第248話 ゴーレム娘 VS. シザーズ・ミリタリンチュラ①
221 ~ 252話を連投中。
10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)
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器から水が溢れるように、ドゥハイの密林から通常種のシザーズ・ミリタリンチュラが現れ、草原の濃緑を紫の縞模様を纏う焦げ茶色の体躯が侵食していく。
その侵食の道を悠然と歩くように、一体、二体と一際 大きな個体が密林から姿を現した。
名無しと比べて二回りも三回りも大きな上位種だ。
幸いにも、最上位種の姿はまだ無い。《ロング・サーチ》から得られる情報によれば、群の最後尾辺りにいるっぽい。
私がいつものようにベースブレイドを取り出し、名無しの群に突っ込む…………前に、
「【風渦導線】」
「【バーン・アロー】!!」
無数の爆裂矢が、大地に沿うように低空を行った。
数が多いため威力・精度共に低下が著しいが、オズの風属性魔法で強化・誘導された爆裂矢は、十分な破壊力を持って的確に急所に突き刺さる。
その戦果は実に、八割が一矢一殺、残りの二割も致命のダメージを与えている。
…………それでも約1,000体の名無しに対しては、焼け石に水の感が否めない。
しかも、攻撃が飛んだことで、名無したちの標的が二人に集中した。
溢れるように広がっていた名無したちの進軍軌道が、鋭角に進路を変えて殺到する。
無数の蜘蛛がわんさかやってくる光景に、『うげゎぁ……』とパツ子さんの気持ち悪そうな声が聞こえた。
意外に余裕そうである。パツ子さんのステータスと装備じゃ、名無し相手でも十分に瞬殺なのだが。される方で。
まぁ、とりあえず
「――――ふっ!!」
「っっっっぎぃ!?」
注意が二人に向いた隙に、大量の名無しを跳び越え、最も近くにいたジェネラル目掛けて上空より強襲。爆炎に紛れて《カウンター・ウェイト》で空に跳び、速度と向きを調整して進軍を横切るように走り抜ける。
「ぎ!?」
「ぃき!?」
「ぎぎ!!」
「ぃい!?」
一体目のジェネラルが地に伏す音を背後に置き、速度を殺さずに次のジェネラルへと疾走。進路上にいた名無しは、尽く真っ二つだ。
「シャアアアア!!!!」
眼が多い分だけ視界が広いのか、単純に仲間の悲鳴で気付いたのか。
二体目のジェネラルは、前へ進むのをやめてその場に立ち止まると、カサカサと乾いた音を立てながら回転し向きを変える。
そして、自身に迫る刀身を右の鋏で咥え込むように開いて構え、左の鋏を掲げて私を迎え撃つ。
シザーズ・ミリタリンチュラの鋏は、彼らの体の中で最も強度の高い部位。
加えてその挟力は、下手な金属であれば、容易に断ち切ることすら可能なほど強力だ。
それに対する私の選択は…………一切の小細工なしの真っ直ぐな一閃。
その愚直な選択を見たジェネラルの無機質な複眼に、微かに嘲笑の色が滲んだ…………気がした。
「《轟炎斬》」
「ギィシィィ!?!?」
ふふふ……剣筋に小細工が無いからといって、剣技に小細工をしないとは言っていないのだよ!!
