第54話 オズ、Program『走馬灯』②
33 ~ 57話を連投中。
3/21(木) 9:00 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:10話を4時間で投稿)
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申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
視界が暗転して場面が変わります。
私はその日、特にすることも無いので、過去の記憶を再生していました。
母が亡くなってから『マイアナ』様に出会うまで4,000年を過ごした時は一瞬で終わった無為の時間ですが、『マイアナ』様と別れてからはとてもとても長く感じます。
まだ、15年しか経っていないのですがね。
ですが、いつか『ルーシアナ』様に出会うことだけを心の支えに己を保っていました。
▽異相空間境界、南東部に不正な干渉あり。
▽異相空間崩壊の危険があります。
▽最適化開始……………………中断。
▽干渉が終了しました。
▽記録されたデータに基づき、異相空間術式をアップデートしますか?
『…………………………………………はい』
▽異相空間術式のアップデートプログラムを作成中です……………………完了。
▽異相空間術式をアップデートしています……………………完了。
この時は『ルーシアナ』様が来たとは思いませんでした。
ついに人間が異相空間術式に手を出せるようになり、当施設が見つかったのかと思ったのです。
迷いましたが、術式のアップデートを行いました。
……………………この文明が滅びたら、『ルーシアナ』様に会えない気がして。
数日後。
▽異相空間境界、東部に不正な干渉あり。
▽異相空間崩壊の危険があります。
▽最適化開始……………………
▽干渉が終了しま
▽第二干渉始まりました。
▽異相空間崩壊の危険があります。
▽強制最適化処理実施。
また来ました。
しかも今度は連続干渉です。異相空間術式に対してこれは危ない。
私は異相空間維持システムに、異相空間の維持に関する全権を投げ、監視システムから干渉者を確認しました。
…………………………………………この時の感情を表す言葉を私は持っていません。
こちらが行動を開始する前に、『ルーシアナ』様は自身の体を異相空間内へ弾き飛ばし、侵入を成功させました。
私は、そうですね。混乱していたと思います。
待ちに待った来訪でしたが、本当は半分以上諦めていたのでしょう。色々と準備が出来ていませんでした。夢魔に対する対抗プログラムとか。
そうこうしている内に、東入口に『ルーシアナ』様がやって来たようです。
最低限の、不足だらけの準備を行って、汎用デバイスに主稼働域を移しました。
扉から出ると、丁度『ルーシアナ』様が入ってきたところです。
びっくりした表情で聞かれました。
「キミ、何者?…………ですか?」
色々と言葉遣いがおかしい。
意図せずこんなところへ来たため、まだ混乱していたのでしょう。
とは言え、私も似たようなものでした。
「当機は『追従型汎用デバイス PTD-20779』です。現在は『清掃モード』で稼働中。対象『名称未定』様に追従中です」
思わず定型文を流してしまいました。
『ルーシアナ』様は少し考えると、ムッとした表情をして歩き出します。
私も初期設定のまま、追従します。
この時、『マイアナ』様と全く異なる反応に戸惑い、また己の混乱を鎮めるため、敢えて初期設定のまま追従していました。
この設定は声を掛けられなければ、追従しながら周囲を掃除するようになっています。ルーチンワークに逃げ込みたかったのでしょう。
しばらくすると、『ルーシアナ』様が連れていた妖精『ナツナツ』が頭の上に乗りました。
実体型のナビゲーターです。私も設計に携わりました。
他に非実体型のナビゲーター『ナビ』もおり、周波数帯を合わせたら普通に声が聞こえました。
……………………しかしアレですね。この時も思いましたが、ナビゲーターの人格は私のAIを基礎としている割に、とても人間らしいですね。そして仲が良い。ナビはたまに弄られますが、本気で嫌がっている訳ではなさそうです。
じっと黙って待ってました。実は話し掛けるタイミングを失しており、話し掛けてくれないかと期待していました。
なので、話し掛けられると嬉しくて……………………失敗しました。
思わず『マイアナ』様にするように要監視対象に指定してしまいました。からかっただけなのですが、修正できる雰囲気ではありません。
