第8話 ゴーレム娘とギルド長の手合せ……からの…?
セレスが色々準備に行っている間、ギルド長と手合わせすることになった。
『好きな武器を選べ』と言われたので、昔から使っている幅広の直剣を取り出す。
「……………………ありきたりな剣だな」
「え? まぁ、そうですけど」
「じいさんのことだから、とんでもない効果が付与された魔剣でも渡しているかと思ったのだが……」
……………………否定はしない。
「武器に関しては、おじいちゃんはいつも『武器なんて消耗品だ。その内 壊れる。だから、いつ壊れても良いように、簡単に交換できるものにしなさい』と言ってましたから」
「……………………その割にはじいさんの使っていた武器は、火竜の鱗やら島蟹の鋏やらとんでもない素材で出来ていたが……」
「おじいちゃんにとっては、『簡単に交換できる』ものだったのでは? 知りませんけど」
なにしろ、私が死んだ後の話だ。
「……………………ありうるな」
額を押さえてタメ息を吐いてしまった。
ナツナツには流れ弾が当たらないよう、上の方から援護してもらう。
「準備が出来ました」
「おう。いつでも来い」
ギルド長の装備は、徒手空拳にギルド服のまま。
まぁ、元Sランクらしいし余裕ということでしょう。
私は、剣の影に体が隠れるように構えると、まずは《スキャン》でギルド長のステータスを確認する。
名前:ジット・グランディア
性別:男
年齢:45歳
種族:人間
レベル:88
HP:16,560
MP:3,980
力:4,038
体力:8,476
魔力:2,682
敏捷:3,390
運:Bad
スキル不明
『高っ!!』
『ていうか、名前『ジット』っていうんだね~』
あ、ホントだ。ステータスにビビって気づかなかった。
スキルが見えないのは気にならない。この辺は、致命傷になりうるから隠すものだし。
《スキャン》は警戒されると、読み取れる情報が減るのだ。
しかし、これなら私の攻撃で怪我させることを気にする必要は無さそうだ。
『行くよ』
『あいさ』
よく使う魔法を口内で詠唱しつつ、時計回りに移動して接近する。
同時にナツナツの妖精魔法で、私とナツナツの姿が捉えにくくなった。
だが、ギルド長には効果が少ないようだ。
多少 こちらを捉える視線がブレたが、大体 私の方を向いている。
『【チャージル・エアアンカー】』
魔法が発動すると同時に、私の魔力に囚われた風が周囲に待機された。
これは、私の攻撃動作に連動して、衝撃波を撃ち込む魔法だ。
単純に、物理攻撃の射程が伸びるだけでなく、防具で攻撃を防がれても、衝撃は内部に浸透しやすいので、ダメージの蓄積が期待出来る。
途中で反時計回りに移動方向を変えたものの、ギルド長の視線は変わらずこちらを捉え続けている。
小細工は止めて、真っ直ぐに攻撃を仕掛けることにする。
上から下へ。斜めの斬撃を放った。
ギルド長は半身となって、簡単に躱してしまう。
そこに、斬撃の勢いのまま、後ろ回し蹴りを放った。
しかし、ギルド長は『予想通り』とでも言うように、さらに一歩を後退する。
が、ここで【チャージル・エアアンカー】の効果により、蹴撃の延長線上に衝撃波が飛んだ。
当たるか!!!?
体勢を立て直し、次の攻撃場所へと移動しつつ見ると、
ぼふぅ!!!!
くぐもった破裂音が耳に響いた。
……………………え? 嘘、当たった?
予想外。体は変わらず動いているが、ちょっと思考が停止する。
『効いてないよ!!』
ナツナツの声と共に、ギルド長が前のめりに一歩を踏み出す。
……いや、ずっと動いてはいたのだ。
ただ、攻撃をモロに喰らったから、その動作を『倒れかけている動作』と勘違いしてしまっただけだ。
先程、セレスにボコボコにされても、まるで堪えなかったところを見るに、やたらと頑丈なのかもしれない。
不意に、先程のロール名が思い起こされる。
楯士。
でかい盾を持ったシールダーを思い描いていたが、こういう楯士もいるのかもしれない。
ギルド長が楯士だったかどうかは知らないけど。
ギルド長の接近に合わせて斬撃を放つも、尽く当たらない。当たるのは衝撃波だけだ。
一度、大きく距離を取った。
ギルド長は、愚直に距離を詰めることに終始している。
…………手加減している? しているだろうなぁ……
『【チャージル・エアアンカー】』
魔法のストックを回復。そして、剣を…………投げ付ける!!