真っ直ぐな一閃は、滑らかな手触りを返しつつ鋏を両断し、延長線上にある頭部を斬り落とす。
その刀身は陽炎を纏い、ゆらゆらとした熱気を立ち昇らせていた。
《火炎斬》の上位スキル《轟炎斬》。
上位スキルとなったことで、纏う炎量が劇的に増加したのは当然として、その莫大量の炎を集束することで超高熱を刀身に纏わせることが可能となった。
その熱量は、火属性に弱点を持つシザーズ・ミリタリンチュラ・ジェネラルが防げるレベルのものではない。
鋏と頭部を融斬されたジェネラルの体が、力を失い倒れ込んでくる。
その側方に沿うように抜けた先には、無数の名無しが鋏を構えて待ち構えていた。
「――――ふぅっ!!」
そこに飛び込む前に急制動を掛けて一回転。
ジェネラルの鋏すら容易く断ち斬る超熱を、刀身から真っ直ぐに延長させた不可視の刃は、名無しの体を上下に両断する。
斜めにズレて崩れ落ちる名無し…………の向こうからは、倒した以上の名無しが押し寄せてきていた。
オズとパツ子さんの攻撃の時も思ったが、焼け石に水感が半端ない。
「…………っと」
保持していた速度と熱量のほとんどを消費した私は、大振りしたベースブレイドを収納し、バックステップ。
地に伏したジェネラルの死骸に手を掛けると、それを足場として空に向かって大跳躍した。
軌道としては、ただただ直上へ。おおよそ無意味な跳躍である。
その意図を一切 気にすることなく、ジェネラルの死骸に群がり私が落ちてくるのを待ち構える名無したち。
「…………??」
そこに困惑の気配が満ちるのに、時間はそう掛からなかった。
何故なら、私の体は物理法則を無視して、上へと上昇するほどに速度を増し、さらに不自然な円弧を描いて遠く離れていくからだ。
《カウンター・ウェイト》。
コレを用いて、名無しの軍勢を超えてオズたちの方へと舞い戻る。
『苦労したけど、使い勝手がいいよね。《カウンター・ウェイト》』
『それをまともに使えるのは、ルーシアナくらいだがな……』
『そう? 慣れだと思うよ?』
まぁ、普通の人は夢茶会なんてないから、『墜落死 上等!!』とか『複雑骨折 かかってこいや!!』みたいな無茶苦茶な練習は出来ないからね。
慣れることが難しいのは確かか。
『そんなことより、ナビ』
『御意』
軍勢の上を通過しつつ、[アイテムボックス]から白い粉を取り出し、広範囲にばら撒いていく。
粉雪のように降るソレは、戦場を霞のように漂い視界を白く染め上げていった。
『オズ』
「【風縮塵漂】」
「【ファイア・アロー】」
ばら撒かれた白粉が意思を持ったように渦を巻き、濃度を増して地上高2m程度の扁平に圧縮される。
同時に、パツ子さんから中心に向かって白粉の無い空洞が形成されると、そこを一直線に火矢が走った。
『《クリア・プレイト》』
直後、戦場に紅蓮の大輪が咲く。
空中に漂う白粉 (実はただの小麦粉) が特定の濃度範囲内にあるときに着火することで、瞬間的に燃焼伝播し爆発的に体積が増加する現象、粉塵爆発だ。
オズが最初に風を操作して白粉の濃度を調整し、爆発に指向性を持たせたため、私の方にはあまり強い爆風は上がってこないが、草原全体を叩いたかのような大音が魔法障壁を通して体を震わせた。
『おぉ……結構 派手だね……』
『こうした開けた場所で使用するのは、本来 不向きなのだがな。爆発力を水平方向のみに限定することで、威力の底上げを図ったようだが……』
爆発は刹那に終了し、爆炎があっさりと晴れていく。
そこに残されていたのは、焦げ臭い匂いと薄い白煙に包まれた爆心地。全身が不自然に捻じくれ、または、首や脚が捻じ切れた無数の名無しの死骸だった。
よくよく見れば、2 ~ 3体で一纏めになって固まっているものも少なくない。恐らくだが、爆風で吹っ飛んできた仲間に巻き込まれた個体だろう。
不思議とあれだけの爆炎が咲いたのに、延焼している場所は皆無だった。
『まぁ、炎に焙られたのも一瞬だったしな。乾燥しているならともかく』
『撒いた小麦粉も、そんな大量でも無かったしね。発生する熱量がそもそも少ないか』
いや、別に延焼して欲しかったわけではないのだが。
見ている内に、爆風から生き残った名無しとジェネラルが立ち直り、標的を私からオズたちの方へと切り替えて動き始める。
…………ちょっと単純過ぎやしないか? まぁ、それを狙ってるんだけど。
《カウンター・ウェイト》の円弧軌道を調整し、次なる獲物の上へ。
最もオズたちに近いジェネラルの頭上へ、ベースブレイドを取り出し、背部から心臓を狙って落下する。
ぞむっ……ん!!!!
