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第2話 ゴーレム娘とナビゲーター

「……………………ところで」


『はい』


「あなた、誰?」


『今更ですか?』


「うっさいわ!!!! 現状を把握する方が、先決だと思ったのよ!!!!」


それに姿も見えないしさ!!!!


『ああ……そうですね。では、とりあえず姿を投影します』


謎の声はそう言うと、なにやら黙り込み…………数秒後、少し離れた場所に姿を現した。


銀髪、赤眼の目も覚めるような美男子だ。

タキシードのようなキッチリとした服装に身を包み、静かな瞳でこちらを窺っている。


『初めまして。私は、貴女をサポートするために造られたナビゲートシステム。『ナビ』とでも呼んでください』


「初めまして。…………その名前っておじいちゃんが付けたの?」


『はい』


「おじいちゃんらしい……」


家畜の名前も『鶏1』『鶏2』とか付けていたのに比べれば、大分マシなレベルだ。


『貴女が新しい体で蘇生したということは、御理解頂けているでしょうが』


「うん」


『大賢者マイアナ・ゼロスケイプは、その技術の粋を集結したゴーレムに貴女を蘇生させました』


「……………………は?」


『貴女の体はゴーレムです』


「……………………は?」


『貴女はゴーレムです』


「……………………は?」


『……ゴーレム娘。分からないはずはないぞ』


「ごめんなさい!?」


変わらぬ笑みを浮かべながら、ドスの効いた声で怒られた。

でも、ゴーレムで生き返ったとか言われても、すぐには呑み込めないって!!!!


「な、なんでゴーレム!? ゴーレムって、危険作業とか単純作業とか用の汎用魔道具扱いじゃん!? 私、人権ないの!?」


そうなのだ。

私の知る限り、ゴーレムとはただの道具であり、それ以上でもそれ以下でもない。

これから人間社会に紛れて生きていくに当たって、バレたらどうなるか分かったものじゃない。


例えば、人間と遜色ない感情表現を持つレアモノとして見世物にされたり、不老不死の足掛かりとして体中を調べられたり、ちょっと考えただけでも悪い未来予想しか出来ない。


『大丈夫です』


「そ、そうなの?」


『ええ。大賢者マイアナ・ゼロスケイプの技術の粋を集結した、と言ったでしょう』


確かに言った。

でも、それとこれとは関係なくない? あ、それともおじいちゃんが、何か対策を取ってくれているとか?


自信満々のナビの言葉に少し頭が落ち着く。


「そっか。大丈夫なんだ」


『ええ。その体は有機素材で出来ており、また 外見的にゴーレムであると示す印はもちろん、特殊な器官も付けてありません。

よって、誰がどう見ても人間にしか見えないでしょう。

分析魔法で調べられない限りは、絶対にバレませんよ。俗に言う『フレッシュゴーレム』ですね』


「全っ然大丈夫じゃないわバカーーーー!!!! 街に入る際に分析魔法で調べられるのは常識だーーーー!!!!」


『なんと!?』


「うわーーーーん!!!! おじいちゃんのバカーーーー!!!!」


もしかして、私のこと嫌いだったの~~~~!!!!





「うっ……うぇっ……」


『申し訳ありません。何か方法が無いか、すぐに検討いたします』


「うん……お願い……ぐすっ」


最悪、おじいちゃんと同じようにここで暮らすにしても、家畜やら作物の種やら色々必要なのだ。

フレッシュゴーレムなら、普通に食事が必要だし。


『もう……顔がぐちゃぐちゃです。一旦、お風呂にでも入ってきては如何ですか? 施設の自動保全機能は生きていますから、貴女の記憶通りに使えるはずですよ』


「うん、その機能がまず記憶にない…………でも、ありがとう。分かっ……」


…………………………………………


「ねぇ」


『はい』


「おかしなこと聞くけど、貴方ってやっぱり男?」


『そうですよ? 設定上の話だけでなく、それを元に自己学習いたしますので、普通に男性と思って頂いて構いませんが』


「…………………………………………」


『どうしました?』


「私まっ裸じゃん!!!! 見るんじゃないわ!!!!」


幻影というのは分かっているものの、こちらを覗き込むナビに拳を叩き込む。当然空振った。

シーツも無いので、両腕で体を抱いて隠すと、涙が滲む目で『キッ!!』と睨み付ける。


『あぁ……………………小娘が何を (ぼそっ)』


ぶちっ!!!!


