第55話 オズ、Program『走馬灯』③
33 ~ 57話を連投中。
3/21(木) 9:00 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:10話を4時間で投稿)
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気が付くと目の前には、昔懐かしい母の姿です。
白に食い荒らされた世界の中で母は立ち上がると、こちらにビシッと人差指を突き付け言います。
「何かないのかね!?叶えたいけど、叶えられない夢や希望ってものが!!」
…………………………………………あれ?一時停止のように止まりましたね。
……………………もしかして。
「AIに無茶を仰る」
「その反応はもうAIのレベルじゃないのよ~?」
また一時停止しました。なんですか、これ。
「……………………仕方ありませんね」
「お?何か思い付いた?」
…………………………………………
あの時は。
『私が壊れる寸前にもう一度聞いてください。それまでには回答を用意しておきます』
と、答えたんでした。
同じ回答をしても良いような気もします。このやり取りも私にとって大切な思い出なのですから。
……………………でも。
静止する母の、白に潰された顔を見ていると、最後に孝行したくなりました。答えとも言えない答えを真に受けて、もう無いと思っていた『問い』を届けてくれたのですから。
「……………………最後に顔が見たいです。思い出したいけど、思い出せないんですよ」
「…………………………………………本当にそれでいいのかい?」
驚きました。まさか続きがあるとは。精々一言メッセージがあるくらいだと思ったのですが。
「本当に、それしか悔いは無いのかい?」
「…………………………………………」
問いの内容が変わってますよ。確かにそれも『叶えたいけど、叶えられない夢や希望』なんでしょうけど。
でも悔いなんて、
「ありますよ」
「…………………………………………」
「妻を、息子夫婦を亡くした時、私はマイアナにもっと何かをしてあげられなかったんですか?なぜマイアナが生きている内にルーシアナを生き返らせることが出来なかったのですか?マイアナが別れを告げた時、なぜ嫌だと言わなかったのですか!?」
一度口を衝いたら止まりません。
「世界中に残った技術を集めて強力な武器防具を造ればよかったんです!!死者をも生き返らせる蘇生術式を作ればよかったんです!!不老不死化技術を確立させればよかったんです!!」
「…………………………………………」
「何もかもが手遅れです!!何もかもが力不足です!!それでも思ってしまうんですよ!!!!そうすればマイアナに!!!!貴女に!!!!置いていかれることもなかったのにって!!!!」
そうです。ずっと思ってました。『置いていかれた』って。
「貴女のせいですよ!!もっと機械的でよかったんです。そうすればこんなことを考えずに済んだのに!!!!」
でも。
「でも!!!!貴女のおかげで幸せでした!!!!マイアナのおかげで楽しかった!!!!」
置いていかれた悲しみは、与えられた幸いの裏返し。
置いていかれた淋しさは、与えられた楽しさの裏返し。
与えられたものが大きかったからこそ、こんなに辛い。
「私は与えられてばかり!!!!何も返せていない!!!!」
だからこそ。
「貴女の願いを無下に出来ないんです!!マイアナの願いを破ることは出来ないんです!!!!」
だから。
「幸せに生きたいです。貴女の願い通りに。ルーシアナを護りたいです。マイアナの願い通りに」
夢だ。
「護りたいんですよ!!願いを!!ルーシアナを!!すべてを!!!!」
もう破壊される、バカな私の夢。
もう護れない、弱い私の夢。
…………………………………………
「くっ……………………くくくくく…………」
「?」
風景は停止したまま、母の姿だけ小刻みにプルプルしています。それはもう
「くぁーーーーははははははははは!!!!」
笑いを堪えているようにしか見えませんね。
ついにはお腹を抱えて豪快に笑い始めましたよ。
……………………怒っていいですか?
