第31話 ゴーレム娘 VS. ベーシック・ドラゴン①
24 ~ 33話を連投中。
2/24(日) 14:50 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:9話を4時間で投稿)
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ドラゴンに一撃を入れた瞬間、思ったのはこうだった。
あ、これはヤバイ。
周りには単純に重大剣を振り下ろしたようにしか見えなかったと思うが、その実、コレは今の私の全技能を尽くした一撃なのだ。
《ゴーレムの心得》と《ストレングス》によるステータス強化。
ナビによる攻撃動作の最適化。
ナツナツによる武器強化。
【重量軽減】の反転効果による重量倍加。
つまり、ステータス『力』を単純強化し、斬撃動作を最適化して攻撃力の損失を軽減し、武器の強度を上げて攻撃力を上げ、武器重量を倍加させて保有エネルギーを増やす。
現状、これ以上の方法で私の攻撃力を上げる手段がない。にも拘らず…………
ブィタアアアアァァァァ…………!!!!
ゴムを思いっきり叩いたような音が、重大剣を通じて体の芯に鳴り響く。
これだけ条件を揃えたが、刃を通すことが出来なかったということだ。
単純な、武器の性能不足。
おじいちゃん…………『武器は簡単に交換できるもの』のアドバイスに従って選択したわけだけど、それが性能不足の場合はどうしたらいいのん?
思わず祖父に疑問を投げ掛けるが、回答があるはずもなく…………とりあえず保留とする。今から別の武器を買いに行くことも出来ないのだし。
▽刀剣マスタリーのレベルが上がりました!!
▽刀剣技:振り下ろしを取得しました!!
▽刀剣技:ジャンプ斬りを取得しました!!
▽《振り下ろし》が《ジャンプ斬り》に統合されます。
▽ステータスを確認してください。
特殊スキル
・刀剣魔法マスタリー Lv.1 → 3
取得スキル
・振り下ろし:上から下への斬撃動作を補整する。(常時発動)
・ジャンプ斬り:《降り下ろし》の適用範囲が広がる。跳躍を伴う斬撃動作を補整する。(常時発動)
おっと、またか。
実は、さっき魔法攻撃を行った際にも、似たようなスキルの取得の仕方をした。
▽地魔法マスタリーのレベルが上がりました!!
▽地魔法:ソイル・スパイクを取得しました!!
▽地魔法:ロック・スパイクを取得しました!!
▽《ソイル・スパイク》が《ロック・スパイク》に統合されます。
▽ステータスを確認してください。
特殊スキル
・地魔法マスタリー Lv.1 → 3
取得スキル
・ソイル・スパイク:土で出来た杭を出現させる。強度、数、大きさ等は込める魔力、イメージに依る。
・ロック・スパイク:《ソイル・スパイク》の上位互換。あらゆる性能の上限が上がる。
どういうことだろう? 正直 地魔法は、剣と違って初めて使ったくらいなんだけど。
誰に聞くともなしに思うと、間髪入れずに説明がきた。
『恐らく ルーシアナの義体に対する習熟度が、各スキルに対する最低習熟度を超えていたんだろう。
本来なら、最初から全てのスキルが使用可能な状態であるのが理想のはずだろう?
それなのに、わざわざ後天的に取得するようになっているのは、ルーシアナの意思と義体との最適化が済んでいないと、スキルが発動しなかったり暴発したりする危険があるからだ。
取得したいスキルの動作を繰り返すのは、その最適化を一部先行して行っているに過ぎない。
だから、時間は掛かるが、生きてさえいれば いずれ全てのスキルを取得出来る準備は整うはずだ』
『準備が出来たら勝手に取得してくれても良かったのに……』
『それはルーシアナの方が詳しいんじゃない~?』
『マイアナは言っていた。『与えられただけの力に意味はない。欲して、得た力だからこそ意味がある』と』
『それにしては大盤振る舞いだけどね~。一回願っただけで完璧以上のスキルが貰えるんだから』
『孫に甘いんだ。究極的に』
『あ、あとサクサク取得できてるのは、強敵と戦ってるってのもあると思う。ほら、『こんなのが欲しい!!!!』って強く思うと取得しやすいんだよ~』
『…………はは』
全く。なら、願いましょうか。この強敵を倒す、力を。
まずはアレだ。今、宙に浮いてて超危険だから、早く着地しないとね。あ、ほら、ヘッドバッドが来そう。あれは当たると大分痛いきっと。
でも、『空を駆ける魔法』なんて、そんな都合の良いものがあるかどうかも分からないので、無難に行くことにする。
現在、重大剣は重量倍加状態ということもあって、下方へと強く引かれており、簡単には動かせない。というか、動かせたとしても、足場の無い空中では落下するに任せるしかない。
だから、足場を使うことにする。とはいえ、魔法で用意するには遅すぎる。
故に、大地を目指して落下する重大剣を、引っこ抜くように上へ押し上げた。
馬鹿げたことに、重大剣の本来の重量ですら私の体重よりも遥かに重いので、どちらも宙にある現状、『重大剣が私の方に引き寄せられる』のではなく、『私が重大剣の方に引き寄せられる』ように動く。
小さな違いのように見えて、戦闘時においては大きな違い。つまり、重大剣は『足場』にできる。
…………『足』を使っていないのだから、『足場』ではなく『腕場』かも? まぁ、どうでもいいか。
重大剣が私と袂を分かち、高速で天を目指す。対する私は、軽い分 武器よりも高速に大地へ落ちる。
その上、加圧された知覚の中にあっても、まるで遅くなったように見えない速度でドラゴンの頭が来た。
互いの速度を加算した相対速度は、紙一重で躱す私の肌を轟風となって強く打つ。
頭と風が随分と通り過ぎてから思い出したように立つ鳥肌に、なんとも言えない不快感を覚えながらそのまま下に落ちていく。
…………着地点は、先程 出現させた岩杭の上。全くの偶然である。
頬に生温かい飛沫が掛かった。
横を見れば、ドラゴンの右肩に空いた大きな傷口。咄嗟に浮かんだのは、『この傷口を広げるべきだ』ということ。
「《アクア・バルーン》」
[アイテムボックス]から大量の水を取り出し、制御下に置く。
そして、ドラゴンの傷口を満たすように、強く押し当てる。
「【アクア・ランス】」
ナツナツが妖精魔法で水を槍状に加工し、内側から肉を引き裂かせ、鱗を刺し貫かせる。
その反力とも言うべき強い圧力が、押し当てた水を通してこちらに掛かるが、全力で抵抗して圧力を逃がさない。
バシュ!! バシュ!! バシュ!! バシュ!!