『スッ……』っと半眼になると、一切覚えがないのに、流れるように私の基幹システムメニューを起動し、ナビゲーションシステムの初期化項目を開く。


『はやっ!! あ、ちょ』


下らない言い訳を聞く気が全く起きなかったので、『初期化しますか?』『Yes/No』の選択肢、『Yes』を16連打した。


「しねしねしねしねしねしね」


『うわあああああああああ!!!! ちょ、待ってください!!!! 私が悪かったです!!!! 一回でもプロテクト抜けたらホントに消えちゃうからやめて~~~~!!!!』


「Go to hell」


『ホントごめんなさ~~~~い!!!!』


…………………………………………


1,000回位押してもプロテクトが抜けなかったので、代案を飲ませることにする。


「女性型になって」


『え?』


「女性型。設定を変えれば、それを元に自己学習するんでしょ? これからは、オネェナビゲーターとして頑張って」


『そんな殺生な!!』


「しねしねしねしねしねしね」


『変更しますから押さないで!!!!』


渋るナビに初期化ボタン連打で応えると、泣いて喜んで了承した。


『も~……色々と学習し直しになって面倒なのに……』


基幹システムメニューを開く。


『なんでもありません!!!! ……とりあえず、個体属性を変更すると、一時間位 反応出来なくなりますので、お風呂とか色々準備してきてください』


「分かったわ」


意味があるか分からないが、背中を向けて言うナビに返答する。


『クローゼットの中は当時のままです。貴女と共に時間凍結が掛けられていましたから、かつての通りに使えるはずです』


「あ、そうなんだ。よかった」


『それでは、変更いたします。また一時間後に』


返事をする間もなく、ナビが消える。

私は静かにベッドから下りるとクローゼットに近寄り、タオルや着替えを持ってバスルームへ急ぐのだった。





「ふぅ。さっぱりした……」


体力がどうなのか心配だったので、湯船に浸かるのはやめてシャワーのみだったが、約120年振りの入浴は、天にも昇る心地だった。


「……………………」


ふと、脱衣場の姿見に視線を移す。

そこには、腰まであるストレートの金髪に、祖父と同じ黒眼に見えるほどの濃い緑色の瞳、そして まだまだ膨らみの少ないスレンダーな体つきの少女の姿があった。


……………………記憶にあるままの私だ。


ロックグリズリーに襲われた記憶はある。

その恐怖に、その激痛に、嘘ではない自信がある。そして、私を見て涙を流す祖父の表情も。


でも、この姿を見ていると、全てが夢で、長風呂を叱りに祖父が現れるような、そんな錯覚を抱いてしまう。


「……………………」


駄目だ。

祖父は私のために、その生涯を費やして蘇生させてくれたのだ。

いつまでも後ろを振り向いている訳にはいかない。


込み上げる何かを抑えつけるように、バスタオルで手荒く水気を拭き取っていると、


「こらーーーー!!!! どんだけ時間が掛かってるのよーーーー!!!!」


バーーーーン!!!!