これには予想外だったのか、ギルド長は驚いた表情で右に避けた。
それを追って 私も右に移動し、拳の支配距離、超近接距離にて相対する。
衝撃は効いてない訳ではない。
ただ、ダメージが少なくて、回復されてしまうだけだ。
ならば 素早く、大量に打ち込めばいい。
ついでに 私とギルド長の対格差は、この距離においては私に有利となる。
ナツナツの妖精魔法により、ヒット位置を惑わすための幻影と敏捷の向上が施される。
そして、考えられる最速の動きでもって、打撃を打ち込んだ。
打つ打つ打つ……右左右……
力は不要だ。素早く打ち込むことに専念し、ダメージは魔法に任せる。
足を止めるな。距離を取られるな。軌道を見切られるな。
どれかひとつでも干渉されれば、一瞬で勝負がつく。
……………………この攻撃がかつて出来ていれば、私も死ぬことはなかっただろうか。
ロックグリズリーの腕は、この超近接距離には届かない。
無駄な思考だ。
あの時は、ナツナツはいなかった。
だから、あの時はどうあがいても、生き残ることは出来なかった。
なら、今度は生き残る。
ナツナツと私で。世界を敵に回しても、勝って生き切る。
戦闘の高揚により、そんなことが脳内を巡っていると、ついに ギルド長が膝を着いた。
一気に首を刈り取るため、背後に飛び込む。が、
「ふん!!!!」
その目論見を読まれた私は、あっさりとギルド長の裏拳を右肩に喰らってしまい、硬い地面に吹っ飛ばされた。
無意識のまま受け身だけは取ると、転がる勢いを利用して立ち上がる。
が、短時間とはいえ、極度に高まった集中に全力を尽くしていた体は力が入らず、ふらふらと頼りなく揺れてしまう。
『ルーシアナ!!!!』
正面。ナツナツの声が聞こえると、ギルド長との間に石壁が現れた。
この隙に、回復を……
と、思ったのも束の間。
壁の向こうから気合いの声が聞こえると、一瞬で石壁は破壊され、その破片が飛礫となって襲い来た。
咄嗟に両腕を上げて、顔をガードしてしまう。
その失敗に背筋を震わせると、
「らぁ!!!!」
…………本来なら、隙だらけのボディに一撃を入れる状況だったと思う。
しかし、手加減なのかなんなのか、ギルド長は ガードの上から頭に一撃を入れた。
その衝撃は、私の意識を奪うのに十分な威力を有しており、抗うことも出来ずに視界は闇に沈むのだった。
ガガガガガ…………!!!!
「このアホボケカス○○○○野郎!! 手加減しろと言うたろうが!!!!」
セレス…………口悪いよ…………
目が覚めると同時に、今起こっている状況が 手に取るように分かるとは、これ如何に?
