第26話 ゴーレム娘、戦闘服リフォーム②
24 ~ 33話を連投中。
2/24(日) 14:50 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:9話を4時間で投稿)
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一時間程経ったところで、気が付く。用件を全く済ませていない。
「ふふふ……すまないな。会話が楽しくて、つい夢中になってしまったよ」
「いえいえ。私も楽しいですし、ナツナツも色んな人とおしゃべりしたいでしょうし」
「そうであるなら、良かったよ。では、そろそろ用件を済ませるとしよう」
シャルドさんはそう言って立ち上がり、ハンガーに吊るした戦闘服を手に取ると、傷の有無や服の状態を確認していく。
「攻撃は受けたかね?」
「いえ。残念ながら、まだそれは確認していません。わざと喰らってみた方がいいですかね?」
「そうだな。キミがこの装備を着て、どんな攻撃でどの程度のダメージを受けてしまうのかは、実戦で経験する前に確認した方がいい。世話になってる受付嬢に訓練でも付けてもらって、峰打ちでもしてもらってはどうだ?」
「あ、そういうので良ければ喰らいましたよ。大型の突撃槍……って言うんですかね? それを使ってフルスイングで『ドカン』と一発、無防備に。思ったほど痛くなかったですね、吹っ飛びましたけど」
「フルスイングを無防備…………当たったのはこの辺りか?」
シャルドさんはハーフコートのお腹辺りを指差す。
「えぇ。こう、斜め下から掬い上げるように。後は、腕でガードしながらとか背後からとか。
後は、あ~…………思いっきり、刺突もされましたねぇ。本人、『40%中の10%』とか言ってましたけど、ただの4%と何が違うんでしょう?」
「さてな。本人に聞いてくれ」
「実のある回答はもらえませんでした。あ、ちなみに、刃はこの辺に命中してましたけど、全然 通らなかったですよ。やっぱり凄いですね、その服」
「ふむ、この辺か…………問題なさそうだな。いや、訓練とはいえ刺突をブチかますとか、聞いてる分には問題大有りだが」
まぁ、実を言えば、あまりの防御力の高さに調子に乗った私が、セレスを挑発したのがそもそもの原因なのですが。
いや~……セレスが意地になって大変でした。
あの時以上にボールと心を通わせるチャンスは、あと何年あるか分からない一生を通じても、きっと存在しないでしょう。
そして、そのチャンスをものにできなかったので、私がボールと心を通わすことは恐らく無い。
「まぁ、刃は通らなかったですけど、やっぱり衝撃がキツかったですね。刺突だから、衝撃が一点に集中するみたいで。むしろ、フルスイングみたいにある程度面でくる攻撃の方がマシでした。魔法障壁を併用すれば、刺突でも衝撃が面に広がって分散しますけど、一度しか保たないので連撃が怖いですね」
「服系防具の欠点だな。斬撃や刺撃、属性攻撃は素材効果で防げても、同時に加えられる衝撃ダメージは軽減が難しいのだ。通常はルーシアくんの言っていたように、魔法でどうにかするのが王道だが」
「ちなみに、シャルドさんはどのように?」
「我慢」
「がまん」
まさかの精神論。いや、その筋肉なら大丈夫なのか?
意味もなく単語を繰り返してしまったよ……
「冗談だ。基本の回避は当然として、ダメージを少なくするための努力を重ねるのだ。例えば、攻撃が避けられないなら後方へ跳ぶとか、小さな攻撃を当てて勢いを弱めるとか。
だがまぁ、キミの場合は素直に魔法を頼ったらどうだ?
詳しくないので分からないが、衝撃を緩和するような魔法があったはずだぞ?」
「え? そうなんですか?」
「あまり自信はないがな。ギルド長や受付嬢に聞いてみ給え」
「分かりました」
《クリア・プレイト》と違って何度か保ってくれれば、結構安心できるんだけど……
忘れずに聞くことにしよう。
一通り状態を確認したシャルドさんは、丁寧に戦闘服を折り畳んで机の上に置くと、こちらへ向き直った。
「戦闘服の方は問題ないな。補修も必要ないだろう。次は、キミの希望を聞こうか。叶えられるかどうかは内容によるが」
「えーとですね……」
あるんだけど、言い難いな……でも、できれば修正して欲しいし……
「どうしたね?」
「あ~……………………ハーフコートの下に着てるノースリーブ、あるじゃないですか」
「ああ。キミの希望通りだと思うが」
「すみません。希望通り過ぎました。あれじゃ体のラインがしっかり出過ぎているので、もうちょっと緩めにするかふんわり出来ませんかね?」
「それは出来るが……『遊びは少なく』は良いのかね?」
「少なすぎました。あの状態でコートを脱ぐ気にはなりません」
「コートがメインの防具なのだから、脱がないで欲しいのだが……」
「すみません。コート無しの状態で戦うことも想定しているんです」
「ふむ…………つまり、コートありの重装ver.とコートなしの軽装ver.を素早く切り替えたい、ということか」
「あ!! それですそれ!!」
とてもいい表現が見つかった。
「であるならば、胸当てのような物を着けてはどうだ? 丁度良いスケイルクロスがあるのだが」
「スケイルクロス?」
スケイル=鱗、クロス=服。
…………鱗の服?
