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狂乱のナイフとサイコキネシス

「穂積君どうした?・・・少し落ち着きたまえ。さあ、ナイフをこちらに渡しなさい」


 御影は穂積恵子に向かって、努めて静かに声をかけた。

 その声を聞いた穂積恵子は、目からボロボロと大粒の涙をこぼした。


 そして両手で握りしめたキッチンナイフの切っ先を真奈美の方に向けた。

 真奈美の頭に刺すような痛みが走る。


 真奈美はあえて穂積恵子の心を読まないようにしていたのだが、それでも感じる・・強力な憎悪の思念だ。


「どうして?どうして、あんたなんかがここに居るのよ?ここは所長と私の事務所よ」


「穂積さん、落ち着いてください。これは警察が御影さんに協力を依頼した事件なんです」


 真奈美の言葉はかえって火に油を注ぐ結果になったようだ。

 顔中を涙でぐしょぐしょに濡らした穂積恵子は、眉間に皺をよせ目を細めて真奈美の顔を睨みつけた。


「私と所長でずっとやってきたのに!なんで急に現れてパートナーぶっているわけ?ねえ!ねえ!なんなのあんたは!?」


 穂積恵子は錯乱したように喚き散らしながら、ナイフを握った両手を前に突き出し、真奈美の方に向かってふらふらと歩を進めた。


 ・・・本気だわ。この殺意は本物・・私、刺される?


 真奈美は穂積恵子から発せられる強烈な殺気を受けて、立ち尽くしてしまった。


「穂積君、やめるんだ」


 御影が真奈美を庇うように立ち塞がり言った。

 それを見た穂積恵子は再び大粒の涙をぼろぼろとこぼした。


「しょ・・所長もやっぱり・・その子の方がいいんですか?・・私なんか・・私なんか・・もういらないんだ・・」


 声を詰まらせながらそう言った穂積恵子は、ナイフの切っ先を自分の喉に向けた。


「ダメだ穂積君!!やめろ!」


 御影の叫びも空しく、穂積恵子は喉元に力いっぱいナイフを突きたて、そのままうずくまるように倒れた。

 あまりの光景に真奈美は声も出ず、動くこともできなかった。


 御影は素早く穂積恵子に近づき、様子を確認している。


「宮下君、すぐに救急車を呼んでくれたまえ」


「ほ・・穂積さん・・死んでないですか?」


「大丈夫だ。強く喉を突いたから気絶しているが、刺さってはいない」


 ・・・あれほど強くナイフを突きたてたのに刺さっていない??


 真奈美は倒れている穂積恵子の手元に転がっているナイフを見た。


 そのナイフは先端部分が90度以上の角度で曲がっていた。

 御影はあの一瞬に、手を触れることなくナイフを捻じ曲げたのだ!


 真奈美はこのとき初めて、御影の念動力サイコキネシスの実力を目の当たりにした。

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