第251話 ゴーレム娘 VS. シザーズ・ミリタリンチュラ③
221 ~ 252話を連投中。
10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)
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戦況は一方的に均衡していた。
多数の名無しの中に一際大きな個体が数体含まれる群が、厚い層を成してひとつの舞台を作り上げている。
その中心で猛威を振るうのは、彼らの長たるクイーン。相対するのは、人の中でも特に小型なルーシアナ。
クイーンは舞台の全てを当然のように我が物とし、その巨体に相応しい暴力を縦横無尽に振り回し、蹂躙している。
対するルーシアナは回避に専念。何かを待つかのように、最小限の動きで全ての暴力から身を逸らし続けていた。
「ギシャアアアアアアアア!!!!!!!!」
変わらぬ戦況に嫌気が差したクイーンが、大きく後方に跳び退って絶叫を上げる。
直後に正面、ルーシアナを中心とした戦場が歪な扇形に陥没した。
重力加圧……ではなく咆哮による衝撃波、《咬咆》だ。
本来なら、真っ直ぐに突き進み拡散する咆哮は、脚を伸ばして高い位置から下方へ撃ち落とすことで、一定の範囲内を抑え付ける重圧として現れたのだ。
余波を受けて範囲外にいた名無しが吹っ飛ぶほどの衝撃の中、耐えるように動きを止めるルーシアナ。
そこに全身を一回転させ、これまで以上の速度を乗せた横薙ぎが、空を断って一閃する。
これを躱せる場所はひとつしかない。
――――上空だ。
しかし、ルーシアナはただの人間と違い、足場のない空も自由に動き回る。
それでも、地上を駆けるよりかは、軌道は直線的で速度も遅い。特に、緩急をつけにくくなるのが痛い。
だが、それが誘いと分かっていても、ルーシアナはそこに飛び込む以外の選択肢はない。
《カウンター・ウェイト》を発動して、咆哮の荒波を抉るように跳んだ先はクイーンの背中。
落下のエネルギーを加算して、バーニングトライブレイドを突き込むつもり…………なのだろうか?
残念ながらそれは、安易な行動であると言わざるを得ない。
宙を行くルーシアナを全ての複眼で捉え続けるクイーンが、回転する体に急制動を掛ける。
深く突き刺した脚先が泥濘のように大地を抉り、土と草の混ざった土手を造り上げた。
それは確かな抵抗となってクイーンの回転を止め、敵を見上げてバランスの崩れる巨躯を支える礎となる。
すでに落下軌道に入ったルーシアナの体を、クイーンの視界が真正面に捉える。
それはつまり、口を開けて獲物が飛び込んでくるのを待つのもよし、毒液を吐いて先制するもよし、もしくは、奥の手であった蜘蛛糸を口から発射して拘束を狙うのもよいだろう。
いずれにせよ、ルーシアナが空に上がった段階で、クイーン側に大きく天秤が傾いたのは間違いない。
やがてくる『その時』を待って、しばし緊張感のある沈黙が――――
「ぎしぃ!?!?」
満ちるとほぼ同時に破られた。
体勢を崩し、クイーンが地面に倒れ込む。
突如あがった悲鳴に近い鳴き声に込められた驚愕と焦燥は、場の空気に速やかに感染し、舞台を混乱の渦へと落とされる。
声の主は、当然にクイーン。なら、原因は?
