自分の名の
痛い…頭が痛い…体が痛い…動かない。
声が聞こえる…誰かの声?いや、これは人じゃない…言葉を話していない…何か違う…唸り声のようなーー
「っーー!ーーっ!」
意識が疎かになる中、誰かが慌てたような声を上げた気がした……今の僕にそれを聞き取れるほどの意識はもうないーー
「良かった目が覚めたのですね」
「……」
「お父さん、この子目が覚めたみたいです」
女の子の静かな声ですら、今の僕の耳をつんざく。背中に伝わる柔らかい感触。体を包む暖かい感覚。僕はベッドに横たわっているようだ。
「……僕は」
「目が覚めたかい?」
体を起こし、自身の体を眺めていると、女の子と二人きりだった部屋に男が入室する。この子のお父さんだろうか…
「僕は…何を?」
「あなたはあの穴のそこに倒れていました。たまたま通りかからなかったらどうなってたことか…」
「穴?僕が?」
「まぁまぁシエル。この子も頭の整理がまだ出来ないだろうし、もう少し待ってあげなさい。どこか痛むところはないかい?」
「…はい」
「ここは私とこの子の二人暮しだから、ゆっくりして行きなさい。私はラウル。この子は娘のシエルだよ」
「僕は……」
自分の名前を名乗ろうとしたところで言葉に詰まる。思い出せない…自分の名前が
「ベイン…」
「ベイン?君の名前かい?」
咄嗟に頭に過ったのは、記憶の橋にあるmiss being(なり損ない)という言葉。そこから思いついたベインという名前、無意識に思いついた単語を口に出していた。
「ベイン…聞かない名前ですね」
「君はここに来るのは始めてかい?」
「…分かりません」
「そうか…」
何やら落ち着かない空気になった。気まずいというか、居づらいというか、そんな空気が漂い始める。
「シエル」
「はいお父さん」
重い声を出すラウル、自然と緊張で身体が固まったことは言うまでもない。
「今晩、村のみんなに集まるように言っておいてくれ」
「分かりました」
ラウルに言われると、シエルは早速部屋から出ていった。残された僕はラウルと二人きりでいっそう気まずい。
「君もなり損なった者…なんだな」
「…僕はーー」
「ここはアナザー・ヘヴン…と上の住人は言っている。私もそいつらにここへ落とされ、生活している…。ここの住人はそういう人がほとんどだ。子孫を残し…暮らしている」
ラウルの声調が明らかに落ち込んだように聞き取れた。励ます言葉が分からない僕は質問する事にした。
「ここの住人は何になり損なった人達なんですか?」
「……」
僕がそう問いかけると、ラウルは僕の瞳から目を逸らす。
「…知らない方がいい」
そう告げるとラウルは僕に背を向け、扉に手をかける。
「今晩は君の歓迎会をしようと思う。それまでゆっくり休んでいなさい」
ラウルの中になにかモヤモヤしたものが見える…それだけはハッキリと分かった。




