第64話 ゴーレム娘と領主一家
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執事さんに連れられて領主のお屋敷を進む。
廊下はたっぷりと幅広く造られており、そこかしこに綺麗な花が活けられた花瓶や絵画に代表される芸術品が飾られていた。
そして時々すれ違うメイドさんはとても綺麗な方々ばかりでした。
すれ違う度に頭を下げられるので、条件反射的に私も頭を下げていたら、後ろを歩くセレスに怒られてしまった。軽く下げるだけにしよう。
というか、なんでこんな迷路みたいな構造になっているんだろう……
『賊が入り込んだときに、真っ直ぐに領主の部屋まで行けないようにするためだよ~。多分』
『各部屋は、壁であり通路であり隠れ場であるんだ。つまり扉が複数あり通り抜けることが出来る。この屋敷の者にとっては通路なのだ』
『同時に複数の人間が、常に掃除等のために出入りを繰り返しているので、侵入者にとって安全な場所というのが固定されません。隠れにくいということですね』
『なるほど……』
『『『忍び込むなら方法はあるけど』』』
『やめんか!!!!』
ホントに出来るだろうから危険だ。すでに脱出だけならどこからでも出来るのだし。
『お任せください』
ホントにね。牢屋に入れられても、格子の隙間から入って来れるでしょう。転移基点端末。いや、そもそもブローチになってる。
いまいち自分がどこにいるのか分からなくなった頃、ようやく目的の部屋にたどり着いた。執務室、らしい。
「バークレー様。お客様をお連れしました」
「入ってくれ」
執事さんが扉を開け、部屋の中へ通してくれる。
執務室は、まぁ、なんというか、広い部屋だった。
扉の前には10人くらい座れる机があり、その向こうには領主と思しき男性が大きな机に書類片手に座っている。左右の壁は本棚で埋まっており、領主の左隣には若い男性が比較的小さな机に座ってやはり書類仕事をしていた。
ギルド長について領主の前まで進むと、書類を置いて立ち上がる。
「よく来てくれたな。俺がこの街の領主を務めているバークレー・テモールだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします。ルーシア・ケイプです……」
「いや、ルーシアナ・ゼロスケイプだろ?」
「あ、そうでした」
うっかり偽名の方を名乗ってしまった。
領主は愉快そうに『くっくっくっ……』と笑っている。
髪は緑、瞳は青、中肉中背より少しガッシリしている、若い男性だ。30歳くらいに見えるが、ギルド長が『昔からの知り合い』と言うからには、40歳過ぎなのだろう。全体的におっとりしていて文系の気配を纏っている。
続いてもう一人の男性が歩み出て、
「はじめまして。私は領主の補佐をしています、ニコール・テモールと言います。よろしく、お嬢さん」
「よろしくお願いします」
長男は領主、というか父親の若いバージョンといった感じ。よく似ていて、こちらの方がヒョロっとしている。休日はテラスで読書でもしていそうな雰囲気。
…………どちらも脳筋には見えないけど。ギルド長たちにからかわれただろうか。
そしてペコペコと過剰に頭を下げてしまう私は、もしかして権力に弱いのか……
領主の案内で扉前の大きな机に座りると、備え付けられたベルを鳴らす。するとすぐにメイドさんが現れ、飲み物を置いて退出していった。
う、うーん……メイドさんの動きも綺麗で優雅で、見惚れる前に緊張が いや増ししてしまうよ……
領主は緊張にカチカチになる私を楽しそうに眺めると、
「そんなに緊張しなくていい……といっても無理そうだから、そのままいこう」
あ、ちょっと緊張とれた。
「さて、ではまず先日の報奨についてだな」
緊張しているのは、権力に対してではなく、雰囲気に対してだったのかもしれない。
…………………………………………
そして今は何故か、屋外訓練場にて次男と向き合っている。……………………ホントに何故だ?
