第77話 ゴーレム娘、初めての修練所①
70 ~ 81話を連投中。
4/30(火) 14:50 ~ 19:10くらいまで。(前回実績:1話/21分で計算)
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さて、そんなこんなで二週間ほど経ちました。
私は報酬重視でクエストをこなし、オズは料理の腕をメキメキと上げ…………いや、違う。人見知りも克服し、Gランククエストをボチボチ開始しました。
本当はグレイス君のとこでの掃除が一番効率が良かったんだけど、まだ汚れてないから暫く受注できないのは残念です。
とはいえ効率的に、かつ、的確に仕事をこなすオズは、一日に20件ほどの依頼をこなし、あっという間にFランクへとランクアップを果たしました。
普通の冒険者が、頑張っても一日に5件程度しか依頼をこなせないことから考えるに、如何に尋常じゃないかは火を見るより明らかではないでしょうか。
同時に『あれ?人形遣い、ちょっと縮んでね?』とか『あれ?人形遣い、増殖した?』とか、私のネームバリューのせいもあって、オズの知名度も一気に上がりました。良いか悪いかは別として。
また、シャルドさんの戦闘服も完成したものの、パッと見の印象やシルエットが私の戦闘服とそっくりに仕上がってしまったのも、そう言われる一因であると思われます。
まぁ、シャルドさんやオズがお揃いに拘ったせいなのもありますが、そもそも私の戦闘服が後衛寄りのものなのだから、こうなるのも仕方のないことですね。前衛は普通、装甲をつけるものですから。
一応、他の人から見分けがつくように、オズには首元で髪を結ぶためのリボンを買ってあげました。……………………が、みんな一週間もすると、私とオズの内面から現れる雰囲気の違いと言うものが分かるようになり、リボンが無くても間違えなくなりました。
ちなみに一番分かりやすいと言われている見分け方が、『可愛い方が妹』なのは怒っていいですよね?
二人いる場合の見分け方の筈なのに、一人でいてもこれで分かるとか言われています…………怒っていいですよね?
あ、服と言えば、オズのことはギルド長を通じて領主に説明されました。
どんな説明をしたのか知りませんが、二つ返事で了解してくれた、とのことです。
で、その次の日。何故か領主のメイドさんがやって来てオズを採寸。三日後にはお直しした夫人の衣装と共にセリーヌさんが現れ、私も巻き込んでファッションショーとなりました。
ドレスはくれました。直してしまったし、いただきましたよ。
まぁ、オズが可愛かったので、今回は付き合った甲斐がありましたね。
ついでに下着については、シャルドさんとタチアナさんが『お話』した結果、めでたく許可が下りました。
独学で作ったらしいその衣装類を見て、職人の矜持を感じ取ったらしいです。
タチアナさんの紹介で服飾工房にも出入りし、技を磨いているそうな……アンティークショップはいいのでしょうか?
今日は『Fランクの内に、いくつか汎用スキルを習得しておこう』という話になり、修練所へとやってきた。場所は街の外れ。入口にギルドと同程度のそこそこ大きな建物があり、その裏に広大な訓練場が広がっている。
戦闘とは関係のない汎用スキルもあるが、メインはやはり戦闘系の汎用スキルになるため、うっかり攻撃魔法が敷地外に飛んだりしても大丈夫なようにこんな街外れにあるらしい。
「大き…………くはないですね?」
それを知らないオズは、入口の建物を見て首を傾げている。
タチアナさんやセレスに、『大きい』とか『広い』とか言われていたので、疑問に思っているのだろう。
私はギルド長に詳細を聞いたので知っている。
「入れば分かるよ。行こう?」
「はい」
とはいえ、実際に訪れるのは初めてだ。おじいちゃんの特殊スキルが充実してたのもあり、必要に迫られてからで良いと思っていたのだ。
オズの手を引いて建物へと向かう。大きな両開きの扉は開放状態で固定され、次々とやって来る利用客をただただ一方的に飲み込み続けている。
中に入ると、正面には訓練場へと通じる扉が入口と同様に開け放たれており、外の様子が見てとれた。
左右にはカウンターが並び、その上には『戦闘系』『魔道士系』などのプレートがぶら下がっている。
みんなそれぞれのカウンターで、修練石を受け取って屋外や二階へと進んでいるようだった。
客層は親と手を繋いだ子供からお年寄りまで幅広い。
冒険者ギルド程ではないが人が多くおり、人見知りを改善したばかりのオズと、人見知りではないが人混みが苦手な私は、思わず尻込みしてしまう。
「人が多いな……」
「えぇと……まずはどこに行けば……」
「あそこにしよう。……比較的人が少ないし」
『人が少ない』という理由で並ぶ列を選んだ私はチキンです。今日の昼食はチキンクリームパスタがいいな。
