第70話 ゴーレム娘、ちょっと森まで
70 ~ 81話を連投中。
4/30(火) 14:50 ~ 19:10くらいまで。(前回実績:1話/21分で計算)
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みなさん、こんにちは。ルーシアナ・ゼロスケイプです。
領主との面会も無事に終わり、テモテカールにおける私とナツナツの身の安全は、ひとまず安心ということになりまして、心穏やかに過ごしております。
何故かあの後、お直しした衣装と共に領主夫人、セリーヌさんがやって来て、ファッションショーをさせられたのは甚だ疑問。メイドさんまで連れてきたし。
あれから 一週間程。
ようやくクエスト禁止令が解かれました。長かった…………
グレイス君には『客入りが良すぎて限界だから、二日おきにしろ』と言われてしまったため、やる事が無くなってしまいとても暇になってしまったから、ことさら長く感じました。
他のバイトを探してもいいんだけど、一週間じゃ何処も雇ってくれなくてね…………
短期バイトに相当するのはGランククエストなので。
というわけでここ一週間は片手間にしていたテモテカールの探索を、本腰を入れて行っていた。
お陰で色々と新規開拓出来ましたよ。……………………食べ物屋の。
こら、そこ。女子力が泣いてるとか言わない。もう、ナビに言われたんだから。
服とかアクセサリに興味ないかと言われればそんなことはないんだけど、シャルドさんが作ってくれる物の方が遥かにいいんだから仕方無いじゃん。性能も見た目も。
チコリちゃんも誘ったんだけど、仕事があるからと断られてしまった。まぁ、そうだよね。
そんなわけで待ち望んだこの日。どんなクエストを受けるのかと言われれば…………
「特に何も受注せずにガアンの森に来てるんですよね」
「いいじゃん。まだ日帰りの範囲しか許可されてないんだから~」
『大したものは無かっただろう?』
「申し訳ありません。これは早急に済ませておきたかったのです」
「いいけどね…………ただ、みなさん。これだけは覚えておいて。そろそろ金欠よ」
「『「あんなに食べるから」』」
「ふぐぅぅ!!!!」
いや、うん。正確に言えば、単価の高い贅沢品を買ったり、買うだけ買って[アイテムボックス]に保存してあるのもあるから、『あんなに買うから』が正しいのだが、まぁ食べもしたね、うん。
大丈夫。まだ太ってない。太ってないったら!!!!
あ、ちなみに無くなったのはお小遣いというか、生活費以外の余剰金であって、生活費の方は10年分くらいあるから。そこに手を付けるほどおバカではありませんよ。
領主から貰った報奨金?あれはさらに別枠です。
テモテカールから出て、ガアンの森に入る。
そして周囲に人がいないことを確認すると、
「オズ」
「転移元座標 及び 環境精査。術式調整完了。転移先を入力してください」
「転移先:ガア・ティークル」
「転移先座標 及び 環境精査。情報受信中……………………完了。術式調整完了。転移します。3、2、1、発動」
『転移先はひとつしかないのに、入力する必要はあるんだろうか』とかどうでもいいことを考えていたら、瞬きの一瞬で世界から苔むした木々と森の気配が消え失せ、人工的な広間と清涼な空気へと変貌した。
ここはガア・ティークル一階中央の円形ホール。
何の違和感もなく、一瞬で移動は完了した。
「すごいね…………ホントに一瞬で移動したわ」
「時間転移ではないので、一瞬であるのは必然と言えます」
「あ、そうね。でもそういうことが言いたい訳ではないのよ?」
「気持ち悪くなったりはしないんだね~」
『高さもぴったりだな』
「その辺はしっかりしていないと、クレーマーが煩いですから」
「厳しいな。ちょっとくらい高くても良くない?」
時々オズから聞くかつての話は、ゆとりというものが感じられない。自分達で自分達の首を絞めていったような気配を感じる。
まぁ、それは置いておいて、
「中枢システム区画に行けばいい?」
「はい」
碁盤の目状に仕切られた広間の通路を通り、東門に向かって進む。
ここには通路に仕切られた1m四方のガラスの小部屋がびっしりと整列し並んでいる。
さらに上方にも同様の階層が伸びているため、合計でいくつの小部屋があるのか予想もつかない。
床が全て透明だから視覚的には開放感があるのだが、聴覚的には圧迫感を感じる。不思議な感覚だ。
このガラスの小部屋ひとつひとつが、ガア・ティークルへ転移してくる者たちの転移先なのだ。
「とはいえ、邪魔なので一時的にガラス壁を格納させます」
オズの言葉と共に東門へ真っ直ぐ進めるように、四列分位の小部屋のガラスが静かに床へと融け消えた。
「というか~、最東端の小部屋に転移させればよかったんじゃない?」
『そうだな。なんでわざわざド真ん中に転移させた?』
「…………………………………………」
明らかにオズが言葉に詰まった。
「…………ナツナツ、ナビ。その辺にしておいてあげよう」
「まだ何も言ってません」
