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Peace Of Transiency  作者: 石原レノ
miss being
2/13

自分の名の

痛い…頭が痛い…体が痛い…動かない。

声が聞こえる…誰かの声?いや、これは人じゃない…言葉を話していない…何か違う…唸り声のようなーー

「っーー!ーーっ!」

意識が疎かになる中、誰かが慌てたような声を上げた気がした……今の僕にそれを聞き取れるほどの意識はもうないーー

「良かった目が覚めたのですね」

「……」

「お父さん、この子目が覚めたみたいです」

女の子の静かな声ですら、今の僕の耳をつんざく。背中に伝わる柔らかい感触。体を包む暖かい感覚。僕はベッドに横たわっているようだ。

「……僕は」

「目が覚めたかい?」

体を起こし、自身の体を眺めていると、女の子と二人きりだった部屋に男が入室する。この子のお父さんだろうか…

「僕は…何を?」

「あなたはあの穴のそこに倒れていました。たまたま通りかからなかったらどうなってたことか…」

「穴?僕が?」

「まぁまぁシエル。この子も頭の整理がまだ出来ないだろうし、もう少し待ってあげなさい。どこか痛むところはないかい?」

「…はい」

「ここは私とこの子の二人暮しだから、ゆっくりして行きなさい。私はラウル。この子は娘のシエルだよ」

「僕は……」

自分の名前を名乗ろうとしたところで言葉に詰まる。思い出せない…自分の名前が

「ベイン…」

「ベイン?君の名前かい?」

咄嗟に頭に過ったのは、記憶の橋にあるmiss being(なり損ない)という言葉。そこから思いついたベインという名前、無意識に思いついた単語を口に出していた。

「ベイン…聞かない名前ですね」

「君はここに来るのは始めてかい?」

「…分かりません」

「そうか…」

何やら落ち着かない空気になった。気まずいというか、居づらいというか、そんな空気が漂い始める。

「シエル」

「はいお父さん」

重い声を出すラウル、自然と緊張で身体が固まったことは言うまでもない。

「今晩、村のみんなに集まるように言っておいてくれ」

「分かりました」

ラウルに言われると、シエルは早速部屋から出ていった。残された僕はラウルと二人きりでいっそう気まずい。

「君もなり損なった者…なんだな」

「…僕はーー」

「ここはアナザー・ヘヴン…と上の住人は言っている。私もそいつらにここへ落とされ、生活している…。ここの住人はそういう人がほとんどだ。子孫を残し…暮らしている」

ラウルの声調が明らかに落ち込んだように聞き取れた。励ます言葉が分からない僕は質問する事にした。

「ここの住人は何になり損なった人達なんですか?」

「……」

僕がそう問いかけると、ラウルは僕の瞳から目を逸らす。

「…知らない方がいい」

そう告げるとラウルは僕に背を向け、扉に手をかける。

「今晩は君の歓迎会をしようと思う。それまでゆっくり休んでいなさい」

ラウルの中になにかモヤモヤしたものが見える…それだけはハッキリと分かった。

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