「ぎいいいいぃぃぃぃ!!!!!!!!」
「ブレイク!!」
ジェネラルの背部に突き立ったベースブレイドは、揺らめく陽炎を纏っていた。
《轟炎斬》による超温の熱剣だ。
地面に突き立てたような手応えのベースブレイドを根元まで深く刺しこみ、熱の集束を解除。
瞬間的に沸騰した体液が爆発的に膨張し、ジェネラルの硬い甲殻をバラバラにして、高速の弾体として撒き散らした。
「えげつな……!!」
遠くからパツ子さんの本音が聞こえた気がするけど、私も同意なので気にしない。というか、こっちを見てる余裕があるのか。
甲殻と刀身の隙間から蒸気のように噴き出す熱風は、戦闘服を盾にして受け流した。
シャルドさんが、素材の入手から縫製まで手掛けて造ってくれたこの戦闘服は、普段はどんなに動き回っても蒸れたりしない通気性を持つくせに、何故かこういう危険なレベルの熱風などは完璧に防いでくれる。
これもうワケ分からんね。
高速で飛散したジェネラルの甲殻は、周囲にいた名無し数体に突き刺さって戦闘不能にさせると共に、爆風が生き残りもまとめて吹き飛ばした。
二度の爆風が吹き荒れた戦場の中心でミスに気付く。
『しまった。内部を焼いちゃったら、甲殻はともかく糸が採れないじゃん』
『出糸腺があるのは腹部だから無事だとは思うが……まぁ、あえて危険に晒すことも無いし、首を落とす方が良いだろうな』
『いやいやいや……簡単にやってるように見えるけど、結構 難しいんだからね?』
ベースブレイドやベースソードは、どちらも重さを利用して対象を潰し斬る武器である。
打撃武器のように甲殻を『グシャッ』と潰してダメージを与えるのには向いているが、『スパッ』と斬れ口 滑らかに断ち斬るのには向いていない。
それでもベーシック・ドラゴンの牙から成る刀身は、一種の鋸のように細かいギザギザがあるので、使いようによっては綺麗に断ち斬ることもできる。
シザーズ・ミリタリンチュラのような硬い外骨格を持つ魔獣の場合、最初の咬み付きがうまくいけばそこから先は割とスムーズにいくのだが、それが一番難しい。相手も動いている訳だし。
さてさて。
それなりに暴れたけど、魔獣の数はまだ二割程度しか削れていない。
このまま敵の戦法に変化がなければ、いずれ削りきれるだろうけど…………
「おっと」
『しゅぱっ』と糸が飛んできた。それも四方八方から次々と。
空気抵抗を考えれば十分に速いが、私から見れば欠伸が出るほど遅い。
回避するのは容易いが、名無したちは大体の狙いを付けて、『数撃ちゃ当たる』戦法でバラ撒いてきている気がする。
さらに……
カサササ……
カサカサ……カサカサカサササ……
糸をバラ撒く名無したちに紛れて、じりじりと距離を詰めてくる個体がいる。
『動けなくして、一気に襲い掛かるつもりだな』
『だろうね』
一撃で倒せる程度の相手であろうとも、数の暴力は脅威で、それが連携するとなると脅威度はさらに上がる。
それに大本の糸は回避できているが、躱した糸は地面に落ちて足場を狭め、飛沫のように撒き散らされる目に見えない細かい糸は躱しきれず、徐々に体に纏わり付いてきている。
拘束されるつもりは無いが、このままだと動き辛くなるのは間違いない。
『チラリ』とオズたちの方を横目で見てみれば、そちらの方には残りのジェネラルたちがダメージ覚悟で徐々に距離を詰めていっている。
流石にパツ子さんの攻撃力では、ジェネラルの防御を貫くのは難しいようだ。
それでも的確に誘導された爆裂矢は、正確にジェネラルの弱点に突き刺さり、何体かの討伐に成功していた。
『それにしても……』
攻撃力に優れるが単体攻撃手段しか持たない私には『数の多さ』で。
攻撃力に劣るが複数攻撃手段を持つオズたちには『強力な個体』で。
的確に弱点を突いた作戦。『軍隊蜘蛛』とは、よく言ったものである。
まぁ、パツ子さんはともかく、オズの心配はいらないだろうし、先に私の方をどうにかしよう。
私にだって、複数敵を対象とする方法が無いわけでもない。
