第6話 ゴーレム娘、目標は世界最強…?
今更だけど、セレスは薄い茶色の髪を緩く三編みにした、胸の大きなお姉さんでした。瞳は蒼。
「や~~、それにしても、よかった よかった。色んな意味で」
「色んな意味?」
「蘇生できたこと。最初にこの町に来たこと。門番は越えられたこと。今日 私が受付にいたこと。説明を信じてもらえたこと。まだあるかもしれないけど、思い付くだけでもこれだけかしら」
「……………………人生って、奇蹟の連続ですね……」
「言えてるわね」
どれかひとつでも違う結果だったら、ここにはいなかった。
「まぁ、その時はその時で『この結果で良かった……』と思っていたんじゃないか? このギルドに、じいさんが孫娘を頼んだなんて思わないだろうし」
「そういうことを言うんじゃないわ。アホ親父」
セレスを警戒しながらやってくるギルド長。あんまり似てないな。
「それじゃ、本当のステータスを見せてもらっていいか?」
「? 見たんじゃ?」
「受付のアレは、偽装されてるのが分かるだけだ。その中身までは分からん」
「『ここで本当のステータスを開示してもらうか、納得のいく説明をしてもらう』って言ったでしょ?」
そういえばそうでした。あ。
「その前にひとつ良いですか?」
「なんだ?」
「紹介したい子がいるんですけど」
「ふむ…………まさかそのセリフを、実の娘から聞く前に聞くとは思わなかった」
「なんの話!?」
「余計なお世話じゃ!!!!」
セレスの下段蹴りが、ギルド長の膝に炸裂する。痛そう……
再び踞るギルド長を置いて、セレスが問う。
「それで、誰?」
「この子なんだけど……」
マントを捲ってポケットを開いてやると、恐る恐るといった風にナツナツが出てくる。
まぁ、怖いよね。わかる~。
そのまま浮かび上がると、肩に止まり、私の首の後ろに隠れた。
「おじいちゃんが用意してくれた、私の妖精型のナビゲーター。名前はナツナツ」
「…………よろしく」
誰が見ても分かる『警戒してます!!』という雰囲気で、挨拶するナツナツ。
さっきは、死ぬ覚悟すら決めたくせに……まぁ、分かるけど。
一撫でしてからギルド長たちを見ると、二人は驚愕の表情を浮かべてナツナツを見ていた。
「あ、あれ? どうしたんですか?」
「よ、妖精……初めて見たわ……」
「そんな珍しいですか? この辺でも、空を見上げていればたまに見かけるでしょう?」
「いや、そういうのは50年くらい前までだ。最近は殆ど見かけない、レア種族……」
「あ、そうなんですか」
「それゆえ、一部の好事家や貴族が高値で売買しているという噂も聞く」
「「え゛」」
「だから、ルーシアナのような子供が連れていると知られれば、ルーシアナごと誘拐したり、殺して奪おうと考えたりする奴が出てくるかもしれない」
「「…………………………………………」」
「誰かに見られたか?」
「え、えーと……門番さんに。でも、肩に乗って動かなかったから、人形だと思われてた。その時に『ギルドに行くなら、舐められる前に隠せよ』って言われて隠したから、他には見られてない、はず」
「ふむ。なら、大丈夫か……? 一応、門番が誰だったか確認しておいた方がいいな」
「……………………」
「……………………う」
「ナツナツ?」
「うわああああぁぁぁぁん!!!! ごめんね ルーシアナああああーーーー!!!! 私のせいで目立つーーーー!!!!」
「ちょ、ナツナツ!? 大丈夫!! 大丈夫だから!! だから落ち着いて!? ね!!」
「うわああああぁぁぁぁん!!!!」
「死ねクソゴミ親父!! もっと言葉と場合を考えろ!!」
「ぐぼおあ!?」
「うわああああぁぁぁぁん!!!!」
ナツナツを落ち着かせるのに、すっごい苦労した。
「うっ……うえっぐ……うぅ」
「大丈夫だよ、ナツナツ」
「そうよ、ギルドの援助の中には、貴女のことも含まれてるから。まとめて守ってあげるわ」
「うん……ごめんなさい……」
左肩に乗って襟にしがみつくナツナツを、私とセレスで必死に慰める。
なお、ギルド長は死んでいる。
落ち着くようなので、私の髪でぐるぐる巻きにしてあげて話を進めた。
「まだ他の人にバレてないという前提で、私はどうしたらいいでしょう……?」
「最善はナツナツちゃんに、別の種族の型を取ってもらうことだけど……」
「そうすると、今の人格とはまた変わっちゃうらしいの。『種族:妖精』を含む、全個体属性がこの子の人格に影響するらしくて」
ナビがまだ『消えてない』のは、それらの設定も丸々残っているからだ。
…………知らぬとはいえ、酷いことを言った。余裕が出来たらナビも復活させるつもり。許してくれるかなぁ……
「うぅ……そんなことまで、教えなければ良かった……」
「怒るからね……?」
バカなことを言うナツナツを、低い声で威嚇する。気にもしないけど。
「なら、次案。部屋から出ない。又は、常時 隠れてる」
「私もそうしたいけど、多分ムリ。妖精の種族特性の『妖精の心得』には、『定期的にお祭り騒ぎを起こす』っていうのがあるから、ずっと大人しくしてると、その内 騒ぎを起こしてバレる」
「「なんだその特性」」
セレスとセリフがハモった。
「なら、さらに次々案ね。まぁ、ルーシアナにも関係することだけど」
「私?」