突然、もの凄い音を立てて扉が開かれ、銀髪赤眼の小さな妖精が飛び込んできた。

びっくりしてバスタオルを抱いて、硬直してしまう。


「お~、さっぱりしてるじゃん!! やっぱり可愛いわよね!! それより、ご飯も用意したから、早く行っくよ~!!」


「……………………」


目を見開き、口をパクパクさせてしまう。

なぜなら、長風呂を叱りに来ておいて、すぐに全然関係ない話、最後にご飯に誘うこの流れが、記憶にある祖父とそっくりだったからだ。


「ん~? どしたん?」


「ふ……ふあ……」


ああ……もう駄目だ。抑え込んだものが溢れ出し、濁流と化して全てを押し流す。


「ああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!! おじいちゃーーーーん!!!!!!!!」


「うぃ!!!?」


「ああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!! ごめんなさいーーーー!!!!!!!!」


「ちょ、待……」


「ああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!」


何に対する謝罪なのか。

許してほしいのか、たただだ悲しいだけなのか。

自分でもなにひとつ分からないまま、大声を上げて泣くより他なかった。





「うっ……ぐずっ……」


「あ~、ほらほら。泣かないの~」


「うん…………ごめん……」


「いいのよ。むしろここで爆発してくれて安心したよ~。ここなら安全だからね~」


「ありがとう……ぐずっ」


小さな体で一生懸命 慰めてくれた妖精さんにお礼を言うと、彼女が用意してくれた保存食オンリーの激マズ料理を、味覚をオフにして流し込む。

なお 保存食というものは、味と機能 (保存可能期間や栄養など) が反比例するため、とてもとても高機能 (嫌味) な我が家の保存食は、とてもとても劣悪な食味をしているので、彼女の料理の腕が悪いわけでは決してない。


「うっわ。ゲロマズ……マイアナは、よくこんなもの 平気な顔して食ってられたわよね~……」


「おじいちゃんは集中すると、不要な五感が鈍くなるから」


「納得……」


妖精さんは、顔をしかめながら食事を進めている。


…………確認しないとマズイよね?


「ねぇ」


「な~に~?」


「貴女、誰?」


「……………………分からずにここまで放置してたの~……?」


妖精さんは、『呆れた』と言わんばかりの表情でこちらを見た。


「いや、えっと…………ナビ?」


「そうだよ~、まったく。貴女が『女性型が良い』って言ったから、こんなんなってんのよ?」


『こんなん』を示すように、座ったまま両手を広げて全身を見せる。

だが、そのセリフにはツッコミを入れざるを得ない。


「……そのセリフには疑義があります」


「ぎくっ」


分かりやすい反応をしてくれた。


「まず、なんで妖精になってんの? さっきは人間、というか人型だったじゃない」


「えーと……個体属性には性別の他にも色々あって~……」


「うん」


「せっかくなんで~、色々と変えてみた~。えへっ♡」


「女性型になったの以外、自分のせいなんじゃ?」


「ぐふぅ……」


大袈裟に胸を抑えて、ぱたっと倒れる。


「次。なんで実体があるの? さっきは幻影だったよね?」


「正確に言えば、網膜投影だね~。ただ、これから貴女と暮らすに当たって、実体があった方が何かと便利そうじゃん? だから、保存されてた義体を起動させてみたの~」


「ふーん」


元々、そういう機能があったのかな。


「最後に。性格変わりすぎじゃない?」


「それな~。正確に言うと、さっきの男性型ナビゲーター、消してないの」


「そうなの?」


「記憶容量に余裕があるからね~。だから、変更したんじゃなくて、新規作成した感じ」


「なんでそんなことを?」


「変更すると学習してきた記憶や経験も消えちゃうからね~。わたしが学習し終わるまで、不備が生じるかもしれないじゃん? 古い記録は、私の学習が終わるまでの、参考情報になってもらおうかと思ってね~」


「ふーん。ありがと」


「どういたしまして~」


…………………………………………


「性格が変わったことの説明になってませんよ?」


「あ、誤魔化せなかったか~。まぁ そんで新規作成だと、『古いわたし』と『新しいわたし』の二つのデータが存在する形になっちゃうから、なるべく中身が違うといいんだよね~。だから、性格も全然違うのにしてみたの」