「さぁ!!遠慮はいらん!!お前の力を見せてみよ!!」
そう元気に声を挙げるのは、筋骨隆々の大男である。暑苦しい…………
次男は見ての通り、領主・長男とは似ていないと思った。最初は。
髪と瞳は同じだ。母親の遺伝はどこ行ったと思ったけど、母親も似た系統だったのでいい感じに混ざったのだろう。
その母親は、女性陣で集まって楽しげに歓談している。
私もあっちに行きたい……
続きといこう。
似ていないと思ったのは、想像通りと思われるが体格と雰囲気だ。
先程述べた通り、筋骨隆々で胸板の厚いドッシリとした体格をしている。身長も領主、長男よりも大きい…………と思ったら、実際はちょい小さいくらいだった。印象により大きく見えていたらしい……私よりかは大きいが。
そして、モロに体育会系な雰囲気。分かりやすく熱血漢なバカもとい単細胞いや猪突猛進…………ダメだ。悪口しか出てこない。
そして、
「それでは、模擬試合を始める。双方、配置に着け」
次男とそっくりの、でっかい子供みたいな雰囲気で試合の準備を進めるのは長男。同じ雰囲気になった領主とギルド長は離れたところから、楽しそうに観覧している。
そう。次男が領主・長男と違うのではない。領主・長男が猫を被っていたのだ。
コイツら全員グルだった…………
時は少々遡る。
領主との話は、まずベーシック・ドラゴンとの戦闘での対応 (咄嗟に避難を指示したこと) や討伐したことなどについて、感謝を述べられると共に特別褒賞金として1,000,000テト渡された。
この辺で流通している硬貨は、銅貨で5、10、50、100。銀貨で500、1,000、5,000、10,000。金貨で50,000、100,000、500,000、1,000,000。
なので渡されたのは、1,000,000テト金貨一枚だけだったけど、初めて見たわ!!!!
震える手で受け取り、[アイテムボックス]に仕舞った。使える気がしない。
そこから本題?のおじいちゃんへの報酬『孫娘へ最大限の援助をすること』についての話になった。
やっぱりというかなんというか、太っ腹に『何でも言え』みたいな話にはならず、ギルド長に手伝ってもらって『人間として扱うこと』やそれに伴って『権利を保証すること』、『妖精の扱い』などについて詳細を詰めていった。
『人間として扱うこと』については、スムーズにいった。
この街に限定されるが、そのように処理するとのこと。ただし、基本的には隠しておくように、と指示された。
つまり基本的に今まで通りだが、万一ゴーレムだとバレた場合、領主が正式に人間だと証明してくれる。
次の『権利を保証すること』については、『この街の住民となること』が条件となった。
まぁこれも普通のことだ。それぞれの街や国は、『人間』だから人権を認め保護している訳ではなく、税を納める『住民』だから人権を認め保護してくれる。
他の国や街に行った際、理不尽な目にあったら、『うちの住民に何してくれとんじゃー!!!!』という理屈で護る訳だから、まずはうちの住民になれ、という話だ。
最後。『妖精の扱い』でちょっと問題になった。というか、なっている。
現在、世界的な流れとして、妖精という種族は存在しない。そのため扱いとしてはペットなどと同様、人間の所有物という扱いになるらしい。ふざけんなだけど。
私と同様にこの街の住民になって、彼らが人権を保証してくれたとしても、他の国や街に誘拐されるなどした場合、私のように『うちの住民に~』という理屈は通しにくい、ということだ。
だからナツナツについては、これまで通り人から隠し、誘拐された場合は『ルーシアナの権利が侵害された』として全力を尽くすという形になった。
ここで問題が起きた。
「だが、果たしてお前に妖精が護れるのか?」
というセリフと共に現れたのが、つまり次男だった。
私たちが入ってきたのとは、別の方の扉を開けると同時にそう言い放った。
……………………なんでこいつ隣室で盗み聞きしてんの?