それは、一目見れば誰でも分かる。ジェネラルだ。
舞台の一翼を担っていたはずのジェネラルたちが、突然に女王を裏切り、攻撃を始めたのだ。
ある者は クイーンの脚に蜘蛛糸を巻き付け体勢を崩し、ある者は その関節を鋏でもって切断を試み、ある者は 牙を突き立て毒殺を狙う。
予想もし得ない、唐突な配下の裏切り。
敵として相対していたならば、ジェネラルの20体や30体を相手に遅れを取ることなどまずあり得ないが、全く警戒をしていなかったところへ攻撃されたとあっては、さすがにノーダメージとはいかない。
事態を把握したクイーンの怒声が、ワンテンポ遅れて戦場に響き渡る。
「ギガがガグギぎィィィィイイイイ!!!!!!!!」
四対八本の歩脚のうち二本に致命的なダメージを負っていたが、怒れるクイーンはダメージを無視して立ち上がると、群がるジェネラルを振り解くように一回転。
何重にも巻かれて拘束していた蜘蛛糸をあって無きが如くに引き千切り、振り解かれたジェネラルがまだ宙にある内に鋏に捕らえる。
そのまま鋏を閉じると、鋭い二枚刃は何ら抵抗を見せずにジェネラルの甲殻に滑り込み、『ジャキン!!』と大きな音をひとつ立てて両断した。
その断面は驚くほど滑らかだ。
これが、上位種と最上位種の圧倒的な実力差である。
振り解かれた衝撃で我に返ったジェネラルに、そして、突然のクーデターに硬直していた名無したちに、本能から湧き上がる恐怖が走った。
それでもなお、怒り冷めやらぬクイーンは、残りのジェネラルを屠るため、鋏を構え……
ばぼん!!
「ぎい!!!?」
怒りに我を失っていたクイーンの横っ面に小さな火球が撃ち込まれたのは、その瞬間だ。
その一撃は、クイーンにさしたるダメージも与えなかったが、本来の敵の存在を思い出させるには十分な一撃だった。
慌てて火球の飛んできた方へ頭を向けるクイーン。
ゴギぞぶンッ!!!!
そんな方向とは一切関係のない真横から、バーニングトライブレイドが硬質で湿った音と共に、クイーンの口腔を突き抜けた。
火球の軌道を曲げて当てることで、発射位置を誤魔化していたのだ。
「ぎっ!? ……きっ、きぃぃ……」
さすがのクイーンもこの一撃には たたらを踏んで姿勢を崩したが、残念ながらそれほどのダメージを与えながらも、未だ致命傷には至っていない。
バーニングトライブレイドは、口腔を耳の辺りから顎下へ斜めに貫いたが、脳を傷付けることは出来ていなかった。
「《カウンター・ウェイト》!!」
突如、クイーンの頭が首を支点にして90°向きを変える。
それは、見えない巨大な手でクイーンの頭を掴み、力任せに捩じっているように見えた。
バーニングトライブレイドの延長線上に発生させた仮想質量体が、強力な回転モーメントとなってクイーンの首を捻じり上げているのだ。
「ギ……ギギ……」
ギチ ビキ ギリ……
クイーンの首とバーニングトライブレイドの刀身が、共に嫌な音を立てて拮抗する。
どちらが先に限界を迎えるかは不明だが、その結果が現れるのは時間の問題のように思えた。
…………が、悠長にそれを待たない者がここにいる。
ルーシアナだ。
バーニングトライブレイドの柄が《カウンター・ウェイト》の影響を受けて回転を始める直前に手を離し、クイーンの頭を蹴って直上へ。
《ショート・ジャンプ》を用いて高空へ移動したルーシアナが大上段から振り下ろす両手には、岩塊に覆われたスティールブレイド。
《岩塊斬》による質量増加と【重量軽減】の反転発動による重量増加の合わせ技により、あり得ないエネルギーを秘めた一刀が、真っ直ぐにクイーンの首元 目掛けて落下する。
そして――――
どごおおおおぉぉぉぉんんんん…………
落石か隕石でもあったかのような爆音を立ててスティールブレイドが、断頭台の刃の如く地面に埋まった。
その落下軌道上にあったクイーンの頭は、ただでさえギリギリを保っていたところに圧倒的な破壊の力を叩き込まれて、蹴られたボールのように吹っ飛んで行く。
残った体は、数秒だけ硬直したように固まると、バランスを崩して地に伏せた。
