第250話 ゴーレム娘 VS. シザーズ・ミリタリンチュラの裏側
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時は少し遡る。
名無しの大群がルーシアナに、ジェネラルの群がオズとパルツェに別れて少し経ったころ。
適度に数を減らした二人の間で、場違いにのほほんとした会話がされていた。
「…………蜘蛛って苦手だったんだけど、あれだけ大きければあんまり気持ち悪くないね」
「そうですか? …………そうかもしれませんね」
「うん。流石にあっちの…………通常種? 並みの数に囲まれると、鳥肌が立つかもしれないけど」
「まぁ、虫系の嫌なところは、『小さい』『数が多い』ですからね。私見ですけど」
「確かに……!!」
なお、レベルが多少上がったとはいえ、現在のパルツェ程度の実力では、ジェネラルどころか名無しを相手にしても、まともな戦闘にはならないだろう。
それが分からない筈もないが、オズと雑談を続ける声色からは、一切の恐怖や焦燥は感じられない。
「……………………パツ子さん」
「ん? そろそろ始める?」
「いえ、もう少し待ってください。…………私が聞きたかったのは、『あの数の魔獣を前にして、随分と落ち着いてますね』ってことなんですけど」
「あ、あぁ~……」
「お姉ちゃんの威圧は凄かったとは思いますけど、その影響で感情がマヒしてるのだとしても、長引き過ぎじゃないですか?」
迫り来るジェネラルの方に顔を向けるパルツェの隣で、オズが訝しげに問うた。
その問いの答えに心当たりがあるのか、パルツェは気不味そうに言い淀み、明後日の方角へ視線を泳がせる。
…………が、やがて自分の顔を捉えて頑なに逸らされない視線に観念したのか、音の無いタメ息を吐いて懐に手を突っ込んだ。
すぐに取り出された手の中には、一枚のカードがある。
「はい、これ」
「? ギルドカードですか?」
「そう。全部 見えるようにしてあるから」
「…………別に、『協力して欲しいなら、隠し事は無しだ』なんて言いませんよ?」
「そんなことはこれっぽっちも思ってなかったんだけど、代理人を派遣してくれるんでしょう? なら、ボクのステータスとかも詳しく知ってた方が、適切な人を選びやすいんじゃないかなぁと思って」
「まぁ、そうですね」
「ついでに、落ち着いてる理由を説明するなら、『もう見せた方が楽かなぁー』って」
「…………分かりました。ギルドカードの内容は、みだりに開示しませんので、ご安心ください」
「うん、ありがとー。…………でも、愛しのお姉ちゃんには言っちゃうんだよね?」
「えぇ」
『リンゴが下に落ちる以上の自明の理』と主張する必要すら無いと自然体で示し、パルツェからギルドカードを受け取った。
そんなオズと同様、パルツェの方もあっけらかんとしている。
実を言えば、パルツェのこの反応も割とおかしい。
というのも、詳細なステータス、特にスキルや職種に関する情報は、例え同一パーティの仲間であっても開示しないことが多いからだ。
それをするとしたら、信頼できる親族くらいに付き合いのある相手に対してのみであろう。
そういう意味では、パルツェの行為は『親族と同じように貴女を信頼しています』という心の現れとも言えた。…………まぁ、当のパルツェに信頼できる親族など、一人として存在しないのだが。
パルツェからギルドカードを受け取ったオズは表面を指でなぞり、情報をスクロールさせる。
『サー』と高速で流れた情報に、思わずオズの頬が『ひくり』と引き攣った。
まず、ステータス。
名前:パルツェ・グリナード
性別:女
年齢:26歳
種族:亜人 ― 淫魔 ― (駆け出し料理人)
レベル:21
HP:1,142
MP:2,952
力:111
体力:204
魔力:1,249
敏捷:198
運:Worst
早速ツッコミどころ満載であろうが、実は特に問題ない。
まず名前についてだが、ドゥーブ家にいたときの姓名と変わっているのは、単純に勘当されたため当時の家名を名乗れなくなっただけである。無論、本人も名乗りたくも無かっただろうが。
その際、ついでと言わんばかりに名の方も変更しただけだ。
次に種族だが、これは《魅了》を最適化する過程で《淫魔の心得》が正常化したためである。
これはオズにも予想しえなかった結果だが、そもそも最初のパルツェの状態がレアケースなので、それも仕方のない事だろう。
ほか、ステータスについては、同レベルの時のルーシアナやオズのステータスと比べると低く過ぎるようにも思える。が、パワーレベリングで急速育成したことを考えれば、こんなものである。
むしろ、不完全な《魅了》を使い続けていたせいか、MPと魔力が飛び抜けて高く、実は魔道士系に適性があると言える。
次に、汎用スキル。