と、思った私は普通だと思う。
『あぁ。ルーシアナが普通だろう』
ありがとう。ナビ。
が、何故か普通に会話は進む。
「ふむ。どういうことだ、ディアス」
と、領主。
「簡単な話だ。住民の財産が理不尽に奪われた場合、我等が護る。だがその前段階では、基本的に所有者が自力で護るものだ」
「その通りだな」
次男の説明に頷く長男。
「通常、価値のある物を所有している者は、その価値に相当する自衛手段を持つものだ。それは価値ある物を所有する者の義務と言っても良い。そうでなければ、すべての住民に対し我等が警護を付けなければならないことになる」
「家を持ち、鍵をかける。まぁ、基本的な自衛手段だな」
ギルド長も頷く。
「であれば、妖精を所有することに相当する自衛手段とはなんだ?金庫にでも入れるのか?違うだろう。所有者が強いことだ」
そして私を見る。
「お前が妖精を所有するに値する強さを持つか、確かめてやろう。もし強さが至らないなら、我が家で保護する。お前と共にいるよりも幸せだろう」
「あ゛?ふざけんな」
次男が出てくる前から、イライラが溜まり始めていた私の口からは咄嗟にストレートな感情が出た。
ちなみにイライラが溜まっていた主な理由はその内容のさることながら、次男が堂々とカンペを見ながら棒読みでセリフを読んで、領主・長男・ギルド長も当たり前のように流れに合わせたからだ。
つまり
「勝負だ!!」
これのためにナツナツを引き合いに出しただけですよね。
で、現在に戻る。
ナツナツを物扱いされてイラついたところに、小芝居されたり、取り上げようとされたり、ナツナツの意見を無視して勝手に幸せがどうの言われたりしてブチキレてしまった。
少々冷静になって考えると、寝不足だったことも悪影響を与えていた気がする。いつもなら、もうちょっと落ち着いて反論するだろう。分かりやすく演技していたのだし。
……………………まぁ、どんな抵抗をしても結局はこうなる運命だった気もするが。
ナツナツとオズも危険な戦闘ではないと分かっているので、セレスたちと談笑している。何か食べてると思ったら、バームクーヘンだった。タチアナさんのお土産物ですね。
ナビは離れようが無いので共にいるが、とりあえず『手は出さなくていい』と言ってある。
フィールド全体を模擬戦用の防護魔法で包み、大ケガすることは無くなっているが、果たしてどの程度の攻撃から護り始めてくれるのか…………
次男がワクワクといった様子で指定位置に着くので、私も嫌々指定位置に着く。
「彼女はどうだ?」
「それなりに、と言ったところだな。といっても、初日に実力を見てから二度目はまだだが」
ちょータメ口ですね、ギルド長。
とりあえず、無視。
正面を見る。
次男の武器は体格に見合う重大剣。多分私のより大きく、重い。
【重量軽減】の術式は刻んであるだろうが、振り回すのは大変だろう。
あ、ここでひとつマメ知識。
『【重量軽減】で軽くした重い剣』と『初めから軽い剣』。
どちらも同じ重量の場合、使いやすいのは『初めから軽い剣』だ。
というのも、『重い剣』は、慣性が強く働く。つまり『振り出しにくく、止めにくい』のだ。
ずーーーーっと不思議だなぁと思っていたけれど、オズから説明を受けて納得した。
要は『重量』と『質量』の違いだ。
重量とは、ある物に『この世界の重力』がかかったものだ。重力が少ないと重量は軽くなり、これが【重量軽減】である。
質量とは、ある物の『動かしにくさ』であり、重力が同じ場合、質量≒重量として扱われる。が、本質は『動かしにくさ』であり、慣性に影響する。
要するに『重い剣』と『軽い剣』を同等に振り回したいなら、『質量』を同じにしなければならないのだ。【重量軽減】では『質量』が変わらないので、強い慣性を振り切るための力がいるため、使いにくい。
という訳で、あの次男が重大剣を扱いきれているなら、結構な実力者である。
……………………まぁ、扱えない武器で出てこないよね……
私の重大剣の扱いは、基本大雑把な大振りである。魔獣相手ならともかく、人間相手には当たらないだろう。
という訳で、私の得物は剣 ― ベースソード ― である。
この前チコリちゃんに調整してもらった、ベーシック・ドラゴン素材の武器だ。今頃は弓を造ってるところかな。
次男に向かって剣を構える。
「始め!!!!」
私の態度とか都合とか全く考えない号令が響いた。




