第44話 ゴーレム娘、進攻せり①
33 ~ 57話を連投中。
3/21(木) 9:00 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:10話を4時間で投稿)
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『ニンゲン…………ヨリシロ…………』
夢魔はその光景を天井近くの高みから俯瞰していた。
今、眼下の廊下では、身長2m程のゴーレムに似た人型魔道具『人型防衛用デバイス RSD-77459』が、人間の隠れる部屋の扉に向かって、単調に攻撃を仕掛けていた。
細身の体格からは想像も付かないような大きな音が響いているが、夢魔にとってそれはあまり興味のあることではなかった。
『ニンゲン…………ヨリシロ…………』
何度目になろうか。人型魔道具が大きな鎚に変えた腕を振りかぶる。と、突然の衝撃に吹き飛ばされる。
開いた扉から出てくるのは、一人の人間とそれに従う十の追従型汎用デバイス。
『ニンゲ…………ルーシ……ア…………』
夢魔に限らず精神生命体というのは、通常の生物と良く似ている。
通常の生物は、物質で出来た体に魂が宿る。
精神生命体は、魔力で出来た体に魂が宿る。
違いはその体が魔力で出来ているため、そのままでは容易く霧散してしまうことと、逆にその性質を利用して通常の生物に乗り移ったり出来ること。
…………この夢魔の魂はすで崩壊していた。
時を遡ること、約1,000年。
当時テモテカールはまだなく、ポツポツと点在する村には柵はあっても防壁はなく、故にその守護結界の隙間も大きく、夢魔のような精神生命体にとってそこは食料庫のような場所であった。
だが当時の人々とて、むざむざと襲われたりはしない。
ある夜、罠を張った人々の反撃に合い、その存在の大半を滅せられたのだ。
這々の体で逃げ出す夢魔。
放っておいてもその内 消滅してしまうであろうことは、誰の目にも明らかであったことから、追撃はされなかった。実際、そのままであれば朝日を拝むことは出来なかっただろう。
しかし何の偶然か、気付けばこの施設に潜り込んでいた。
訳も分からぬまま、最初に遭遇した汎用デバイス経由で防衛システム内に忍び込むと、そのまま息を潜めて休眠状態に入った。
人間ならば半死半生の状態で、たまたま見付けた小屋の中に転がり込み、気絶したようなものだ。
それから長い年月が流れる。
この施設は最低限のエネルギーで休止していたが、死にかけの夢魔が少々エネルギーを横取りしたところで誤差の範囲であり、気付かれることはなかった。
ある時、転機が訪れる。マイアナがこの施設を起動させたのだ。
それまではエネルギーといえば、生命力の欠片もない電気エネルギーで、その体を維持することがやっとであったが、マイアナが注いだ魔力は彼の生命エネルギーに満ち溢れており、一気にその体を回復させた。
ただ、その回復は性急すぎた。体は回復したが、魂は反動で崩壊した。
元々800年近い年月を経た夢魔の魂はボロボロで、例え気付き注意深く回復させたとしても、正しく回復させることは不可能だったであろうが。
だが、それゆえ、オズもマイアナも防衛システムに潜んだ夢魔に気付かなかった。
そして、それはそのまま意味もなく残り続けるだけのはずだった。
二度目の転機が訪れる。ルーシアナが異相空間に干渉することで、一時的にこの施設は現実空間と接続した。
さらに戦闘中のベーシック・ドラゴンには、先程喰らったばかりの人間の残滓がへばりついていた。
それは怨霊にもならないようなごく普通の残念でしかなかったが、魂無き夢魔の体は欠損を埋めるかのようにそれを取り込んだ。
…………現在この夢魔は、魔力で出来た体に、冒険者四人の残念が混ざって出来たツギハギの魂で動いている。
元が通常の生物であったツギハギの魂は、魔力の体を維持する方法が分からず、そのまま霧散していくはずだった。
バラバラの思考は、その身をひとつに留め置くことをせず、自ら散々に裂いていくはずだった。
だが、あるひとつの感情によって、バラバラの思考はひとつの行動に統一され、その手段としてシステム内に留まることを選択したことで体の霧散は押し留められた。
すなわち
『ニンゲン…………ルーシア…………コロス…………コムスメ…………』
人間として死ぬ瞬間。逆恨みで脳裏に思い描いていたルーシアナに対する理不尽な憎悪。
それだけが、今、夢魔という存在をギリギリで存続させていた。
「ナツナツ!!」
「はいよ~」
私の合図に、ナツナツが両の手をそれぞれ振り、銀に輝く粉を魔法で操る。
それは人型防衛用デバイス=鈍人形の関節部を削るように撫でると、サッと手元に戻っていった。
見た目には何かが変わった気配はない。鈍人形は何事もなかったかのように動き出す。
間髪入れずに追撃する。
「《サンダー・ブレード》」
関節を狙った極薄の雷剣が、二度三度と閃く。
バチバチバチ!!!!
