メアリの心
「いらっしゃい!ここが私のお家よ!」
「あの…ほんとにお詫びなんていいんだけど」
「何言ってんの!私のオオカミさんが迷惑かけたんだから、飼い主としてお詫びしない訳には私の気が済まないわ!」
「でも…」
「ベイン様、時間が時間ですし、夜の森は危険です。ここはお言葉に甘えましょう」
「…シエルがそう言うなら」
僕とシエルが赤い頭巾の少女に【無理矢理】連れてこられた場所は、森の中にひっそりと建つ木造の家だった。中は整理整頓されており、オシャレに飾り付けがされていた。
「さぁさぁ遠慮しないで!のんびりくつろいでいいのよ!」
元気の良い声で少女は言うが、僕とシエルは気まずくて仕方ない。
ーとりあえず今日はお言葉に甘えるとして、明日彼女から森の出口の道を聞いて早く出よう。街で覚醒者の情報を聞かないとー
「…うぉわっ!!」
僕が心の中で言葉を連ねていると、少女の顔が目の前いっぱいになるまでに接近していた。思わず声が出てしまう。
「あなたお名前なんて言うの?」
「僕…僕はベイン」
「へぇ、ベインって言うんだ!そっちの子は?」
「私はシエルです」
「シエル…シエルね!私はメアリ!この森の番人です!」
薄い胸を張り、堂々とした顔でふんぞり返るメアリ…ん?
「森の番人…って言った?」
メアリの口から確かにそう聞こえた気がしたが、確認のためにもう一度確認を言うと、メアリは自信満々に顔を縦に振った。
「番人という事は、この森にはメアリ様以外にも誰かお住まいなのですか?」
「いや、この森に住んでる人間は私一人だよ」
「人間は…って事は他にこの森に住んでる生き物が居るってこと?」
「さっきベイン達に襲いかかった子達がその中の一部よ」
驚きのあまり言葉を失う。こんな小さな子が森の番人だなんて…という考えが頭を過ぎる。
「そう言えばさっきのオオカミ達は大丈夫なの?あの場に置いて行っちゃったけど」
「大丈夫大丈夫。あの子達も意識が戻ったらここに戻ってくるから」
あのオオカミ達に対して、メアリは特に心配はしていなさそうだ。自分がやった事もあってか、少し安心した。
「ベインの話だと、オオカミさん達が黒かったって話だけど…」
「うん。この剣で心だけを切ったから、外傷はないよ」
「その剣…真実の剣だっけ?」
「この剣は悪の心だけを切る。切るのは心だから、誰も傷つかない」
ノエルに教わった事をそのまま伝えると、メアリは剣をじっと見つめる。
「…これさえあれば」
「メアリ?」
「ふぇ!?後、ごめん私ったら…!」
わちゃわちゃと慌てた様子のメアリは、「あははは」と笑いながら後ろ頭を搔く。僕は特に違和感も覚えなかったが、隣にいたシエルはそれを見逃さなかった。
「私ご飯作ってくるね!2人はゆっくりしてて良いから」
言葉を言い終える前に動き始めたメアリは、僕とシエルを残して部屋を出る。キッチンへ向かったのだろう。メアリが退室した後、僕とシエルはすぐさま顔を合わせた。
「どう?大丈夫そう?」
僕がシエルにそう問いかけたのは、村を出る前、ラウルから聞いたシエルの力があっての事だ。シエルは上辺の嘘を見抜く力がある。それはただの特技に留まらず、特殊な力としてのものだ。つまり、メアリがもし嘘をついていれば、シエルには丸分かりという訳だ。
「私たちとの会話に嘘はありません。ただ…」
「ただ?」
「ベイン様の剣を見て、何かしら感情を抱いたように見えました」
「メアリの言葉から何か分からなかった?」
「生憎これは私の力によるものでは無い故、これ以上の事は分かりませんでした」
どうやら女の勘と言うやつらしい。僕には分からなかったが、シエルは能力を駆使せずに何かを読み取ったようだった。
「この剣に何か思い入れでもあるのかな…」
「その剣は有名でこそはありますが、お父さんの手中にありました。村の住人以外で見た人はいないと思いますが…」
「とりあえずメアリには警戒とまではいかなくても、この剣に対しては少し気を配っておこうか」
「はい…」
納得したとまではいかないが、シエルは僕の提案に了承してくれた。




