第30話 あるギルド員視点
24 ~ 33話を連投中。
2/24(日) 14:50 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:9話を4時間で投稿)
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「な…………にが、起きた…………?」
俺はドーマ。元Dランク冒険者の現ギルド員だ。
冒険者としての才能は芽を出さなかったが、縁あってギルド員として採用された運の良い男だ。
若く、将来ある新人冒険者のために、かつての経験を生かして助力出来るこの仕事を、俺は誇りに思っている。
今日は毎年恒例の『異常繁殖した魔獣の討伐 (ガアンの森)』、通称『狩りまくりイベント』だ。
知ってるか? 周期は異なるが、ここと同じように異常繁殖が起きている場所も多いんだぜ?
毎年のように発生するのは珍しいがな。
それはさておき、今年はイベントの申し込みが始まるとほぼ同時に、少し嫌~な情報が耳に入った。
どうも例の問題パーティが、何故か今年に限ってイベントに申し込みやがったらしいのだ。
去年までは『こんな子供騙しに参加する奴の気が知れないぜ!!』とか言っていたくせに、いったいどういう風の吹き回しだ?
あいつらも昔はまだ『悪ガキ』で済ませられる程度のやんちゃっぷりだったのだが、いつの間にか新人冒険者を食い物にし、犯罪紛いの行為にも手を出していると噂されるほどに素行が悪くなってしまった。
憲兵も、犯罪者予備軍として目をつけているらしい。証拠が挙がれば、すぐにでも捕縛されるだろう。
ギルドとしてはこんな連中に参加させたくはなかったが、噂だけで理由もなく参加を拒否することはできない。
冒険者ギルドに限らず、公共機関は市民の模範となるべくルールを守らなければならないからだ。
…………そう、ルールは守らなければならない。つまり、ルールさえ出来てしまえばこちらのもの。
来年までには、参加者を選別できるような規則に改定するよう働きかけるつもりだ。
とはいえ、今年はどうすることも出来ない。
ならばせめて、『万一の際の被害を減らそう』と仲間内で話し合ったが、これと言って効果的な案は出ず、気球から監視する連中に、奴等の担当場所から追い立てられる魔獣の数や種類に特に注意を払ってもらう方向で話が固まった。
わざわざ追立役として参加するからには、何かあのタイミングでガアンの森に入りたい理由があるのだろうと思われたからだ。
イベントは順調に進んだ。
連中の担当場所から追い立てられる魔獣が少なかったが、サボる分にはマシだと思えた。
考えなしに暴れられて、攻撃役の許容量を超える魔獣を追い立てられては危険だからだ。
…………だが、その考えは甘かったと、今 痛いほどに後悔している。
奴等はサボるにしても最悪のサボり方をしやがった!!!!
ドラゴンを引っ張ってきやがったのだ!!!!
この時期にドラゴンがいるとしたらベイル山だ。
奴等は、わざわざベイル山に行って、ドラゴンを挑発して釣ってきたということになる。
一体、何がしたいんだ、あのバカどもは!!!!
突然、一人の冒険者が『街に向かって走れ!!!!』と叫びながら、西門を目指して走り出した。
その様子に、他の冒険者も疑問符を浮かべながら バラバラと西門に移動を始めた。
俺たちギルド員も、すぐさま彼女に同調して逃走の指示を出せれば良かったのだが……マヌケなことに、思いの外 順調にイベントが進んでいたせいか、ボケっと突っ立って推移を眺めることしかできなかった。
だが、それが功を奏した。
例の問題パーティの二人が、死に物狂いの表情でガアンの森から姿を現すと、続いてドラゴンが飛び出してくる。
予め『走る』ことを指示されていた冒険者たちは、誰一人として恐怖に硬直することなく、全力で逃走に移ることができたのだ。
俺たちギルド員の方も同様だ。『何が起きるんだ?』と事前に待ち構えていたお陰で、迅速に次の行動を起こすことができたと思う。
だが、状況は最悪のままだ。ドラゴンを倒せる戦力など、ここにはない。
Cランク冒険者の追立役なら対応できるが、彼らは未だ森の中。
街の中から応援を呼びたいが、タイミングの悪いことにGランク冒険者がフェルー草原に出て来てしまっている。
これから、彼らと逃走してきた冒険者たちが、個人用の小門しかない西門に殺到するのだ。
街の中から外へ誰かを出すことは不可能に近いだろう。
辛うじてパニックには陥ってはいないので、人波に押されて死傷するような事態には発展していないが、冷静に物事を判断できるような精神状態でもない。
許容量を超えた人数が押し寄せた西門は、通常よりも流れが悪くなってしまっている。
北門か南門へ分散しなければ、多くの者がここでドラゴンの餌食になるだけだというのに、いくら声を張り上げても頑なに西門の前から動かない。
このままだと全員犬死にするぞ!!!!