「あ、そうだったんだ……じゃあ、最初の質問の答えも、それだったんじゃん。ありがとう」


「あー……まぁ、そうなんだけどね? 必要以上に変更したのは、まぁ、最初の答え通りだから……」


「照れてる?」


「うっさい」


妖精さんは、赤くなった顔を背け、誤魔化すように両手に抱えた保存食にかじりついた。


「マズ」


そして、手が止まった。

さっきからそんな感じだけど、食べなきゃ体が持たないのは私と同じだから、頑張ってもらうしかない。


「味覚をカット出来れば良かったのにね」


「まぁ、それはゴーレムの種族特性だから。わたしの体は、妖精のホムンクルスだから、ちょっと違うのよね~……」


「なるほど」


「あ、そだ」


覚悟を決めたように一口飲みこむと、再度 食事の手を止めて、こちらを見る。


「実は名前もさ~、新しいの付けてくれると助かるんだけど。さっきと同じで、新旧で違いを付ける意味でね」


「あ、そうなの? でも、私もネーミングセンス、そんなないよ?」


「ナビゲーターだから『ナビ』よりあるでしょ?」


「ある意味プレッシャー……」


仕方無しに考え始める。


ナビ以上と言われたけど、おじいちゃんが付けた『ナビ』には絡めたいような気もする。

あと名前のネタになりそうな特徴は、銀髪、赤眼、妖精……そういえば、妖精の名前はキキリリとかチコチコとか、二種類の音を連続させるとか聞いたことがある。

それに合わせるなら……


「ナビナビ?」


「マイアナ未満。舐めてんの?」


「ごめんなさい!! ナツナツでどうでしょうか!?」


「ナツナツぅ~?」


「はい!! 前世の記憶だと、夏は暖かくて皆が元気になる季節なんです!! 貴女が一緒にいてくれれば、私も元気になれそうだなって思って!!」


「…………夏ってそんな季節だったかしら……?」


冬は寒くて、夜眠れなかったみたいだからね。


「ふむ。まぁ、わたしのお陰で元気になるって理由なら、良いかしらね~。ナビとも『ナ』で繋がりもあるし~」


というわけで、妖精さんの名前は『ナツナツ』になりました。


「そういえば、前世の記憶ってなんなのかな? ナツナツは知ってる?」


「どっちの記憶を指して言ってるの~?」


「ん? …………あぁ。信楽 流紗の方」


「それ、どちらかと言うと~、前々世の記憶じゃない?」


前々世=信楽 流紗、前世=旧ルーシアナ・ゼロスケイプ。

……旧ってなによ。


「まぁ、どっちでもいいけど……前世の記憶はおじいちゃんが引き継がせてくれたものだけど、前々世の記憶はそういうの無いだろうし。なんでこんなの覚えてると思う?」


「知らないなぁ~……元から覚えてたとかじゃなくて~?」


「そんなわけない」


そんなの覚えてたら 即行でおじいちゃんに相談してるし、そもそも 今更 疑問に思わない。


「なら、やっぱり死んだショックで思い出したとかじゃない?」


「マジでか……」


なんて無意味な覚醒……まぁ、生きてる内に思い出しても、大した影響はなかっただろうけど。


「それよりさぁ~……」


「前々世の記憶をそれよりとは……」


「だって、役に立たないし」


「言えてる」


楽しい記憶でもないからね。思い出してみても。


「これから、どうしたい?」


「どうって?」


「街に下りてさ~。うまくいけばいいけど、色々とどうしようも出来なくて、選びたくない選択肢を選ぶ羽目になるかもしれないし。希望でもいいから目標を決めておかないと、その選択が失敗だったかどうかも分からないでしょ~?」


「あ~……」


一本、芯というか方針を立てておこう的な話ね。


…………………………………………


祖父を想い、前世を想い、前々世を想う。すると、するっと口から漏れた。


「せめて今生を全うしたいかな」


「泣ける……」


だって記憶が確かなら、二連続で途中で死んでるんだよ?

なんか悪いことしたかな? 覚えてない前々々世とかで。


「せめて、そこに『平穏に』とか『面白おかしく』とか付け加えてもいいんじゃない?」


「じゃあ、ナツナツと一緒に今生を全うしたい」


「一蓮托生だから、貴女が全うしたら自動的に達成出来るわよ~ぅ」


『困った子ね~』と言いたげに ため息をつくナツナツ。


「しゃーない。じゃ、わたしの希望を入れて、『二人で今生を平穏に全うする』でいきましょ」


「そだね」


「…………さしあたっては、食卓事情の改善を要求したい……」


「食材が手に入ったら、美味しいの作ってあげるから」


「よろしくね~……」


二人で保存食に文句を言いながら、食べ終えました。とても楽しかったです。


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