本来内部までは届かないはずの電撃が、鈍人形の内部を蹂躙し、その成果を各部の隙間から煙を立ち上げることで主張する。
瞬く間に五体の鈍人形を始末すると、天井付近で見下ろす『ドローン型監視防衛用デバイス FDD-56009』に、雷撃が少なくなった雷剣を投げつけることで破壊する。
回りを見渡すと、鈍円筒を銀円筒 (改名:オズ) たちが破壊し終わったところだった。
「基本はこれでいけるね~」
「その金属粉が無くなるまでだけど」
『節約しろ、とは言えないな。少なすぎて効果が無いでは意味がない』
「あ、帰宅する前に魔力を注いでいってください。『自己判断型修復デバイス MSD-10709』をフル稼働させなければならないので」
「……………………頑張って夢魔を倒しても仕事は終わらないのね……」
敵は三種類。
円筒型。人型。飛行型。
この内、円筒型と飛行型は簡単に壊せる。
問題は人型。装甲は物理魔法防御共に高いし、武器は使うしで非常に強敵である。
弱点はない。オズ曰く、『弱点なんて発見したら、すぐに改善すると思いませんか?』。
……………………そうなんだけどね?それでもどうしようもない要素を弱点と言うのではないかい?
とりあえず一発はたいて聞き出したところ、内部は電気に弱いとのこと。ただし、装甲の中に絶縁層?があるらしく、外から雷魔法を当てても届かない。
そこで用意したのが、この金属粉。【エリア・アンチレジスト】を掛けた《ミクロ・ビート》により、スティールブレイドを原料として作った、ナノ微粒子である。
要するに超細かい砂。どのくらい細かいかと言えば、原子よりちょっと大きいくらい。説明してる私も『ふ~ん』でしかないけど。
これを鈍人形の関節部目掛けて擦り込むように撫で回すと、微少量が関節部の隙間~内部にまで侵入する。後はこれに雷魔法を当てると、金属粉を導体として内部にまで雷魔法が届くという寸法である。
高電圧高電流の電気が流れた金属粉は、融解・気化してしまうため再利用は不可能。消耗品なのだが、他の手はちょっと危険なので、残量を気にしつつドシドシ使おう。
現在、二階北東部。
ここから外回りで時計回りに一周。その後内回りに入って反時計回りに1/4周。一階北部に降りるので、そこから外回りに移動して時計回りに一周。内回りに入って反時計回りに3/4周。そこに中枢システム区画への入口があるから、そこがゴール…………いや、目的から言えば、ようやくスタートである。
何故わざわざこんな無駄なルートを通るのかと言えば、通路に隔壁が降りてて最短距離で行けないからだ。隔壁は鈍人形の装甲以上に頑丈らしい。
それに中枢システムを奪い返すに当たって、私がシステム内に侵入する必要があるが、その間私の体は無防備になる。
オズに守ってもらうことになるが、残った敵が押し寄せてくることになるので、なるべく減らした方がいい。
作戦は変わりない。
通信ラインを切断して夢魔を閉じ込め、私が侵入して倒す。
侵入は短距離通信 (無線通信) を使うが、本体が移動するようなのは通信ライン (有線通信) じゃないとムリらしいので、逃げられる心配はない。
……………………オズが言い淀んだのは、中枢システム内に円筒へ移せなかったオズの記憶が残っているからだった。
別に無くなったからと言って、人格やその後の活動に影響の出るものではなく、『何かの役に立つかと思っただけです』とか言ってたけど、咄嗟に護ろうとしてしまうくらいには大切な記憶なんだろう。
出来るだけ、護ると決めた。絶対とは言えないけど。
