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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
4章 訪問!!領主のお屋敷
64/264

第59話 ゴーレム娘、武器補充

58 ~ 68話を連投中。


4/7(日) 15:30 ~ 19:30くらいまで。(前回実績:1話/20分で計算)


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

掃除が思った以上に早く終わった私は、チコリちゃんに会いに『武器工房 フィンメル・アルバ』へ向かっている。

三日も経ったから、そろそろベーシック・ドラゴン素材の武器が完成してるんじゃないかと思ったのと、スティールブレイドは消滅、アイアンソードは半減してしまいましたからね。その補充です。


うーん……ガア・ティークルでの戦闘は、得られたものも大きかったのだけど、得られなかったものも多いのだ。お金とか。


収支で言うとマイナス。武器と時間だけ消耗した感じ。


『せめて』と思って鈍人形の装甲とかに使われているインゴットを貰ってきたけど、果たしてチコリちゃん、というか鍛冶ギルドの炉はこれを融かせるのかどうか…………


『多分無理ですね。それを完全に融かすには4,000℃位必要です。ちなみに鉄の融点は1,500℃位です』


『そんなバッサリと…………高性能な炉が鍛冶ギルドにあるらしいし、なんとかならないかな?』


『この20~30年で技術革新が起きていれば…………』


『ムリだな。そもそもそんな高温が必要でなければ、技術革新など起きようも無かろう』


『確か最近のトレンドは、異種金属の合金じゃなくて、異種素材の合金だったはずだよ~。要するに金属と錬金術素材。赤火石とか。あんまり高温が必要なものじゃなかったはず~』


『まぁ、その流れの遠くの方にあるのがその素材ですので、後1,000年くらい待てば加工できるようになるのではないでしょうか?』


『遠い!!!!』


ちなみにガア・ティークルでは、決まった形 (要するに鈍人形とか鈍円筒とか) に加工するための専用設備になっているので、剣とかには出来ないらしい。


人形にしてもらってもね…………盾にしかならないし、装甲はあるし。


『炉を設計するならアドバイス出来ますが、その工房に設置するのは推奨しません。超高度技術の塊になります』


『よく考えなくても、鍛冶ギルドの高性能炉でも融かせない金属なんて、すこぶる目立つな』


『『神の試練で手に入れた』でもいいけど、報告案件じゃなかったっけ~?矛盾ないように説明出来る?』


『…………………………………………止めとこうか』


『『『そうしましょう』』』


謎金属・武器化プロジェクト、始動前に凍結粉砕!!


……………………盾が手に入っただけ儲け物だと思いましょう。





鍛冶屋街の大通りを進み、『武器工房 フィンメル・アルバ』に辿り着く。

この工房は周りの工房と比べて、一回りくらい小さい。家族経営よりちょっと大きいくらいの規模の工房である。職人さんはチコリちゃんを加えて10人くらい。

他の工房をよく知らないのでアレだが、結構繁盛しているように見える。今もちらほらと冒険者が工房を出たり入ったりしているし。


「こんにちは~……」


「いらっしゃいませ~~!!」


黙って入るのも気不味いけど、目立ちたくもないので、小声で挨拶したら、大声で挨拶を返された。


…………ま、まぁ、それも仕事ですからね。別に挨拶されたからって目立つ訳でも


「あ~!!今話題の『人形遣い』さ~ん!!今日もチコリに御用ですか~~?」


「……………………」


「どうしました~?『人形遣い』さ~~ん?」


……………………すげぇ目立った。


工房内にいる冒険者たちが全員こちらに振り返り、


「おぉ、マジだ」

「あの子なん?俺初見なんだけど」

「今日も可愛いわね~♡」

「この工房が行き付けなのか?」

「らしいぞ」

「へ~」

「あんな娘が欲しい……」

「妹でもいいかな」

「……………………母に」

「おいやめろ」

「拝め拝め」

「ありがたや~……」

「今日はいいことあるかも」

「だな」


……………………ナツナツ。


『【グッド・ラック】~♪』


まぁ、このくらいはね……嫌われてるわけでもないし。


若干顔を赤くして、私に大声で声を掛けたお姉さんの前に行く。

ニッコニコしながら私を見ているこの人は、チコリちゃんの母親。

私よりちょっと大きいくらいの子供にしか見えないが、立派な大人である。


…………私の名前を使って、この工房を宣伝するくらいには商魂逞しい。


すでに私がいなかった三日間の内に、『『人形遣い』行き付けの工房』として低ランク冒険者の間にじわじわと広まっているらしい。

本気でジンクス目当ての冒険者が来るわけではないが、『剣を買ったら、ポーションがおまけにつく』くらいの感覚でやって来る者はいる。


チコリちゃんが私の要望に応えられている内に、新規顧客を取り込んでおこうという腹づもりなんだろう。そのうち高ランク素材を扱える工房に鞍替えするだろうと思われているからね。


