第63話 ゴーレム娘、領主の屋敷へ②
58 ~ 68話を連投中。
4/7(日) 15:30 ~ 19:30くらいまで。(前回実績:1話/20分で計算)
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
領主と会うのは、お昼前とのことだった。
表向きはベーシック・ドラゴンの件なので、感謝の言葉と共に報奨を与えられ、ついでに会食する流れなのだろう。
服装はいつもの戦闘服にした。
なんでもいいって話だったし、パッと見ただの服だし、なにより私が持ってる中で一番見目が良い。
寝不足で調子の悪い顔は《バイタル・グロージィ》で誤魔化した。
誤魔化したというか、表面上はすっきり爽やかだ。内心は眠くて仕方ないが。
私たちは全員で領主の屋敷へ向かった。
表向きはギルド長、タチアナさん、セレス、私 で、実際はさらにナツナツ、ナビ、オズ が加わる。
私の右手をタチアナさんが握り、左手をセレスが握り、身長の関係でなんだか私が拘束されて連行されているような絵面になってしまった。
「グレイ……」
何だって?
ボツリとオズが一言溢した。
聞き取れなかったが、聞き返すわけにはいかない。
オズに関しては、タチアナさんに説明したのと同様、『友達』の一言だけで済ませようと思ったが、セレスやギルド長はさすがにこれだけでは誤魔化せなかった。
というわけで、『おじいちゃんが残してくれたナビゲーターの一人』という説明も追加したので、現在のオズの立ち位置は『ナツナツの後輩』という感じだ。
ホントはもう一人 後輩はいるんだけど。
みんなの前ではあまり喋らず、主にナツナツが乗って移動してるから、メインの機能はナツナツの椅子か何かだと思っているのかもしれない。
今は二人とも私のコートの中に隠れている。
領主の屋敷に行くのに、隠蔽魔道具を付たままというわけにはいかないからね。
『まぁ、念話は出来るけどね』
『何の話ですか』
『こっちの話♪』
ナツナツやナビと話すのも楽しいけど、オズは二人とはまた違う関係だから、また別の楽しさがある。
『そういえば領主の名前や家族構成など、予め確認しなくても良いのですか?』
『『『あ』』』
このように注意してくれるし。
「えーと……」
左右を見やると、タチアナさんとセレスは楽しそうに話をしてるので、少しズレたところを先行しているギルド長に声を掛ける。
「ギルド長~」
「ん?なんだ?」
「私、領主の名前どころか性別すら知らないんだけど、聞いていい?」
「今更か。あと、外では一応 領主『様』な」
「おっと、危ない」
普段『様』付けで呼ぶことなんてないから、うっかりしてた。
「貴方も『一応』とか言わないの」
「『一応』ギルド長なんだからね」
「おっと、危ない」
「……………………同じセリフなのに、なんでこんなに殺意が沸くのかしらね」
「そうね……」
「ぴぃ!?」
左右で殺意を高めないでいただきたい……
ギルド長は離れてるから気にしない。
「それは置いておいて、領主の名前はバークレー・テモール。奥方の名前はセリーヌ・テモール。子供は二人いて、長男はニコールで20歳、次男はディアスで18歳」
「『様』は!?」
「今回は役職を指しての『領主』だから問題ない」
「ずるい!?」
「それより名前は覚えたのか?」
「え!?えーと……」
バークレー、セリーヌ、ニコール、ディアス……
『記録しておくから大丈夫だぞ』
ナイスです、ナビさん!!
視線を向けて頷くと、ギルド長は話を続ける。
「領主としての評価は、悪くないと思うぞ。民の声をよく聞き、街の発展に尽力している。現在は長男が補佐、次男が領軍の副長をしている」
「なるほど」
「ルーシアが注意しなきゃならないのは次男だな」
「ん?なんで?」
領主…………様か長男じゃなくて?