とはいえ全く関係ない列というわけでもない。列の向かう先は『総合案内』と書かれたカウンターだ。
セレス曰く、『具体的なスキルが思い付かないなら、『総合案内』に並ぶといいよ。スターターパック的な修練石がセットで借りられるから。あと、『初めてです』って言えば汎用スキルについて色々教えてくれるよ』とのこと。
列に並んで進むのを待つ。
列の人数自体は10人くらいで、カウンターの職員さんは三人いるのだが、なかなか進まない。他の列が10人進んだら1人進む位のペースだ。
…………次回からは他の列に並
「お姉ちゃん、クッキー食べる?」
「…………朝ごはん食べたばかりでしょう?太るよ」
「じゃあいらない?」
「…………いる」
まぁ、たまには並ぶのもいいよね。
「はい、あ~ん」
「あ~ん…………あ、美味しい。これクルミ?」
「はい、そうですよ」
『私にもちょうだ~い』
『人目が多いのだから気を付けろよ』
『大丈夫ですよ。蓋を開けて持ってますから』
ナツナツはオズが手に持った空き缶に頭を突っ込むようにして潜り込むと、クッキーを数枚抱えて頭上へと戻っていった。
▽クルミクッキーの潜在効果が発動しました。
▽魔力:+1
▽持続時間:1時間
「…………………………………………」
「まぁ、失敗作なんですが、味は悪くないかと……」
「うん。美味しい」
失敗作 → 潜在効果が良くない。
ちなみにたくさん食べても効果は累積しないし、重複もしない。最後に食べた物の効果が付与される。
オズもイマイチ法則が分かっていなくて、クッキーのように同時に大量に作るものでも別々の効果が顕れるので、頭を悩ませている。
不味いほど効果が高いみたいな、代償型で無いことを祈る。
一口サイズの小さなクッキーなので、ポリポリと食べたり食べさせたりしながら進むと、ようやく私たちの番が回ってきた。
「いらっしゃいませ~♪姉妹でイチャつくなら外でお願いしま~す。次の方~♪」
「ちょっと!!飛ばさないでくださいよ!!というか、なんでプリメーラさんがここに!?」
「なんでも何も職場だからでしょ~?…………なに?バカなの?」
「真顔で…………!!!?」
そこにいたのはギルド飯店の先輩ウエイトレス、プリメーラさんだった。真面目そうな職員の制服をキッチリ着こなしていて違和感がすごい。
「プリメーラさん……………………真面目な顔できたんですね」
「おっとぉ?そういうことを言う口はこの口かな?」
「うぃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!ほほんひゃひゃい!?」
なお、頬を引っ張られたのではなく、唇を上下に摘ままれて捻られたのだ。地味に痛い。
「私は元々ここの職員なんだよ~。ここもギルド飯店も、公営施設じゃん?その繋がりで希望者には追加の仕事が割り振られるの。ルーシアちゃん以外の正ウエイトレスはみんなそうだよ~?」
「初耳!!」
「まぁ言ってなかったし?他にも何人かここにいるよ。裏にいるかもしれないけど」
「いえ、そちらもですけど、ギルド飯店が公営って方……」
「そっちか~。ギルド全体が公営施設だからね~。そこに入ってる店舗は、全部公営店なんだよ~。基本、お安いでしょう?」
「えっと…………はい」
ごめんなさい、嘘です。値段比較とかあんまりしてません……
「それで今日は何用~?天井からぶら下がってる大分類が合ってれば、ちょっとくらいズレても修練石は貸してもらえるよ~?」
「いえ、修練所に来るのは初めてなので、汎用スキルの説明とかしてもらおうかと思いまして。で、最後にスターターパックを貸してもらおうかと」
「うあぁ~…………めんどいヤツだ。回れ右して別の列にお願い」
「ここの偉い人だれ!?サボり職員がいます!!!!」
「ははは~♪冗談冗談。あと、ここ騒がしいからそのくらいだと届かないよ~?」
「え~と……お姉さんの後ろにいる人には聞こえてますけど…………」
「え?」
オズが呆れながら指差すのは、プリメーラさんの後で般若を背負ったお姉様です。
その気配に振り向かずとも状況を察したプリメーラさんは、『ビシリ!!』と擬音が聞こえそうな動きで固まった。
「ご愁傷さまです。自業自得ですけど」
「逝ってらしゃ~い……」
「ちょっと冷たくない!?フォローしてくれてもいいんだよ!?」
「黙れプリメーラ。来いや」
「ひいいぃぃぃぃ!!!!先輩!!その声はお客様に聞かせちゃ不味いヤツ!!!!」
「う・る・さ・い……!!」
「ぎゃああああぁぁぁぁ…………」
片手でプリメーラさんの頭を掴んだ先輩さんは、そのままプリメーラさんを引き摺って奥の扉に消えていった。
声色と内容はともかく、こちらに向ける表情は笑顔を保っていたのはさすがプロですね。それより前に声色と内容を再考していただきたいですが。
