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何を見落としているのか?

 間もなく穂積恵子は救急車で病院に搬送された。

 御影と真奈美も車で後を追い、入院の手続きを取った。


 幸い命に別状はなかったものの、穂積恵子の意識はなかなか回復しなかった。


「くそっ!完全にやられた。穂積君は東心悟に思考と行動を操られたんだ」


 真奈美にもそれは分かった。

 東心悟はもともと穂積恵子が持っていた御影への思い、そして真奈美に対する敵意に働きかけ、増幅させたのだ。


「サイキックである僕や宮下君には思考コントロールが通じないから、穂積君に仕掛けたんだ。しかしこれに何の意味がある?」


「脅しでしょうか?」


「東心悟は僕がこんなことをされて引っ込むと考えるか?ありえない」


 たしかに御影は真奈美に隠しきれないほど本気で怒っている。


「あえて言うなら僕たちへの挑戦だ。自分の力を見せびらかしたんだ。しかし・・」


 御影はまだ納得のいかない顔をしている。


「なにか解せない。東心悟の行動の真意が理解できない。僕は何か見落としているのだろうか?」


 真奈美も考えてみた。


 ・・・東心悟の行動の真意?御影さんを怒らせてどうなるのか?絶対負けない自信があるから?力を示して優越感に浸るため?ただそれだけだとしたら、あまりにも子供じみている。私たちは何を見落としているのだろうか?


 自殺未遂ということなので、間もなく警察が駆けつけてきた。

(ややこしくなるので、真奈美への殺人未遂の方は黙っておいた)


 それにしてもナイフが曲がっている理由などの説明は困難を極める。

 結局のところ、真奈美が身分を明かし、山科警部補にも出てきてもらったが、それでも解放されたのは午後8時過ぎだった。


 病院を出たところで山科が話しかけてきた。


「東心悟が来たんだって?何?奴は他人の思考と行動を操れるのか?信じられんな」


 山科は半信半疑のようだ。


「サイキックでなくても他人の思考と行動を操れるメンタリストは日本にも数人居ますよ。本を書いている人も居るでしょう」


 御影が答える。


「そういやそんな本を読んだことがあるな。そんなに上手くいくのかよと思っていたがね。まあそれはいいが、あんたらの捜査は進んでいるのか?」


「とにかく一筋縄ではいかない相手だということは分かりましたよ。法では裁けない相手です。僕たちでなければ止められないでしょう」


 山科は憮然とした表情だが、それでも石頭では無い。


「俺は今まで地道な捜査で多くの事件を解決してきた。怪力乱神を語らずが信条だ。しかし今回はあんたらが頼りだ。法で裁けない悪というのはどうも気に入らん。何でも協力するから言ってくれ。じゃあな」


 山科と真奈美、御影のふたりは、それぞれ駐車場に停めていた自分たちの車に乗り込んだ。


「宮下君、今日はこのくらいにしよう。事務所の近くまで送ってくれるかい?」


 御影が何を考えているのかは真奈美にも読めない。

 しかし、彼の気持ちがひどく沈んでいることは、なんとなく感じ取ることができた。

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