『…………たまには弓でも使うか』
『そんな理由で?』
『そんな理由で』
蜘蛛糸を纏ってほんのり白くなり始めたベースブレイドを振り回し、周囲に漂う蜘蛛糸を絡めとる。
ヘタクソな綿飴のようにもなったベースブレイドを蜘蛛糸ごと収納し、新たに取り出すのはバーニングトライデント・ガイゼルの弓。
紅葉のようなグラデーションを持つ、赤橙色の短弓である。
ちなみに、バーニングトライデント・ガイゼルとは、三叉槍の如き鋭い三つの角を持つ小型のシカっぽい魔獣の火属性適応種で、フレイムバーナードと同じく『飽饒の樹海』近郊の森林地帯に生息するBランク魔獣である。
弦を引く動作に合わせて[アイテムボックス]から複数の矢を取り出し、適当に照準を合わせて水平に乱れ撃つ。
常時発動の《精神統一》のお陰でミスは無いが、複数同時射撃で的確に弱点を貫くことは不可能。
…………だが、それでも構わない。
「《幻実従影》」
スキルの効果で名無しに迫る矢が倍加する。
半分の距離を詰めるまでの間に倍々を繰り返し、五倍に膨れ上がっていた。
《幻実従影》は、込めた魔力量に応じて投射物を複製する射撃技である。複製された矢は魔力で出来た偽物であるが、一定時間は実体を持つ。
あくまでも、最初に発射した矢を中心にして近距離に複製するので、矢衾を作ることは出来ないが、手数を増やすことは容易。
一矢一敵の命中精度で矢が突き立った。
さらに……
「《熱貫》」
同時に使用していた武器スキルが発動し、矢の刺さった箇所から真っ直ぐに熱線が撃ち出される。
さほど魔力を込めていなかった《熱貫》は、傷口から体内に熱線を撃ち込み、しかして撃ち抜くことは無く、名無しの頭部や胸部を焼き尽くして絶命させた。
なお、しっかりと魔力を込めて使用したら、名無し程度なら頭からお尻まで真っ直ぐに貫通できる熱線が撃ち出されるだろうし、射撃技と同時併用したら極太レーザーのような熱線を照射することも可能である。
絶命した名無しはそのままにして、向きを変えて一射・二射・三射。
一周する頃には、周囲に名無しの死骸の山ができていて、蜘蛛糸の投射を阻害する壁となっていた。
身に纏うように炎を躍らせて体に蓄積しつつあった蜘蛛糸を焼き尽くし、それを拡散解放して足元に層を作り始めていた蜘蛛糸を焼き尽くす。
そして、水平乱れ撃ちを再開する。
残存する名無したちは、一周目で仕留めた名無しの死骸を盾にこちらを窺っていたようだが、矢が命中する前に死骸を[アイテムボックス]へ収納し、射線を確保。
突然、盾が無くなり戸惑った……かどうかは分からないが、一瞬だけ動きを止めた名無したちに《幻実従影》で五倍に増加した矢が突き立ち、《熱貫》が体内を蹂躙する。
一周で約100体。二周で約200体。
五周したところで、名無しの約70%を討伐し終え、短弓の有効射程距離内に敵がいなくなってしまった。
「さて……」
僅かな時間で約七割の仲間を殲滅された名無したちは、遠く離れた場所からこちらを窺い、状況が動くのを待っている。
できれば、そうなる前にオズたちの方へ加勢に行きたいが…………そうできない理由が姿を現していた。
シザーズ・ミリタリンチュラ・クイーン。
近くで見れば、見上げるほど大きな体躯の女王が、残存するジェネラルと名無しを伴い、ついに草原へとその姿を現したのだ。
クイーンは、いきなり暴れ出すようなことはせず、女王の風格で私たちを睥睨している。
ちなみに、パツ子さんにはっきりとは言わなかったけど…………しっかりとBランク上位の高ランク魔獣である。
『配下の追加か……平均より大きい群だったみたいね』
『約1.5倍か……まぁ、問題なかろう』
数の暴力も、適切に振るえなければ意味がない。
つまり、適切に振るうための『頭』を潰せばいいのだ。
「やるか」
『援護は任せろ』
「キシャアアアアァァァァ!!!!!!!!」
私の言葉に反応した訳でもないだろうが、応えるようにクイーンは甲高い奇声を上げると、配下を伴って進軍を開始した。