親としては、娘を応援するのとはまた別に堅実に経営を考えなければならないのだ。

まぁ、チコリちゃんが頑張り続ければ、フィーバーが長く続くだけだから悪いことはないけど。


「…………こんにちは。チコリちゃんいます?」


「いらっしゃい。当然いるわよ。場所は覚えてる?なら勝手に入っていいわよ」


「分かりました。あ、スティールブレイドとスティールソードを貰っていいですか?それの調整もしたいので」


「え?いいけど…………ベースブレイドとベースソードはもう出来てるわよ?」


「あ、そんな名前なんですね。まぁ、何と言いますか、色々使い道があるんです」


「ふーん……?まぁ、買ってくれるんならいいけど」


怪訝そうな顔をしていたけど、了承してくれたのでOK。

カウンター裏から新品の二剣を持ってきてくれた。


「合計60,000テトになりま~す♪」


「支出が……!!」


なかなかのお値段がする……まぁ、ちょくちょく買い替えるものでも無いからね、こういう物は……


一言断ってから、工房の奥へと進ませてもらった。


ちなみにこの工房は、入口から入ってすぐに広いスペースがあり、そこに様々な長さの刃が付いてない武器が並べられている。

お客さんはそこで軽く振るなどして一番しっくりくる物をカウンターで購入すると、それを持って奥の調整室へ行く。

そこにいる職人さんに最終的な微調整を行ってもらい、完成、というわけだ。

普通はここまでだが、さらに『もうちょっと短く』とか『もうちょっと薄く』みたいな要望がある場合は、追加料金を払ってもっと奥の鍛冶場で職人さんと調整していく形になる。


私みたいに素材を持ち込んだ場合は、前段階を飛ばしていきなり鍛冶場に行く感じになる。


まぁでも、この工房で一番多いのは、『メンテナンス兼研ぎ直し』らしいけど。

だから調整室の前を通り過ぎる時に聞こえる音は、鎚を叩く音ではなく、『シャッ!!シャッ!!』という研ぎ音になる。


それを横目ならぬ横耳で聞き流しつつ奥へ進むと、途中で防音魔法を潜り抜けたのが肌に感じて分かる。

途端に世界を埋め尽くすのは、『カン!!キン!!カン!!』という鎚の音だ。


『ナビ』


『《ジャミング》』


自分の周囲だけ防音魔法を重ねがけし、奥へ進むと数人の職人さんが慌ただしく作業をしているところだった。冒険者はいない。


なら、今はストックになる既製品でも量産しているところかな?


私が入っても、皆チラリとしか視線を寄越さず、すぐに自分の作業に戻っていった。

そんな中、他の職人と同様にチラリとこちらを見て視線を戻し、またすぐに顔を向けてくる女の子がいた。


チコリちゃんだ。


「こんにちは~」


「ルーシーちゃん、いらっしゃい。武器を取りに来た…………んだよね?」


「そうだけど、なぜに疑問系?」


「既製品抱えてるから」


「あぁ……ちょっとこれも調整してもらいたくて」


「ふぅん?まぁ、とりあえず出来た武器取ってくるから、ちょっと待ってて」


「は~い」


『ててて~』と、壁際に設置された棚へ行くのを見送る。棚の上には、布に(くる)まれた武器が数本並べられていた。私は作業台の上に既製品の二振りを置いて待つことにする。


……………………チコリちゃんが戻ってきた。


さすが武器職人。体は小さいが、重大剣と通常の剣を抱えて移動する足取りに不安定感は無か


「あうっ!?」


「あっっっっぶな!!!!」


あった!!超あった!!

布に包まれた状態とはいえ、刃物抱えて転びよった!!!!


足を(もつ)れさせた瞬間、《ショート・ジャンプ》でチコリちゃんの隣へ移動し、体を支えると同時に《異空間干渉》で抱えた武器を[アイテムボックス]に収納した。


セーーーーフ!!!!


「あ、ありがとう……」


「どういたしまして。気を付けてね」


「チコリ…………おめぇ、武器職人が自分の造った武器に振り回されんなよ……」


「ご、ごめんなさい……」


そんなものだろうか…………?