そうこうしている内に、追われていた二人が喰われた。
断末魔の悲鳴がここまで届く。
せめて若い冒険者の心に大きな傷痕が残らなければいいと思うが、それよりも生き残れるかどうか……
獲物を喰らうドラゴンは、咀嚼しながらじっとこちらを見ている。
見定めているのだ。この人だかりが罠か否かを。
……………………
その判断は数秒で終わった。『獲物だ』との判断だ。
ゆっくりと身を縮めるドラゴン。食事が終わると同時に、こちらへと加速するつもりか。
まだヤツとの距離はかなりあるが、あの巨体だ。全力で駆ければ、数十秒で辿り着く距離でしかないだろう。
俺は無意識に弓を持った手に力を込める。せめて、時間を稼がなくては……
死の恐怖よりも残される家族への後悔よりも、若い冒険者のために命を懸ける覚悟が先に出来てしまったことに、誇らしいような家族に対して申し訳ないような複雑な感情が湧き起こる。
見れば隣の仲間も同様のようだ。
一瞬だけ視線を交差させ、お互い呆れたような笑みを浮かべる。と、同時にドラゴンに向かって駆け出した。
…………来い。トカゲ野郎。その口の中に、キツイの一発 叩き込んでやるよ!!!!
捨て身の覚悟で弓を引き絞る。
限界まで身を縮めたドラゴンが、今まさに蓄えられた暴力を加速へと転化させる。その、瞬間に。
「グゴギギャアアアアアアアアァァァァ!!!!!?!?」
ドラゴンが草原にその姿を現してから上げた、どんな咆哮よりも大きな怒号をあげる。
いつの間にか、ドラゴンの半身に匹敵する太さの大地が円錐状に飛び出し、その右肩を貫いていた。
「な…………にが、起きた…………?」
自分の見ている景色が信じられない。
無意識に呆然とした呟きが漏れると、それに応えるように何者かが視界外から飛び込んできた。
それは、キラキラと光を反射する淡い色の美しいドレスをその身に纏った、ひとりの少女。
成人にはまだまだ遠い小柄な体躯。幼い容貌。違和感を覚えるほどに似つかわしくない無骨な重大剣。
疾風を巻いて一直線。
『構える』というより『背負う』と言った方が適切なほどに振り被った重大剣は、限界まで引き絞った弦につがえられた矢のようである。
それは右肩を貫かれた反動で跳ね上がるドラゴンの後頭部 目掛けて、真っ直ぐなカウンターとして放たれた。
ドゴガンッ!!!!
……………………いや、おかしい。
あんな少女の一撃でドラゴンの頭が撃ち返され、地面に叩き付けられた。
夢か? 夢かもしれん。物理的に有り得んだろ……
だが、現実を飲み込みきれない意思とは別に、本能が警鐘を鳴らす。
あれだけの勢いで重大剣が叩き付けられたにも拘らず、一切の血飛沫も上がらなかったのだ。
つまり、刃が通っておらず、斬撃ダメージは一切入っていない。
また、ドラゴンの鱗の下には分厚い皮下脂肪と筋肉が詰まっていて、それは天然の衝撃吸収材として機能する。
つまり、打撃ダメージには滅法強い。だから……
「っっげろーーーーッ!!!!」
咄嗟に叫ぶ。
だが、無理だ。まだ少女の体は宙に浮いている。攻撃の反動で一時的に落下が止まっているのだ。
『逃げろ』と言われたところで、身動きなど取れる筈もない。
視界の中、地面に叩き付けられたドラゴンの瞳が、怒りに染まって少女を睨め上げる。
力無く地に伏した左足に『ググッ』と力が込められると、あらゆる打撃・衝撃・慣性を無視して、強引に上半身を跳ね上げた。
頭部が描いた軌道の逆を行くヘッドバッドを叩き込む。
ドラゴンをしても無茶な動きだったに違いない。だが、それゆえに宙の少女にとっては致命的な一撃となる。
声なぞ掛けずに矢を放つべきだった……!!
結果は変わらなかったかもしれないが、それでも後悔が胸を過る。
…………が。
「――――っと」
軽い掛け声が届いた、気がした。
気付いた時には、彼女は地面から生えた岩杭に降り立っていた。
いや、『気付いた時に』ではないか。一部始終を見てはいたのだから。
彼女は、重大剣を持ち上げるように引き上げただけだ。
中空にて自由な彼女の軽い体重は、その反力で逆に下へ引き下げられ、真っ直ぐに岩杭へと落下する。
言葉にすれば簡単な話だったが、目の前で実際に起きると、違和感が甚だしい。
兎にも角にも、ドラゴンの反撃を華麗に躱して見せた彼女は、そのままドラゴンの傷口に手を当てる。
「ぐぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ドラゴンの怒号 最上位が更新された。
少女が傷口に手を当てると、その後ろ肩から杭状の氷が無数に突き出たのだ。氷はそのまま目に見えて太くなっていき、同時に傷口を大きく広げていく。
『あと少しで千切れる』といったところで、少女が後方に跳んで距離を取った。
ドラゴンが岩杭をへし折り、全身を使って押し潰さんとしたからだ。
「…………………………………………」
どう、援護する? いや、攻撃していいのか? 邪魔になってしまわないか?
命を懸ける覚悟は、未だこの胸に生きている。だから、迷う。
この戦いの行く末を左右できる力を持つのは、ドラゴンの他にはこの少女だけ。
考えなしに手を出しては、少女の邪魔にしかならない。
では、何もしないのか? 幼い子供が死力を尽くしているのに、大の大人が指を咥えて見ているだけか?
それは、責任の放棄ではないか? それとも、身の程を知る最善か?
痛いほどに奥歯を噛み締めて、この少女のために何をすべきか、全力で思考し続ける。
「ドレスを~」と言ってますが、彼にはそう見えただけで、実際はハーフコートにプリーツスカートの戦闘服を着ています。
レア素材のため、キラッキラしてますが。