「つまり、『子供=弱い』と思われているのが危険なのよ。ルーシアナには頑張って強くなってもらって、『ナツナツちゃんに手を出すのは危険』という認識を広めるの」
「そんな!!!? ダメだよ!! ルーシアナには今度こそ、平穏に一生を全うして貰うんだから!!」
「ナツナツ……」
……ひとつ抜けているでしょう? 『一緒に』だよ。
ナツナツの顔を優しく撫でる。
「頑張るよ」
「ダメだよ!! 強くなるってことは、冒険者ランクが上がるってことだよ!! そしたら、マイアナみたいに高難易度クエストを依頼されるし、ゴーレムだってバレるかもしれないんだよ!?」
「そこよ」
「「え?」」
なんとか私を止めようとするナツナツに、なんと説得しようか考えていると、セレスが声を上げる。
「貴女のおじいさんが援助の依頼をしたのは、このギルドと領主だけ。
今後 生きていくに当たって、必ずしも十分とは言えないわ。
現在のギルド長 及び 領主は、約束を交わした当人達だから問題ないけど、代替わりやさらに上の者、例えば この国の国王などに知られた場合、どうなるか分からない。
そういった場合に備えて、強くなるのは必須だわ。
さらに、狙いは高難易度クエストの太極報。
もし、国からそういった依頼があった場合、ルーシアナを人間として認めさせるのよ。
断って、国の所有物など のようにしようとしたなら、それもまた好都合。
その頃には、他国も喉から手が出るほど欲しい人材となっているでしょう。
ならば、人間として扱うことを条件に、自国籍を持つことを希望する国も出てくるはずよ」
「え、えーと?」
長すぎてよく分からなかった。
「強くなれ。全世界を敵に回して勝てるほどに。そういうことだ」
復活したギルド長が起き上がりながらそんなことを言う。
……………………そんな話だったかな?
でも、セレスもウンウンと首を縦に振っているので、大筋に違いはないのだろう。多分。
「可能性は十分にあるぞ。
何しろ中身は、大賢者マイアナ・ゼロスケイプの孫。さらに外身は、大賢者の技術の全て。
じいさんは0から世界最高峰の大賢者になった。なら、お前は?
少なくとも、じいさんの創った体は0じゃない。同じだけ成長出来れば、その分だけは上にいける。
あのじいさんは、一騎当千だったぞ?」
「……………………」
「……………………脳筋過ぎると思う~……」
私も……
「脳筋か。いいじゃねえか。先のことを不安に思って、足踏みしてるよりは。じいさんも『とりあえず動け』派だったぞ」
「…………知られざる一面……」
「同じく~……」
私、それで死によったのですが……
「まぁ、それでも不安なら、最悪を想定して考えよう。
お前が弱い内に特殊なゴーレムであること、妖精を持っていることが国王にでもバレ、大軍を以て捕らえようとしているとする」
「う……」
具体的に言われると、一気に不安になってくる。
「そしたら、俺等が守ってやる。ま、俺はもって後20年てとこだろうが」
「私はまだ25だから、40年かな~」
「うぃ!?」
「そんだけあればそれなりに強くなってるだろうし、ダメでもその時はその時で信頼できる仲間を増やしておけばいい」
「代わりに 動きづらくなるんだけどね~……人数が多いと、裏切りも心配だし」
「で、でもそれじゃあ……」
二人に特大の迷惑がかかるんじゃ……
「心配するな。これでも元Sランク冒険者だ」
「私はAで辞めちゃったけど、また一からやり直してみようかしら」
「そ、そうじゃな……うぇ!? そんな強いの!? いや、よく知らないけど!!」
「マイアナと同じなら一騎当千……?」
「じいさんは別格だったがな。でも、この町の領軍くらいなら倒せるぞ、多分」
「私は半分くらいなら」
そんな人たちがなんで、ギルド長と受付嬢してんの……
「そ、そうじゃなくて!! そんなことになったら二人に迷惑が」
「気にするな。じいさんがいなけりゃ死んでたことが、両手に収まらん」
「私は片手よ? 片手」
「でも、それとこれとは……」
なおも渋る私に、ギルド長が声を荒げる。
「あーーーー!!!! うるさい うるさい!!!! 俺はお前らを守りたいんだ!! 嫌だと言っても、勝手に守るからな!!」
「それに、嫌なら強くなってくれればいいのよ? 逆に守ってくれるくらいに。まぁ、簡単にはそんな立場になるつもりはないけど」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
二人とも『任せろ』というように自信満々の顔をしている。
『…………いいの、かな。さっき会ったばかりだよ?』
『分かんないよ……でも、ルーシアナだって、会ったばっかりの私を大切にしてくれてるよ……?』
『それは……うん。なんでだろね?』
そういうことなのかもしれない。いや、言葉には出来ないけど。
意を決して口を開く。
「……………………ぅん……ありが、ありがとう…………う、うああああぁぁ……」
「あああああぁぁぁぁ……」
「うお!? 泣くんじゃねえよ!!」
「あらあら。泣き虫姉妹ねぇ」
そんなことを言われても、やっぱり不安だったのだ。
『せめて、お礼の言葉はしっかりと』と思っていたけど、口を開くと同時に、泣き声も溢れて止まらなくなってしまった。
この世界の他のゴーレムに意志はありませんので、奴隷みたいになってるわけではありません。
念のためお知らせ。