分かるよ…………超分かるよ……
どことなく拗ねた雰囲気のオズを抱え、中枢システム区画へと足を進めた。
中枢システム区画の中央。現在オズが憑依している、蒼の正八面体の前までやって来た。
「すっかり綺麗になってるわね」
「あれからもう二週間程も経ってますから」
「いや、二週間程『しか』、経ってないんだよ?」
「ふっ……」
「鼻で笑われた!?」
だが、この前グランディア家で披露してくれたお掃除術から分かる通り、オズは雑用の類が得意だ。汎用デバイスを使ってこの施設を維持していただけのことはある。
オズからしてみれば、このくらいは余裕なのかもしれない。
「それに一週間前に『施設修復はほぼ完了』と言ったじゃないですか」
「そうでした」
言われてみれば、領主のお屋敷に行った日の朝にそんなことを話していたのを思い出した。
「でも、本当にアレでいいの?」
「えぇ」
なんの話かと言えば、今日ここへ来た目的、オズの『自由に動ける体』として『私の予備の通常型義体を使う』という話である。
「そもそもの前提として、この義体、当然女性型だけど…………」
「私はどちらのつもりもないのですが…………男のように感じてます?」
「……………………ちょっと『ボク』って言ってみて」
「ボクは空間転移ターミナル統括管理AI『OS』です。ボクは男でしょうか。ボクは女でしょうか」
「…………………………………………ボクっ娘のような気がしてきた」
「それ、そもそも選択されてる音声が女性のものだからじゃない?」
『中性的な音声に調整されているが、まぁ、ベースは女性声だな』
「……………………まぁ、オズが気にしないならいいか……」
ステータス表記上も、性別の記載ないし。
「あと、レベル補正がない素の状態の基礎ステータスは高くないし、物理的に強度があるわけでもないし、特殊な機能があるわけでもないよ?ホントにいいの?」
「分かっています。ただ、そこまで特徴のない義体でも無いですよ?」
「え?そうなの?」
「はい。魔道士系としてかなり高い適正があります。
マイアナも魔法を主力と考えていたのか、魔力消費量の大きな術式にも耐えられるようになっていますね。
まさか貴女が近接でガツガツ殴りに行くとは思っていなかったようで」
「あれ?さらりと怒られた?」
「気のせいです」
……………………まぁ、そういうことにしておこう。
「ちなみに具体的にはどんな感じなの?」
「えーと、ですね…………まず魔法というものは、術式に魔力を流して発動するものですね?」
「うん」
自力で術式を造るのが普通の魔法で、予め術式を自分の魔石に刻んでおくのがスキルだ。
そう考えると、魔道具とスキルは同じようなものだ。術式を刻むのが自分の魔石かどうかの違いだけで。
ちなみに普通の魔法は、毎回術式を造り直すから時間は掛かるが、効果などを大きく変えやすい。
スキルは、術式を造らなくていいから発動まで早いけど、効果が大体固定。
「この魔力、ステータス上ではMPと表記されますが、使用するためには三つの段階を経る必要があります」
「みっつ」
「はい。まずは生成。体内で魔力を生み出すことで、魔力回復量とも呼ばれます。
次に貯蔵。体内に魔力を溜め込むことで、これがMPです。
最後に放出。体内から術式へ魔力を注ぐことで、魔力放出量とも呼ばれます」
「うん。知ってる。入る魔力、溜める魔力、出る魔力、だよね?」
「私がそれ初耳ですが、まぁ、多分そうです。
それで私の場合なんですが、《地脈直結》の効果により魔力が地脈から直接MPへ繋がっています。
つまり、『生成』と『貯蔵』の段階が不要なんですよね。もしくは『魔力回復量』と『MP』が∞だと思っていただければよいかと」
「なるほど」
『MPが減ると一瞬で補充される』みたいなイメージかな。
「あとは『放出』の段階、つまり『魔力放出量』なのですが、実はこれ憑依対象のスペックに依ります。そして普通の人間と比較して、貴女の義体は10倍くらいあります」
「10倍…………」
それはどのくらいなんだろう…………?普通の人も頑張れば届くレベルなのか、初期値としては高い程度なのか、はたまた無謀なレベルなのか…………
「私は魔法を主体とするつもりですので、『魔力放出量』の高い憑依対象の方が都合がいいのです。またここのデバイス類は、初期値は高いのですが成長という概念が無いため、いずれ力不足となった際 更なる強化が見込めません。貴女の義体なら、成長することでいずれデバイス類よりも上の性能に強化できる可能性もあります」
「将来性に期待、って感じ?」
「えぇ。……………………まぁ、普通の魔法を使っている分には、『魔力放出量』なんて気にする必要はないんですが」
「おいこら」
じゃあ、別に私の義体に憑依するメリットは結局のところないんじゃない。
「まぁどうせ魔法を使うなら制限のない状態で使いたいじゃないですか。それに今後より良い憑依対象が見つかったら、そちらに憑依し直せばいいだけです。
それに…………貴女の身の安全に対する認識が甘いので、あまり悠長なことは言ってられません」
