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内閣調査室からの訪問者

「お邪魔します。ご連絡いたしておりました、内閣総理大臣・安田平八秘書の田中です」


 田中と名乗る男を一瞥した御影が声をかけた。


「ああ、いらっしゃい。内閣調査室の鮫島さんですね」


「え・・・あ。。」


 鮫島と呼ばれて、男は狼狽した。


「鮫島さん、科捜研を舐めてもらってはいけませんな。ここでは偽名や身分を偽ることはできません」


 今度は田村が言い放つ。

 それを聞いた男は観念したように応えた。


「はあ、すでに調査済みということですな、恐れ入りました。改めましょう。内閣調査室の鮫島亮さめじまりょうです」


 内閣調査室(正確には内閣情報調査室。略称・内調あるいはCIRO=サイロ)は日本のCIAとも呼ばれる調査機関である。

 もっとも公式にはCIAのような諜報機関であることは否定しているが。


 ・・・それにしても、これほど心が開けっ広げの人に会うのは久しぶりな気がする。


 真奈美はそう思った。

 サイキックではない鮫島は、ここでは隠し事や嘘は通用しない。


「鮫島さん、汚いところですが上がってください。お茶を淹れましょう」


 真奈美は慌てて、ちゃぶ台に置かれているスプーンとフォークを片付ける。


 田村は鮫島をちゃぶ台前に座らせ、茶を運んだ。

 鮫島は室内を見回しているが、ここの様子については特に驚いていない。

 当然だが予備知識を持って来ているのだろう。


「さて、ご用件をお伺いしましょうか」


 田村が言うと、鮫島は口を開いた。


「こちらはS.S.R.Iという科捜研の特殊セクションの本部だと聞いております。私は半信半疑なのですが、あなた方がサイキックだという噂は本当ですか?」


「サイキックなど存在しませんよ。私たちは行動心理学のエキスパート集団です。それが傍目には超能力のように見えるだけです」


「そうですか。しかしあの東心悟はどうなんでしょうか?彼の予告通りに人が死んでいる。我々もどうやって総理をお守りすれば良いのかわからないのです。あなた方のお知恵をお借りしたい」


 ここで御影が口を挟んだ。


「率直に言っていただきましょう。あなたは確かに半信半疑だが、あなたの上司は我々がサイキックであると確信している。特に僕のことはかなり調べましたね」


 鮫島はまたも観念したように答えた。


「本当に隠し事はできないようですな。御影さん、あなたは稀代のサイキックで東心悟と同じことが出来ると聞いています。だからあなたに頼みがあります」


「お断りします」


 御影は目を細めて鮫島の顔を見つめながら即答した。


「僕は殺し屋ではない。東心悟を先に殺せなどという依頼を引き受けることはできない」


「あ・・いや、それは。。」


「それに僕にそんな力はありませんよ。しかし総理の警護には協力いたします。予告当日の総理のスケジュールを教えてください」


「あ、はい。これが当日のスケジュールです」


 鮫島は手にしていた鞄からプリントアウトされたスケジュール表を取り出し、御影に手渡した。

 御影はそれを眺めながら言った。


「午後5時から**駅前広場で衆議院議員候補の応援演説ですか。これは危険だな。中止できませんか?」


「この地区は野党の勢力が強いのです。中止はできません」


「そうですか。宮下君、東心悟の因縁切りの大集会は何時からかな?」


 真奈美はノートパソコンでコスモエナジー救世会のページを調べた。


「午後4時から6時となっていますね」


「やはりそうか。東心悟はその応援演説中の総理の命を奪うつもりだ。多くの民衆やマスコミの見守る中で総理が倒れる。これは大いに世間を騒がせるな」


「それで、どうやって総理を警護するおつもりなんですか?」


 御影は例の人懐っこそうな笑みを浮かべた。


「僕に考えがあります。しかし、あなたは期待外れだったでしょう?やはりサイキックなんか存在しなかった。そうですよね?」


 鮫島はぼんやりした顔で答えた。


「ああ・・サイキックなんてやはり存在しないのですね」


「そうです。さあ、帰って上司にそう報告しなさい。では御機嫌よう」


 鮫島はふらふらと立ち上がり、挨拶もなく玄関から出て行った。


「御影さん、今の・・・御影さんも人の思考を操れるんじゃないですか!」


 真奈美が御影に詰め寄る。

 この男はいったいどれほどの能力を隠し持っているのだろうか。


「彼くらい単純な人間ならね。しかし東心悟のように一瞬で憎悪の感情を増幅させ、行動を操れるほどの力は僕には無い」


 御影はすでに冷めた茶を一気に飲み干した。


「それに国家権力の中枢が本気でサイキックの存在を信じてしまったら、僕らは人間兵器として利用されてしまうに決まっている。それはご免だよ」


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