第27話 ゴーレム娘、狩りまくりイベントに参加する
24 ~ 33話を連投中。
2/24(日) 14:50 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:9話を4時間で投稿)
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次の日。ついに狩りまくりイベントがやって来た。
申し込みはすでに済ませているので、テモテカールの西、ガアンの森方面のフェルー草原に集まっている。
街壁の近くには監視用の気球が用意されており、飛び立つ時を待っていた。
冒険者達は、追立役、攻撃役、運搬役(街壁まで)、運搬役(街内へ) の4チームに分かれており、追立役は一番少ないようだ。
その中にはルーカス達のパーティも含まれており、先程までお喋りしていた。あちらはCランクに上がった勢いのまま、ベイル山奥地の魔獣討伐クエスト等を受けて、経験を積んでいたらしい。
今は追立役以外の冒険者が集められ、それぞれ役割を振られている。
「それじゃ、Gランクの人集まって~。あなた達は街壁から街の中の解体場まで運ぶ係ねー」
「EとFランクはこっちだ。まずは、希望の役に別れてくれ。攻撃役はこっち、街壁までの運搬役はあっちだ」
ゾロゾロと人が別れていく。
私は追立役ではないDランクなので、彼らが希望通りに別れた後、バランスを取るために配置される。
「おぅおぅ!! Dランクのくせして何をこんな雑用みたいな仕事をしてるんだよ!!」
「仕方無いわよ~。所詮運だけでDランクになっただけで、実力が伴っていないもの~」
「フッ。わざわざ無能を使ってやろうという、こちらの気遣いを無碍にするからそんなことをすることになるのだ」
「まぁ、荷物係にはお似合いの雑用だけどね」
「げははっ!! 違いねぇ!!」
……………………
『ナビ』
『問題ない。離れて大丈夫だ』
『【バッドラック】~』
連中が近付いて来ていることなど とっくに分かっていたので、絡まれる前にナビが魔法を待機させていた。
ついでに、ナツナツが【バッドラック】というジンクスのような魔法を掛ける。
この魔法は、名前の通り運が悪くなる……気がする魔法。効果は、あると思えばある。
相も変わらずに魔法に掛かった連中を放置して移動すれば、声は喧騒に紛れて急速に消えていく。
「俺達は追い立てだけするつもりはないぜぇ」
「無能は知らんだろうが、獲物を求めて珍しい魔獣が降りてくることもある。それを狩れば追加で報酬が出るのさ」
「まぁ、こんなところで雑用している荷物係には関係ないけどね」
「アハハハハ。かわいそ~~」
少し余計なセリフが聞こえてしまった。忘れよう。
『馬と鹿に跳ねられて死にますように……』
『ナツナツ。気持ちは分かるけど、影響されちゃダメよ』
『そうだな。不満は一言吐いて終わりにしよう』
『うん。もう忘れた☆』
ナビと一緒にナツナツを宥めながら、冒険者を振り分けているギルド員の元へ。
あ、ちなみにナツナツが使っていた【バッドラック】は正確に言えば妖精魔法です。
なるべく安定した効果を発揮できるよう検証した結果、通常の魔法と同じく、効果に即した名を唱えた方がよいらしいのだ。
慣れてくれば、多分 いらなくなると思うけど……
「すみません。私はどこへ配置すればいいですか?」
「あ、ルーシアさん。お疲れ様です。貴女は運搬役で、この子とペアを組んで貰います。よろしいですか?」
「分かりました」
顔見知りのギルド員さんに紹介されたのは、オドオドした感じの女の子だった。
私と同じくらいの歳に見えるから、年下かな!!
『こんな時まで自虐せんでも……』
『いや、ほら。自分から口に出すことでダメージを分散させてるんだよ、きっと』
…………ナビゲーター二人のツッコミは置いておいて、声を掛ける。
「こんにちは。私はルーシア。今日はよろしくね」
「は……はい。よろしくお願いします……チコリ、です」
「チコリちゃんね。私のことは、呼び捨てでもちゃん付けでも好きに呼んでね」
「…………じゃぁ……ルーシーで……」
おぉっとお? オドオドした雰囲気の割にグイっと来るね? いきなり愛称とか。
親しみを込められているのか、侮られているのか判断に困るところ。
「それでは、運搬役のみなさーん。再度、作業内容を説明しますよ~。
追立役がガアンの森で暴れると、森から魔獣が逃げ出してきます。攻撃役はその魔獣を迎撃し、倒したら放置して前進します。貴方たち運搬役は、その隙に魔獣をアイテム袋に入れて、ここ 街壁付近まで運んで来てください。
一人じゃ袋に入れるのは大変でしょうから、二人で協力してくださいね。攻撃役は、次の魔獣と闘いながら、元いた位置まで下がってきますので、急がず慌てず、でも速やかに作業してください。
先走って、攻撃役が倒す前に近付いてはいけませんよ。10m程度の距離は、常に取ることを心掛けてください」
隣から聞こえてくる攻撃役の説明も、大体 同じだった。
先走って前の方で倒さないことと、下がるときは運搬役の撤退を確認することが追加された感じだ。
「休憩は適宜取ってもらって構いませんが、周囲に分かるように旗を掲げて合図してください。場合によっては、ギルド員が補助に入ります。
また、もし、攻撃役を抜けて魔獣が襲ってきたら、慌てず後ろに下がってくださいね。後方からギルド員が、矢を射掛けますので」
…………抜けてきた時の危険度の割には、ギルドの対応が雑なような……『前の方にいてよ』と思うのは勝手なのだろうか?
