「えっと、メグがあいつを犬から助けた時から始まって、あの頃はお互いに幼かったので、何も問題なく接していたんですけどね。徐々にあいつの性格が歪み始めて、拍車を掛けたのは湖で溺れたあいつをメグが助けてからですね。あれから、アピールがおかしくなった。もともと妹に無暗に絡んでは、ちょっかいを出していたんですけど、いわゆる好きな子を虐めちゃうってやつですよ。何度止めたことか。」
た、確かに……ジェームスには妨害されていた。
あれ、止めてたんだ。
怒りの感情を鎮める様に一口紅茶を飲み喉を潤し、ジェームスが続きを話す。
「あいつ、妹に溺れて助けられた一件で、好きな子が自分より能力があることを良しとは思えなかったみたいで、対決させろって言い出すようになって。それ以来、何故だか滅茶苦茶努力して挑んでくる嫌がらせ始めるし、あいつは一向に自分の気持ちにだけは気がつかないおバカっぷりで…………まあ俺としては、妹が日に日にあいつに、苦手意識を持つようになっていっていたから、このまま政略結婚に流されずに済むなぁとか考えて万々歳だったのですが。しかし、ここに来て自覚するとは……クソ、面倒だな。」
ジェームスが我慢ならなかったのか、途中から怒りで早口になって捲し立て話した。
そうだったのか……と殿下とフレデリックは顔を見合せる。
俺もジェームスの言葉にそうだったのかと、昔の自分の態度や気持ちを照らし合わせ、確認する。
確かに、記憶では凄い努力していた。
あいつに認められたかったのか?
好きになって貰いたかったのか?
あ、そうかも……これはそうだな。
待って、俺、拗らせ過ぎじゃない?
俺ってそう言う奴だったか?あっ、俺、そう言う奴だった!!
シャララーン。
「それでね。ウィリアムが君の妹さんに酷いことを言ってしまった時の状況を、詳しく教えて欲しいんだ。彼も何故そんなことを言ってしまったのか気にしていて、反省するにも詳しく思い出せないみたいなんだ。今聞いた話からしても、ウィリアムが無暗に君の妹さんを傷つけるとは思えないんだよね。」
ヘンリー殿下が困り顔で話すので、仕方がないとジェームスが話し始める。
あ、本題だ。
「確かあいつ……ウィリアムがあの言葉を吐いたのは、ポーカー対決をした後でした。あの日、カードゲームが得意な妹が負けるはずはないと、ウィリアム以外のその場にいた者は分かっていたのだが、もう半年以上その対決を行っていたし、手加減したのか油断したのか分からないけど、メグが負けたんだ。そしてその瞬間、メグが大泣きした。もうウィリアムとやりたくない。対決はつまらない、嫌いだと―――」
ジェームスの話の途中で殿下が指をパチンと鳴らし、口を挟む。
「それだ!つまらない、嫌いだと否定されたからじゃない!?」
「それもあるけど、好きな娘が自分の所為で泣いたから、悲しませてしまったからじゃない?」
フレデリックも続く。
「え、何がですか?」
ジェームスが二人に疑問をぶつける。
「ウィリアムが好きな娘に、なぜ酷いことを言ってしまったのか、その場面をなぜ全く覚えていないのか、ずばりその理由は何なのか!!だよ。」
殿下が鼻息を荒くして答える。
「あいつ……本当にこの事を忘れていたんですか?妹をあんなに酷く傷付けといて?」
ジェームスがだんだんと鬼の形相になり、怒りだす。
「ちょ、ちょっと落ち着け。ほら、だからおかしいと思って調べているのだ。ウィリアムはあんなんだが、そこまでクズじゃないだろう?お前だって、昔からよく知っているんだから、よく分かっているだろう?」
殿下が冷静に諭す。
「まあ……確かにその通りですよ。それで、どう結論を出しましたか?」
ジェームスが不貞腐れたような態度で聞く。
「おそらく好きな娘に泣かれて、つまらない、嫌いだと言われ、自分は嫌われたと思って記憶を改ざんするくらいテンパった。あとは、そのことに余程後悔しショックを受けたのだろうな……思わずその時、いや恋心を含めた記憶を全て封印したと。」
何故だか残念だと言った雰囲気が部屋に流れた。
うわ~なんか、この空気居ずらいな~。
「もう出てきていいよー。」
え!?今!?出づらー。
そうフレデリックが言うので、俺はしぶしぶ机の下からのそりと立ち上がり、ジェームスの前までやってきた。
ジェームスが驚き、殿下とフレデリックを無言で交互に見て、眉間に皺を増やしている。
「すまん、彼が居ると君は話をしないと思ったのでね。それに、彼にも真実を聞いてほしかったのだ。で、どうだった?」
殿下が俺に問う。
「うん、俺はメグが好きだったみたいだ……いや、好きだ。さっきの話でかなり記憶や感情を取り戻した。うん、彼女への気持ちを自覚したよ。今も、その気持ちは続いているんだ。」
そう俺が言ったと同時に、ジェームスが吠えた。
「それでどうする気なんだよ!!妹に強引に迫り婚約でもする気なのか!?絶対にさせない。お前は拗らせヤローなんだから、そのままでいいだろう、妹には関わるな。」
ジェームスが歯をギリギリ鳴らして、ウィリアムを睨みつける。
「いや、メグに何かをしようとは考えていないよ。ジェームス、ありがとう。気持ちに気づかせてくれて。でもごめん、気持ちに気が付いた以上、メグへ関わらないというのは約束できない。」
シャララーン。
俺は真剣に向き合いそう言った。
ジェームスは話にならない、妹には関わるなと言い捨てて、怒りながら部屋を出て行った。
ジェームスが居なくなってからしばらくして、フレデリックが質問する。
「それで、君は何をするつもりなの?」
俺には分かっているから嘘はつくなと言った感じに話してきた。
「お前にはすべてお見通しだな。そうだな、まずは メグとあの教師の関係を終わらせる。教師には離れてもらうとするよ。」
シャララーン(悪い顔バージョン)
そう俺が言ってから30日経たないうちに、教師は学院を辞め、冴えない女と結婚した。
相手の女が、俺達が仕向けた女ではなかったので少しばかり驚いたのだが、マーガレット以外の女と結婚して、学院からいなくなってくれたので、俺は最高に歓喜したのだった。
主人公、拗らせて8年、ようやく自分の気持ちを自覚しました。
そして、悪事はバレるのが鉄則です なのです。