心の中で首を傾げつつ、チコリちゃんを立たせてあげると、


「嬢ちゃん。ありがとうな。でも噂通り、すげぇ冒険者なんだなぁ」


「う、噂といいますと~……」


「『人形遣い』。収納魔法が得意なんだろ?でもさっきの動きも凄かったな~。スキルか?」


「え~~と……………………そんな感じです……」


「ははっ。なるほどな。じゃ、今日は急ぎの仕事もないし、ゆっくりしてきな」


「ありがとうございます」


チコリ父はそう言うとまた自分の作業に戻っていった。


良かった……深く突っ込まれなくて……


チコリちゃんと共に作業台に戻ると、[アイテムボックス]からベースブレイドとベースソードを取り出した。


「ホント、ありがとね。ルーシーちゃん」


「どういたしまして。まぁ、腕が飛んでたら治癒魔法を試せたんだけど」


「怖っ!!」


いえ、たまには《メガリザレクション》を使ってみたかったとか、思っただけですよ?


怯えて後退(あとずさ)るチコリちゃんの左腕を掴んで優しく撫でてあげると、さらに蒼くなりました☆


…………まぁ、冗談はこの位にしておいて……


「柄回りを調整するんだっけ?私はここで試し振りしてみればいいの?」


「うん。この前のスティールブレイドと同じようにしておいたけど、重量配分が違うからちょっと違うはず。戦闘で使う状態で試してね。魔石とか」


「はいよ~」


言われてまずは、ベースブレイドの布を取り払う。

布の下から現れたのは、刃の部分に薄く削り出した牙を無数に組合せて滑らかな曲線とし、それを皮と鱗で挟み固定した深緑色の美しい重大剣だった。

私の希望で片刃となっているが、これは別に私が特殊というわけではない。


柄頭に【重量軽減】の魔石を取り付け、目の前に掲げると、しばし見入ってしまう…………

コイツの残念と奇跡のような経験をしたのだから。


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………ルーシーちゃん、ちょっとヤバ気な顔してるよ?」


「シツレイナ……」


ヤバ気な顔ってどんなのよ?


『恍惚?』


『トランス?』


『人間で試し斬りそう』


『おい』


オズさんの遠慮が皆無。


でもまぁ、確かに刀身を見つめながら固まっていたら、傍目にはヤバイ人に見えるかもしれない。


……………………いや、ヤバイな。どう考えても。


気を取り直して、重大剣を振るう。

一応、すっぽ抜けでもしない限りは、当たらないように周りには気を付けてますよ?


振り下ろし、振り上げ、横薙ぎ、突き、防御、に担いでの移動。


屋内なので、戦闘で取り得る全ての動作は試せないが、基本的な所を一通り試してみる。


……………………ちょっと握りづらいかな?


結果を告げようとチコリちゃんに向き直ると、


「おおおおぉぉぉぉ~~~~…………」×4


チコリちゃんを始め、この部屋にいた職人さんが全員集まってて感嘆の声を挙げられた。


「な、なに?」


「や~~……ルーシーちゃん、ホントにそれ使えるんだね~。感心しちゃった」


「それに重さや勢いで叩き付ける『殴打』の動きではなく、ちゃんと刃を立てて滑らせる『斬撃』の動きになってるな」


「ここに来る連中はその辺の違いが分かってるヤツが少なくてなぁ……」


「分かってて出来ないのもいるがな。お嬢ちゃんは文句なしに合格だ」


……………………あれ?ここは剣術道場ですか?


ぽか~んとしていると、言うだけ言ってチコリちゃんを残して自分の作業に戻っていった。


「さすがベーシック・ドラゴンを倒しただけあるね~」


「え?う~ん……でもベーシック・ドラゴンには、剣は効かなかったからなぁ……」


「あ、そういえばそうだったね。でも、剣で倒したって言われても納得しちゃうかも」


「ありがと」


まぁ、私の剣の腕が上がったのだとしたら、この前の鈍人形100体斬りが原因だろう。

《斬撃制御》がしっかりと最適動作を覚えてくれたのだ。


このスキルはすでにおじいちゃんの技術を私に適用するのではなく、私の最適動作を記憶して常に最適に補整するように働き始めている。

こうなってくると、偶然素晴らしい動作が出来た場合でも、すぐに自分のモノとして再現できるようになるから、成長が段違いに早くなるのだ。

あの戦闘は経験値にはならなかったけど、ちゃんと経験にはなりました。


「それでどう?問題なかった?」


「え?あ、うん。ちょっと握りづらいかな。滑っちゃいそう」


「ん~……もうちょっと抵抗が強い素材にしようか。細い訳じゃないんだよね?」


「うん。太さは丁度いい」


このあと、残りの三振りも調整してもらいました。


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