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S.S.R.I本部

 田村貴仁、宮下真奈美、そして御影純一の3人を乗せた乗用車は、古い住宅街の中にある広いがあまり手入れされていない庭内に滑り込んだ。

 この庭は長らく剪定されず伸び放題になっている垣根らしきものに囲まれている。


 そして庭の奥にある建物は安普請の古い民家のようだ。

 古びたガラス格子の引き戸の玄関の脇に、表札替わりに掛けられている小さな木の看板には『科学捜査研究所』とペンキで書かれていた。


「・・田村君、ほんとうにここが科学捜査研究所なのか?科捜研といえば警察の内部組織だろ?もっと立派なものを想像していたぞ」


 玄関の鍵穴に、まるで骨董のような鍵を差し込みガチャガチャやっている田村に御影が問いかけた。


「科捜研といってもウチは表向き存在しないセクションなんだ。予算もあまり無いものでね・・まあ上がりたまえ」


 建物の内部も外観と変わらず古びた民家だ。

 玄関の脇には昭和レトロな小さな台所があり、古い冷蔵庫、コンロの上にはこれまたレトロなヤカンが置かれている。


「茶でも淹れよう。君たちはそっちに座って休んでいてくれ」


 田村が指さした部屋は6畳ほどの畳敷きの部屋で、中央にやはりレトロなちゃぶ台がある。

 真奈美が押し入れから出してきた座布団をちゃぶ台の周りに並べた。

 しばらくすると、田村が湯呑に入った茶を運んでくる。


「科捜研所長自ら茶を淹れてくれるとはありがたいな。良い香りのほうじ茶だ」


 御影が湯飲みを手に取り、鼻に近づけ匂いを嗅いでから茶を啜った。


「ここは通称・超科学捜査研究所(S.S.R.I)の本部だ。現在の所員は私の他には宮下君だけだがね」


 御影は部屋の内部を見渡した。

 民家なのにタンスなどの家具が無いので非常に殺風景である。

 しかしどう見てもここで科学捜査の研究が出来るとは思えない。


「驚いたでしょ?私も初めてここに連れてこられたときは泣きそうになりましたもの」


 私立の理系大学を卒業してしばらく就職せずに過ごしていた真奈美は、官公庁の広報で見た科学捜査研究所の職員募集に応募したのだ。

 10代のころから大好きだったTVドラマ「科捜研の女」のイメージを抱いていた真奈美は、採用の喜びも束の間、ここが職場だと知ってひどく落胆したものだった。


「ウチは本物しか雇わないからね。御影君も知っての通り、本物は非常に少ない。宮下君は貴重な人材だったんだよ」


「なるほど。それでここでは今までどんな事件を取り扱って来たんだい?」


「ウチにお呼びがかかることはめったに無いんだがね。前にウチが本格的に出張った事件はオウル真実教による毒ガステロ事件だったな」


 御影は茶を吹き出しそうになった。


「オウル事件だって?もう20年以上も前の事件じゃないか。今回の事件はそれ以来ってことか?」


「まあね。オウル事件ではウチは隠密裏にかなりの成果を上げたからね。その功績で今でもこうしてこの研究所が存続させてもらえているわけさ」


「つまり田村君、そろそろ手柄を上げなければここも危ないわけだな」


「まあそう言うことだ。今回は国家の危機でもあるからね、この事件を解決すればここもあと20年は安泰だろう。宮下君に所長の椅子も回せるってものさ」


「私、その椅子要りません・・ていうか、ここ椅子ありませんし」


 真奈美の言葉に田村と御影は声を上げて笑った。


「ははは・・宮下君は意外に面白い子だな。ところで田村君、捜査の方針についてなんだけど、実働捜査は僕と宮下君に任せてほしいんだ」


 御影の言葉に田村は少し鼻白んだ。


「実働捜査ったって御影君は捜査の素人じゃないか。いくら強力なサイキックでも捜査を任せられるわけがないだろう?」


「僕が捜査の素人だって?田村君は山科さんから僕の表稼業を聞いてなかったのかい?」


 御影はスーツの内ポケットから名刺を取り出し、田村に手渡した。


「・・・御影探偵事務所所長・御影純一?君は探偵なのか?」


「もっとも依頼はめったに来ないがね。それはS.S.R.Iも同じだろ?いいかい真面目な話だ。もし東心悟が僕と同等以上の能力の持ち主だとしたら、悪いが君の力では太刀打ちできない。しかし宮下君の力は予想以上に強かった。彼女と僕が力を合わせれば東心悟を出し抜くことは可能だと思う」


 御影の言葉を聞いた田村は少し考えてから言った。


「・・いいだろう。最強のサイキック・チーム結成というわけだな。では任せたぞ。宮下君もいいな?」


「え、あの・・断ってもいいんですか?」


「ダメだ。これは所長命令。頑張ってくれたまえ」


 ・・・やっぱり。。でもこれでやっと警察の組織らしい仕事ができるのかも。。


 真奈美はまんざらでもない気分だった。


「ところで田村君。オウル事件のときの所員たちはどこに行ったんだ?」


「オウルは君たちも知っての通り残虐な組織だった。当時の所員2名は優秀なサイキックだったが、無念にも殉職したんだ。彼らのためにも手柄を立てて、この研究所を守ってほしい」


 え!・・・やっぱりこの話、断れないのかしら。。


 そう思いながらも結局は断らなかったため、宮下真奈美は御影純一と共に恐るべき敵との命がけの死闘を繰り広げることになるのだった。


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