・淑女 Lv.42
・礼節 Lv.33
・教養 Lv.38
・心理 Lv.18
・交渉 Lv.9
・算数 Lv.10
・筆記 Lv.11
・調理 Lv.21
・目利き Lv.18
・園芸 Lv.15
・火魔法 Lv.13
・風魔法 Lv.16
・杖術 Lv.7
こちらも一般人と比べれば、格段に多いが驚くほどではない。
平穏な生活を送る一般人であれば、幼少期に冒険者を噛り、成人後に終生の仕事に就くので、習得する汎用スキルは二つの仕事のものだけになる。
一方パルツェは、元々 貴族の夫人候補、冒険者、料理屋の店長、屋上公園の整備バイト、と実に四つの仕事を転々としている状態だ。
なので、この汎用スキルの数はさほどおかしくはなく、むしろ、ひとつの仕事に特化していない分、中途半端な状態であると言える。
次、特殊スキル。
・淫魔の心得
・精神魔法の才 Lv.42
種族の時に説明したが、《淫魔の心得》が正常化した。そして、《精神魔法の才》のレベルが異様に高い。
これは、不完全な《魅了》が暴発しないように抑え込んでいたことが原因だろう。
汎用スキルと比べると、特殊スキルは極端に少ないが、これに問題ない。
というより、人間の場合 特殊スキルは無いのが普通だし、全ての亜人が《○○の心得》を修得できるわけではないのだ。
そういう面では、パルツェは比較的優秀と言って差し支えない。
で、最後に取得スキル。
・美的感覚
・高速思考
・並列思考
・スマートウォーク
・バランス感覚
・味覚強化
・嗅覚強化
・鑑定
・振り回し
・集中
・ファイアー・ボール
・エア・インパクト
・ウィンド・カッター
・誘引
・魅臭
・蠱惑
・傾国
ここまでは特におかしなところはない。
元々、貴族系、商人系、職人系の汎用スキルからは取得スキルが発生しにくいし、冒険者はそれほど本腰を入れて活動していた訳ではないからだ。
…………問題は次だ。
・絶望耐性・極
・恐怖耐性・極
・焦燥耐性
・不安耐性
・混乱耐性
・逃避耐性
・威圧耐性
・殺意耐性
・悲観耐性
・狂気耐性
・亡我耐性
・気絶耐性
・オーウェル思考
・ペルソナ
カンストした《絶望耐性》と《恐怖耐性》、それでも足らんと細々とした精神耐性スキル、ついでとばかりに二つの謎スキル。
どう考えても、ルーシアナの威圧が原因である。
「……………………」
「……………………」
「…………ようこそ人外へ」
「最初の一言がそれ?」
「いや、すみません。上手い言葉が思い付かなくて、思わず」
「むぅ…………まぁ、ボクも似たような感想だから、別にいいけど」
オズにジト目を向けるパルツェだが、その表情には実際、非難や怒りの色は見えない。
「何と言いますか…………パツ子さんが死に物狂いで生き延びようとしたのが、よく分かりますね」
「だよね!? ボク頑張った!! 誉めて!!」
「はいはい、偉いですねぇ……これが終わったら、シザーズ・ミリタリンチュラの素材で造った武具一式を進呈しますよ。包丁も付けましょう。あ、もちろん、素材の売却益は三等分した上での別枠です」
「…………アレ? ボクの計算間違いかもしれないけど、それ、かなりの大金になるよね?」
「なりますけど、そのくらいの資本がないと、私たちから食材を購入なんてできないですよ?」
「ありがたくいただきます」
そう。ルーシアナたちは、『適正価格で融通します』と言ったのだ。
王都において、『地産地消レベルの新鮮さ』の食材の適正価格が安いはずも無かった。
それはともかくとして、取得スキルである。
『スキルの表示順 = 取得順』というわけでもないのだが、恐らく このような流れで取得したのだろう。
まず、ルーシアナの威圧で多大な心的ストレスを受けたパルツェのスキル群は、まず《恐怖耐性》《絶望耐性》を創り出した。
これらは、原因に依らず所有者が『恐怖』や『絶望』を感じた際に、心的ダメージを軽減する精神耐性スキルだが、汎用性が高い反面 効果は低めだ。
ここで、本来ならじっくりとこのスキルを最適化・高効率化していくのが通常の流れだったが、あまりの威圧感に『そんな悠長なことをしている場合ではない!!』と本能とスキル群が判断したのだろう。
《恐怖耐性》と《絶望耐性》をベースに、特化型の精神耐性スキルを派生させた。もちろん、ベースであったふたつのスキルの高度化・最適化・高効率化も同時に。
それが大量の精神耐性スキルと極まった《恐怖耐性・極》と《絶望耐性・極》だ。
そのせいで、パルツェは生物として危険な程に恐怖に対して鈍感になっている。
これまで、ルーシアナやオズが違和感を覚える反応をパルツェがしているのは、これのせいである。
ここまで一部の感情に対して鈍感になってしまうと、一個の生命体としてのバランスが崩れかねないのだが、これを支えているのが《オーウェル思考》だ。