「え~~…………前も言われたけど、次男にそんな風に思われるとは思えないんだけど……………………ドMなん?」
「そういうところです」
「そういうところだね~……」
『そういうところだ』
「むぅ……」
いや、この前 三人が次男に対して何に怒っていたのか聞いたんだけど、私が転た寝してた時に髪を触られかけたとかそれ以上しようとしてたとかなんとか…………
別に髪くらいどうってことないと思うし、それ以上ってなに?胸でも触るつもりかしらね?胸囲なら次男の方が上だけど。
ただまぁ、オズが私の義体に憑依することについて、反対しているのは私だけ、ということは確かなようだ。
「分かったわよ。ただし、ひとつ条件があります」
「なんでしょう?」
「ある程度ステータスが成長するまで、必ず私かナツナツと一緒にね。目を離した隙に怪我するとかやめてよね?泣くよ」
「分かりました」
「ごりょうか~い♪」
オズは《絶対精神防御》のお陰で、情報生命体として未憑依状態なら身の危険はほぼ無いのだが、私の義体に憑依するなら物理ダメージを喰らってしまうようになる。不慮の事故で怪我する危険が生まれるのだ。
まぁでも、オズが私の義体を使ってくれるのは、私にもメリットはある。
義体の基礎ステータスは予備品含めて全て共通なのだが、私があんまり魔法を使わないから物理系の基礎ステータスばかり伸びてて、魔法系の基礎ステータスが上がっていないのだ。いや、まぁ、どちらかに偏るのは普通なんだけど。
私とオズでそれぞれ異なる方法で運用すれば、バランスよく成長すると思う。
「じゃあ、ここに出せばいい?」
「はい」
▽形装選択:通常型義体 (ver.13歳)
▽特殊操作:取り出し
▽展開します……
[格納庫]から昨日調整した通常型義体を取り出す。いや、さすがに『瓜二つの見た目じゃ問題あるだろ』ってことで、ちょっと小さくしたのだ。《どこでも錬金》で。
取り出した通常型義体には、私が元々持っていたワンピースを着せてある。二歳程度の差しかないが、頭ひとつ分くらい小さいし、結構ぶかぶかだ。
腕の中に抱えるように取り出すと、いつぞやのように中枢システムの台座に寄り掛からせた。
うん、不思議な感じ。これからこれがオズになるのかぁ…………
外から見ている分には、鏡でも見ているかような感覚しか覚えないが、オズが入ったら何か変わるだろうか?
ちなみに、これからの私たちの設定はこうだ。
『故郷の因習が嫌になって飛び出してきた人形遣い (私)。名はルーシア・ケイプ。伝を頼ってこの街へやって来て、ギルド長宅にお世話になっている。
そんな私を追ってやって来た妹 (オズ)。名はオズリア。人形遣いとしての能力はないが、魔法が得意。現在は姉と同様、ギルド長宅にお世話になっている』
…………ギルド長たちにこの設定を了承してもらった段階で、方針転換するのは難しかったかもしれない。
ちなみにギルド長たちには、オズのことは少し補足を追加して説明しており、『オズは精神生命体型のナビゲーターで、ガアンの森に隠されたおじいちゃんのアトリエから、端末を遠隔操作している』としている。
まぁ、情報生命体は精神生命体の一種らしいし、ナビゲーターみたいなことをしてもらってるし、ガア・ティークルはおじいちゃんのアトリエと言えなくもないし、転移基点端末を操作しているしで、完全にウソではない。
それで今回は『アトリエの片付けが終わったので、オズを回収してくる。人間社会で生活しやすくするため、私の予備の義体に入れる』というのが、ギルド長たち用の理由だ。
そんなことを考えていると、蒼の正八面体から手の平サイズの光球がスルッと現れ、通常型義体の上でしばし動きを止めた。
キラキラと輝く極細の光糸が、光球と通常型義体の間を素早く行ったり来たりを繰り返す。
一分程それを続けていると、徐々に光球が小さくなり始め、砂粒程になるとヒュッと通常型義体に落ちていった。
……………………………………………………………………………………
反応がなくて不安になり始めた頃、ようやく通常型義体が身動ぎした。
身体を弛緩させたまま瞼を開き、1 ~ 2度瞬き。ゆっくりと右手をニギニギ、左手をニギニギ。
そしてぎこちなく頭を上げると、こちらを見た。
……………………驚いた。全然印象が違ってくるのね。
オズが入るまでは鏡、若しくは人形といった非生物的な印象が強かった。だがオズが入った途端、生命の温もりと女の子特有の柔かさに満ちた印象に変わったのだ。
外見は私そっくりだが、この子は確かに『オズ』だと確信出来た。
しばし、無言で見つめ合う。
微かに揺れる瞳が、以前ここで情報生命体に進化する際の、『不安』と言っていた様子を想起させた。
無意識にオズの正面に膝をつき静かに身を寄せると、優しくオズの右手を取る。
ビクッと可愛らしく震えるオズが落ち着くのを待ち、腕を首に回して抱き締める。
…………………………………………オズから声を掛けられるまで、そのまま優しく背中を撫でていた。