やがて、その圧力に負けて、右肩の鱗が内側から弾け飛ぶ。
その弾け飛びは止まず、肩を半周するほどに進んでいく。…………だけでは終わらない。
吹き出した水槍は次々と凍りつき、凍結に依る体積膨張でじわじわと傷口を広げていった。
「ごううううぅぅぅぅがああああぁぁぁぁ」
先程の怒号を超えるそれを上げながら、ドラゴンがこちらに倒れ込んでくる。
出来れば、この右腕を千切り落としたいところだったけど…………これ以上 粘るのは危険か。
ナビが展開していた魔法障壁を斜めに掲げながら、岩杭を蹴って距離を取る。
途中で魔法障壁にドラゴンの顎先が当たり、衝撃が体の加速を追加した。
その衝撃で魔法障壁が砕けて消え、ドラゴンの巨体は岩杭を圧壊して砕く。
『とりあえず、敵性認識はされただろう。後は、ガアンの森へ引っ張っていくだけだが……』
『あ……もしかして、あの腕じゃ着いて来れない?』
『それは大丈夫だろう。歩幅が違うからな。ただ、ブレスには気を付けろ。持っているかどうかは分からんが、ある場合 距離が空くと撃ってくる可能性がある。いや、ほぼ確実に撃ってくるだろう』
『了解』
『それとナツナツ。ギルド員が攻撃の隙を窺っている。こちらの目的を告げて退避を優先させてくれ』
『分かった~。ルーシアナの声なら幾らでも再現できるよ~』
『よし。それでは、ルーシアナは右腕側から……』
『あ~……その前にナビ?』
『なんだ? あまり時間はないぞ』
先程から忙しなく私とナツナツに指示を出すナビに『待った』を掛ける。
返ってくる声には、明確な焦燥が滲んでいた。
『過保護』
『…………え?』
『一から十まで説明しなくても大丈夫だよ?』
『それは……すまん……』
『いいよ。頼りないのは自覚してる。ただ、そのやり方は長続きしないでしょう?』
『そ、そうか?』
『うん。だって、今も知覚速度を限界まで引き上げたままだしね』
『あ……』
今 気付いたらしい。
やっぱりナビも初めての強敵相手に慌てているということか。らしくないミスだ。
自分で『知覚速度の高速化は、状況に応じて行う』と言っていたのにね。
『そこそこ強くなるんじゃないの。目指すのは、世界最強なの。なら、私とナツナツとナビが、それぞれの役割を全力で行って、高い次元で融合させなくちゃ。
ナビがいちいち全員に指示しなきゃ戦えないんじゃ、そんなことはとてもじゃないけど無理よ?』
『…………………………………………』
まぁ、知覚速度の高速化が1,000倍とかを負担なく出来るなら、それでも良かったんだけどね。
10倍ちょいでこの疲労は無いわ。無理。
『もっと任せて。頼りにしてるんだよ? ナビの補佐を』
『そのために再起動させたんだから、ちゃんとしてよ~? 別のことに割ける余裕は、補佐に注力して欲しいかな』
『……………………ふぅ。そうだな。少し、焦っていたようだ。無駄に疲労させてしまってすまない』
『構わないよ。私たちの仲でしょ? それに無駄でもない。重要な話だったからね』
『同じ失敗をしたら無駄になっちゃうけどね~』
『それはないな。逆にキミらが同じ失敗をしないよう気を付けろ』
『『ないわ~』』
『ははははは……』と、私たちにしか聞こえない声で笑い合う。
『行きますか』
『ああ。前を見て行け。サポートは任せろ』
『頑張ろうね~』
『うん。私を、手伝って』
知覚速度を疲労の少ない2~3倍程度に落としていく。
急速に、世界が忙しく、喧しくなっていく。
それに隠れて、『当然でしょ?』という声が聞こえた気がした。