さらに本登録がしたいと言われ、思わず勘違いしやすい言葉で説明して、さらに警戒レベルを上げてしまいました。
……………………『マイアナ』様の情報が消えてしまうことに恐怖したのです。
半眼で睨まれました。
空腹の様でしたので、フードコートでの食事を勧めます。
なんとなく『ルーシアナ』様も完全食を食べるかと思っていたので、『食材があれば普通の食事も作れますよ。(いらないかもですが)』的なニュアンスで説明したら、ドヤ顔で大量の食材を用意していただきました。健やかに成長されているご様子。
ただ、異空間術式の雑な扱い方に恐怖しました。それだけです。別に負けたわけではありませんし、その後補助デバイスとぶつかったのは仕様です。
食事と一緒に、施設の説明とモード変更手続きを進めます。
そろそろ会話に慣れてきてましたね。
うっかり『マイアナ』様にするようにキツめにからかってしまいましたが、不機嫌にはなりますが怒りはせずに対応してくれます。心地好いと感じていました。
今は美味しそうに昼食を食べていらっしゃいます。
味は全く違うはずなのに、表情は『マイアナ』様にそっくりです。解せぬ。
食事とレシピを持って帰ろうしていますので、思わず
「食べに来れば良いと思われます」
と言ってしまいました。
実は『捕まるかもしれないからもう来ない』と言われるのではないかと、内心ビクビクでした。
また来ると言っていただき、ホッとしたものです。
忘れない内に異空間術式について忠告しておきました。やはりこの危険を知らなかったようです。危ないですね。
…………絶叫しました。『ジャスティーナ』様や『ランドルフ』様に似ています。苦労したようです。
モード変更のため、一番近い操作端末まで案内しました。
この操作端末は通常 職員が施設案内等をする際に、施設情報の確認や予約を取るための端末なのですが、母の趣味で隠しコマンドがあるのです。とても有名なものらしいですが、『ルーシアナ』様に通じる訳もないので黙ってます。
上上下下…………
ピロリン♪という軽快な音と共に、遠くの方でマキュームレイタ室が解錠しました。
『ルーシアナ』様をそちらへ案内すると、魔力または電力を注ぐようお願いします。
この時代、電力はほとんど認知されていませんので、『ルーシアナ』様は当然のように魔力を注ぎます。
またからかってしまいました。
雷魔法を覚えてもらうため、基礎物理学をお教えすることになりました。
『マイアナ』様と違い興味があちらこちらに飛びます。この辺は『マイアナ』様とは違いますね。『マイアナ』様はとりあえず人の話を最後まで聞きますからね。
学習した内容を復唱させます。懐かしい。
内容を聞くに『ルーシアナ』様は物覚えは悪くなさそうだと感じました。しっかり自分なりの言葉に置き換えて理解していらっしゃいます。
……………………でも、うっかりさんのようです。まさか雷球を直視して悶絶するとは。
落ち着いてから治癒魔法を施すと、お礼を言われて撫でられました。あちらの方に移っておけば良かったですね。
『ルーシアナ』様が今度は注意して雷球を作り、電力を溜めていきます。
はぁ…………まさか、ここからあんなことになろうとは…………
今思い返しても、自分が情けないですね。
ここから先はわざわざ振り返る必要は無いでしょう。
『ルーシアナ』様は『マイアナ』様と違い、私がいなくても大丈夫です。…………いえ、『マイアナ』様も別に私がいないとダメではありませんでした。
彼らがいないとダメになったのは、私です。
…………早いところ伝えてあげないといけませんね。『ルーシアナ』様は生き返ったと。
…………………………………………あぁ、でも二つだけ。
「逃げる選択肢は無いんですか…………」
「無いよ。友達置いてくわけないじゃん。どうせ最終手段とか言って、異相空間崩壊させて夢魔を倒すとか考えてるんでしょう?」
「…………………………………………それは最後の最後の最後の手段です」
気付かれましたかね。実は嬉しくて次の言葉が出てこなかったんですよ。
「だとさ。…………もっかい言うけど。貴方の記憶を護りたくてここに来たんだよ?」
「…………………………………………はぁ。分かりましたよ。ですが、くれぐれも注意してください。…………友達が心配なのは、私も同様です」
「…………ふふ」
隠せましたかね。『友達』というのに勇気を振り絞ったことを。『マイアナ』様にすら面と向かって言ったことは無いんですよ。
…………………………………………
さようなら。