頭の下には柔らかい布が敷かれ、額には冷たいタオルが乗っている。頬にはむず痒い感覚があった。
目を開けると、焦点の結べない程の距離にナツナツの顔がある。私の頬に手を付いて、覗き込んでいたようだ。
「ルーシアナ!!!! 良かった 起きた!! 大丈夫!?」
「……らい丈夫」
「セレス回復~~!!!!」
「貴女も出来るでしょう? ちょっと待って」
存分にギルド長に蹴り (多分) を叩き込んだセレスがやって来ると、治癒魔法を施してくれる。
…………だんだんと意識がはっきりしてきた。
ある程度 体調が回復するのを確認して、セレスに声を掛ける。
セレスの手が離れるのに合わせて身を起こすと、ナツナツが胸に飛び込んできた。
「ルーシアナ~~~~……」
「ごめんね、ナツナツ……負けちゃった」
ナツナツは、『ふるふるふるっ』と首を振ると、
「こっちこそ、ごめん。妖精魔法、あんまり効かなかったよ……」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ~~……もっと。もっと頑張るから……」
「……………………うん。私と頑張ろ」
「うん!!」
思わず二人の世界を作り上げていると、『げふんっ』と隣から咳払いが聞こえた。
「……………………とりあえず いいかしら」
「あ、うん。もう痛くないから大丈夫。ありがとう」
「治してくれてありがとう。セレス~」
「どういたしまして。まぁ、身内の尻拭いだから……」
その身内は、向こうの方で既に立ち上がっている。
…………頑丈。
私も、いつまでも寝ている訳にもいかないので、立ち上がる。
うん。ふらふらもしないし、万全かな。
そこに、ギルド長が近付くと、
「キシャァァァァーー!!!!」
「おらぁぁ!!!!」
ナツナツが大口を開けて威嚇して、セレスが手に持っていた杖を投げ付けた。
「ふん!!!!」
だが、気合いの声と共にその攻撃は弾かれる。
「なにぃ!?」
「そろそろ話を進めねばならんからな」
「くっそ~……」
今までセレスの攻撃を喰らって倒れていたのは、ポーズだったらしい。
「ルーシアナ、ナツナツ」
「は、はい」
「…………」
私は緊張して返事を返せず、ナツナツは黙って怒りの視線を返した。
「色々と足りないところは多いが、俺に膝を着かせたのは素晴らしい。ま、罠を張るためのブラフなんだがな。
それでも、そうさせることが出来る者はそう多くない。喜べよ?
テストは合格だ。よって、ギルドカードを与える。これからの成長を期待しているぞ」
「ルーシアナさん。はい、これ」
簡単な評価と共に、セレスからギルドカードを手渡される。
鈍色に輝く金属プレート。ランクは最低のG。ここからSまで、上げなきゃならないとは大変だ。
「ありがとうございます。慎んで拝領します」
うろ覚え知識でそれっぽいことを返すと、
「なんだそりゃ」
「カッコいいわねぇ」
「いや、どうせなら『ありがとうございます』も直せば~? どう直すかは知らないけど~……」
四人で楽しく笑い合うのだった。
「さて、そろそろ戻るぞ」
「あ、待ってください」
「あん?」
帰ろうとするギルド長にストップをかける。
「外だとなかなか出来ない技というか、機能を試していいですか?」
「どんな機能?」
「さぁ……? ナツナツに『すごいよ!! でも 見たくないよ!!』って言われてるやつなので……」
「え゛!!!! アレやるの!?」
ナツナツが、すっごく嫌そうな顔でこちらの頭に乗った。
そして、ペチペチと何度も叩くと、
「やーめーよーよー。可愛くなーいーしー」
「でも、すごいんでしょ?」
「まぁ……絶対防御モードとも言うべき、奥の手のひとつだから……さっきのギルド長の攻撃くらいなら訳ないよ」
ジト目でギルド長を見るナツナツ。
「ほほぉう。それなら、是非とも見せてもらわないとな」
「しまった!! 興味を引いた!?」
ギルド長の瞳がキラリと光った。
ガードの上からでも、一撃で意識が飛ぶような攻撃だったんだけど、大丈夫かな……
そこに、セレスから追撃が掛かる。
「でも、自分たちの戦力は、正しく把握しておいた方がいいわよ? そんなモードなら、万一の際に、絶対に死なない手段ってことでしょう?」
「そうなんだけどさぁ~……」
なおも渋るナツナツに、私も加勢する。
「ね。お願い。選択肢は多い方がいいはずでしょ?」
「む~……ルーシアナがそう言うなら~……」
「やった。ありがとう~」
「うむ。撫でるとよろしい」
「わ~~」
なでなでなでなで……
「(最初からルーシアナがお願いしてたよな……?)」
「(しっ!! ヤブヘビよ!!)」
ナツナツを撫でているのか、自分の頭を撫でているのか、よく分からないことを続ける。
一頻り撫で続けると、ナツナツは『スイーッ』と頭から飛び立ち、セレスの頭の上に乗った。
「じゃ、ちょっと離れて。…………もっと…………もうちょい……この辺かな」
…………………………………………離れすぎじゃない?