ナツナツと二人で頭に疑問符を浮かべる私たちを愉快気に見やり、席を立って奥へ行くシャルドさん。
いや、狭いからね、あの辺。使いっぱしりにしてるわけではありませんよ。
「…………ドラゴンかなんかのなめし革ですか」
「それなら普通に『ドラゴンの革』と呼ぶな。それに、その革は既に、キミらの服の素材として使用しているだろう? 似たようなものではあるがね」
そういえば そうでした。
牛革や豚革かと言うくらい、贅沢に使われていますね。それ故の防御力だとは思いますが。
…………なお、戦闘服だけでなく、普段着の方にも使われております。
『どんな物を持ってくるのか?』とアレコレ考えている内に、シャルドさんは一枚の服を持って戻ってきた。
そして、私たちの前で広げて見せる。
「どうだ?」
「……………………スケイルというか、フリルたっぷりの普通のブラウスに見えるんですが…………袖は無いですけど」
「ふふふ。まぁ、見ていろ」
シャルドさんはそのブラウスをハンガーに懸けると、徐にその中心を突く。
シャリン!!!!
……………………まるで金属が擦れ合うような綺麗な音が鳴り響いた。
「え……!? 何ですか、その服!! チェインメイルか何か!?」
「綺麗な音~♪」
『スケイルクロス』と言っているのだから そんなわけはないのだが、思わずそんなツッコミを入れていた。
「ふっ……よい反応だ。良いかね? このブラウスのフリルは、全て細かい鱗の魔獣素材から出来ていてな。内から外へ力が掛かる分には布のように柔らかくなるのだが、外から内へ力が掛かった場合には、お互いの鱗が絡み合い鎧のように固くなるのだよ」
「す、凄いですね……なら、ハーフコートの方もこれで作ったら良かったのでは?」
「そうしたいのは山々なのだがな。このくらいのサイズでないと、うまく噛み合ってくれなくてね」
「なるほどー」
感心していると、そのブラウスを手渡される。
金属音から冷たく硬い感触を想像していたが、手で触れる分には皮革製品特有の冷たさはあるものの、硬い印象は受けなかった。若干、癖のような抵抗があるけど。
…………いや、これ皮革製品扱いで良いのか?
「どうかね? ブラウスにしてはキツめにデザインしてあるが、体のラインが出るほどではない。ただ、吸汗性は悪いから、今着ているノースリーブの上に着るのはどうだろう? ノースリーブを『インナーのようなもの』と考えていたから、肌触りは良かったろう?」
「あ、はい。すべすべで気持ちよかったです。汗もすぐに吸ってくれたし、すぐ乾くし……」
「では、そうしよう。少し調整するから、ノースリーブの方も貸してくれるか?」
「はい。…………あ~……今着てるヤツは、別の機会にお願いします。今日もクエスト行ったので、汗掻いてますから」
「承知した。では、予備の方をくれ」
この場合は、『ハーフコート (アウター) の下に着る』という意味ではなく、『肌着』という意味のインナーか。
ということは、シャルドさんは今まで、ハーフコートのすぐ下に肌着を着てると思ってたんか。
で、気を使って、外着として違和感のないようにデザインしてくれた、と。
…………なんだろう。恥ずかしい。いや、外着として通用するのだから、製作者は肌着のつもりで作っていたとしても、気にする必要は無いんだろうけど。私は肌着だとは思ってなかったし。
…………………………………………まぁ、いいや。肌着として、とても素晴らしい性能なのは違いないし。
私から予備を受け取ったシャルドさんは、サササッと改造していく。
「そういえば、明日は例のイベントに参加するのかね?」
「え? 狩りまくりイベントのことですか? そのつもりですけど」
『話し掛けて作業の邪魔をしてはいけない』と黙っていようかと思ったら、普通に話し掛けてきた。
「シャルドさんは参加します? 参加するなら追い立てる側でしょうけど」