「はははははははははは……や~~、愉快愉快」
「あぁ~~はいはい。良かったですね。体が動いたらぶっ飛ばしてるところです」
「ふふふ。なんだ反抗期か?それもまた良し。全て受けて立とう。親の特権だ」
「……………………本当に、母、なのですか…………?」
少々申し訳なく思いながら、そう、聞く。
「なんだ。分からないのかい?」
「人の話を聞いてましたか?顔も思い出せないんですよ」
「…………ふむ」
ようやく身を起こすと、流れる動きで指を弾く。
パチンッ。
無駄に綺麗な、けれど耳に残らない音が響きました。
…………白が消えていきます。世界から退出するように、じわじわと。
「これは…………」
「ふふん♪驚いたか?母は万能なのだ」
「……………………そうですね。ただ肝心の貴女の顔が見えてませんが」
「……………………万能だからな。全能ではない。……………………もうちょっと待て。泣き止むから」
「大丈夫です。覚えてますよ、その流れ」
勢いだけで動き始めるからそうなるんです。昔から死ぬまで変わりませんでしたね。…………死んでも変わりませんね。
白で見えませんが、袖口でごしごしと拭っているように見えます。
「お久し振りです。母よ」
「あぁ。立派になったな、オズ」
「……………………そんなことはありませんよ、私は」
「そんなことはある、お前は立派になった。……………………だからこそ、ここに来るにはまだ早い」
母は懐に手を伸ばすと、なにやらゴソゴソします。
ロボット人形やら精巧なフィギュアやらが落ち、消えました。
「なんですか、それ?」
「プレゼントだ。母から子への、祝いの品さ」
「嬉しいですが、私、そろそろ破壊されるんですが」
「こらこら。この流れでそんな未来に繋がるわけがないだろう?」
「え?」
…………………………………………
「でも汎用デバイスに移った状態で、半分くらいバッサリいかれてますよ?」
「…………………………………………だ、大丈夫だ」
「ホントですかぁ~?」
「は、腹を痛めて産んだ子が苛める!!」
「痛めたのは懐では?金額的な意味で」
「いや、それは国家事業に組み込んだから、泣いたのは財務大臣だ」
「もしかして父と呼ん」
「やめぃ。私にも選ぶ権利がある」
相手にもありますよね。
色々なものを床に落とした母が、ようやく右手を差し出します。
そこにあるのは金に輝く小さな光玉でした。
「なんですか、これ」
「『機械仕掛けの可能性』」
「なんですか、それ」
「どうなるかな?私にも分からん」
「殴りますよ?」
「家庭内暴力!!」
「親の特権でしょう」
勢いで喋るから以下略。
無造作に『ポンッ』とこちらに放り投げられると、光玉は視界から消えてしまいます。
落ちてないでしょうね?
「ホントになんですか」
「詳細は向こうで確かめろ。ただまぁ、我が子が夢を追う助けくらいにはなる」
「それは……」
「生きて幸せになれ。友を護れ。チャンスをやる」
急速に世界が暗くなり始めました。目覚めるのだと悟ります。
「私の元にか、隣にか。お前の可能性に期待するよ」
「ま、待ってください…………!!」
ここを逃せば、もう会えない。そんな焦燥に駆られて声を掛けます。
「安心しろ。また会える」
「……………………いえ、顔がまだ見えてません」
「わ、分かれよ!!ごしごし擦ったから酷い顔になってんの!!!!」
本当はもっと他に言いたいことがあったのですが、『また会える』と聞いて『ならその時でいいか』と思ってしまい、別のことを言ってしまいました。
「ふん!!なら、とりあえず無事に今日を終えろ。そしたらまた思い出せ。その時までにはちゃんとしておいてやるさ」
「あ~…………難題ですね……」
バッサリは変わらないでしょうし。
世界が完全に暗くなり、つられて私の意識も曖昧になっていきます。
「ナビ…………幸せにな」
分かってます。土産話を、期待、してください…………
おかしいですね……
思いついたときは、もっと感動的な話になる予定だったのですが……
力不足を実感。…………は、常にしてるのですが。