二人と入れ替わるように別の職員さんが……またギルド飯店のウエイトレスさんだよ。
「テトラさん……」
「おはようございます。こちらでお会いするのは初めてですね」
「そうですね。まさか皆さんウエイトレスが副業だとは思いませんでしたから」
「副業ではないんですが…………まぁ、良いです。修練所と汎用スキルの説明ですね」
「あ、よろしくお願いします」
「お願いしま~す」
テトラさんは、ギルド飯店とは異なるお堅い口調で説明を始める。プリメーラさんとは大違いだ。
「この修練所は、汎用スキルを習得できる『修練石』の貸出しと使用場所の提供をする施設です。
汎用スキルは大きな分類として、『戦闘系』『魔道士系』『職人系』『商人系』の四つに分けられます。それぞれのカウンターで具体的なスキル名か『このようなスキルが欲しい』と伝えれば、職員が要望に合致する修練石をお貸しします。貸出し時間は、当施設の閉館 又は 退館までです。
修練石は普通の魔石と同様に、魔石スロットにセットした上でご使用ください。何度も使用すれば、いずれ習得できます。主に『戦闘系』『魔道士系』は屋外が、『職人系』『商人系』は二階の各部屋が使用場所となります。
ただ、三つほど御注意頂きたいことがあります。
ひとつ。他人と同様のスキルを得られるとは限りません。
ふたつ。習得までには個人差があり、場合によっては習得できません。
みっつ。望まぬ結果になりましても、利用料は返金されません。
以上。簡単に説明させていただきました。何か質問はありますでしょうか?」
テトラさんは説明を終えると、そう言って私たちの反応を窺う。
「大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「承知しました。では、次にスターターパックについて説明します。
スターターパックは、大分類四種について利用頻度の高い修練石をまとめた複数同時貸与パックとなります。ひとつずつ借りるより金額的にはお得となっていますが、先程説明した通り汎用スキル習得までには時間が掛かりますので、必ずしも得とは限りません。
基本的には、習得スキルを絞り込めていない時に、色々と検討するのが目的のものとなります。よく考えてご利用ください。
一応、スターターパック以外にも複数同時貸与パックはありますので、必要であれば職員にお申し付けください。
以上、説明を終えます」
「「ありがとうございました」」
テトラさんに揃ってお礼を言うと、『クスリ』と笑われた。なんか面白いとこあったかな?ハモったけど。
「失礼。仲がよろしいですね」
「えぇ、まぁ」
「仲良し姉妹ですから」
オズが何故か力一杯 力説した。
「よろしいことですね。それでは、スターターパックの貸与はご希望されますか?」
「お願いします。とりあえず魔道士系で」
「承知しました。では、少々お待ちください」
そう言うとテトラさんは立ち上がり、奥の扉に開く。
その瞬間、床に正座して怒られているプリメーラさんがモロに見えた……
テトラさんは扉を開くと『ピクリ』と一瞬だけ静止したが、そのまま何事もなかったように中に入り、暫くして別の扉から現れると、入った扉に『使用禁止』の札を掲げた。
…………うん。札を作る程度にはよくあることなんですね?
「お待たせしました。ではこちら、魔道士系のスターターパックです。各属性の術式構成を補助し、簡易な魔法をスキルとして取得する汎用スキルを習得することが多いです。こちら、ブレスレット型魔石スロットになりますので、ご利用ください。では、どうぞ」
「ありがとうございます」
テトラさんからスターターパックを受け取ると、オズに手渡す。
「利用料は?」
「2,200テトになります」
「テト……」
今更ながらテトラさんの名前、通過単位のテト由来なのだろうか……
「ところでどうでも良い話になりますが、人の名前をイジると恨まれますよ」
「いえ。安いなぁと思っただけです」
……………………何を言われたんだろうね?
「汎用スキル習得までには時間が掛かりますからね。ひとつ当たりの利用料が安くないと、何度も借りられませんから」
「なるほど」
「返却はどのカウンターでも行えますが、専用の返却カウンターでも可能です。閉館間際になると混み合いますので、お気をつけください。では、屋外へどうぞ」
「「ありがとうございました~」」
テトラさんに揃って挨拶すると、にこやかに手を振り『ギルド飯店にも連れてきてね~』と言われてしまった。
次の人たちの邪魔になるので、曖昧に笑って場所を空けるとすぐに次の人がテトラさんの前に進む。
「オズもウエイトレスやってみる?」
「え~と……その内に……」
「無理矢理はさせないから。気が向いたらでいいよー」
「はい」
ホッとした様子のオズの背中を押して屋外の訓練場へ向かった。




