オオカミと剣の力
森へ到着した。2~3m位はあろうかと思えるほどの木々が生い茂り、足元は草木が道を作り上げていた。とても獣道とは思えないほどに整備されており、見るからに人が住んでいると思える。そして極めつけはーー
「明るいね」
「魔粒子が故意的に発光体と化しています…誰かがいます」
「うん。あと……何かきた」
瞬間、草木の茂みの中から黒い影が複数飛び出してきた。
「グルルルル……」
「これは…オオカミ?」
「ただのオオカミじゃ無さそうだね…」
黒と白の毛で覆われた獣は、口部からよだれを垂らし、目はギラギラと自分たちの方を睨みつけている。
「ベイン様…」
「大丈夫…大丈夫だから」
一度目を閉じて深呼吸をする…深く息を吸って…吐いて…再び瞳を開く…そしてーー
「ベイン様…目が」
僕の右目が青くなったのを見て、シエルが思わず呟いた。
「ノエル…行くよ」
そう言いながら剣の柄をとる。眩い光とともに、剣に巻きついていた鎖が砕けて消えた。
「あなたの求める真実へ…私はあなたの道具…私を真実へ連れて行って…」
一閃…空を切った剣の一閃は、初めて鞘から刀身を引き抜いた事による力の入れすぎから生じたもの。その青い閃光一閃に、獣達は少し物怖じした。
「ベイン様…これは」
「真実の剣だよ…これが僕の答えだ」
獣達の標的は完全に僕に移っていた。僕はさぞ怖く見えるのだろう…
「シエルはここに居てね」
「え…ベイン様?」
シエルの言葉を聞くよりも先に、僕は獣達の間を抜け、森の中へと駆け抜けて行った。
走り抜ける最中で、獣達はその牙を僕目がけて差し向けてくる。
「っ!」
それを巧みにかわしながら、森の中を駆け抜けてゆく。そして、急停止した。
「…」
「グルルル…」
完全なる攻撃態勢で僕を見つめる複数の獣達は、どうやら4匹らしい。丁寧なことに、それぞれが四方に配置している。いわゆる集団戦法というやつだ。
「殺しはしない…僕は皆を解放する…」
剣を片手に獣の中の1匹に刀身の先を向ける。
それが引き金になったのか、4匹の獣は一気に僕に襲いかかってきた。
「一閃…」
一瞬の出来事だった…
数秒後に、僕の後ろで気絶する獣達。
黒い毛並みから黒い瘴気が漂い始め、色が抜けたように白い毛並みへと変化した…
これが真実の剣の能力…触れたものを真実の姿へと導く剣…
「痛みはない…それが真実の剣」
手に持った剣が青い光を放ち、手から離れる。剣は小柄な少女の姿へと変化した。
「ノエル、その姿は…」
「少しだけだけど、この世界でもこの姿になれるから」
この姿のノエルと会うのは、あの白い世界以外では初めてである。改めて見ると、その青い髪と白い肌は目を引くものがある。
「このオオカミ達、大丈夫かな?」
僕が不安そうに問いかけると、ノエルは何故か胸を張りながら答える。
「私は誰も傷つけない主義なので。剣が触れるのは、本体ではなくてその心の悪い所だけなので」
「…そ、そっか。なんでドヤ顔なのかは分かんないけどとりあえず分かったよ」
「その声、ベイン様ですか?」
遠方からシエルの声が聞こえる。ノエルは即座に剣の姿へと戻ってしまった。
「……ベイン様。お怪我はありませんか?」
「うん大丈夫。シエルは何ともなかった?」
「はい。私は大丈夫です」
見たところ、シエルに目立った外傷はない。それだけでもホッとするところはある。
「…あのオオカミ」
「大丈夫。心に宿る悪を取っただけだから」
「真実の剣…ですか」
「うん。僕もよく分かってないんだけど」
白い毛並みのオオカミ達を眺め、僕は手を添えた剣に視線を落とす。その対象の真実を露わにする真実の剣…対象が悪の場合は意味をなさないとラウルが言っていた。という事は、このオオカミは誰かに操られて僕達を襲ったという事になる。
「とりあえずこの森から出よう。シエル道分かる?」
「申し訳ありません…私でもこの森に入ったことは…」
申し訳なさそうにシエルが表情を曇らせる。
「そ、そっか。なら当てずっぽにーー」
「あれぇ?ここら辺だと思ったんだけどなぁ」
不意に聞こえる声。僕とシエルは咄嗟に身構えた。ガサガサ草木の茂みから顔を出したのは、金髪碧眼の女の子。赤い頭巾を被っている。
「君は…」
「ありゃ、もしかしてお客さん?」
「いやお客さんってわけじゃ…迷っただけというか…」
「ふぅん。まぁいいけど……ってあなた達の後ろにいるのって……あっ!いた!」
テンションが上がった様子で声を上げる女の子は、僕とシエルの後ろに横たわるオオカミ達を指さして駆け寄った。
「オオカミさん大丈夫!?なんでこんな所に…」
「それ君のオオカミ?」
「…うん。そうだけど」
僕を少し警戒した様子の女の子に、今までの経緯を話した。
「え、じゃあ私のオオカミさんがあなた達に迷惑かけたってこと!?」
「いや、でもこうして無傷で済んだから…」
「お詫びするわ!こっちに来て!」
手首を掴まれ、強引に引っ張られる。僕は咄嗟に踏み込んでしまった。
「お礼は別にいいから、この森の出口を教えてくれればーー」
「さぁ行くわよ!」
「え!ちょ…えぇ!!」
「ベイン様…」
無理やり引っ張られる僕に続いて、シエルが不安そうについて行った。