「よくある、というと語弊があるが、あの兄弟はよく『智の兄、武の弟』と称される」
「はぁ……よくありますね」
「……………………と、思いきや、あそこの男連中の本質は脳筋だ。基本的に強いヤツが好きで、隙あらば手合わせしようとしてくる。父と長男は、常識があるから思うだけで口には出さないが、次男は別だ。領軍の副長という立場もあり、強くなるのに余念がない。手合わせくらい申し込まれるだろうな」
「『様』の有る無しレベルじゃないくらい失礼なこと言ってますよね!?ね!?」
「ギルド長だからいいんだ」
「尚更良くない!!!!良くないよね!?」
タチアナさんとセレスを見るが、気不味そうな顔をしている。
「それがね~……」
「いや、ほら。言った通りの人達でね?この街で一番強いの、父さんだから。領主様も『そんな他人行儀にするな!!むしろタメ口で民目線の意見をバシバシしてくれ!!』って感じでね……」
「子供たちも小さな頃から知ってるから、似たような感じね。ジットは『師匠』って呼ばれてるのよ……」
「のーきん……!!!!」
『次男はともかく、長男は大丈夫なの?』
『『智の長男』の『智』は、もしかして戦略云々の『智』なのか?』
『政治は大丈夫なんですか?この街』
三人がギルド長たちには聞こえない念話で、激しく同意出来る会話をしている。
そんな会話が聞こえないギルド長は、『何を言ってるんだ』と言う風に二人を見る。
「お前らも同じだろ?なぁ、元Sランク 及び 元Aランク冒険者?」
「「う!!!!」」
アンタらもか。
呆れた風に二人を見ていると、今度はこちらを見て、
「もちろんルーシアのじいさん、マイアナも同じでな?」
「う!!!!……………………いや、私関係ないし!!!?」
「どんなに強いのかとワクワクしているだろうなぁ」
「うわーーん!!全然関係ないのにーーーー!!!!」
「『様』呼びが面倒なら認められなきゃな」
「それはそれで面倒そうだーーーー!!!!」
思わず叫んだら、回りにいる人たちが何事かと視線を向けてきた。やっちゃった…………
「まぁ、強ければ誰彼構わず気に入る訳ではないがな。俺とタチアナは昔からの知り合い。セレスは娘。じいさんは何度も助けてくれたのが大きいだろう」
「当たり前です……」
そんな強さこそ正義みたいな街、イヤよ……
そのまましばらく進むと、ギルド長の屋敷の数倍 大きな屋敷が見えてきた。
豪邸ってこういうのを言うのかな?
入口の門には見張りの兵士が二人と執事服姿の老人がおり、こちらを見ている。…………こちらというか、ギルド長か。
ギルド長の姿を確認すると、執事さんが駆け寄ってきた。
「これは皆様、ようこそお越しくださいました」
「すまない。待たせたかな」
「ほほ。そう思って頂けるなら、馬車を迎えに行かせますので、利用してくださいますかな?」
「ゲフン!!今後も迷惑を掛ける」
「いえいえ」
…………………………………………
「ねぇ、セレス……(ひそひそ)」
「ん?なに?(ひそひそ)」
「今更だけど、なんで馬車使わなかったの?(ひそひそ)」
「父さんの乗り物酔いが酷いからね(ひそひそ)」
冒険者の時、遠方の依頼場所へはどうやって移動してたんだろ…………?
「ん?気絶してれば乗り物酔いなんてしないと思わない?(ひそひそ)」
タチアナさんが横から追加情報を寄越していった。
…………………………………………気絶させたのか。
ヒドイ情報をもらってしまった。
後ろでそんな会話をしていることなど…………多分聞こえているでしょうけど、ギルド長は気にせず挨拶を終え、こちらを手巻きする。
タチアナさんとセレスに押され、そちらへ行くと、
「知っているかもしれないが、こいつが今回の主役、ルーシア・ケイプだ。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします」
緊張にぎこちなく挨拶し、頭を下げる。
「ルーシア・ケイプ様ですね。私はバークレー様の執事をさせていただいております、サリハンと申します。よろしくお願いいたします」
と、言って執事さんが頭を下げたので、慌ててもう一度頭を下げた。
周りから、というか、グランディア家の面々からクスリと小さく笑い声が聞こえた。
コイツら…………
頭を上げると、執事さんも微笑ましいものを見る目でこちらを見、
「それでは皆様、こちらへどうぞ」
屋敷へと案内してくれるのだった。
『ねぇ……どうするのが良かったの?これ』
『ギルド長たちの様子を見るなら、頭を下げる必要はなかったのだろうが…………』
『ルーシアナのキャラではないので、これで良かったのでは?』
……………………なら、いいか。