まぁ、万一に備えて警戒はしておくが、基本的には、このイベント中では魔獣を倒すことは無いと考えておこう。
「では、みなさん。位置に着いてくださ~い」
ギルド員さんの合図により、追立役、攻撃役、運搬役の順に指示された場所へ散っていく。
私たちの配置場所は、街からちょっと南寄り、西南西の方だ。
「チコリちゃん。アイテム袋持ったよね?」
「ウ、ウン。ダイジョブ」
「…………それ、上下が逆だけど」
「ダイジョブ」
「……………………もしかして、このイベントに参加するの初めて?」
「ソ、ソンナコトナイ。キョネン、ハ、Gランクデ、サンカ、シタ、カラ」
「…………なら、街の外の役割は初めてなんじゃん……」
「ソウトモ、イウ……」
「いや、そうとしか言わないと思います」
ガチガチに緊張したチコリちゃんの緊張を解す魔法は、生憎と持っていなかった。
まぁ、数をこなせば慣れるでしょう。
「ル、ルーシー、ハ、ナレテルネ。ナンカイメ?」
「いや、初めてだよ? ホンのひと月前に この街に来たばっかりだし」
「えっ!!!?」
「冒険者になったのもその頃だから。このイベント自体初めて。ある意味、チコリちゃんの方が先輩だよ」
「…………………………………………」
「どしたん?」
「……………………頼りに、しよと、思たのに……」
なんでカタコトが直った……?
「うぅ~……わ、私がしっかりしなくちゃ……」
両手で頭を抱えて唸るチコリちゃん。
あ、そういうことね。責任感が強いんだ。
自分がしっかりしないと、全体に迷惑が掛かると思ってリカバリしたのか。
「よ、よし!! ルーシーちゃん。頑張ろうね!!」
「チコリちゃん、頼りになるぅ~♪」
「もう!! からかわないの!!」
うん。これでいこう。
『フォローよろしく』
『了解~♪』
『任せろ』
そうして狩りまくりイベントは始まった。
「おらぁ!!」
「【ウィンド・ボム】!!」
「《豪烈破》」
「【シャドウ・ガスト】」
ガアンの森の奥地。ベイル山との境界線に当たる、植生が急激に変わり始める荒れ地に、怒号と共に衝撃が吹き荒れた。
この境界線となる荒地は、不思議なことに木が全く生えず、明確にガアンの森とベイル山を区分する緩衝地帯となっていた。
追立役の冒険者パーティは、まずここまで移動し、各々 等間隔に配置。その後、それぞれのスキルや魔法をもってガアンの森へ進行、草食魔獣を追い立てるのが役割である。
「ああっ!!!! くそっ!!!! なんで俺達がこんな旨味のない場所の担当なんだよ!!!!」
「仕方あるまい。今年の追立役は、Cランクが多かったのだ」
「そのうちひとつはルーカス共のパーティじゃねぇか!!!! ルーシアのガキと同じで、運良くランクアップしただけだろ!!!? 実力なら俺の方が上だ!!!!」
「ホントよね~。元を辿れば結局あの小娘のせいってことじゃない。ホンットムカつく!!」
「ホントホント。結局 僕たちのパーティに誘ってやってるのに、あーだこーだ言ってごまかし続けてるし。親の顔が見てみたいよ」
自分勝手に好き放題言っているのは、みなさんも視界に入れなくないであろう、最近ルーシアナに絡んでいるバカ共である。
ガアンの森は広い。それなりの数の冒険者を投入したところで、攻撃の及ばないエリアという場所は必ず出来てしまう。
とはいえ、あまりの高密度の人数で追い立てては、フェルー草原にいる攻撃役のキャパを超えてしまう。
現在の戦力配分は、長年 試行錯誤した上で決定されたものなのだ。
ゆえに、この連中が配置されている場所は端の方で、比較的魔獣が少ないようであるが、別に重要度が低い場所という訳ではない。ただ……
「くっそ!! 大したことねぇ草食魔獣しかいねぇ!! これじゃ、わざわざ参加した意味がねぇぞ!!!!」
「毎年必ずレア魔獣が混じっているが、大抵そいつらは中央付近にいる。ここじゃ、追加報酬は絶望的だな」
と、いうことである。
異常繁殖した草食魔獣を狙って、ベイル山やその他 地域から、この辺りでは なかなか お目にかかれない魔獣がやって来ていることが多い。
ただ、そういう魔獣の目的は当然に草食魔獣であり、それらが数多くいるところ、つまり ガアンの森の中央付近を東進するのが、最も遭遇する率が高い。
こいつらはそれを狙っていたのだ。…………無謀にも。