ナツナツが誘導して止まったのは、私から10m程離れた位置だった。……ぐすん。
『やー。うっかり倒れたら潰れちゃうし~……』
『どゆこと!?』
ナツナツの声量では届かないので、念話が飛んできた。
『やってみれば分かるよ~』
『不穏…………やっぱりやめても……』
『ムリ。今、わたしの中の妖精さんが、面白いことが起きると告げている……!!』
『《冷静》!! 《冷静》働いて!!!!』
『大丈夫~。冷静に発動させるから~♪』
『行動は冷静だけど、動機が冷静じゃない!!!!』
おじいちゃん、あのスキルじゃダメだったみたいだよ!!
『いくよー』
『いーーーーやーーーー!!!!』
▽ナビゲーターより、緊急事態モードの起動を確認しました。
▽形装選択::狂防孤高
▽システムに一時介入
▽身体の操作権限を借り上げます
▽展開します……
システムボイスが脳内に再生されると同時に 全身が軽くなると、『ぎゅいーーん!!』と空高く引き上げられた。
「ぎゃ~~~~~~~~!!!!」
お・ち・る~~~~~~~~!!!!
▽通常型両腕部パーツ、パージ
▽通常型両脚部パーツ、パージ
「へ!?」
不穏。その一言に尽きる。
しかし、『何が起きるか?』。その先を想像するより早く、事態は進行する。
突然、両肩と股関節辺りがもぞもぞすると思った瞬間、『ポロッ……』という擬音が聞こえそうなほど呆気なく、両腕と両足が零れ落ちた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?!!!!!?」
この瞬間の私の混乱っぷりは、言葉では説明出来ない。
血の気と共に意識が引いて、色々と乙女的によろしくないものが漏れるところだった。
…………多分、漏れてない、はず。
▽通常型両腕部パーツ、格納
▽通常型両脚部パーツ、格納
▽要塞型身体部外殻パーツ、射出
▽要塞型頭部代替パーツ、射出
▽接続します……
両腕と両足が虚空に消えると、私の正面と背後に体が収まる程度の隙間が空けられた、巨大な金属の塊が現れ、静かに私に迫り来た。
どうすることも出来ない私は、成す術無く それに挟まれるように取り込まれるしかない。
視界は真っ暗、両腕も両足も無い。なんか『ゴウンゴウン』と響く、重低音が心臓を震わせる。
「◆▼%☆↑&§♯〆★○※□*&▽△!?!!!?!!!?!!」
あまりの恐怖に何を言ったか覚えていない。
…………もしかしたら、ここらでやらかしたかもしれない……
気が付くと、視界はさらに高く、やけに広範囲が見えるようになっており、重低音は聞こえなくなっていた。
首を回さなくとも後ろが、足元が、地面の三人が見え、気温、風速、湿度、気圧等々よく分からない情報が分かる。分からん。
▽要塞型両腕部パーツ、射出
▽要塞型両脚部パーツ、射出
▽接続します……
そして、左右に握るだけで塔とかがへし折れそうな大きさの金属でできた両腕が、足元にそれを超える太さの金属でできた両足が現れ、胴体の両腕両足部分に接続される。
それは、直接 繋がってはいない筈なのに、私の無くなった両腕と両足のあったところに接続されたような感触が伝わった。
▽形装:狂防孤高
▽展開完了しました
▽身体の操作権限を返却します
▽システムへの介入を終了しました
そして、理解する。
今の私は、身の丈10mの巨大な『フォートレス・ゴーレム』となっていることを。
理解したが理解してない。ははは……
私はそのまま両膝をつくと、手で支えることも思い付かずに顔面から地面に倒れ込むのだった。
顔、地面に届いてないけど。
ちなみに括弧の使い方は大体こんな感じです。
「」会話文
『』強調、念話、セリフ引用
《》スキル
【】魔法
[]異空間名称




