試練の
先日の祭りの時とは違い、今朝の村は静けさに満たされていた。まるで洞窟の中のような微妙な暗さも相まって少し不気味にさえ思える。そんな中を僕は一人、歩みを進めていく。
「よぉ新人…」
「…」
村の住居の物陰から姿を現したのは、弓を片手に持った一人の男。その目を見るに…
「誰ですか?」
「……まぁ、お前を試しに来た……って感じかな」
「…分かりました」
「……剣を抜かないのか?」
鞘に入ったままの剣を抜かない僕を見て、男は少し困惑する。
「あなたは僕に言いました…試すって…だから僕は剣を抜きません」
「ふっ……そうかい」
僕の対応を鼻で笑いながらも、男は背中に背負った矢筒から矢を抜き取り、弓を引く。
「俺の名はロビン…お前は?」
「僕は……ベイン」
「ベイン…それじゃあ始めようか」
突如として放たれた一矢…僕はそれを間一髪の所でかわす。
「その身のこなし…普通のなり損ないじゃないな」
「覚醒者……ですか?」
「どっち側かなんて知らねぇが、そうだろうよ」
「…そうですか」
「ボケっとしてんな!次行くぞ!」
二射目三射目と次々にやが襲いかかる。しかし僕は、そのやの数々をロビンに接近しながら器用にかわして行く。そしてーー
「……」
「…終わりです」
剣の柄頭を喉元に当てられても、ロビンは何食わぬ顔でニヤニヤと笑みを浮かべている。
「殺さないのか?俺はお前を殺す気で矢を打ったんだぜ?」
「あなたが僕にどう危害を加えようと、僕はあなたを殺しません…」
「あまいな。この世界で生きていくには、お前のその甘さは命取りになるぞ」
「誰がどうしようと、僕は絶対に誰も殺さない…」
「善者のつもりか?自分が上手くやっているつもりなんだろうが、お前がやっているのはただの偽善だ。自分の手を煩わせたくないと遠回しに言っているようにしか思えないな」
「そんな事は無いっ!」
ここに来て初めて声を荒らげた僕に、ロビンの気が一瞬引けたようだった。
「この世界の住民は被害者だ……僕もそう。だからこそこんな世界は間違っている…僕達は……僕達は幸せであるべきなんだ…」
「…お前の言う幸せとは一体なんだ」
ロビンの問いかけに、僕は息を呑む。この解答は間違っているのではないか…そんな事が頭を過る。でも……今はーー
「僕はこの世界を壊します」
「…それは一体どういう事だ?俺たちの敵になるって事か?」
僕の解答にロビンは顔を強ばらせた。
「僕はこの世界を壊して、僕達が本来あるべき世界に導く……」
「地上に出るって事か…不可能だと思うがな」
「それはやってみないと分かりません」
「……」
僕の決意を秘めた瞳を前に、ロビンは発する言葉が見つからない。やがて考えるのが面倒臭いと言わんばかりに苛立ち始めた。
「あーもう考えるのめんどくせぇ!お前がそうしたいならやりゃいいだろうよ!」
「…はい」
僕は剣の柄頭をロビンの首元から引く。ロビンは深くため息をついた。
「お前が目指す場所は昨日祭りがあった場所だ。そこでラウルさんが待ってる」
「分かりました」
「…死ぬなよ」
ロビンの言葉を最後に、僕は再び歩みを進めた……目指すべき場所に…