「いや、そのつもりはない。あのクエストは、ランクが低い者へのボーナスのようなものであるからな。Eランク以下の者にとっては、魔獣と戦う経験が積める、というメリットもある。まぁ、ほとんどの場合は、猪や鹿などの魔獣とも言えぬ魔獣なのだが」
「草食魔獣ですからね~……」
「今年は鹿らしい。だが、例年より増え始めるのが早かったせいか、少々多いようだ。攻撃要員として参加するなら気を付け給え」
「そうですね。魔法で薙ぎ払ったら、肉獲れませんからね」
「火魔法でも使う気か。……よし。とりあえず、ひとつ完成だ」
そんな話をしていたら、さくっと改造が終わった。さすが速い。
『バッ』と拡げて見せてくれたインナーは、装飾等が全て取り除かれてシンプルになり、ブラウスの下に着ても邪魔にはならなそうだ。
「ブラウスの下に着ても違和感はないはずだ。ちょっと着てみなさい」
そう言って改造されたインナーを手渡し、シャルドさんはティーセットを持って出ていった。
すぐにナツナツが鍵を閉める。
「いいよ~」
「ありがと」
実を言えば、鍵を閉めることは忘れてた。危ない 危ない。
着ていた普段服を脱ぎ、戦闘服に着替える。
ぴったりとしたノースリーブインナーも、肌着として考えればその密着性はメリットとなる。
スカートとブラウスも着用し、姿見の前に移動する。
「わぁ~♪ いいね!! ノースリーブなのは同じだけど、こっちの方が可愛い!!」
「あ、ありがと」
「えろくないから他の人に見られても大丈夫!!」
「……………………アリガトウゴザイマス」
『グッ!!』と親指を立てられた私はどういう反応をすればいいの?
笑え?
……………………ははっ。
コンコン……
「着替え終わったかね?」
「えぇ。ちょっと遅かったですね」
「ははは。同じ失敗はしないさ。それと保護者の方がみえたぞ」
「保護者?」
心当たりはあるが、ここに来る理由が思いつかないし、ここに来るとも言ってない。
首を捻っている間にナツナツが鍵を開ける。
そして入ってきたのは、やっぱりセレスを引き連れたシャルドさんだった。
「お待たせ~。迎えに来たよん♡」
「そんな約束してません」
「む? なら、叩き出すか?」
トコトコとこちらに近付きつつあったセレスの襟首を、むんずと掴むシャルドさん。
「ぐぇっ……!! ちょ、こら!! ギルドの受付嬢にそんなことしていいのかーーーー!!!!」
「客が正当な要望をするなら、店は全力で応えるものだ」
「離せーーーー!!!!」
そのまま羽交い締めに移行して、ズルズルと引き摺っていくシャルドさん。
セレスも足をバタつかせて抵抗するが、体格差は如何ともし難いらしい。
やっぱりシャルドさん、ランクAはあるよね。
「シャルドさん、大丈夫です。約束してないですけど、問題はありませんので」
「ふ。分かった」
「くっそ……全然振りほどけなかった……」
「これでも現役だからな。それより…………」
言葉を切って、再び私を上から下まで眺めるシャルドさんとセレス。
私もくるりと回って全身を見せる。
「良いではないか。中身に負けないように装飾を増やしておいてよかった。邪魔にはなっていないだろう?」
「はい。満足です」
「わ~~~~♪ 可愛いわ~~♪ ねね。ナツナツちゃんと並んで?」
言われるままにナツナツが肩に座る。……と、セレスが崩れ落ち、天に向かって両手を掲げた。
「神が降臨した……」
「我が人生に一片の悔いはなし……」
シャルドさんは男泣きしていた……
「大袈裟ですよ……」
「え~~♪ いいじゃん。喜んどこ?」
ナツナツは嬉しそうに身を寄せてくる。……なら、いいかな。
「ね、セレス!! 私たちお似合い? お似合い?」
「もちろん。二人でひとつの至宝よ!!」
「えへへ~♪ お似合い お似合い♪」
……………………そういうことですか……照れる……
忘れていたナビの五感を戻してあげたら、さらに称賛の言葉を雨といただいた。
うぅ……この言葉に慣れなら自意識過剰のイタイ人になっちゃいそう……