レア魔獣、レア魔獣と連呼しているため、ともすれば以前ルーシアナ達が遭遇したダーチョの群れのような『危険度の割に収穫が良い魔獣』と考えるかもしれないが、昨年発見されたレア魔獣は『グレーターファンガス』と呼ばれる大猪である。
『そうはいっても所詮 猪でしょ? 4 ~ 5mくらい?』と思うのは、見当違いである。
確かに大きさはそのくらいでしかないのだが、地魔法で敵の足を捉え、風魔法を纏って体当たりの破壊力を上げる、かなり危険な魔獣なのだ。
このレベルの魔獣になると知性も油断出来ぬ物となり、『その辺の猪の大きいヤツ』と侮っていると容易く殺される。
ただ、このレベルの魔獣は、ガアンの森にはこの時期にしか現れない。そういう意味でのレア魔獣だ。
そんな危険な魔獣を狩れば追加報酬は出るし、素材の売却益もかなりの金額になるが、それは当然の見返りであろう。
ギルドは、そんな危険度の高い場所に信用の置けないパーティなど配置しない。
本来なら、こんな連中に受注させることすら させたくなかっただろう。
それでも連中が受注できてしまったのは、ギルドが恣意的に特定の冒険者を不当に扱わないようにする規定があるためである。ランクが足りていないなど、別の規定に引っ掛からなければ、ギルドは忠告は出来ても、冒険者の決定を拒否することは出来ないのだった。
こいつらは、『去年は大猪を狩って大儲けしたパーティがいた』『大体 毎年発見される』程度の情報に釣られ、それを狙って参加していたのである。
「ッッッッああ!!!! やってられねえな!! こんなことならベイル山に繰り出した方がマシだぜ!!」
「その気持ちは分かるが、止めておいた方がいい。ギルドの連中に境界線は監視されているはずだ。依頼を放り出してベイル山に行ったのが見られたら、報酬が手に入らないばかりか罰金があるぞ」
「チッ!! 分かってら、そんなこたぁ!!」
実はそんなことはない。
街壁に用意されていた気球は、攻撃役を適切に運用するために浮いているのであって、境界線などほとんど見てはいない。
「ホント目障りなヤツラだよね。魔獣を狩ってやってるってんだから、自由にさせろっての」
そのギルドが無ければ、依頼は自力で探さなければならないし、素材の売却も自分達でしなければならないのだが、自分達のことしか考えていない連中はそんなことにも気付かない。…………いや、気付いた上でなんとも思っていないのかもしれない。
「ふふふ……なら、行っちゃう?」
「あん?」
ギルドの連中の裏をかく。
そんな教師の目を盗んで掃除をサボるような、愚かなほどに子供じみたことを嬉しそうな声色で言う。
「私とアーカスの風魔法と闇魔法を合わせてさぁ。姿を隠すの。いつもやってるでしょ?」
「おいおい。ありゃ、夜闇に紛れてマヌケな通行人のサイフをスってるだけだからバレないだけだろ?」
「昼から闇魔法じゃ逆に目立っちゃうよ」
「……………………いや、イケるかもしれない」
ちなみに、煩い男重大剣士がバーカス、女魔道士がモネス、気障ったらしい男弓使いがシャハル、陰気な男魔道士がアーカスである。覚えなくとも問題はない。
そのシャハルが、モネスと似たような笑みを浮かべて言った。
「闇魔法ではなく土魔法を合わせるんだ。境界線は見ての通り荒れ地だろう? 闇よりも土の方がうまく溶け込めるさ」
「へぇ…… 面白そうだね。これがうまくいけば、ギルドの連中のマヌケっぷりが証明されるってことだよね」
「ホントに大丈夫なのか?」
「心配性ね!! 大丈夫よ。それにバレたところでちょっと罰金払うだけでしょ。魔獣がいなくても素材を採取して闇市に横流しすれば元はとれるでしょ」
だんだんメインの目的が、『レア魔獣を狩って大金を稼ぐ』から『ギルドをバカにする』にシフトチェンジしているのに気付いているのかいないのか……
ただこの連中にとっては、すでにベイル山に行くのは確定したらしかった。
「よし。二人とも念入りに魔法を掛けろよ?」
「分かってるわよ」
「問題ないよ」
「フッ。そうと決まれば早いところベイル山に行こう。バレない内に戻ってくれば、イベントの方の報酬もタダで手に入る」
こうして追立役の1パーティが役割を放棄し、ベイル山に入ったことで、これから起きる事件のフラグが確かに立ったのだった。