オーウェル思考とは、本来ある種の楽観的思考のことであるが、スキルとしての効果は『心理的ストレスに強くなり、最悪の状況にあっても生存することを諦めない方向に思考する』である。
つまり、現在のパルツェへの作用としては、『ともすれば精神バランスを崩して廃人になりかねない自分の状況を正しく把握しつつも、必要以上に深刻に捉えずに自然体を維持する』という形で現れている。
ある意味、綱渡り状態と言ってもいい。
最後の《ペルソナ》は、ある意味でパルツェの精神を守る最終防衛スキルだ。
効果は『自身の人格を複製し、疑似人格を作成する』というもので、精神耐性スキルが働いてもなお耐えられない心的ストレスを受けた際、疑似人格へその負担を肩代わりさせるスキルである。
応用としては、精神属性魔法に対する囮として利用できるが、そういった使い方をするにはもう少し練度を上げる必要があるだろう。
以上。
そんな感じでパルツェのスキルは、対恐怖・絶望耐性特化のかなりおかしなスキル構成となってしまっていたのだった。
さすがのルーシアナも、こんなことになっているとは思ってもいないし、ここまでするつもりもなかっただろう。
後程、平謝りの上、念入りなサポートが入ると告げておく。
「さて、ではそろそろ動きましょう」
「りょ~か~い」
ギルドカードをパルツェに返して程なく、ついにジェネラルが二人の周りを包囲した。
『ジャキジャキ』『ガチャガチャ』と耳障りな音を立てて威嚇するが、その不協和音の中心にいる二人は特に気にする様子はない。
オズはその実力ゆえ、パルツェは精神耐性スキルゆえと、原因は異なるが一見するとどちらも歴戦の兵のように見えた。
彼女らが動くより先に、示し合わせたように四方からジェネラルが襲い掛かる。
「【重力倍加】」
即座に掲げたオズのサーベルスタッフが朱色に輝くと、煌々とジェネラルたちを照らし速やかに消失する。
失敗……では、もちろんない。
結果は即座に現れた。
巨体に見合わない軽やかさで近付くジェネラルたちの動きが、急激に鈍化したのだ。
よく見れば、体躯を支える八つの脚先は、泥濘に踏み入れたように深く大地に沈んでいる。
【重力倍加】。
それの効果は魔法名が示す通り、『一定範囲内の重力を込めた魔力量に応じて増加させる』というもの。
よく武器用魔石に使用される【重量軽減】に近い魔法だが、こちらは『一定範囲内無差別』かつ『増加のみ』であるため、魔力効率は【重力倍加】の方が圧倒的に良い。
そして、《地脈直結》でMPが無限に近いオズにとって、重力10倍や100倍どころか、1,000倍にすることすら容易いことだった。
…………危ないので、そんなことはしないが。
「パツ子さん」
「も、もうちょっと待って……」
【重力倍加】の効果範囲から外れた中心で、額に汗を滲ませて答えるパルツェ。
縋るように掲げるフレイムスタッフは重々しい紫紺に輝き、動きを止めるジェネラルたちを薄い同色に染め上げていた。
「っ!?」
発動まであと少し……
そんな予兆を感じ取ったのか、重力場に囚われていないジェネラルが集い、予期せぬ行動を見せる。
数体が互いに蜘蛛糸を吐き合うと、糸を撚り、布を編むように絡ませ合い始めたのだ。
それは、傍目には無秩序に絡まり合った毛玉にしか見えなかったが、ジェネラルのサイズからしても一抱えもある程に巨大化したところで、息を合わせて四方八方に散る。
そうしてできたのは、巨大なトランポリンだ。
その中心に、助走を付けて宙へ跳んだジェネラルが、脚を丸めて落下する。
ぼよょ~~~~ん……
実際にはそんな音がしたはずも無いのだが、記憶に残ったのは、冗談のようなそんな軽い擬音だった。
「「なんだそれ!?」」
さすがの二人も、これにはツッコミを入れざるを得ない。
かつての文明の知識の中ですら、蜘蛛が自分の蜘蛛糸を拘束以外の方法に用いた例はなかったし、その珍しい行動の結果がトランポリンなのだから。
そして、通常の跳躍の実に3倍の高さまで至ったジェネラルは、【重力倍加】の効果範囲を超えて、オズとパルツェのいる石台目掛けて、綺麗な放物線を描いて落下する。
「っ!! パツ子さん!!」
「任せた!!」
【重力倍加】を解除したオズが、パルツェの腰に腕を回す。
同時に、高重力で動けなくなっていたジェネラルたちが、弾かれるように前へ出る。
四方と上空。五つの方向から迫るジェネラルたちの間には、オズたちが抜ける隙間はほとんど無かった。
そして――――
・注釈(造語系):『亡我耐性』について
『亡我』という単語はありません。あるとしたら『忘我』ですね。
『忘我』の意味は『熱中して我を忘れること』なので、『忘我耐性』だと意味が違うかな、と。
『精神死を防ぐ』的なスキルのつもりですので。