なにしろ前世は『絶対に生き残る!!』と決心して死にましたからね!!絶対とは安易に言えない。
ふぅ……、と一息ついて通路の先を見る。
鈍人形 五体、鈍色円筒 十柱程を一グループとして、ある程度距離を空けて近付いてくる。
大群で押し掛けてくるなら同士討ちを狙えたが、その辺は相手も考えているようだ。
残魔力を確認する。マナポーションの効果もあり、大体回復しているってか、このマナポーション効果高い。
この戦闘、私の魔力がキモだ。鈍円筒も鈍人形も魔法を使わないと倒せないが、私だけでなく、オズへの魔力供給も行わなくてはならない。
オズは通常施設からエネルギー供給を受けているが、夢魔に施設を掌握されているため、それは止まっている状態だ。魔力が無くなったら当然 止まってしまうし、そうなれば戦力がガタ落ちする。鈍円筒はオズに任せたい。
だがオズばかりに魔力を供給すると、私が鈍人形に攻撃できないし、もし一瞬でも0になったらしばらく気絶してしまう。
というわけで、重要な魔力配分はナビに専任してもらう。《ロング・サーチ》は自分でやる。当たり前だけど。
そんな理由もあり、特に急ぐ必要はない。魔力が充分に回復・分配できるのを待つ。
…………………………………………OK。
「みんな、いくよ」
「いいよ~」
『任せろ』
「万全です」
早足程度の速度で敵に近付くと、まず鈍円筒が周囲を囲むように散開する。オズがそれを防ぐように相対した。
鈍人形はそれぞれ異なる武器を形成して、それぞれの間合いに配置する。
…………関係ないわ。
「【ナノ・ウインド】」
「《サンダー・ブレード》」
右側から左回りに鉄粉が吹き抜け、一瞬戸惑ったように停止した瞬間 雷剣で薙ぐ。
そのまま煙を噴いて沈黙した。
「【二点光輝】。Read…………Invoke」
「【二点瞬炎】。Read…………Invoke」
「【二点滅震】。Read…………Invoke」
「【二点裂風】。Read…………Invoke」
「【二点牙氷】。Read…………Invoke」
ナビたちの魔法で鈍円筒 五柱も沈黙する。
ちなみに【二点○○】というのは、円筒二柱で行う合体魔法だ。片方が補助して、本命が主魔法を発動させる。
戦力をほぼ瞬殺された残りの鈍円筒だが、特に動揺した様子も見せず、タイミングを合わせて私に襲い掛かってくる。
「《チャージル・スラッグ》」
衝撃波をストックすると、軽い足取りで一歩前進、そのまま爪先で鈍円筒に真っ直ぐな蹴りを叩き込んだ。
ギィン!!
両アームをドリルに変形させていた正面の鈍円筒は間合いを崩され直撃し、破壊される。
他の鈍円筒は、蹴撃で私の動きが止まったところを狙い、背後から襲い掛かる。が、
「ふっ!!」
足を戻す勢いのまま、弧を描くように背後に振ると、二柱をまとめて宙に飛ばす。
「【二点虚口】。Read…………Invoke」
そちらはオズに任せて、正面に回ってきた最後の二柱からバックステップで距離を取る。
「【エア・スパイク】」
下がり際にナツナツが杭状に圧縮した空気塊を撃ち込むと、衝撃に天を仰ぐように倒れ、動きを止めた。
「ありがと」
「狙いが小さいからやり辛いね~……」
「オズは……」
「終わりました」
声に振り返ると、オズの足下には、齧られたように上半身を失った鈍円筒が転がっていた。
…………どんな威力の魔法使った。
「威力は高いですが、タイミングが難しいのです」
…………心読まれた。
「……………………この調子で行きましょう」
「は~い」
「承知しました」
『…………………………………………私、必要か?』
……………………多分その内に、ね。