こうして、シザーズ・ミリタリンチュラの群は、当初の約1/3にまでその数を減じたところで、群の長たるクイーンを失ったのだった。
『ミッション…コンプリート』
『まだ終わってないが……』
あ、そうっすね。
ジェネラルと名無しは、まだ わんさか いますからね。
ただ、大物を倒したので、後は消化試合だ。
地面深くに沈み込んだスティールブレイドを[アイテムボックス]経由で回収し、改めて取り出し状態を確認する。
無茶な魔法の重ね掛けを受けた刀身は、意外にも目立った損傷や歪みは生じていなかった。…………代わりに、岩塊で覆われていなかった柄部分がポッキリ折れているが。
刀身の方は、岩塊が一種のクッションとなったのかもしれない。
なんだかんだで『壊しても気にならない武器』というのは重宝するので、また修理をお願いしよう。
…………チコリちゃんには『また壊したの!? 毎度あり!!』とか言われそうだけど。
壊れたスティールブレイドを[アイテムボックス]に収納し、傍らで力無く大地に沈むクイーンを見上げる。
強度と質量増加に偏重させたため、およそ斬れ味など無かった《岩塊斬》の一撃を受けたクイーンの首は、捻じ切ったような断面を見せながら、紫色の体液を垂れ流していた。
その甲殻に手を突き、しばし黙祷……
生き残ったジェネラルたちが、ぎこちなく動き出す気配を感じて切り上げると、[アイテムボックス]に収納した。
クイーンの体が無くなり一気に広がった視界に映ったのは、長を失い戦意の大分薄くなったシザーズ・ミリタリンチュラの群。
それでも彼らに『撤退』の二文字はないらしい。
『逃げるなら別に、追うつもりは無いんだけど……』
『パツ子の『取得経験値累積増加』の効果時間、後10分ほど残っているが?』
『よし、殲滅ね』
掌くるっくるだけど、私たちの元々の目的はそれ。
運が無かったと諦めてくれ。恨みなら買いましょう。晴らさせるつもりはないけれど。
『オズ』
『いきますよ』
私の呼び掛けに、オズの返事が間髪入れずに届く。
そして、遥かに遠い視界の先、誰もいなかった石台の上にふたつの影が立ち上がる。
ひとつは、薙刀にしか見えない長杖を軽々と扱う ちみっこ。もうひとつは、自身の身長ほどの長杖を抱き着くように支えるパッツンさん。
正体は言わずとも分かるだろう。
「【風渦巻々】」
「【エンチャント・ファイア】!!」
オズの薙刀を振るう動きに呼応して、風が渦を高速に巻き始める。
それは、たちまちの内に全てのシザーズ・ミリタリンチュラを内に収める程に巨大な風の渦となり、徐々に速度を増しながら、パツ子さんの掲げる焦石から漏れ出る緋色を掬い上げていく。
轟音を響かせる風の渦は、掬い上げた緋色と混じりながら存在感を増していき、やがて炎風となってその存在を確定させた。
「【風輪収斬】」
瞬時に分厚い風の渦が、薄紙ほどの厚みに圧縮される。
圧縮された炎風は、断熱圧縮により超高温となって白炎を放つ円盤となり、轟々と全身を打っていた豪風音は、耳を裂くような甲高い風斬音と成り変わった。
それは白炎纏う超高熱の巨大円月輪、巨人の扱う大風炎輪に等しい。
「散華」
風斬音を撒き散らす大風炎輪が、いつの間にか高度を下げていた。
大体、腰の高さほどに落ち着いたと同時に呟かれたオズの言葉を合図として、大風炎輪から幾筋もの炎風が輪の内側に向かって零れ落ちる。
それらは、本体である大風炎輪の如く円を描き、無数の風火輪となって、しばし宙に停滞した。
そして――――
「発射」
最後の〆として呟かれた言葉を合図に、無数の風火輪がシザーズ・ミリタリンチュラを襲う。
瞬きひとつの間に大風炎輪を横切るほどに高速な風火輪が、全周囲から飛来する様は標的となった者にとっては絶望に等しいに違いない。
…………まぁ、その中心にいた私は、とっくに地属性魔法で穴を掘って隠れているので、その様子は確認できないのだが。
『ギュイン!!』『ギュワン!!』と、あまり聞くことのない音が鳴り止むのを、浅い穴の底で空を見上げて待つ。
数十秒後。
シンと静まり返った地上に顔を出すと、全てのシザーズ・ミリタリンチュラは動きを止めていたのだった。




